第154話 見守られる色
それでは、久々に干し肉を使った料理だ。いや、決して干し肉がまずいというわけではないのだが。それでは栄養とかその他もろもろの要素が欠けていて、人間性にかける。というか....なんだか色々なものを捨てるような気がして。少し時間はかかるが、なんとか有り合わせで頑張ってみよう。
まず、材料は干し肉。解体した馬のもろもろ。手持ちの調味料の塩、砂糖、油。
以上である。
「どうしよう....」
あまりにも手持ち無沙汰である。
待てよ。この材料があれば....いけるか? いや、迷ってはダメだ。
まずはやってみよう。
まず、二人分の干し肉を細かくする。そして、細かくし終えた干し肉を別な場syに一箇所にまとめ、次は馬肉だ。
精肉の知識はこの世界に来て初めて知ったが、形成の仕方までは正直微妙だ。正直ひき肉の作り方がわからない。というわけで、精肉を終えた馬肉をその場でズタズタにして細かく細かくしてゆく。徐々に馬肉のユッケみたいな細かさになったところで干し肉を投入。それを鍋の中でこねてゆくわけだが、徐々に粘り気がでてきたところで、一人前分に丸めてゆく。
平たくして、真ん中に軽くくぼみを付けたところで火を起こし、鍋の蓋を閉じた。そして、しばらく焼き続けること十数分。
「さて....うまくいったかな?」
鍋の蓋を上げるとそこにはこんがりと、肉々しい色に染まった大きな塊が二つ、鍋の中にみっちりと詰まっていた。
馬肉ハンバーグの完成である。
匂いも自分たちが食べていたあのファミレスのハンバーグなんかに比べれば若干獣くさいのだが、それでも美味しそうな匂いであることには変わりない。少なからず、干し肉丸かじりよりは幾分かいいだろう。
「お兄さん、料理もできるのかい。すごいなぁ....」
「では、お熱いうちにどうぞ。味付けは塩しかないんですが....」
「いやいや、こんなご馳走久しぶりだよ。ありがとうなぁ....助けてもらった上に料理まで作ってくれてよ」
「料理は趣味ですから。では、いただきます」
鍋から取り出したハンバーグを皿に盛りつけ渡す。それにしても本当に嬉しそうな表情だ。こんな表情を見るのは久しぶりかもしれない。レギナは渡したら渡したで無表情だったからな....
手を合わせ食事をする自分をまじまじと見つめるハンクだが、やがて自分と同じように手を合わせて木製のフォークを使って食事を始める。
そんな姿を横目に、人生で初めての馬肉で作ったハンバーグを食べてみる。味自体は、牛肉のハンバーグとほとんど変わらない、若干味気がないのは調味料のせいだとは思うが。だが、食感はハンバーグで使われる『つなぎ』が使われていないためボロボロした食感だと思ったが、それ以上に馬肉のシッカリとした食感がハンバーグの食感を支えており、若干歯ごたえのあるハンバーグとなっていた。
これは、なかなかにうまい。
「うんっ! うまいっ! すごいなぁ、肉団子みたいなもんかと思ったけど肉団子なんかよりもしっかりと肉の味がわかるっ!」
「えぇ、僕も初めてです。馬の肉を食べたのは」
「そうなのか、いやぁ....こんなうまい料理になったんだからあいつも浮かばれるだろうよ....」
「そう、ですね....」
『あいつ』というのはおそらくハンクの馬車を引っ張っていた馬のことだろう。商売道具とはいえ、生き物だ。きっと情があったに違いない。あんなことになってしまって残念だが、これが『いただきます』そして『ごちそうさま』へと繋がってゆくのだ。
こうやって、命は回ってゆく。
「いやはや、ごちそうさん。うまかったなぁ〜」
「それならよかった。作った甲斐がありましたよ」
結局、一人一つしかハンバーグは食べていないが、それでも十分な食事ではあった。わがままを言うなら主食が欲しいところだが、今日は仕方あるまい。明日はもうちょっといろんなものを見つけておこう。
「ところで、カケルさんはどこに行くんだい?」
「僕ですか? 僕は....ちょっと王都に用事が....」
行き先を聞かれ若干どきりとしてしまう。思わず行き先をポロリと口に出してしまったが....。
「おっ、そうなのか。実は僕も王都に行くんすよっ! よかったら一緒に行きませんか?」
「え」
まずい。これはまずい。
王都に行くのならば、必然として単独での行動だ。もし彼と行動をしようものならば自分の正体がバレる。そうなったらもうおしまいだ。二度とメルトには会えなくなる。
いっそ今逃げるか? いや....しかし....
ならどう言い返すべきか....
