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異世界探求者の色探し  作者: 西木 草成
第5章 キャンバスの色
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第242話 胸に灯る色

 トム爺さんの説教は夜まで続いた。何せ、周りにあった木々のほとんどが燃えてしまった挙句、ユダのいた小屋は全焼、その被害は周りのワイバーンの小屋にまで及び死傷者は出なかったものの、結構な痛手になった。

 

 しかし、最後に。ユダが人間に心を開いてくれたことに対して感謝を述べた後、トム爺さんはそのまま家へと戻っていった。


「はぁ.....確かに、やりすぎた感はあるな....」


 日が落ち始めて、夕焼け色に染まった焼け野原を見て反省する。そばで、その様子を見ていたレギナも同じく溜息をつきながら周りを見ていた。


「前よりも強力になってるな、正直。ここまで炎を操れる魔術師は見たことない」


「....今言われても嬉しくないです」


「別れてから3ヶ月だったか? そこまでの間にここまでお前を成長させた奴は相当な人物だったのだな」


 頭の中で、トールの顔がちらつく。


 確かに、彼はめちゃくちゃだったが。レギナに認めさせるほどの人物だったのは間違いない、本当に彼には感謝している。


「さて、後始末は明日考えるとしよう。とにかく飯だ、今日はどうするんだ?」


「あ.....」


 よくよく考えてみれば、いつも食事はトム爺さんが用意してくれたものだ。素朴で、それでもって健康的でありがたい食事だったのだが、あの老体で時間をかけて食事を作ってくれていたのだ。そして、今までの説教で食事を作る時間は大幅に削られているのである。


 自分の不始末は、自分で片付ける。


 立ち上がり、トム爺さんの家へと向かう。


「今日は、僕が作ります」


 そう言えば、料理を作るなんて久しぶりだ。と、心の中で思っていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「目撃情報が?」


「はい、場所はフォディーナの一番北にある小さな村です。目撃されたのは、イマイシキ ショウ。そして....」


「レギナ=スペルビア。そうだろう?」


「は、はい。そうでありますっ」


 王都の憲兵の一人が、敬礼をしながら伝達をする。場所は、王都の中心部にある王城にて。アラン=アルクスはその報告を聞きながら横目に、集められた各それぞれの騎士団隊長達の顔を見る。


「報告ご苦労、下がれ」


「ハッ!」


 もう一度敬礼。そのまま王都憲兵は静かに部屋のドアを開けて出て行った。軽く息を吐き、先ほどまで座っていた席へと向かう。そこは、円卓から一番扉に近い席、要するに一番下っ端の席に等しい場所だ。


「さて、報告を聞き終わったかな?」


「はい、お時間を取らせて頂き申し訳ない」


 座った先に見えるもの。それは、歴戦の戦士達の鋭き眼光。それが、この王都騎士団各隊隊長にして、王都最強の守り。


 王都騎士団一番隊隊長 ユリウス=ペンドラゴン


 王都騎士団二番隊隊長 ミステリオ=フェリクス


 王都騎士団三番隊隊長 ドラコ=ライド


 王都騎士団四番隊隊長 アルゴス=シーカー


 王都騎士団五番隊隊長 エスクド=マリア


 王都騎士団六番隊隊長 エルメス=シーカー


 王都騎士団七番隊隊長 サルス=フロー


 王都騎士団八番隊隊長 フィディス=ウェテネラーヌス


 王都騎士団九番隊隊長 除籍


 王都騎士団十番隊隊長 アラン=アルクス


 以上が、ここに並ぶ王都の誉れ高き騎士団の最高位に位置するもの達である。そして、腹心に抱えているそれぞれまた。


「では、これより会議を始めるとしよう」


「サー。発言をお許し願いたい」


「何かな? エルメス殿」


 手を挙げたのは、白い髪を腰まで伸ばしている若くどこか中性的な人物。この騎士団の集いの中で二番目に若い人物である。


「最近、兄の四番隊と新設された十番隊がよく一緒に行動しているように思えるのですが、それは。九番隊隊長、レギナ=スペルビアの失踪と何か関係があるのでしょうか?」


「....」


 普段は寡黙な彼が、発言をするのは珍しかった。彼の発言と同時に、全員の視線が扉から一番離れたペンドラゴンへと注がれる。少なからず、ここにいる全員が、突然姿を消したレギナ=スペルビアのことを気にしているのは間違いのないことであった。


 しばらく顎に手をやったペンドラゴンが作り出した無言の空気が、数百年の歴史を詰め込んだ格式高い部屋の中を支配する。


 そして、


「関係はある。だが、公言できないと言っておこう」


「わかりました。それが確認できただけでも大丈夫です」


 ペンドラゴンの言葉に全員が納得したようだった。これだけの短い言葉の裏に何が潜んでいるのか、それが理解できなくては王都騎士団隊長の座には登りつめることはできない。


「なんだ。兄貴のことが心配なのかぁ? エッちゃん」


「そういうわけではありません。それに、愛称で呼ぶのはやめてくださいと何度も言ったはずです、ドラコ殿」


「いいじゃんかよ。別に、死ぬわけでもねぇだろう?」


 エルメスの向かい側に座る大男。竜騎士、ドラゴンライダーと呼ばれる空を駆け抜ける覇者の名を有する部隊の隊長。顔の火傷を隠すように大きな竜の刺青を入れたドラコ=ライドが大きく笑う。それだけで、この凝り固まった空気感が少しはほぐれた。


