第34話 背中の色
タイトルの内容、ちょっと先走りすぎましたかね?
「ショウさんっ! 背中合わせですっ!」
「はいっ!」
俺はすぐさまリーフェさんの背後に立ち、目の前の敵に向き直る。
あたりには所々炎が上がっており、木々の焼ける匂いや魔物の焼ける匂いが鼻腔を突き刺す。夜だというのに不気味に照らされたおびただしい数の魔物の顔がゆらゆらと浮かび上がっており頬から冷や汗が落ちるのを感じた。俺は改めてパレットソードを構え直し敵の迎撃に備える。
「ハァ・・・ハァ・・・ショウさん。大丈夫ですか?」
「ハァ・・・なんとか」
敵の一つ一つの戦力は大きくない、しかし問題は量だ。斬っても斬ってもキリがない。こんな状態でいればここ、最終防衛ラインを突破されるのも時間の問題だ。
「ショウさんっ! 先輩っ!」
「メルトさんっ! 危ないからギルドの中へっ!」
メルトさんは無言で頷きギルドの中へと戻る。そう、最終防衛ラインはギルド本部。ここには怪我をした冒険者及び戦闘に必要な備品が大量に保管されている。ここを突破されてしまったら元も子もない。
「いいですか?」
「えぇ・・・いつでも・・・っ」
パレットソードの握る力を強くする。背中からリーフェさんのぬくもりを感じながら果たしてどいつから突っ込んでくるのかと考えている。
「ショウさん。背中合わせというのはお互いの背中を守り、お互いの背中を頼らなくてはいけません。この意味はわかりますね?」
「えぇ、わかってます」
俺は一人で戦うのではない。
「なら大丈夫でしょう」
そう言って、リーフェは腰に巻いてあった二本のククリナイフを両手に構え、臨戦体制となる。
「行きますよっ!」
「はいっ!」
約15時間前。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜明け、この地区に住む住民はそれぞれ必要最小限の荷物を持って避難を始めた。この地区にいる冒険者の数はおよそ数十名と警備隊が数十名。そのうちの冒険者数名と警備隊が住民の警護をしながら隣の地区へと移動する。
そして残りの冒険者は。
「いいか、今『A』を割り振られたやつはポイント『サラマンダー』に『B』は『シルフ』だ。『C』は『トール』にて待機」
ギルド前の外に出されたボードと地図を使ってこれから行われる作戦の説明をガルシアさんから受けていた。
「以上で説明は終わるが、何か質問はあるか?」
全員無言である。
「なら説明終了。赤色使いの冒険者は私と一緒に陣を形成に行くぞ」
そう言われ、おそらく赤色の持ち主である冒険者やら魔法使いたちがぞろぞろとガルシアさんの後についていった。
「ショウさん、先ほどの説明は大丈夫でしたか?」
「えぇ、リーフェさん。理解はできたんですが・・・なんで僕だけ『Z』なんですか?」
「さぁ・・・、私が決めたわけではありませんので」
どうやらリーフェさんにもわからないらしい。さて、だが俺にはもう一つ準備がある。
今回なぜ、俺たちは魔物の軍団とぶつかることになるのか。理由は二つある。
一つは移動する住民たちを襲わせないために食い止める必要があるからである。
二つは住民の帰る場所を残しておくため。
ということを思い出しながら俺は炊き出し用の大きな鍋でカレーを炎天下の青空の下グルグルとかき混ぜている。
この世界にはターメリックみたいなカレーのスパイスに使えるようなものがなかなかない上にとても高価だ。よっていろいろなものを代用させてもらった結果、今鍋の中にあるカレーはいつもの茶色っぽい色ではなくむしろ濃い赤色に近いものになっている。まず、大抵森やら林なんかでよく見つかる赤い実。通称『カプサー』というのだがすり潰すと唐辛子に似た辛さを発する。それをベースにそこから香辛料やら色々なものを合わせてカレーもどきを作れるようになった、どちらかといえばインドカレーに近いあのサラサラした感じだな。よってパンにつけてもよし、飯に合わせても良しな仕上がりになってる。
「すみません、ショウさん。野菜はこの感じでいいんですか?」
「はい、大丈夫ですよ。この鍋の隣に置いておいてください」
隣にはエプロンをしたリーフェさんが立っており、ニンジンに似た野菜や玉ねぎに似た野菜になどを一口サイズにカットしていた。彼女自身、今まで俺の料理には不干渉ではあったものの、あのお風呂での一件以来料理を教えていたらお世辞にも上手いとは言えないが、あの人類兵器に比べたらだいぶマシなものは作れるようになっていた。
この調子だったら昼までには間に合うだろう、そう思いながら鍋をかき混ぜているとメルトさんがコップに水を持って現れた。
「ショウさん、炊き出しお疲れ様です。よろしかったらどうぞ」
「ありがとうございますメルトさん」
コップを受け取り、それを口に含むと爽やかな酸っぱさが口の中に広がる。なるほど、これはレモン水か。こういう暑い日にはちょうどいいな。