「まぁ、そっちもそっちで事情がありそうだし。ゆっくり考えておいてよ」
「....ありがとうございます」
そう言うと、彼はその場に座ってそのまま目を閉じて動かなくなった。
そのあまりにも安らかな顔に一瞬不安を覚えたが、深く息を吸って吐いたりしているのを見ると、どうやら熟睡しているらしい。商人というのは、相当神経が図太いようだ。
軽くため息をついた後、食器類を片付けて行く。
それにしても、この男。いったいいくつなんだろうか、全くわからない。とにかく、一日二日の仲だ。深入りしてしまってはまずいだろう。
そう思いながら、空に浮かぶ二つの月を眺め。
目を閉じた。
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「さて、我が愚息よ。とうとう女の子を救うべく立ち上がったわけだが。んでどうなんだ? どこまで行ったんだその子と?」
「久しぶりの再会で、早速とんでもない爆弾を打ち込んできたなクソ親父」
いつもの道場。
いつもの胴着。
いつもの距離感で向かい合っていた。
「いいじゃんか、お前もそろそろ思春期は脱却しろ....よっ!」
「っ、いいんだよ。まだ20だ」
正面からの面。
以前はかなり疾く感じたが、今では間合いを図ることで無駄なく体を一歩引かせることで躱す。
「お、いいねぇ。かっこいいじゃん」
「腕落ちたんじゃないか? 死んだから」
ニタリと笑う親父に不敵な笑みを浮かべる自分。
だがしかし、
とっさに地面から打ち上げられた木刀を顎に触れるすれすれで躱す。ここから来るのはおそらく面....っ
『今一色流 剣術 翡翠<煌>』
ゼロ距離で放たれた突きに反応が遅れ、受け流せはしたものの衝撃で地面に転がってしまう。とっさに木刀を持ち直し起き上がろうとしたが、すでに親父の木刀は自分の喉に突きつけられていた。
「まだまだ、にぶっちゃいないな。ん?」
「....はぁ、参った。降参する」
木刀を地面に置き、手をひらひらさせて降参する。
だが、木刀を突きつけている親父はその姿を見て若干目をほそめる。
「なんだ、もう降参か? 親子水入らずの稽古なのに」
「あぁ....僕は、こんなことをしてる暇はないんだ」
そう言って立ち上がり、道場の窓の外を見ると徐々に夜が開けてゆくのが見る。もうそろそろ朝だ。
「なぁ、親父。なんで死んだ後もこうやって夢に出てくんだ? 明らかにこんなの自分の記憶にはない」
そう。こんな会話は記憶にない。
となると、これは自分が勝手に作り上げた妄想なのか? だとしたら親父じゃなくてもっと可愛い女の子とかを....
「おい、煩悩まみれの愚息。一つだけ言っておくが、これは前にも行った通り。現実だ」
「じゃあ、なんで親父が出てくんだよ。親父はもう死んだろ」
そう、死んだのだ。
あっけなく。
あれは、明らかに現実だった。なのに、なぜ....
「あぁ....それなんだが....ちょっと話すと複雑になる....」
「....なんか言えない事情でもあるのか?」
すると、そこで初めて親父の顔が渋ったように眉間にしわがよる。
そして、そのまま深く、ゆっくりと頷いた。
「すまない....だが、わかってくれ。俺は、いつでもお前のことを見てる」
「....気持ちわる」
「なんだよっ! 絶対に死ぬ寸前に言われた親からの言葉ベスト10にはいるだろうっ!」
「死ぬ前、ってかもう死んでんじゃねぇかっ!」
それにだ。
朝日が差し込む道場の中で、木刀を腰に差して。
「そんなこと、とっくのとうにわかってんだよ。バカ親父」
朝が、来た。
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再び、馬車を引き始めたのは目を覚ましてから2時間後だった。思ったよりもハンクの眠りが深く、起こすのに手間取ってしまった。まぁ、こっちは雇われている身だ、仕方があるまい。
そんなこんなで馬車を走らせること2時間後。ここで休憩時間になった。
「いやぁ、朝は悪かったね」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
頭をかきながら謝る彼だったが、もっとひどいのを自分は知っている。レギナはもっと朝が弱かった。それはもう....災害級に、彼女の名誉のため深くは触れないでおこう。
「本当に君は魔力が有り余ってるんだなぁ...魔力値はいくつなんだい?」
「えっと....一応8は....」
嘘だ。無色である自分は魔力値とかいうのは関係ない。正確に言うならば、0でもないし10でもないと言ったところか。
「へぇ....いいなぁ、僕なんか魔力値2だからね。そんなんだから冒険者になれなくて商人なんかやってるんだけどさ」
「あぁ....」
そうか、彼は冒険者になりたかったのか。確かに、冒険者になるためには魔力値が4以上ないと厳しいと言われている。自分は全くの例外なんだが。
「俗に言う『薄い』ってやつでさ。よくいじめられたよ」
中途半端?
すみません、なんか途中で疲れちゃっte...
はぁ....
明日も更新です....




