第190話 盲目の色
自分でも、どうしてこういう行動を取ってしまったかはわからない。言うなればそれは興味というものだろうか。黒い目隠しで覆われたその目元、そして日本美人特有の白くのっぺりとした顔に惹かれたのか。
本当によくわからないが、今自分は店の部屋に真ん中に胡座をかいて座り静かに彼女がやってくるのを待っていた。
幸いにも時間はあるし、それにこの街ではまだ自分の手配書はそこまで回ってはいない。街の情報を知るためにも、目の見えない彼女から聞き出すのは好都合だ。
とはいうものの。
周りを見渡すと、あるのが自分が先ほど出て来た宿の寝床よりもずっと柔らかそうな布団が置いてある。ただ寝るためのものとは思わない。何しろそういう店だし、これからくる彼女もそう行ったことを生業にしているのだろう。
決してやましい気持ちがあるわけではないが、罪悪感もなくはない。メルトという彼女がいながらこう行ったところで情報を聞き出すというのもどうかと思うが、彼女と目が合った瞬間なんとも言えない、運命的なものを感じた。
今まで出会って来た、人々と同じような運命を。
「待たせてしもうて、堪忍な」
「いえ、そんなことは.....っ」
部屋の扉が開けられる。異世界では珍しいスライド式の扉から現れた彼女の姿は、息を呑むほど美しかった。
長い黒髪を地面まで垂らし、アエストゥスで見た和服と洋服が混ざったかのような華やかな服を身に纏い、そして目に巻いていた黒い目隠しは、花柄に散りばめられた色鮮やかな布へと変わっていた。
「どなんしたの? 息止めて」
「いえ....なんでも」
目が見えていないはずの彼女は明後日の方向を見ているが、扉を閉め部屋の中を進んで行く彼女は、自分が今座っている場所がわかっているかのように悠々と歩き、そして自分の横へ、スンと座る。
綺麗なものを見ると息を呑むというが、本当に体験するとは思わなかった。
「お酒は飲まへんの?」
「....では、果実酒を」
「あらあら、随分と可愛いの飲まはれるんやな」
口元を袖で隠しクスリと笑う彼女。仕草の一つ一つが艶やかだ。すると布団のそばに置かれたベルをチリンと鳴らすと、部屋に従業員らしき男が入ってくる。彼女はその男に一言二言話すと、一つ返事で彼は再び部屋から出て行った。
「さてお兄はんどちらからいらしたの?」
「王都からです」
「そらまぁ、遠いところから。お仕事?」
「....まぁ、そんなとこです」
見たところ彼女は自分より年上だろう。確実に25は行っている....が、こういったことになると自分はめっぽう弱い。ハンクと行った店でも外してたし、そういった事柄はやっぱり苦手だ。
「えっと。すみません、まだお名前も聞いてないですよね」
「堪忍なぁ。お店の決まりで名前は教えられんの」
「え、あ。そう、なんですね」
すると彼女は先ほど注文を頼んだ男が持ってきた酒をグラスに注いで行く、それを彼女から受け取り、口に含むが、この味は.....
「どなんしたの? お口に合わなかった?」
「え、いえ。その.....懐かしい味で」
この甘い果実の味は....レベリオの船で飲んだ酒と同じ味だ。思わずもう一口飲むが確かに間違いない。あの時の味だ。
「そうなん? 珍しいわぁ、このお酒、海賊はんもお気に入りのお酒なんやて。お兄はんも海賊?」
「い、いや。違います」
あの海賊、こんなところで有名なのか....元気でやってるだろうか?
「そんなに気に入ったん? 寝床行く前に酔われたら敵わんわ」
「グフっ」
そうだ。こんなところで酒を飲んでいる場合じゃない。このままいけば自分の童貞がゴールラインを超えてしまう。
とりあえず、グラスを床に置き彼女と向き合う。
「あの」
「ん? なぁに?」
目元が見えないせいか、口元だけ微笑んでいるその姿にドキリとする。
「えっと....ご趣味は?」
思わず動揺して変な質問をしてしまう。しばらくキョトンとした表情を浮かべていた彼女だが、クスリと笑い始め口元を袖で隠した。
「ふ.....女口説くのにそな質問かいな。あぁ、可笑し」
「す、すみません」
「初心やなぁ」
少し申し訳ない気持ちになって、彼女から視線を逸らしてしまう。すると、自分の肩あたりにスルスルと何かが這うような感覚に襲われる。
蛇? いや。
その正体は、自分の首にかかる彼女の白く細い両腕だった。徐々に近づいてくる顔は蕩けており、まさに遊女の表情だ。
「え、ま....っ」
「お兄はん、彼女さんおる?」
「は、はい....」
「フフッ....」
いけない人
その言葉を聞いた瞬間、背筋にゾクリと何かが走る感覚に襲われる。そして力が抜けたのを見計らって彼女は一気に体重を自分の体にかけて行き、なされるがまま押し倒された先は布団の上だった。
「彼女はん、可愛らしい人なんやろうな」
「ま、まぁ....」
「こんながっしりした体で、夜はさぞ、激しいんやろな」
「ヒゥッ!」
捲られた上着の下を、彼女の細く長い指が這って行く。思わず変な声が出てしまったがこの人、目が見えてないはずなのにどうやって....
