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異世界探求者の色探し  作者: 西木 草成
寄り道の色
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閑話 幸福は何色か

ちょっと寄り道

「ショウさん、『チキュウ』っていったいどんな場所だったんですか?」


「地球....ですか?」


 さて、地球というスケールのでかすぎる話をいったいどのようにして話したらいいのだろうか?


 現在、俺はギルドの受付で狩った魔物の素材やらなんやらを清算するまでの待ち時間、少し暇つぶしにリーフェさんとそんな話をしていた、午後の昼下がりである。


「そうですね....いろんな国があって、僕が住んでた日本という国なんですけど和食とか、宗教とか、とにかくなんですかね....いろんな物にあふれている国ですよ」


 そうそう、確かに自分で言っていてなんだが日本という国はいろんな色で溢れている、なんだか作り物じゃないというか、そんな自然な色にあふれた国なんじゃないかなぁと、この世界に来て度々思うようになっている。


 そして、目の前の食いしん坊エルフはどうも『和食』という単語に反応している。


「え...っと、その『ワショク』でしたか? なんだかとても美味しそうな単語なんですが....」


「....お察しの通り、料理の種類です」


「ぜひ今度作ってくださいっ!」


 普段おしとやかな女性だというのにもかかわらず。料理のことになると急に顔を緩ませて口端からよだれを垂らすもんだから....こっちだって悪い気はしない。


「わかりました、晩御飯に『天ぷら』を作ってあげますよ」


「ありがとうございますっ! 報酬は1割り増しにしますねっ!」


 こんなことで俺の報酬が増えるのなら安いもんだ。


 さて、材料を市場で仕入れないと....今日の報酬いくらかな?


「おっ、ショウ。狩りにはだいぶ慣れたようだな」


「どうもガルシアさん。そうですね、魔物を斬るのもだいぶ慣れてきましたし」


 ギルドの入り口でガルシアが愛用の槍をぶら下げて、こちらに近づいてくる。

 

 そう、最初の頃は魔物ではなく吐き気との戦いだったからな。今となっては抵抗もなく魔物を斬ることができる、まさに狩人になった気分だ。


「そうか、だが油断するなよ。怪我したら....いや、いずれわかるな」


「?」


 一瞬だが、ガルシアの顔色が悪くなったような....気のせいか?


「まぁ、それは置いといてだ。何を話していたんだ?」


「いや、僕が前言っていた地球の話ですよ」


「ほぉ、気になるな。ちなみにショウの国では自分の名前はどう書くんだ?」


 目の前にはちょうど報酬受け取りの用紙とペンがある。どれ自分の名前を書いてみるか。


 こっちの世界に来てからは、リーフェサンンイ手ほどきをしてもらい文字の勉強をしている。おかげで、この世界の言語を使って名前を書くくらいはできるようになったが難しい文章はまだまだだ。


 そして、紙の端っこの方に『今一色 翔』と書き込みそれをガルシアとリーフェさんに見せる。


「う〜ん、なんだかごちゃごちゃした文字だなぁ」


「なんだか書き順も多そうですしね、ショウさんの国ではみんなこの文字を使っているんですか?」


「そうですね、ちなみにこれを『漢字』って言います、他には『ひらがな』とか『カタカナ』といってそれぞれ使い分けて文章を作っています」


 その言葉を聞き、リーフェさんとガルシアは顔にシワを寄せるが確かに、日本人は文字を三つに使い分けてめんどくさい文化だよなと思う。


「なぁ、その三つの文字で俺の名前を書いたらどうなるんだ?」


「えっ? 別にいいですけど」


 さて、紙の余白にまず平仮名で『がるしあ』と書く、そして次に片仮名で『ガルシア』、こう見ると平仮名で書かれたガルシアはなんとも弱そうだ。


 しかし、問題は漢字だ。どうやって当て字をしてやろうか....しかし元々漢字の成績が良いわけではなかったので、月並みではあるが


我流師阿ガルシア


 と、普通にカッコよく当て字をしてあげた。


「オォっ! なんかカッコイイなぁっ!」


 ガルシアの喜んでいるその姿はまさに、間違ったジャパニーズに触れた外国人そのものだ。


「ショウさんショウさんっ! 私にも書いてくださいっ!」


「いいですよ」


 さて、まず平仮名で『りーふぇ』、次に片仮名で『リーフェ』と書くが....この平仮名で書いた『りーふぇ』....どうかこれを刺繍したスク水をリーフェさんに着てもらって砂浜でアバンチュールをしてみたい。


