第20話 剣の色
「さて、少し整理しようか」
外はもう完全に夜となり、大きな二つの三日月が浮かんでいる、部屋の中も暗くなったところで、ギルド内でも見た魔力光で部屋が明るく満たされる、すると今まで窓から漏れる光でしか認識できなかった部屋がその全貌をあらわになる。
部屋はおよそ自分の住んでいた八畳の部屋のその3倍はありそうで、部屋の壁は様々な言語で書かれた書物の棚と、瓶に入った様々な薬草、薬、または謎の生物のホルマリン漬けのようなものが入った棚で満たされており、床は何らかの破片や、書類と思しき紙が無数に散らばっている。
そして部屋には木をそのまま輪切りにしたような椅子が四つと、これまた、木を縦に真っ二つにしたような机が二つあり片方は謎の機器や実験道具なようなもので埋め尽くされているが、今自分が座っている机の上には自分の剣とその剣を神話級と認定した、ステラ=ウィオーラケウスとその事実を聞いて呆然としている、エルフのリーフェ=アルステインが座っている。
「まず君が話したことが全て本当だと仮定する」
コクコク
「だとすると、この剣が果たしてどこから湧いたか・・・、一応情報としてこの剣のわかっていることを話そう」
まずと、彼女は剣の鞘のある部分を指差し説明を始める。
「この鞘に使われている材質はおそらく、『パンセリノス』という木材が使われてる、さて、『パンセリノス』とは?リーフェ=アルステイン?」
「・・・『パンセリノス』は、世界で最も星に近いと言われているアステール山の頂上でしか発見されていない、世界三大樹木の一つです、月の光にのみに育つということから『月光樹』とも呼ばれ、硬度と柔軟性はともに木材では最高クラス、また、あらかじめ魔力で加工した形を記憶し、魔力を流すとその形に変化するという特徴を持った、幻の木です・・・」
「はい、長い説明ご苦労、次にだが、イマイシキ ショウ、その剣を抜いてくれ」
彼女には俺にしかこの剣を抜けないと話してあるし、なぜ自分がこの剣を手にしたかという経緯をすでに話している、テーブルの剣に手を伸ばし抜いた剣をまたテーブルに戻す。
「さて、次にこの剣のことなのだが、ブレードの長さはおおよそ君の腕の長さと同様、刃こぼれや、血などのサビなどは一切ないまるで新品同様、だけど、デザインはかなり古い、正直に言えばアンティークだな」
しかし、と彼女は付け加える。
「鉄に魔力を流せないのが常識、でもこの剣に魔力を流せる、理由、それはこの剣の内部にある」
すると彼女はテーブルに手を置き、詠唱を始める。
『世界の理を我等に提示せよ ウィデーレ』
剣を置いたテーブルが淡く紫色に光だし、テーブルの上が光に包まれる、すると同時にある現象が起こる、
「・・・手の骨が見えて・・・る?」
「そう、この魔法はある一定の面積で、この光にあたるものを透視できるようになる、術者のみではなく、術者以外にも見ることができる」
テーブルから出てくる光に手をかざすと、まるでレントゲン写真をそのまま手に移したかのように見える、すると、これを見ろとステラがテーブルの剣を指差す。
「今、すべてのものが透けて見えるわけだが、この剣をよく見てもらいたい」
テーブルの上に置かれた、剣をよく見てみる、剣に掘られた文字を中心に剣の内部に電子基板のような筋がたくさん入っているのが見える、そしてその筋をたどるとそれは持ち手、グリップにつながっていた。
「この筋はおそらく、鉄に魔力を通すことを可能にするための魔力の通り道というわけだが、とてもアンティークと呼ばれる時代に作られたものとは思えない、いや今の技術ですらこのような精巧なものは作れない」
そして、とこちらの腰にしているベルトを彼女は指をさす。
「このベルトは『神龍』と呼ばれる、龍の翼を使っているものだが、リーフェ=アルステイン?」
「・・・『 神龍』、『全身が鋼色で輝き、その翼は一つのはばたきで木々をなぎ倒し、その咆哮は世界を震わせ、その目は恐怖をも射抜き、その吐き出される炎は魂をも焦がす』、と伝えられてる二百年前に絶滅したとされている伝説の龍です、私も二百年前にその姿を見ることはありませんでしたが、いつも父からその話を聞いていました・・・」
リーフェさんも相当参っているのか、説明にだんだん張りがなくなってきた、しかし彼女、ステラはそんなの物ともせず話を続ける。
「飛ぶ時に『神龍』の翼は体の大きさに比べると、少し小さい、そこで使われるのはその大きな体に秘められている強大な魔力だ、翼全体に魔力を通して体を浮かすのに使ってるわけだが」
「つまり、この『 神龍』で作られたベルトは魔力をとても通しやすいと?」
「その通り、なかなか冴えてるな」
いや、冴えてるもなにも、まずありえないだろ、だって1話から振り返ってみようか読者諸君?何気なくあそこで祝異世界へようこそ、でもってそこでたまたま拾った剣でしかもそこで、ポイしようとした剣がまさか神話だの、伝説だのの寄せ集めみたいなものでしたなんて誰が想像できます!?
