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異世界探求者の色探し  作者: 西木 草成
第1章 赤の色
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第26話 軍の色

さてさて、どうなることやら。



「ショウ、今日で我々王都騎士団はこの地を去ることになる」


「はい」


「しかと剣について学ぶことはできたか?」


「はい」


「筋肉についても然りだぞ」


「・・・はい」


 リーフェさんとのやりとりから約1週間、俺は王都騎士団のガレアが来て以来同じ場所でずっと剣の稽古をしている。時には素振り、時には型、時には構え、そして時には筋肉・・・いや6割筋肉だったな。


「それでは、これで最後になるだろうが・・・今日は模擬戦を行う!」


「はぁぁぁああああぁっ!?」


「異論は認めん、さぁ剣を抜けショウ」


「いやいやっ、木剣や木刀ならまだしも真剣はないですよっn


「フゥンヌッ!」


 話は最後まで聞けよおいっ!


 高々と振り下ろされたガレアの大剣は俺の立っていた場所に地割れを引き起こしている、とっさに避けていなければ確実に即死、防いでも両腕が粉砕骨折を引き起こしていただろう。


「当たってたら確実に死にますよっ!」


「戦場においては常に生き死にの戦い、木剣などぬるいっ!」


「俺冒険者なんですけどっ!」


「知らんわぁっ!」


 凄まじい音を立てて、石と剣、そして砂埃が舞い上がる。これはちょっと軽く戦争だ。


「サッサと剣を抜かんかぁ!」


「わかりましたよっ!」


 次、大振りの面!


 剣を半分抜いた状態で左手は鞘、右手でつかを持ち衝撃に備える・・・がっ!


「グアッ!」


「衝撃をうまく外へ逃せ、このまま腕を折るぞっ」


「くっそぉぉおっ!」


 今現在、大剣を支えているのは出処のわからないパレットソード、この衝撃でも刃こぼれひとつしないのは呆れた頑丈性だ、問題なのは俺の腕の頑丈性、すでに何かやばい音が両腕からする。


 しかしこれほどの強い衝撃、裏を返せば重心は一点へと集中する。


 すなわちそれは


「ウォラッ!」


「ヌッ!?」


 少しの力加減でバランスを崩すっ!


 つかを持つ右手を上にあげ、大剣を鞘のほうへ滑らせ左手で鞘を引き抜く、そして体を右へ傾けその大剣をかわす、そしてっ!


 追撃、左袈裟っ!


 だがそんな追撃が通用するわけでもない。


「フンッ」


「・・・チィィッ!」


 ガレアは地面に突き刺さった大剣をそのまま手前に押し上げ、俺の袈裟斬りを防御する。


「中々だなっ!さぁっ、もっと打ち込むぞっ!」


「もう勘弁してくれっ!」


 そして、互いに打ち込みあってその間にも腕がもげるような衝撃を何十回も受け約20分。


「ハァ・・・ハァ・・・」


「ゼェ・・・ゼェ・・・」


 互いの体力はすでに限界・・・でもなく自分の方が確実に不利な状況にある、体力は限界に近いし、身体強化で魔力を使ってる部分が筋肉痛で悲鳴をあげている、少なからず向こうも息が上がっているが俺ほどではない、負けは必至だ。


「ハァ・・・はぁ、もうおしまいか?」


「ゼェ・・・ゼェ・・・グッ、はい・・・これで終わりにしましょう・・・」


 納刀、抜刀術準備。


「・・・なんの真似だ?」


「これは抜刀術というものです、これで本当に最後と言う意味です・・・」


「ほう、それは過信か?」


「過信かどうかは実際に切り込んだらわかりますよ・・・怖いんですか?」


 怖いのは俺だよっ、明らかに剣を持つ手が震えてるしぃ!


「ふんっ、行くぞショウ・・・死ぬなよ?」


 あっ、これやばいやつだ確実に死ぬやつっす、読者の皆様ここまで応援ありがとうございました、どうか作者より早く旅立つこのダメ主人公をお許しください・・・


「フンヌバァッ!」


「なんて言えるわけねぇーだろぉおおおおっ!!」


 大振りの右薙ぎっ!


 左足を引いて低姿勢を維持、その状態の右足をバネのようにして全力で突っ込むっ!


「なっ!」


「グオラッ!」


 左に回り込んだ俺の頭上でガレアの大剣がかすめる、そしてガレアの後方へと抜けたまま狙うは後ろで振るわれたガレアの大剣の刀身っ!


「ぬおぉおおっ!」


「遅いっ!」


 振り向き抜刀っ!

