第16話 日常の色
「にしてもガルシアさんの使っていた魔法って何ですか?」
「んぁ?あれはなぁ、まず俺の魔力は赤色なんだけど、すなわち炎を使うことに長けていることなんだがあれの場合、自分の周りの空気の振動数を多くして自分を中心にして全方位に熱量を放出したってわけ」
「それって自分が燃えたりしないんですか?」
「あぁ、それは赤色使いは炎に耐性があるから自分の方に漏れ出た炎はある程度吸収しちまうんだよ」
「そうなんですか・・・」
魔法って使えるようになってみたいなぁ、なんて思っていた時もあったけど目の前にその世界があるというのになんかこそばゆいな・・・
「さて質問には答えたが、俺からもその剣について質問していいか」
「えぇ、それは構いませんけど答えられることは少ないと思いますよ、俺のじゃないんで」
「・・・そうか、じゃあ、お前さんあの盾を使う奴なんだが、なんの呪文を唱えていたんだ?」
「あぁ、それですか」
そう言って剣を抜く、そこには白い刀身に黒の彫刻で文字が彫られており、俺はそこから呪文を読み取ってる。
「ふ〜ん、この文字をねぇ〜」
「どう思いますか?」
「いや、まったく読めん」
やっぱりな、この文字が一体どこのものなのか、そしてどうして俺に読めるのか考えなきゃな。
「でもなこの書体ならどっかで見たことがあるぞ」
「本当ですか!」
「あぁ、それはえ〜っと・・・確か・・・・すまんちょっと思い出せん」
肝心なときにこのジジィ!、でも少なからず同じ書体を使う国もしくは本みたいなものがあるというのはわかったな。
「まぁ、思い出したらちゃんと伝えるさ」
「お願いしますよ!」
「フゥ〜にしても、よくこんな文字が読めるな、なんだ、チキュウって所にあった文字なのか?」
「まぁ、そんな所ですかねぇ〜」
説明するのが少々面倒だったので、ここは軽くあしらっておこう、別段それほど重要ではないと思うし。
「にしても、お前のその剣の鞘に結構洒落たデザインしてるんだなぁ、銀装飾なんて金がかかってる、見積もって大体銀貨5枚くらいか」
ギルドの待合室で待ってる時に観察してわかったことなのだが、この世界での通貨は貴金属での取引が行われており、地球と同じく今まで見た中では銅、銀、金の種類を見た、実際の市場価値は見ないとわからないが銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚といったところか、ちなみにギルドの受付に置いてある携帯食料が銅貨5枚だったのでそれほど物価は高くないのだろう。
確かに改めて見返してみれば洒落たデザインしてるとは思う、黒に染まった木製の鞘につかにかけて蔓のように伸びる銀装飾、そしてよくわからないが空いた7つの穴に一個だけ収まってる石。
「さぁ、落っこちてたんでわかりませんね・・・・ん?」
「どうしたショウ?」
「・・・いえ、なんでもないです」
「?」
陽は傾き始め、挨拶を交わす人々の声、街の中に入ると夕食の支度をする音、店の準備をし始めるもの、遊び疲れた子供を背負って家へと帰る父の姿、そんなどこにでもありそうな変わらない世界が広がっていた。
「なんかいいですねこの街・・・」
「ん?まぁそうだな、俺が冒険者やって、毎日人を襲うような魔物を狩って廻ってるのもこの景色を守りたいって思ってるからだなぁ」
「この世界も、地球もあんまり変わりませんよ・・・」
「ん?なんだぁどうした急にぃ!」
「いやぁ、なんか地球のこと思い出しちゃって・・・どこの世界も変わらないんだなぁ、このなんとも言えない暖かさって」
「そうだな」
それから二人は何も言わず、ギルドへと帰って行った、そして例によって・・・
「こぉんな時間までなぁにやってるんですかぁ!」
リーフェさんに怒られた・・・
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「もう、ぜぇ〜ったいあの人は近くの酒場を出禁にします!もぉっ、怒りました!」
「まぁまぁ、おかわりはまだあるんで落ち着いてください」
そしてまた例によって俺はリーフェさんの家で晩御飯を作っている、今日のメニューはちょっと辛めの麻婆豆腐風、麻婆豆腐だ、なにぶんこの世界の材料の使い方がわからないもので豆腐のかわりに今朝作ったパンみたいな食材をかわりに使用してスープにした、そしてそれの付け合わせにまたそのパンみたいなものを食べる。
「そういえば、お昼ご飯に作ったサンドウィッチはどうでした?」
「また作ってください!」
うん、良かったということだろう、にしてもこの世界の人には地球の食べ物はかなりウケがいいらしい、いっその事、冒険者から料理人に転職した方が儲かるような気がしてきた。
「もうショウさん、冒険者なんてやめて、料理人になってはどうですか?」
「・・・いや、冒険者やらしてもらいますよ・・・」
・・・ガルシアさんといい、リーフェさんといい、この世界では人の心を読むのは必須スキルなのだろうか?、今度是非とも習得できる方法をお教え願いたいものだ。
「それにしても本当に、ショウさんの料理は美味しいです」
「喜んでもらえるのならこっちも作りがいがありますよ」
そのあと、今日はガルシアさんとどんなことをしたかとか、地球とはどのような場所なのか、どのようなうまいものがあるのか、危険な生き物、国の成り立ちについてそんなことを毎晩毎晩、そしていつの間にか一週間が過ぎた。
そしてこの日もまたギルドに行くためにリーフェ宅から通ってる、その日は快晴、曇り一つない空に太陽と沈みかけの二つの月が浮かんでいる、今更ではあるがこの世界では夜に二つの月が並ぶという珍しい光景が見られる。
ゆえに夜道は月明かりに照らされてるため大変歩きやすい、しかし二つとも満月というシュチュエーションが拝めないのは少し残念だ。
この日は俺にとってそして、ちょいオタとして楽しみなイベントが待ってる、軽い林を抜けて、多くの種族の行き交う石畳の街の中心へと向かう、そこまでの距離はおよそ2キロくらいそこの道のりを腰に未だ正体不明の剣をぶら下げ、そして最近、冒険者になるため新しく服を買った。
材質は茶色のレザーみたいなもので少し丈の長いものを使用しているコートを剣のベルトの下に着ていて、ズボンには伸縮性の高く丈夫なものを使用した地球では見たことのない肌触りのする黒いものを履いている、他は全部自前のボロだ。
「さてと・・・」
ギルドに来ることにはいい加減慣れたが今日は特別な日だ、どこか心躍る自分がいて自然と足が速まる。
「どうもこんにちは」
「こんにちは、ショウさんお待ちしてましたよ」
そうこの日は、俺のギルド証発効日なのである。
一気に書きだめていた5話をどうぞ!