「さて、極めつきはこのグリップの文字だ・・・、なんでお前だけ読める?」
「へっ・・・あっ!」
まずい、せめてこの文字が読めることはトラブルを避けるためにも隠していたかったのに、俺としたことが油断してた!、そこに書かれている文字は剣に書かれているものと同じだったがつい、口に出して読んでしまった。
「その調子だと、実は剣の文字も読めたりして・・・違うか?」
「ショウさん!それって本当ですか!?」
「・・・ええ、実はこの剣を見た瞬間に読めてました・・・」
ステラはさほどさっきと変わらない顔だったが、リーフェは少しがっかりした表情でこっちを見ていた、やけに外の風の音がよく聞こえる、そんな少し重くなったこの空気に言葉を入れたのはやはりステラさんだった。
「まぁ、まずここに書かれている文字がどうして読めるのか、それははっきり言えば今の時点ではどうでもいい」
しかし、と彼女は続ける
「実際にその魔法が使われてるところを見てみたい、ただし、攻撃類の魔法はお断りだぞ」
未だに使えるのはこれくらいしかないが、見せる分には十分だろう、俺は剣を手に取り、そこに書かれている文字を読む。
『スクートゥム』
冒険者をやっていてもう見慣れた光景だが、テーブルの上に置いてある鞘が、大きな音を立て、盾に変形する、またわかったこととして、腰に収まっているときは腕に自動的に装着されるのだが、ベルトから離れている場合はその場で展開されるらしい。
「ほぉ、やはり魔力の親和率はこの素材はなかなか高いようだな」
「本当にショウさん、何者なんですかぁ?」
ステラは物珍しそうな、好奇心あふれる目で見てくるが、リーフェはどこか呆れたような目で見ている。
「さて、ここからは私ですらわからなかったものだ」
「・・・えっ、ステラそれって本当?」
リーフェさんがとても驚いた表情をする、おそらく彼女、ステラさんがこのようなことを言うのはとても珍しいことなのだろう。
「鞘にはまっている石があるだろう、こいつの正体だけがわからなかった」
「?、このどの道にも落っこちてそうな石ですか?」
もう一度鞘にはまっている石を凝視する、そこには初めに拾った時に比べるとだいぶ赤くなっているような気がするが、かといってそれほど珍しそうな石ではなく、そこらへんでも拾えそうな、小指の爪ほどの大きさの丸い石だ。
「そう、ただの石だったら私も無視していただろう、だが」
「だが?」
「こいつの中に、とてつもないもんが住み着いているような気がしてならんのだよ」
えっ、なにそれめっちゃ恐いんすけど・・・、前話で説明した通り、俺はホラーは苦手だ。
「とにかく、この石については何にもわからなかった、さて次に、この剣の『パレットソード』という名についてだが・・・、『パレット』ってなんだ?」
今回、ステラはリーフェに聞くことなく、俺に聞いてきた。
「パレットは、僕のいた世界の画家が使う、絵を描くときに 使う色をのせたり混ぜたりする平たい板のことですね」
「フ〜ン、まぁ名前はさほど重要ではないか、しかし色かぁ・・・」
「?、色がどうかしました?」
「ん?いや何でもない、それともう1つだが」
「この剣の材質・・・ですよね?」
ご名答、とステラは話す。
「この質感と強度から考える限り鉄であることに変わりはないんだが・・・私のこの目をもってしてもわからないなんて、なんだよこの剣は・・・」
そんなこと俺が聞きたいよ!