 

 放った抜刀術は確実にガレアの剣へと当たり、そして


「・・・ふむ、二人目か・・・」


「ハァ・・・ハァ・・・勝った?・・・」


「あぁ・・・ショウの勝ちだっ!」


 彼の剣の刀身は消えていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「フゥ・・・さっき言ってた二人目って・・・」


「ん?あぁ我輩が今まで剣で戦って負けた人数だ・・・」


 そうなのか・・・、しかしそれ以上に気になることが。


「すみません、剣を壊してしまったんですけど・・・弁償ですか?」


「それについては気にすることはないぞ、勝った人間が敗者に気を使うことはない、むしろそんな弱みを見せたらつけ込まれるぞ」


「・・・わかりました、気をつけます」


 それに、とガレアは続ける。


「初めて我輩に勝ったやつはもっとやばかったしな・・・」


「えっ?」


「それに比べたら剣一振りなんて軽いものだな」


「あの・・・具体的に何されたんですか?」


「両腕、左の目を切り落とされた」


「えっ!?」


「案ずるな、見ての通り治療魔術で完治している」


  一体、どんなことをすればそんなことになるのか、恐ろしいことこの上ない。


「一体誰なんですか、そんなことをしたのは」


「あぁ、そいつは・・・」


「私だ」


 不意に俺の目の前から声がすると、そこには王都騎士団が二人立っている。


「なんだ、アランとレナではないか」


「えっ!腕吹っ飛ばしたり、左目切り落としたのって」


「そう、我が王都騎士団9番隊長のレギナ=スペルビア隊長だ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「そんなことを教えたのかガレア・・・」


「やっぱり初代のことは教えないとですよね、レギナ隊長?」


 まじかよ、まさかとは思うけど戦って負けたから隊長になれたとかそういうわけじゃ・・・


「あぁ、まったくその通りだぞショウ」


「・・・あなたまで人の心が読めるんですかガレアさん」


「当時は9番隊隊長としてガレアが率いていたのだが・・・」


 少し気恥ずかしそうに頭をかきながらレギナは説明するがそこにまるで割って入るかのようにガレアが説明をし始める。


「この入団してきた小娘が妙に生意気でな、粛清しようとしたら返り討ちにされおったわ」


「・・・あの時のお前ほど見苦しいものはなかったな」


「アランだってこの小娘と戦って負けた身ではないか?」


「俺は引き際がわかって戦っていた、相手の力量も図らず突っ込んで行ったのはあんたの責任だ」


 急に爽やかな草原とは裏腹に何かドロドロしたものが辺りを包み込む、これはおそらく殺気というものだろう。だって『もう一回戦う相手ができたようだな』とか『フンッ、剣の折れたお前に何ができる?』とか言い合ってるし。

 

 俺としてはこの状況をどうにかしたいと考え・・・いや、どうにかしてくれとレギナの方を覗き込む、するとこちらの意図がわかったのかやんわりと微笑み『すまないな』と口パクでいうと。


「ほら、そこまでだ。大体そんな恥ずかしい話を人前でするものではない」


「む?」


「あぁ・・・」


 ふぅ・・・ここで殺し合いなんてされたらたまったものじゃない、にしてもこの人そんなに強いのか・・・


「悪かったな、見苦しいところを見せてしまった」


「いえ、いいんですけど・・・すみません」


「大丈夫だ、というかショウはガレアに勝ったのか?」


「えぇ・・・まぁギリギリですが・・・」


 そう言うとレギナは先ほど俺が切断したガレアの大剣の柄の部分を草むらの上からひょいと拾い上げる。


「・・・切断面が綺麗だな、ガレアっ」


「はっ!」


 レギナに名前を呼ばれた瞬間ガレアが瞬きもしない間に起立しその場で敬礼をする。


「訓練内容、報告っ!」


「はっ!主に筋力トレーニング、その他剣の基本的な構え方及び打ち込み方を反復的に行わせましたっ、以上っ!」


「貴様が負けた時の状況を報告っ!」


「はっ!最初の戦況は有利そのまま相手の戦意が損失するまでの消耗戦に持ち込んだものの、相手の謎の剣術によって無力化されましたっ、以上っ!」


「ふむ・・・以上だ、直れっ!」


「はっ!」


 そう言われるとガレアはふぅ〜、と息を吐き肩の力を抜く、なるほどこれが軍の規律というものなのか。


「ショウ、お前の放った剣術について教えてはもらえないか?」


「・・・まぁ、少しくらいなら」


 どうせ自分の世界とは関係ないわけだし、本来なら師弟関係以外の人間にこの流派を教えてはいけないわけだが少しくらいなら構わないだろう。


 俺は筋肉痛で軋む体を起き上がらせる、よし、なんとか体は動かせるな。


「え〜とですね、僕が教えてもらった武術は


「いやいや、是非とも我が部隊の前で実践してもらいたい」


「・・・はい?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「えっ、え〜と本日はおっ、お足元のお悪いなかぁっ」