「・・・あ」
「? どかしましたか?」
「い、いえいえ。なんでもありましぇん・・・。あっ! 先輩もどうぞ」
「ありがとう、メルちゃん」
リーフェさんもそう言ってコップの水を口に含んでいる。そしてコップを渡したメルトさんがこっちに振り返り、俺の顔を見て。
「すみません。私にも手伝えることはありますか?」
「そうですね・・・じゃあ、そこの『トゥイー』の生地を耳たぶくらいの柔らかさまでこねてもらえますか?」
「えっ・・・その・・・耳たぶって・・・」
言って、気づいた。
そうだ、この子は猫耳だから耳たぶないんだった。
「えっと・・・じゃ僕のを触ってください」
「にゃっ! い、いいんですか?」
「大丈夫ですよ、ほら」
そう言って彼女の手を取り引き寄せて自分の耳たぶに触れさせる。だが・・・こう・・・やって気づいたが結構恥ずかしい。
「わかりましたか?」
「は、はい・・・ショウさんの耳たぶ・・・ひんやりしていて柔らかいです」
そういうことを上目遣いで言わないでくれ。ただでさえ暑いのにもうドキドキが止まらんだろう。
「そ、それではお願いしますね」
「は、はいっ!」
早速作業に取り掛かる彼女だったが昔どこかで見た動画で、飼い猫が自分の毛布か主人の背中を前足でフニフニするやつがあったと思うのだが、メルトさんが生地を手でこねる姿はまさにその動画のそれに見えた。
「おっ、ショウ。うまそうな匂いがするなぁ」
「どうも、あともう少しで完成で・・・ってなにつまみ食いしてんですかっ!」
そばにあった小さいスプーンでカレーの中に突っ込み勝手に食っていやがった。
「悪い悪い、でもいつもリーフェさ・・・リーフェから聞いてるがお前の料理うまいなぁ」
今、こいつリーフェさんのことを呼び捨てにしたか?したよな?
「喜んでくれてよかったですよ。ということでつまみ食いをしたガルシアさんは昼飯はなしということで」
「すみませんでした」
そこに、これから千を越える魔物と張り合おうという雰囲気はなかった。ちょっとそこらの学校に喧嘩売ってくるわ的なノリを感じる。
「お前なぁ、これから魔物1000匹以上と張り合おうってのに大丈夫なわけねぇだろ」
「え?」
心を読まれた俺は間抜けな声を出してしまった。
「何かとどんな重い出来事でも、たいしたことないって思えるようになってた方が周りは楽なんだよ。特に上に立つ人間にはそれがないとダメだな。そうしないと下の人間は絶対に動きづらい」
まぁ、俺が単に抜けてるだけかもな。と白い歯を見せながら笑っている彼は少し頼もしいと思えた。よくよく考えればここのギルド長だ。こう見えて。
「ということで、ショウくん。もう一口味見を・・・」
「魔物と張り合う前に俺と張り合っておきます?」
「おっ、いいねぇ・・・少し肩慣らしといっとくか?」
少し鍋から離れながら、俺は腰に下げてるパレットソードの柄に触れておく。ガルシアも折れてたはずの槍はなんとか予備で作っていたのを使用しているらしく、その新品同様の槍に手をかけている。
にしても最近勝てないからな・・・ここで俺も肩慣らしを・・・
「こらっ! ショウさんもガルシ・・・ロードもっ!こんなところで喧嘩しないっ!」
「「すみませんでした」」
まさに一触即発というところで、リーフェさんに止められた。だが・・・しばらくしない間にこの二人には何があったんだ?
「あっ、ショウさん」
「はい、どうしました?」
さっきまで生地をフニフニしていたメルトさんが俺に声をかけてきた。おそらく捏ね終わったんだろう。
「この後はどうすればいいんです?」
「この後はですね・・・まぁ適当な数をこぶし大くらいに丸くしておいてください」
「わかりました」
しばらく鍋は放っておいても大丈夫だろう。そう思いメルトさんの横に立ってたんまりとある生地の一部をちぎってそれを丸くしてゆく。
「私も手伝っていいですか?」
「えぇ、いいですよ」
それを見ていたリーフェさんも俺たちと同じ作業を行う。ガルシアさんはあきらめてまた作業に戻ったようだ。にしても俺は今回何をすればいいんだかと、もらった紙に書いてある『Z』の文字を見てそう思った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「え?王都騎士団に援軍の申請をした?」
「フォウファ、フォウ」
口いっぱいにナンとカレーを入れ込んで、絶賛汚い絵面となっているガルシアがそんなことを言っている。
「でも、王都騎士団は」
「フォフォファフェンファファイフォフファ、フォウ」
人が話している時にまで、口に食べ物を押し込むのはやめてくださいませんかね?
「フェンフォファフォフォフォファフィファンフェフファ?」
「フォウフォウ、ファフファフィーフェファ・・・フィーフェ」
リーフェさんもそれに便乗して混ざるのはやめてもらえませんか?