「そうよ? エルメスちゃん、あんまり気を張り詰めていても、体に毒だわ」


「あなたまでも....というよりも。会議に化粧をしてくるとはどういう了見ですか? サルス殿」


「いいじゃない。化粧は女の武器よ、騎士団が剣を常に持っているのと、お・な・じ」


「あなたは男じゃないですか」


「それを言っちゃだ〜めっ」


 そう言いながら、投げキッスを行う見た目は完全に女性の姿をしている第七部隊の隊長サルス=フロー。本当に見た目は立派な女性なのだが、実は男である。唯一、この場で女性の人物はすでに王都騎士団を去ってしまっていた。


「本当、レギナちゃんもせっかく女の子なのに化粧も髪も伸ばさなくて.....本当。勿体無かったわねぇ〜」


「....脱線させるな、フロー。所詮、女如きに騎士団隊長など務まるはずがなかった」


「あらぁ? そう言って、公式戦で負けちゃったのはどっちだったかしらぁ?」


「っ.....!」


 白い騎士団の服装で、口元まで布で隠している小柄で鋭い眼光の男。アルゴス=シーカーは隠密で活動しながら様々な集団、結社、王都内部での告発、外部からの攻撃を事前に防ぐ部隊の最大戦力である人物である。


 二人の冷たい視線が円卓の間を交差する。


「落ち着け。二人とも」


 突如、くぐもった声が冷めきった空気を割いて響いた。円卓の席に座る、全身分厚い鎧で武装した大男。背丈は、鎧を含めてこの中で最大とも言えよう。


 王都騎士団五番隊隊長のエスクド=マリア。入隊以来、この鎧を脱いだ姿を誰も見たことがなく、中に入っている人物が男か女かもわからない。しかしその実力は王都騎士団の中でも五本指に入るとも言われている。


「サー・ペンドラゴンも見ておられるのだ。少しは、慎みを持ったらどうだ」


「そうだな。仲が悪いのは元々だが、行き過ぎるというのであらば。学校の席替えみたいに今度からくじ引きで席を決めるというのはいかがです? サー」


 白髪で眼帯の男。フィディス=ウェテネラーヌスが仲良さげにペンドラゴンに笑顔で話しかけた。作戦実行部隊という稀有な役職が作られたのは、彼の持つ眼帯の下に隠された魔眼によるものである。数日先の未来を見通すことのできる魔眼を保持している彼は敵の動きを予想しそれに応じた作戦を立てる。部隊の人数は騎士団の中で一番人数が少ない騎士団だ。


 そして、隊長であるフィディスもまたこの騎士団隊長の中では二番目に年上である。


「ははは。確かに、次回の会議に用意しておこう。さて、そろそろ私が話してもいいかな? 諸君」


「「「「ハッ!」」」」


 先程までの空気が一変するように、最初の引き締まった空気感がペンドラゴンの一言で元へと戻る。王都騎士団、創設者にして王都騎士団最強の人物。その穏やかな表情からは想像ができないほどの光景を目にしてきたに違いない。


 でなければ、これほどの強者たちを一つにまとめ上げるのは到底叶うまい。


「では。本題に入るとしよう」


 静まり返った会議室で、低くペンドラゴンの声が響く。彼が懐から取り出したのは、一枚の古い布切れのようなもの。


 そこに書かれているのは様々な図式。そして、なんらかの計算式のようなもの。それが何を意味するのかはわからない。しかし、それを見た瞬間、騎士団達の目の色が変わった。


「我々には、時間がない」


 遂行率、70%


 期限は残り1年と半年。


 それは、余りにもありきたりなすべての生きとし生けるものがこの世から消え去るというシンプルにして単純明快な終末。それが、この一枚の布切れに書かれている『予言』の内容。


「....具体的な、予言で起こる内容は不明なんですね」


「だいたい推測はついているとも。この世界の始まりが二人の巫女によるものならば。終わりをもたらすのもまた必然として、彼女らだろう」


 二人の巫女。


 聖典の世界創造に記されているこの世に魔法をもたらしたとされる聡明な双子の巫女。彼女は、知恵のある生き物が生まれたこの世界により良い生活を与えんとして一つの玉をこの世界に落とし、人々が魔法を使えるようになったとされている。


 始まりが、彼女らならば。


 終わりもまた。


「騎士団諸君。改めて、ここで明言しておこう」


 我々は、救うために存在する。そこで溢れた犠牲を踏み台にしても。


 騎士団の奥底に抱えている信念、それは何者でもない『救済』の二文字だ。的に赴いて、敵を制圧することもさることながら王都に入り込んだ悪逆を根絶やしにする。王都に住まう人間に害を及ぼそうものならば、どんな相手でも斬る。


 それが、王都騎士団の存在意義であると。


「ま、俺の目ん玉も。数日先までしかわからないんでね。今、そちらの副隊長方がやってることの良し悪しなんざまだわからんが」


「彼らは彼らで良くやってくれているとも。行うことに差はあれど、同じ大義名分胸に抱えたもの達だ」


「肩入れもいいですがねぇ、サー。最近、彼方さんの動きが激しくなってきている。もし、無害な人間に危害が及ぶというのなら容赦無く叩きますぜ」


 フィディスがゆっくりと黒い眼帯を押し上げ、その目でペンドラゴンを睨みつける。眼帯の下に抑えられていた、闇夜で星がゆっくりと回っているような魔眼の鋭い眼光をペンドラゴンはその柔らかな微笑みで受け止める。


「無論。構わないとも、道を外した救済に意味などはない」


「....その言葉。決して、お忘れなきように」


「さて。諸君、これからは時間との勝負だ」


 未来は、我々が手に入れる。

二日後更新

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