 つつましい胸の彼女なら似合うだろう。


「ショウさん? 今、余計なことを考えましたか?」


「いえ、そんなことはヒィっ! 考えてませんっ! 考えてませんからっ、そのペーパーナイフをこちらに向けないでくださいっ!」


 翡翠色の生気のこもっていない目でペーパーナイフを向けないでいただきたい。心臓が本気で止まる。


「先輩、選別終わりましたぁ〜」


「メルちゃんご苦労様」


 奥から出てきたのは、猫耳、巨乳、ドジっ子のメルトだ。今日は俺の狩った魔物の選別やら、測定やらをしてもらっていた。


 さて、ギルドに持ち込まれた魔物をいったいどうするのかを説明しよう。まず、各冒険者のランクごとに戦うことのできる魔物は決まっている。しかし、たまにランクに合わない、それ以上に強い魔物が現れた場合には逃げることを推奨しているわけだが、そこらへんは曖昧なのである。


 そして、各冒険者が持ち込んだ魔物の肉やらはギルドの方で一旦預かる。特に大型の生き物なんかは剪定に時間がかかるため、下手したら明日また来てもらうなんてこともしばしばある。


 そして、長きにわたり解体された皮や内臓、骨などは各卸業者に買われて行き、防具、武器、食料、日用品へと姿を変えるのだ。


 そして今回俺が持ち込んだのは、ゴブリンの装備品。冒険者の死体やらなどから剥ぎ取って装備をしているゴブリンから装備を再び奪い取り、鋳造やらなんやらしてまた新しく冒険者の武器となる。


 そのサイクルの繰り返しだ。


「あれ? これって提出用書類ですね? ショウさん、何落書きしてるんですか?」


 まずい、言われて気づいたが、これは報酬受け取り用の書類だ。こんなに落書きしてしまって大丈夫なのだろうか?


 ちなみに、紙代は一枚につき銅貨2枚。日本円だと約200円ほどとかなり値が張る。理由は単純にこの世界での紙の価値は高いからだ。


「まぁ、このくらいだったら大丈夫ですよ。お預かりしますね」


 リーフェさんが受け取り用紙を確認し、大丈夫だという旨を伝える。よかった、銅貨一枚でも冒険者にとっては少し痛手だ。


「それでは、今回の報酬ですが。ゴブリンの装備7点、ローウルフの毛皮が2点、カンプスラビットの肉が6点、あとは薬草、その他を含めまして合計で銀貨3枚と銅貨3枚ですね」


 だいたい銀貨一枚で1000円くらいだから今回の報酬は合計で3300円といったところか。まぁこのくらいあれば天ぷらの材料を余裕で買えるだろう。


「あれ? 先輩、この量だと銀貨3枚じゃないですか? 銅貨3枚は余分だと思いますよ?」


「いいんですよ、これで」


「いや、違いますよね」


「いいんですよ、大丈夫です」


「いや、絶対に」


「メルちゃん....ちょっと一緒に裏で仕事しようかな?」


 ....メルトさん申し訳ありません。全部はこの食欲魔人エルフの食欲を刺激した僕が悪いです。そして、完全に食欲の塊と化したリーフェさんに子猫のごとく首根っこをつかまれ涙目で引きずられてゆくメルトさんに、僕は申し訳なさげに合掌をした。


「ハハハッ! まったく、毎日見ても飽きないなぁ」


「それじゃ、僕は行きますね。天ぷらの材料を買ってきますから」


「おう、気をつけてな」


 さて、まずは野菜だろ、後魚介類と油と卵と小麦粉を....小麦粉なんてあったか? そんなことを考えながら手にはもらったばかりの報酬を握りしめて、買い物客でにぎわう市場へと向かうために、ギルドの扉を開けた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あれ? ガルシアさん。ショウさんは?」


「んあ? さっき『テンプラ』の材料を買うだなんていって出てきましたよ」


 今日の晩御飯は、その『テンプラ』っていう料理ですか....ものすごく楽しみでよだれが....


「リーフェさん。ショウのやつはどうですか? 何か変わったことは」


「いえ、毎日美味しいご飯を作ってくれる良き同居人ですよ」


「そうですか、ならよかった....」


 あれ、ガルシアさんの表情が冴えないですね。何かあったんでしょうか?


