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異世界探求者の色探し  作者: 西木 草成
第4章 黄の色
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第168話 その色、何を見る?

 刀を片手で持ち、その先をエギルに突きつける。


「魔法は、使っていいんだよな?」


「当然だ。多少はマシな動きになるか....っ」


 次の瞬間、彼のいたところに土煙が立ち上り、とっさの反応で刀を構える。そして、突如目の前に瞬間移動のごとく現れたエギルの剣が牙をむく。それを刀で応戦。だがそれは先程までの防戦一方の戦いではない。防いでは仕掛け、仕掛けては防ぐ。


 サリーの魔力により、通常の身体強化術よりもはるかに機動力も上がっている。だが、精霊の魔力を以てしてもようやく互角という舞台に立てたのだ。


 あとは技術である。


『今一色流 剣術 氷雨<雹>』


 攻めに回った瞬間、一気に刀の峰で六撃を行う。だが、それは躱され。もしくは防がれて一つもその体に打ち込むこともなく距離を取られる。


『どうなってやがんだあの木の枝は。燃えやしねぇ....』


 サリーが勝手に自分の口で喋る。突然変わった自分の口調にエギルは眼を細めるが、再び焼け跡一つ付いていない木剣を構え直し。再び、その場から姿を消した。


 だが、今度は正面からじゃない。


 周囲に先程と同様、ところどころ土煙が上がり、目で追えない速度で翻弄される。


『炎下統一 参の型 炎爪』


 振りかざした刀に両側に炎の実体を持たない刀が付与される。その瞬間、後方からの攻撃に身構え防御、そのまま駆け抜け、直線上にエギルが疾走するのが見える。


 防いだ状態のままの刀を右手に持ち替え、エギルが疾走していったところに向けて思いっきり下から地面を削る勢いで切り上げた。


 すると、刀の両側に付与された炎の刃が刀から離れ地面の上を走りながらエギルが走り去っていった方向に飛んで行く。次の瞬間、着弾した炎の刃は大爆発を引き起こし炎の柱が青空へと登る。


 やり過ぎてしまった感はある、だが立ち上る煙が晴れたところにエギルの姿はない。そこには地面を大きく削り取った爆発の痕跡のみ。まさか消し飛んでは今い。一体どこに....


 その瞬間、頭上にあった太陽の光が消えた。


「な....」


 とっさに顔を空へと向ける。その瞬間見えたのは、猛スピードで落下してくるエギルの姿。両手に握られた木剣は面の形ではなく、剣先でそのまま自分の脳天をめがけてつき刺す勢いだった。


「....っ!」


 バックステップで回避、先ほどまで自分がいた場所の地面に思いっきり木剣が突き刺さる。これはもはや木剣の威力ではない、それでもって真剣でも出すことのできない威力だ。


「手品のつもりか。本気でかかってこい」


「本当、王都騎士団はバケモンしかいねぇのかよ....っ」


 あれを躱されるとは思わなかった。となると、もはや威力の問題でもなくなってくる。しかし、ウィーネの能力を使ったとして使い慣れていない槍を使ってら負けは必須。


 シルの弓は接近戦に持ち込まれたら確実にアウトだ。


 正面からの斬りつけ、受け流すが下からの切り上げで体の重心が大きく揺さぶられる。


『炎下統一 壱の型 焔宿し』


 横薙ぎ、それを防いだ瞬間。激しい炎がエギルの木剣を焼くはずだった。


「え....?」


 炎に覆われたはずの木剣が、炎の流れを変えてあらぬ方向へと流れてゆく。次の瞬間、刀を持った右手が掴まれ大きく重心を崩された。


「しま....っ!」


「ふっ....」


 次の瞬間、背中に大きな衝撃が走る。これは切りつけられた衝撃ではない。木剣の柄で背骨を砕く勢いで体全身に雷が走ったかのような麻痺が襲いかかる。


 大きく弾け飛んだ体は宙を舞い、地面へと転がる。


 追撃の気配。


 麻痺した体を動かそうとするも、うつ伏せになった状態でふらついた頭を持ち上げるのが精一杯だ。だがそんな時、自分の意思とは関係なく突如右手がエギルの剣を防ぐ。


(しっかりしろクソガキっ! こんなとこで寝たら死ぬぞっ)


 頭の中で声が響く。今自分の右手を動かしているのはサリーだ。必死に防御をしてはいるものん、稼動部分が手首と肘のみだ。防いだ状態でいるのも時間の問題である。


(くそっ! テメェっ、死んだら俺も死ぬんだぞ。あの猫耳娘一度も抱かないで死ぬつもりかっ!?)


「それ....今関係あるか....?」


 いや、確かにそういった願望がないわけではない。


 だが、自分が今ここで死んでいいというわけでもない。


 しかし、右手はとうに限界を超えて、剣撃の隙間に左手に持ち替え防御を行っている。しかし利き手でない分、防御は難しい。防ぎきることができず、何度か肩や足に切り傷を追う。


 その中で、ようやく体の麻痺が引いて行き、右腕全体を使って体を持ち上げ、なんとか膝をついて立ち上がるものの、まだ両手は自由ではない。


(後言っておくが、時間がない。このままいくとまたあの時と同じだぞ)


「クソォおおおおおっっっ!」


 打撃。


 それを精一杯の力で押し返す。そして、腰に差した鞘を手に取り、それを同時に振るう。


『今一色流 剣術 蜻蛉』


 攻めろ


 攻めろ


 攻めろ


 刀が火を吹き、その炎の中で鞘が踊る。


 だがそれらの猛攻撃を一切物ともせず防御をしたまま、涼しい顔でこちらの様子をうかがっているエギル。だが、炎はエギルが木剣を振るう旅に消し飛び、鞘は木剣を砕くことなく捌かれる。


