第43話 狂気の色
一日一話
「お前がお前がお前がお前がお前がアァァッァああああああっっっ」
「っく・・・」
剣の太刀筋はバラバラで防ぐのは容易い、しかしなんなんだこの狂気は・・・っ。
「落ち着けっ! イマイシキ ショウ」
「ショクザイショクザイショクザイショクザイショクザイショクザイィィィ!」
っ・・・しまっ
正面からの剣の当て方が悪く、思いっきり後方へと飛ばされる。炎に燃える建物をぶち破り、部隊が作業を行っている真ん中まで飛ばされてしまう。
「隊長っ!?」
「アラン寄るなっ! 全員私から離れて、私を中心に防御の陣形を作れっ!」
「了解っ! 盾兵っ!防御陣形の準備、捜索活動一時的に中止っ! 迅速に取り掛かれっ!」
両手剣で戦っているというのに・・・。軋む体を無理やり起こし、体勢を立て直す。まだ奴の姿は見えていない。
「隊長、その剣は・・・」
「あぁ、この剣を使わされてしまった」
普段は護身用の剣で敵を撃退するが、どうしても勝てない敵に対してに使う、もしくは護身用の剣が破壊された時に使うのがこの剣である。
「・・・っ来るぞっ!」
「総員迎撃体制っ!」
炎の中から見える。のらりくらりと体を揺らしながら剣を引きずりこちらに向かってくる人影の姿が。
「いいか、絶対に刺激するな。私が相手をするっ!」
そう宣言した途端である。その男から獣のような咆哮がこの地帯の空気を震わせる。そして、その声に盾兵たちがひるむ。果たしてあれは人間なのかと。
「ひるむなっ! 全力で自分を守れっ!」
アランのその言葉に兵たちの士気が取り戻される。ならば私もそれに応えなくてはならない。
「さぁ、来いっ!」
「グルゥゥッァあああああああああああああぁぁあっっ!」
獣の咆哮と共に、その獣は盾兵たちの頭上を軽々と超え、私と対峙するように向かい合う。
これでいい。
「総員、囲めぇっ!」
建物の間から、盾兵たちが現れ、私とその獣を囲い始める。そしてその盾兵たちの間からはアランの士気する弓兵たちが顔を覗かせており、万が一のことがあればいつでも迎撃が行われるようになっている。
まさに独断のコロシアムに等しい状況だ。
「さぁ、これで一対一だ」
「殺した殺した僕が? あなたが? どうでもいいもうどうでもいい料理を作ってあげますよ作ってアげますあげます蜂蜜蜂蜜蜂蜜いっぱいのフレンチィィイトォオストォォオオオオオオッッ!」
さすがにこの姿に部隊全員が引いている。確か彼は部隊の前で自身の剣術を披露した人物だったはずだ。最初は物凄くヒョロリとしたやつだと思ったのに、いざ前に立ってみればなかなかしっかりとしたやつだと思っていたのだが
なぜだ、彼をそうさせたのは
「剣を置け、私はお前と戦いたくはない」
「置いたら置いたら置いたら・・・死んだ死んだんだ死んだんだもう戻って来ないなんでなんで死んでしまったんですかぁアァァァアっ・・・」
彼は剣を持ったまま頭を抱え、その赤く染まっている髪をかきむしる。なんなんだあの剣は、あんなものは見たことがない。そしてその剣からは炎が吹き出ているようにも見える。あれが剣を溶かしたものの正体なのか。
体全体から発せられている赤いオーラ、彼は赤色の魔力を持っている人間だったのか。しかしあんなにもオーラが色濃く出るだなんて彼は確実に濃さは10あるはずだ。
「お前をそうさせているのはもしかしたらその剣のせいではないのか? ならばそれを置け。何があったのかは聞いてやる、まずはそれを置くんだ」
「この剣・・・この剣のせいデェェええええええっっ! 大切なものを・・・守れない守れない守れない守れなかったんダァァァァァァァああああああっっ!」
溢れている赤色のオーラが彼の全身を包み込む。これはもうおそらく交渉の余地はないな。
私は捨てた剣を拾い、身構える。こうなれば戦って殺さずとも気絶させて一回彼に問いたださなくてはならないな。
この街でいったい何をしたのかということを。
「最後の警告だ、イマイシキ ショウ。剣を置け、さもなくば攻撃する」
「もうもうもう誰も誰も死なせナァァァァァァァァアィッッッッ!」
どうやら無駄だったようだ。
オーラを爆発的に膨らませて、剣を下に構えたままこちらに向かって駆け出してくる。
この体勢から繰り出せるのは下から切りつけ。
バックステップで距離を取り、その剣をすれすれでかわす。そして剣先が触れるか否かの距離ではあったが剣から発せられる熱量が私の前髪を焦がす。
「憎い憎い憎い憎いィィィィっっ! 自分があいつが自分があいつが自分があいつがぁぁぁぁぁああああああっっっ!」
「・・・」
剣がすれすれで私の横を通過する。どの攻撃も剣を使って防ぐほどではない。太刀筋は乱れており、逆にここで剣を使って防いだら隙を作ってしまいそうだ。
そして剣を振るうたびに吹き出る炎、どういう原理かわからないがこれは魔術の類なのだろうか? しかしなぜ鉄に魔力が流せるんだ?
「敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵ぃいぃいぃいいいいいいいいっっっ!」
「っ!」
突如として相手の剣の軌道が変わり、思わず剣を使って防御をしてしまう。
「殺さなきゃいけないんだヨォォォォォォォォォぉっっっっ!」
「黙れっ! しゃべるなっ!」
鍔迫り合いを続けるが、この剣は火花を散らすだけで溶けることはないらしい。ならば安心して戦える。
しかしこの熱量、ジリジリと肌を焦がす。そしてこいつが荒ぶれば荒ぶるほどにこの剣の熱量が上がってないか?
いや、どうでもいいか。
「私の勝ちだ」
防御を続けている剣、
その剣は二つに分解する。
そして右手に持った剣は峰打ちで胴に打ち込む、身体強化術のオプション付きで。
左手の剣は未だに防御の形を維持している。
そして峰打ちで吹き飛んだあいつは、地面に剣を突き立てこちらを睨んでいる。
私は両手に構えた剣を同時に振り下ろし、宣言した。
「来い、一瞬で終わらせてやる」
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女でいる身として、軍に身を置く身として、どうしても超えられない壁というものがある。
それは性別による身体的な格差だ。
筋力、身長、体力、そのどちらにおいても到底私には超えられない壁だ。ならばだ。
その壁に穴を開けてやればいい。
騙し討ち、男にはできないしなやかな剣の扱い、男には絶対できない、そして決して真似できない技術。それらを身につけるために血の滲むような努力をしてきた。
そして、この剣は私の父の形見に等しいものだ。
『スペルビア』
この剣の名前と私の苗字は一緒である。この剣は縦に二つに分かれることで両手剣から双剣へと姿を変える一品だ。私にとってこれは男を出し抜くための唯一の手段とも言えるだろう。これがなければ今の私はないし、生きてもいない。
私の命、私を形どるにふさわしい剣である。
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「痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃいいいいいいいいいいぃぃぃっっっっ!」
「ハァァアアっっ!」
未だに腹を押さえ悶えるそいつに容赦なく剣を叩き込む。頭、肩、両腕、両足、高速かつ正確に打ち込んでゆく。
「死ねな、い・・・死ね、ない・・・死ね・・・ない」
体の全てを峰打ちで打たれて身体中が今気絶するほど痛いはずなのに、顔から、口から血を流しながらも未だにその両眼には炎が宿っているように揺れている。そして剣を杖にしながら立っているその姿は諦めの悪い敗残兵にも見えた。
「そうか、だが終わりだ」
彼をなぜここまでにさせるか、理由はわからないが、楽にさせてやろう。
再び駆け出して、今度は確実に意識を狩るためにみぞおちを狙う。左手の剣をそのまま、そして右手の剣を逆手にして駆け出す。
「死ねない死ねないんダァァァァァアああああっっっっっっっ!」
相手も最後の力を振り絞っているかのようにして、その剣を構え直し、こちらへと向かってくる。
正面からの斬り合い。
勝負は一瞬できまった。
「・・・フゥ。総員武装解除、再び捜索を続けるとともにこいつを拘束する」
周りを囲んでいた部隊の人間がそれぞれ再び作業を再開する。まるで何事もなかったように。
「こいつは確か、ガレアにしごかれてたやつでは?」
「あぁ、そうだ。こんな姿をしているがな」
隣に来たアランは安堵の表情を浮かべている。そして目の前に転がっているのは先ほどまで戦っていた少年である。
「しかし、こんな姿ではなかったですよね」
「あぁ、それにこんな剣は持っていなかったはずだ」
彼が手にしていた剣、未だに赤い炎が吹き出ておりなんとも不思議なものだとは思っていたが、それよりも不思議だったのはその形状だ。今まで見たこともない反りの入った形状で、戦ってしまえば簡単にも壊れてしまいそうな細い剣身である。そしてこの剣に書かれている文字、これはいったいなんなのかは見当がつかなかった。
「隊長!? 触っては」
「大丈夫だ、触ったところで火傷するだけだろう」
握られている、その手から剣を引き剥がし手に持ってみる。持ち手の部分は熱くない。なんとも不思議だ。
「鞘は、これか」
「隊長、もしかしてこいつが今回の放火の原因では?」
アランがそう言うが、自分自身同じことを思っていた。ここの街の放火はこいつが原因ではないかと。
剣をこれまた反りのある鞘に収める。すると収めた瞬間に剣全体が炎に包まれ思わず手を離して地面に落としてしまう。そして炎が燃えるのが収まるまで待つとそこには、なんともない見慣れた剣がそこに落ちていた。
「本当にいったいなんなんだ、この剣は」
「さぁ、見当がつかん。アラン、こいつを拘束した後、尋問室に連れてけ。聞きたいことが山ほどある」
そして、未だ地面に転がっているそれは、先ほどまでの赤混じりの髪ではなく、普通の黒い髪へと戻っていた。
本当に、何が起こっているのか見当がつかん。
是非是非続きをお楽しみに