「ガルシアさん、どうかなさいましたか?」


「え? いやいや、なんでもないですよ。ただその....俺とリーフェさんが一緒に暮らしていた時期もあったなぁって」


「あぁ、そういえばそうですよね。もう、何年立ちますかねぇ」


 まだ、ガルシアさんが子供のころ。両親を魔物に殺されて間もない頃、私は保護という形でガルシアさんと暮らしていたんですよねぇ....今となっては懐かしい記憶です。


「結局あなたが冒険者になって収入が安定した頃に出て行ってしまったんですよね....もっと居てもらっても良かったのに」


「いえいえ、そんな恥ずかしい真似はできませんよ」


 少し恥ずかしそうにしてそっぽを向く、ガルシアさんのその姿は小さい頃から全く変わっていません。


「ねぇ....ガルシアさん。今度....一緒に料理を作ってみませんか?」


「え....料理....ですか?」


 そっぽを向いていたガルシアさんが、ものすごく険悪な表情を浮かべてゆっくりとこちらに向き直っています。


 本当に....すみませんでした。あの時期は、私が不器用なせいで....料理に関してはいっぱい迷惑をかけてしまいましたね。


「それは....人の食べ物ですよね? 魔物退治用とかそういうものではなく。あっ、それとも料理って何かの隠語で」


「それ以上言ったら、いくらガルシアさんでも怒りますよっ!」


 いくら料理が下手だからって....そんな言い方はないじゃないですかっ! これでもまだまだ若い女の子でいるつもりなんですから、傷つきます。


「ちゃんとした料理ですよっ! これでもショウさんから料理のやり方を教わっているんですからっ!」


「その言葉....信用しますからね」


 未だに疑いの眼差しを私に向け続けるガルシアさん。そんな、だってあなたを病気にしたことは2回くらいしかないじゃないですかっ! 私なんて200年以上生きてきて何十回もあるんですからねっ!


「せ〜ん〜ぱ〜い〜....魔物の内臓の選別全部終わりましたぁ〜」


 私の座っている受付のテーブルの横に寄りかかってきてぐったりしているのは私の可愛い後輩だ。余計なことを毎度毎度気にするのが玉に瑕なんだけど。


「お疲れ様、次は資料整理ね」


「もぉ〜い〜や〜だ〜、先輩も手伝ってくださぁいぃ」


 さすがにやりすぎちゃったかな、資料整理くらいは手伝ってあげようか。この後はもう少し陽が傾かないと冒険者たちが帰ってこないからね。


「そういえば先輩、ガルシアさんとは何の話をしていたんです?」


「あぁ、今度一緒に料理を作りませんかって話をしていたのよ」


「それは....人の食べ物ですよね? 魔物退治用とかそういうものではなく。あっ、それとも料理って何かの隠語で」


「資料整理は任せます」


 死刑宣告を言い渡すと、私の膝にすり寄ってきて懸命に謝り始めるが、もう絶対許しません。にしてもなんでこんなに私の料理下手がこんなにも広がっているんでしょうか? 不思議です。


「ショウさんも一緒に今度、メルちゃんも含めて料理を作りましょうよ。楽しいですよ?」


 やっぱり、ガルシアさんがブツブツと「まぁ、ショウがいるんだったら」とかという内容を話しているのを果たしはちゃんと聞き逃しませんでしたよ。


「そういえば、ショウの料理を食べるのは初めてかもな」


「私も、ショウさんの料理を食べるのは初めてですね」


 どうやら、ガルシアさんとメルちゃんはショウさんの料理を食べたことがないらしい。おすすめはたくさんあるんですけどね、何を一緒に作りましょうか?


「はぁ....休みが欲しいなぁ」


「ガルシアさん、王都騎士団からの遠征申請のお返事書いてませんでしたよね?」


「げ....」


「すぐに取り掛かりましょう、文章書くの手伝ってあげますから」


 ガルシアさんの腕を掴みズルズルと執務室へと引きずる、その後ろでは私の腕を掴みながらメルちゃんが資料整理手伝ってくださぁいと引きずられている。


 はぁ....こんな毎日が続くといいですね。と思いながらギルドの奥へと二人を引きずって行った。


 

次回は『初恋の色』、猫耳ギルド受付嬢のメルトちゃんが主人公です。

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