第41話 赤の色
一日一話
一瞬の出来事とはまさにこのことだろう。肉の焼ける匂いがすることなく、目の前で一つの命が燃え尽きるのをただただ黙って見ていた。
何もできなかった。
(何もしなかったの間違いだろ)
動けなかった。
(動かなかったの間違いだろ)
「ハァ・・・いきなりメインディッシュか、少なからずお前は前菜に加えてもいいと思ったがな」
「あぁ・・・あぁああああああああああああっっっっ!」
今の俺に理性はない、なんでこのようにして話せるのかといったら矛盾しているが今の俺に理性はなかった。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇっっっ!」
「怖いな」
理性のない剣が奴に通用するはずもなく、俺は簡単にあしらわれ地面へとへばりつくことになる。
彼女は死んだ、彼女は死んだ
誰のせい、誰のせい
自分の力を過信した、あいつが殺した
自分のせいだ、あいつのせいだ
殺さなくては、殺さなくては
自分を、あいつを
だがもう
手が動かない。
足が動かない。
口が動かない。
目が動かない。
首が動かない。
息ができない。
声が出ない。
思考ができない。
もう、生きられない。
「こ・・・・・・せ」
「ん? 聞こえんな」
「こ・・・ろ・・・せ」
もう、生きられない。
「ほぉ、どういう風の吹き回しだ? 小僧」
もう、生きられない。
「こ・・・ろ・・・せ」
「・・・まぁいい、そんなに死にたいか」
もう、生きられない。
「こ・・・ろせ」
「では・・・お望み通り」
もう、生きられな
『そいつは困る』
・・・は?
「・・・っな?」
右腕に急に力が入った。なんでだ、もう生きるのは
『こっちが困るつってんだろうが小僧。それより、さっさと前を向け』
言われた通り、機械のように前に顔を向ける。
目の前には鬼の腕
そして
無意識に動いた右腕がそれを防いでいた。
「小僧っ!」
『ルセェ、羽虫』
これは・・・誰が喋ってるんだ?
俺か?
『しっかり足に力込めろクソガキ、本当に死にてぇと思っても選択肢は与えんぞ』
死神の腕は無意識の腕の力で弾き飛ばされた。
そして、そのまま右手は勝手に剣を地面に突き刺し、もう動かしたくもない体を必死になって支えようとしてる。
『・・・怒りだな』
・・・は?
『目の前に愛した肉塊が転がってる、お前はそれを見てなんとも思わねぇのか? 絶対的な死を目の前にしても、そいつに一矢を報いようとしねぇ。結局人間はそんなもんか』
・・・何を言ってんだ? こいつは
怒り・・・そんなものなんか沸く前に俺はもう・・・リーフェさんを守れなかった俺は・・・
『「クソ野郎」』
この世界にクソ野郎の生きる資格はない。大事なものを、人から預かった大事なものを守れなかった俺は決して許されない。死んで許されるなら喜んで死んでやる。
「何ごちゃごちゃ言ってやがんだガキぃっ!」
「・・・」
鬼がまたやってくる。
そうか。
こいつは鬼じゃないか
「・・・」
一閃
「ガァっっっ!」
鬼の腕が宙を舞う。
「必要なのは・・・罰だ」
『ようやく立ったか小僧。んで、どうする』
「その前にあんたは誰だ、俺の口を使って勝手にしゃべんじゃねぇ」
この際誰でもいい、悪魔だろうが死神だろうが好きにしろ。
『そうだな、サリーとでも呼んでくれ』
「・・・」
腰の部分が熱い、ふと熱を走っているところを見ると鞘に収めてあった石がいつの間にかルビーのような宝石に変化しており、炎のごとくゆらゆらと怪しく光っている。
『地獄の入り口見せてやる』
「このぉ・・・ガキぃっっっ!」
右手がまた無意識に動き今度は剣を鞘に収める。突き出された化け物の左の拳と自らの左の拳がぶつかり合う。当然無意識だ。
「・・・っ」
「!?」
今度は違う、それは身体強化なんかよりも、もっと暴虐的な力がどこからともなく流れてくるのを感じる。化け物の拳と今の自分の拳は互角だ。
『右手をそのクソ剣にかけろ』
言われるがまま、その右手を剣にかける。
『左回りにそれの柄を半回転させな』