「気になる?」
「え....?」
「うちのこれ」
彼女が指差したのは、頭から目にかけて巻かれている花柄の目隠しだ。
「三つの時に流行病で目が潰れてなぁ。お陰で、見えなくとも耳がいいさかい。生活には困らんよ」
「....あぁ」
店先であった時、自分の着ている服の裾の長さで判断されたのは、体と服が擦れる音で判断したのか。考えてみれば、息を止めた時もその息遣いの音で判断ができる。
「だから.....」
すると、彼女は馬乗りになったまま自分の服の下に手を入れ自分の胸の部分に手を置く。
そして
「お兄はんのここ、早うなってるの。わかるんだわ」
自分は....
一体何でここまでされても抵抗ができないのだろう。
気づいた瞬間、彼女は自分の唇を奪い取っていた。だが、その瞬間一気に頭の中が冷静になった。
彼女との口づけが終わった時。ようやく本題へと切り出すことができた。
「すみません.....遺跡のことで。何か知ってませんか何か知ってませんか」
「い.....せき?」
先ほどまで熱くキスを交わしていた相手からこんな質問が飛び出してきたら驚きもするだろう。
だが、彼女の表情は驚きではない。驚きよりも、むしろ恐怖といった表現が的確だろう。
自分の上に乗っていた彼女は、後ずさりをするかのようにして壁際まで引き下がる。明らかにこの反応は異常だ。
「あの....」
「あんた.....元締の回しもんかい?」
「いえ....そういうわけでは....」
すると彼女の手に持った酒瓶がこちらに投げられる。思わず左手で受け止めてしまったが、この光景には既視感がある。
しかし、目の前にいるのは傍若無人なドワーフではない。一人のか弱そうな遊女だ。
「いや....っ、来んといて....堪忍して....穴には.....穴には行きとうないっ!」
そう言って再び手元のグラスを投げるが、それは力なく床に落ちでくるくる回って中の酒を撒き散らす。怯えきった彼女にはもう聞けることはないだろう。
そして、そろそろ時間だ。
「....すみませんでした。料金、置いておきます」
懐から金貨を二枚取り出し、それを彼女のそばへと置いた。床に金貨を置いた音で体を震わせていたが、振り返ることなく、床に置かれたローブを着込み、魔術を発動。
部屋から出た。
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「それで、あんたは私が遺跡で一人寂しく罠張ってたのに街の遊女様とおニャンニャンしてたってわけ?」
「....言い訳のしようがない」
遺跡のそば、ジジューと会うのは早かったが、遊郭に行ったとバレたのも早かった。現在遺跡の裏側で土下座をしているところである。
「あぁあ、どうしよっかなぁ。メルトちゃんに言いつけちゃおっかなぁ?」
「え、いやっ! それだけはマジで勘弁っ」
「まぁ? 報奨金を1割くらい? ちょこーんと上乗せしてくれたら考えなくもないんだけどなぁ?」
「2割出すっ!」
「まいどありっ!」
現金な奴め。だが、今回は一方的にこっちが悪い。自分の非はしっかりと認めなくてはいけない。だが、得た情報も大きい。いや、大きいというのか?
「それで何? 遊女が怯えてた?」
「そう、遺跡の話をした途端急にな」
「フゥン、あんたのが短すぎて怯えたんじゃなくて?」
「彼女は盲目だ。目隠しをしていた」
「目隠しプレイしたの? うわぁ、ちょっと引くわ」
「いい加減しつこいぞ」
遺跡の周りは軽く林のようになっているが、観光場所ということもあり、ある程度整備されている。見たところ出店のようなものの跡もある。
さて
「鬼が出るか蛇が出るか....」
目の前にそびえ立つ巨大なドーム状の建物。そして、目の前に立ち並ぶ石造りの鳥居。
この中に、パレットソードを治す手がかりがあるのか?
さて、パソコンが壊れ、蘇生魔術もうまく行きませんでした。今、大魔導士様のところへ蘇生魔術を受けさせています。
こうして更新したのはスマホでの執筆です。改めて、パソコンのありがたみがわかりました。
明日はちょっと更新無理。
明後日お会いしましょう。