「とにかく、使える化石のような神話級の剣だから、まず、人には迂闊に話さないこと、手入れをしっかりすること、それさえ守れば後はお前さんの自由だ」
それに・・・
グゥウうううううううぅう〜!
「そろそろ、リーフェ=アルステインのお腹が限界だ」
「ぅうう、すみません・・・」
盛大にお腹の音を出し、顔を真っ赤にお腹を押さえる美人エルフはなんとも言えないものがある。
「そろそろ、帰りますか?」
「そうですね・・・」
まぁ、続きはまた今度でもいいだろう、外は暗いし魔物が出るとまずい、それに今は地球で言えば夜の11時を回ったところだろう、帰ってこの腹ペコエルフには何か用意してあげなくては・・・
「まぁ、出口までは送ってやろう」
「すみません、今日はありがとうございました」
「本当にありがとうございました、ステラもたまにはギルドを手伝ってね?」
「ふんっ、気が向いたらな、せめて今日持ってきた剣並みの代物を持ってこい」
うん、それは絶対無理だ
重厚な扉を開けると、そこには真っ暗な廊下に所々月明かりが差し込んでいる、廃墟を出れば、月明かりが二つもあるせいか、夜道は明るく見やすい、その外までステラは送ってくれた。
「今日はどうも」
「あぁ、また来い、困ったらな」
一礼してその場を去ろうとした、その時である
「そうだ!ショウ=イマイシキ!」
はい?
「・・・絶対呑まれるな」
・・・え?
「?どうしたんです?」
「いや、ステラさんが・・・」
「ん?ステラ?・・・って誰ですか?」
・・・・・・はっ?
「えっ!?、だってさっきまであそこで、話してたじゃないですか」
「ん?あそこですか?だってあそこは誰も住んでいない廃墟ですよ?何言ってるんでかぁ〜、それよりお腹が空きましたよ」
「廃墟・・・」
確かにあそこにあるのは昼ごろ見た寸分違わなくそこにある廃墟だ。
「・・・リーフェさん、俺たち今まで何してたんでしたっけ?」
「えっ?な、何って、今日は私が休みで、ショウさんが新メニューを考えるからって昼から食材探しをしてるんですよ?」
いや、おかしい、俺たちは確実にあの廃墟の中に入って、ステラ=ウィオーラケウスという人物に会って剣の鑑定をしてもらってるんだ、まさか・・・
首筋に冷たい汗がツゥ〜ッと流れる、まさか今日の大半の出来事は幻だったというのか?、もしくは誰かに見せられた?
「すみません、幻覚を見せる魔法って・・・あります?」
「えっ?、え〜っとですね。紫色の魔力の持ち主ができる魔法ですねぇ・・・紫の魔力自体ものすごく珍しいんですけど、空間操作が得意なので、主に幻覚や、透視ができたりしますかね」
「あの・・・その中に記憶操作とかってありますか?」
「記憶操作?さぁ〜会ったことないですからわからないですねぇ〜」
だめだ、本当に覚えがないらしい。
「ふぅ〜、そうですね、なんか薄気味悪いのでさっさと帰りますか」
「えぇ、今日も楽しみにしてますよショウさん!」
そう言って帰り道へと歩き出す、本当に彼女は何者だったのか、とにかく今は考えるのをやめよう、と首を振る、が、どうしても頭から離れず、彼女が話した王都騎士団だのと言う話はついぞ、頭に入ってくることはなかった。
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二人が後にした廃墟の奥、月の光も届かない一つの部屋の大きな鏡の前、ステラ=ウィオーラケウスは佇んでいた。
『あの人・・・剣使える・・・?』
「いや、まだあの力のほとんどを知らない」
『・・・危険』
「大丈夫だ、だんだんあの人も起き始めてるようだし?」
『・・・そう』
それではと、ステラの紫の瞳が鋭く光る、目の前に一歩前進するとまるで鏡が水面のように揺らめき吸い込まれるようにして、体が入って行く。
「それでは、近いうちに会おう、ショウ=イマイシキ君?」
それと
『またね・・・』
「お・と・う・さ・ん・♡」
さて、まずこれにて序章は終了ということになります、感想や評価大歓迎です。
(そろそろ名探偵の方にも手をつけなきゃ・・・)