言われるがまま、その右手にかかっている剣の持ち手を半回転させる。すると先ほどの宝石の輝きがより不気味に増してゆく。
『準備はととのった。もう引き返せないぞ小僧』
「引き返すも何も」
もう、俺に居場所はない。
『染まれ、怒りのままに』
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火
炎
焔
燃
爍
爆
爛
赤
紅
目に飛び込んでくる全て、それらは全て真っ赤に塗られ、煌々と燃える焔のごとく。血潮のごとく。殺気のごとく。そうか、これは
怒りか。
目の前には物言わぬ屍
いや違うな。
『糞虫がまだ生きてやがる』
本当だ、生きてる。
「あぁっ・・・アァッァあああああっ!」
火だるまのまま、それでも必死に生きようと向かってくるこの鬼は俺が殺してあげないと。
スゥ・・・
・・・ハァ
『今一色流 抜刀術 風滑り』
吹き飛んだ死神の上半身は炎を上げながら吹き飛んでゆく。これで、ようやく一つ。
燃えている死神の上半身に目もくれず、向かったのは俺をかばって死んだ、この世界に来て俺に居場所を与えてくれた大事な人のそばへ。
「リーフェ・・・さん」
火傷はとてもひどかった、しかし顔だけは奇跡的に綺麗に残っていた。苦しそうな表情ではない、そのまるで眠っているかのような表情に思わず涙が落ちる。自分をかばって死んだ、死なせてしまった。背中合わせで戦っていたにもかかわらず、俺は彼女の背中を守ることができなかった。その冷たくなった頬に触れ思い出をなぞるように手を添える。
『お前のその怒りの矛先・・・一体誰だ?』
「・・・自分の・・・弱さ」
それと・・・
鬼が死んだことにより、群がってきた魔物群衆。
「俺の居場所を奪った・・・このウジ虫どもだ」
再び剣に手をかけ魔物の群衆に駆け足で突っ込む。
抜刀、まさに字のごとく俺の手にしていたはずの西洋剣は俺の右腕も飲み込みながら剣から発生した炎に飲み込まれ姿を変えてゆき、それは
炎を纏いながら白く、すらりとした日本刀へと姿を変えた。
炎下統一
『小僧、お前の刀の銘だ』
「ダサい名前だな、この刀」
目の前にいたはずの魔物の群衆はすでに後方で火だるまとなり、その身を焼き尽くしていた。
『まぁ、本当に契約を結んでるわけじゃねぇ。そいつを使えんのは残り5分だな』
「・・・十分だ」
ここから先は協力関係にあった。このサリーと名告るこいつは一体何もだかはわからない、しかし時々自分の補助を行ったりなどをしている。
ギルドからは離れ、炎の燃え盛る街の中にいる魔物たちをただただ八つ当たりのようにして殺し回っている。
標的2
その1がそのまま胴を斬りつけにかかる。俺は純粋に炎下統一で防御する。
その1の攻撃は確実に防御した刀に入った。
だが、その1の持っていたボロボロの剣は刀に当たるのと同時に溶けて半分に分かれる。
その2をそのまま脳天から斬りつける、綺麗に半分になったその断面図は焼け焦げており、血などが吹き出ることはなかった。そして切られた剣に唖然としている状態のまま、袈裟斬りをしてその命を燒き斬る。
この刀、扱ってみてわかったのだが常に高熱を発しており、それは鉄を溶かしきるまでに熱せられているということがわかった、結論として先ほどの鬼が回復することなく殺すことができたのは単純に血液を通わせないよう傷口を焼いたからである。
仕組み自体は本当にどうだっていいのだが。
そうして、俺は街の中にいる魔物たちを次々と片っ端から斬り伏せて回り、そろそろ避難したはずのメルトと合流した方がいいかもしれないと思った、その時である。
『タイムリミットだ』
意識は突如として途切れたのである。
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自己紹介から始めるのは礼節を重んじての行為であり、軍をまとめるものとして当然の行為である。
私はレギナ=スペルビア、王都騎士団9番隊隊長
影では『戦場のコンダクター』とも呼ばれている。
次回、王都騎士団隊長編です。