さて読者諸君、彼らがどんな会話をしたかわかっていただけたかな?わかった人は是非コメント。
現在、青空の下でカレーの器と手にナンを持った冒険者たちがぞろぞろと芝生の上で食事をしている。中でもメルトさんは水差しを持って冒険者のところを行ったり来たりしている。
「んぐっ、ふぅ〜・・・こいつは王都騎士団の行動表なんだがな」
そう言って取り出したのは、よく時代劇なんかで見るような書簡と呼ばれるようなものだった。それを開くと、二日前ここを出発することから、次に向かう場所及び以前巡った場所についての記述があった。
「こいつは騎士団がここに来た時にもらったものだが、もし何かあった時には連絡をよこすようにとのことで置いてったらしい」
なんとも親切な話だ。しかし二日前に行ってしまった王都騎士団をどうやって引き戻すというのだろうか?
「こいつを使ったのさ」
「こいつ?」
ガルシアが手を上げると、メルトさんがギルドの中から何かを持ってきた。あれは・・・鳥籠?
「これも、王都騎士団の置き土産だ。何かあった時はこの中に入ってた鳥を放てばすぐにでも連絡が行く。それに去った後の行き先はここからさほど遠くはない。せいぜい今から連絡を入れても今晩中には到着するだろう」
そして、それを放ったのは今日の夜明け頃だというのだから王都騎士団が到着するのは夕方頃、すなわち魔物の集団がちょうど到着する時とかぶるというわけか。
「まぁ、それまでは俺たちがなんとしてでも食い止める。その間にショウとリーフェ、それとメルトちゃんに頼みがある」
言い渡された役目はギルド防衛。冒頭で説明した通り、ギルドには怪我人、先頭に必要な備品、その他食料など、この後街の復興に必要なものなどがたくさんある。だから仮に街を救うことはできても復興することはできない。
「メルトちゃんは傷ついた冒険者の治療、そしてショウとリーフェはギルドを守るための戦力だ」
「で、でもロード・・・私はもう冒険者では・・・」
「それはわかってる。それを承知の上で頼むんだ・・・やってくれるか?」
リーフェさんはとても難しい顔をしている。それはそうだ、父親が自分のせいで死んだと思って自責の念から冒険者を辞めていった人だ。はっきり言ってとても酷な話だろう。
しばらく考え込んで、口を結んだ後。
いつもの微笑みで。
「・・・それで・・・みんなが助かるのなら。ギルド嬢としてこれ以上の職務はありませんね」
支度をしてきます。と言って、リーフェさんは自分の家へと戻っていった。さて、俺も準備をするか。そう思って本当は出発用に準備しておいた背負い袋の中から新品同様の防具を取り出し、順番に装着させてゆく。案外つけ方は簡単だ。
「サイズはバッチリらしいな」
「あ、パルウスさん。えぇ、この前は大変助かりましたよ」
後ろから声をかけられ振り返ると、そこには体躯に合わないでっかい手斧を持っているパルウスさんがいた。手にはナンとカレーを持っており、満足そうな表情をしてる。
「そうか、今回でも存分に役立ててやれ。それと、『かれえ』だったけか?ごちそうさん」
「いえいえ、こんなもので喜んでいただけたならいくらでも作りますよ」
そのまま手斧を抱えてパルウスさんは冒険者の武器の手入れへと戻っていった。
そして炊き出しの片付けの時、俺とメルトさんはすっからかんになった鍋を洗いにだし、全員の器を集めて食器類などをまとめて井戸のそばに運んでいたそのときだ。
「手伝いますよ」
「あっ、はい。是非お願いします」
誰だろうか、少しちらっと見ただけだが女性には違いない。そして隣で桶に汲んだ水で食器を磨いているその人。にしてもスタイルがいい人だなぁ、その細い体に合うように作られた冒険者の防具、どうやら俺と同じ革物を使っているらしい、そして流れるような長い翡翠色の髪と白い肌、ふと獲物は何を使う人なのだろうかと腰を見たところ背中の方に・・・ククリナイフというのだろうか?少し刃が曲がっている変わった形状をしたナイフが二本差してある。そして見てしまったのだがこの人、ゲームなんかでよく見るヘソ出しファッションの冒険者だ。
「あ、あの・・・あんまりジロジロ見られると恥ずかしいです・・・」
「あっ、す、すみません」
いや、まずい。女性のことをまじまじと見るだなんて・・・ん?いや待てよ。この声、どこかで聞き覚えが・・・
「こっちの食器洗い終わりましたよ、ショウさん」
そして振り向いた彼女と目があう。そこにはとてもよく見知った顔があった。
「え・・・リーフェさんっ!」
そこにはいつもおっとりとした受付嬢としての彼女ではなく、百戦錬磨としての冒険者、リーフェ=アルステインがそこにいた。
(決して誰だ? てめぇはとやっているわけではありません、単純に仕上がってた絵をあげてるだけですので・・・)
今回は、主人公の今一色 翔でした・・・
さて、魔物襲撃篇の開幕になります。心して次回をお待ちください
次回の投稿は8月13日になります
感想と評価は大大大歓迎です。