「「「ジーッ」」」


「え〜とっ、ぼっ、僕の使うぶっ、武術はいっ、今一色流と言いましてっ」


「「「ジーッ」」」


「やっぱ無理ですっ、レギナ隊長っ!」


 決して雨が降っているわけではない、カラッカラッに晴れている。


 今目の前にいるのは、一週間前にガレアに会おうとした時に紹介されたガレアの部下達だ、なんせ筋肉隆々の漢達が無言でじっと見てるもんだから何かに目覚め・・・いやいやそんなことは断じてないが俺のSAN値が悲鳴をあげながらゴリゴリ削られて目覚めるならば狂気に目覚めちまう。


「君、ガレアに勝っておきながら結構小心者なんだな」


「はいそうです、だから早くこの状況なんとかしていただけませんか!?まさかこんな大勢の前で披露するとは思っていませんでしたよっ?」


「・・・皆っ、聞けっ!」


「「「シーン」」」


「この者は噂でも聞いているだろうが、前線部隊隊長のガレア=フォルティスを倒した者だっ!」


「「「ザワザワ」」」


 想像通りといえ想像通りだが、その声の中には『隊長って、あの筋肉隊長のことだよな?』とか『あんなヒョロヒョロが倒したっていうのかよ』他にも『糞っ、隊長の仇ぃっ』とか聞こえてきたが最後にとても物騒なことが聞こえてきましたけどっ?


「だがしかしこの勝負、負けたのは本人の力量不足っ、明日からこの町を移動するが最後にこのような経験ができることを光栄に思え、いつも言っているが、たとえ負けたとしても恥とは思うなっ!ただそれを明日死なないための糧にしろっ!刻み込めっ!」


 なんとも迫力のあるセリフだろう、さすがは一つの軍をまとめる人物だけのことはある、それだけで軍の人間が静かになってしまった


「フゥ・・・ではショウ、何もしゃべらなくていい、前で技を披露するだけで構わない」


「・・・わかりました」


 俺はガレアの部隊の人間の間を歩く、どの人たちも目が真剣だ、俺の一動作一動作全て観察しているかのような目で見ている。


 そして俺は、部隊の真ん中に置かれた闘技場へと出る、真ん中には人に見立てた鎧を着た人形、そして周りを囲むかのように剣兵、魔術兵、弓兵、ガレア、アラン、レギナがいる、総勢500人といったところだろうか。


 スゥー・・・


 ハァー・・・


「僕の使う剣術は通常日本武術と呼ばれます」


「「「シーン」」」


「その剣術でもそれぞれ流派と呼ばれているものに分かれており、その中でも僕は自分の血統である『今一色流』と呼ばれるものを扱います」


「「「・・・」」」


「その中でもこの技は剣を納刀した状態から相手を斬りつける『抜刀術』と呼ばれるもので抜刀の際に生じる速度で攻撃する技で・・・ガレアさんを倒した技です」


「「「・・・っ」」」


「実際に見てもらったほうが早いでしょう・・・いきます」


 左足を引き、低姿勢を維持したまま、右脚をバネのようにして人形に向けて突っ込む、そして人形との距離を詰め。


 抜刀っ


「・・・はぁ・・・このように上胴体の鎧が分厚くて剣が通りにくくなる場合、狙うのは稼働しやすいように一番防御が薄くなる、ひざ関節を狙います」


 後ろほうでガチャンと人形が倒れる音がした、ということはうまくいったということだな


「この技は『今一色流』の開祖である、『今一色 楊苞(ようほう』によって考案されました。まるで股の下をまるで滑るように抜ける風から考えた技で名前は」


『今一色流 抜刀術 風滑り(かざすべり


「というものです、しかしこの『抜刀術』は技を放った後にほとんど無防備になる技です、なので仮に使う場合には戦況を見誤らないようにしてください。以上・・・で・・・す・・・」


 やべぇ・・・ふと我に返って周りを見たらとんでもないアウェイだこれ、みんなの視線が怖ぇよどうすりゃいいんd


 パチパチ


 そう考えオロオロしていると、ひとり拍手をする人間がいる。その人物を探すとそこには満面の笑みで大きな手を叩くガレアの姿がいた。


 そしてそれにつられるかのように拍手はだんだんと大きくなり、さらに目を凝らしてみれば遠くの方大きく拍手するガルシア、リーフェ、メルト、そしていつもの冒険者メンバーがいた。


「・・・これで以上になります、ありがとうございました」


 そう言って、部隊の中を抜けようとすると大勢の隊員から握手を求められ『すごかったぜっ!』とか『今度は俺と戦えよっ!』、『隊長の仇ぃっ!』とか色々な言葉をもらって部隊を離れていった。


 いや待て、最後どうした?




本日もありがとうございます、次回更新は4月25日になります、感想と評価は大大大歓迎ですっ!

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