 それもそのはずだ。


 今、自分が見ているこの風景。彼の中心に描かれている色は緑だ。見れば、彼の木剣はその緑のオーラで覆われており、それが炎を防ぎ、刃こぼれを防いでいるのである。


「見苦しい、そこまでして何を貴様は守っている」


「自分の信念、自分の生きる意味、そして....自分を作ってくれた大事な人たちだっ!」


 剣を交えながら、余裕の表情でエギルが話しかけてくる。一瞬、右手の刀が弾かれ、すかさずその間にできたエギルの体の隙間に鞘を打ち込む。だが、その鞘は防がれ、木剣と鞘の鍔迫り合いが目の前で引き起こる。


「貴様の守るもの、だがどうだ。最後まで守りきれたか? そんな程度の強さで、妹を守るなどと、片腹痛いっ!」


「っ!」


 押し返された反動で重心が揺らぐ。そしてそのまま飛んでくる正面からの切りつけ、とっさに鞘と刀を交差させて防ぐ。だが、あまりにも強い力に押し負けそうになり膝をついてしまう。


「中途半端な強さなど、守るどころか周りを傷つける諸刃の剣だ。俺にはその強さがある、守るための力も家もある。冒険者風情が守れるものなんぞ、自分の生活くらいだっ!」


「く....っ、アァアアアッッッッッ!」


 徐々に迫る自分の刀。熱を帯びた炎が自分の鼻先を焼く。


 そうだ、中途半端な強さだ。結局、自分は自分を守ることもできていない。相手を守ることばかり考えて、その背後にいる人すら守ることもできていない。


 そんな自分に、つくづく怒りを覚える。


 何も変えられなかった自分に本当に吐き気がする。


 ふと、横目で闘技場の観客席に目を向ける。そこには手を組み、こちらの様子をまるで祈るようにして見ている彼女の、メルトの姿があった。


 自分にできることは、彼女との約束を守ることだけ。


 あの時、監獄で『一緒に戻ろう』といった、あの時の約束だけだ。そんなことも忘れて、自分の死に場所を求めて、ただ贖罪のために自己犠牲を当然かのごとく振りかざして旅をした。


 だが、レギナが気づかせてくれた。


 自分が、今死ぬ時ではないと。自分は、まだ為すべきことがあると。


 その時、あの時の約束が自分を生かしてくれた。自分は生きなければならない。そう、何も守れない自分が唯一守れる約束を。


 それを果たすために、自分はここに来たのだから。


「ま....もるっ、俺は....っ! メルトさんの約束を守るために....っ、あんたに勝つっ!」


 この怒りは、何を為すのか。


 何も為せなかった、この怒りに、


 意味を。


「....はぁ....」


 息を吐く、刀に力をこめるな。


 ただ、流れに従い。


 うちまかせ。


「な...っ」


 突如緩んだ力に、エギルの重心が崩れる。体をひねり、木剣を刀で防いだまま、鞘の先端を突きつける。


『今一色流 剣術 雨樋』


 鞘による突きを顔に当たるギリギリで交わしたエギルは、そのまま一歩距離を置く。


「....炎の色が....青い?」


「....」


 エギルが零した言葉に反応し、自分の刀を見る。すると、先ほどまで赤一色で染められていたはずの刀の炎が、まるで濡れた炎のように真っ青になっている。


 そうだ、これは一度見たことがある。


 あの時、ロザリーのために燃やしたあの魔力検査の木を燃やした時と全く同じ炎の色だ。


 今自分が、何のために戦うか。ようやく、迷いは捨てることができた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 考えるな、


 何も見るな、


 何も聞くな、


 ただ、その呼吸、息遣い、鼓動、


 その全てを肌で感じ取れ。


 感覚を研ぎ澄まし、迎え撃つことなく、ただ受け流すことを考えろ。


 闘技場のフィールドの中を駆けてゆくエギル。そのスピードはさらに上昇しもはや目でとらえるどころの騒ぎではない。


 先ほど、エギルは自身に魔術をかけ、その体重を減らしてさらに加速を強めたのだ。だが、彼は翻弄するのみで、一向に攻撃を仕掛けてはこない。おそらくこの一撃で確実に仕留める気なのだろう。


 もし、もし彼が真剣で挑んでいたらおそらく自分に勝機があった。だが、そのおかげで自分は自分の迷いを捨てることができた。


 刀を地面に突き刺す。その瞬間、自分を中心に地面に放射状へ伸びたヒビから青い炎が噴き出す。すでに、目を使っていない。耳もその機能の意味をなさない。


 感じるのは、この地面の動き、肌に感じるこの殺気のみだ。


 だが、彼がなぜここまでして戦っているか。自分に対して、その意味を聞いた時気付いた。

 

 彼も同じなのだ。結局は誰かを守りたい。自分みたいな何処の馬の骨だかわからないやつに、妹を任せるわけにはいかなかったのだ。


 今なら、彼のその怒りも。その意味も。理解できる。


『炎下統一 蒼炎そうえんの型 静炎せいえん


 エギルが、炎の中に入った。


 その瞬間、彼の動き、思考、そしてその記憶ですら全てが頭の中に流れてくる。


 そうか、だから彼は....


 スゥ.....


 .....ハァ


『今一色流 抜刀術 風見鶏かざみどり


 その場から一歩も動かず、放った抜刀術。それは、エギルの持つ木剣を完全に一刀両断していた。切れた木剣の刃は、青空に炎を上げて消えていった。


「....勝負、あり」


明日も更新

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