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異世界探求者の色探し  作者: 西木 草成
第3章 緑の色
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第127話 元凶の色

 後ろには、傷ついてボロボロとなったレースの姿がある。そして、それを抱き抱えているリーフェ。レースの方は明らかに重傷だ、このままにしておけば命に関わることになる。


「リーフェさん、ここはいいですから。あなたはお父さんの治療を」


「は、はいっ!」


 後ろの方でリーフェが他の人たちを連れて離れて行く気配を感じる。そして、その気配が完全に消えた頃、改めて前に意識を集中させた。ここまでの間、目の前に立っているものと目を離せなかった。


 目の前に立っているエルフ、あれは監獄で戦った『啓示を受けし者の会』の収集師だ。そして、洞窟の入り口まで走ってた時に聞こえた会話、あれは....


「貴様っ! あの時のっ!」


「....どうも、二度と会いたくはなかったですがね」


 そこには全身から緑色のオーラを出し憤怒といった感じだ。それも当然だ、彼の右腕を切り落としたのはこの俺自身なのだから。


「....あぁ、なんたる運命か、これも聖典の導きでしょう。感謝しますっ!」


 突如洞窟の天井に向かって仰ぎ、聖典への感謝を述べる目の前の男。


 やるのなら今だ。パレットソードを持つ手に力を込める。両足に魔力を込め、目の前の男に向かう。


 前転し、その遠心力で放つ強力な面。


『今一色流 剣術 鉄砲百合』


 手応えを感じた。このまま押し切れる。


 地面に叩きつけたパレットソードをそのまま前に突きつけて、そのまま鳩尾に突きを叩き込む。


『今一色流 剣術 翡翠』


 そして押し込んだ剣をそのまま横一文に斬りつけ、剣を体から離す。そしてそのまま、剣を鞘に収め低空姿勢のまま、放つ抜刀術。


『今一色流 抜刀術 風滑り』


 両足に放った抜刀術は、相手の体を大きく揺らす。そして、そのまま抜刀術ではなった剣を遠心力の力に任せ、上半身をひねって放つ抜刀術。


『今一色流 抜刀術 円月斬』


『今一色流 複合剣術 花鳥風月』


 全てを放ち終え、剣を鞘に収めようとしたその時だ。


 背後から何かが収束するような風の流れを感じる。とっさにその場を離れ、先程技を放ったあの男を見る。


 しかし、そこに男の姿はなかった。


 あるのは、緑色の魔力が模したあの男の形。それが、周囲の空気を取り込んでいるのだ。そして、その雰囲気から察するにかなりまずい。


「く....っ」


 早急にバックステップを取り、その場から離れようとする。次の瞬間、その魔力の塊は激しい風圧とともに破裂、周囲の洞窟の壁を次々と傷つけながら風は膨れ上がってくる。


『スクトゥムっ!』


 鞘の盾を展開、それを右腕に装備させ体を襲う風から身を守る。これは、あの監獄で喰らった不可視の風の攻撃と全く同じものだ。


 盾で全身を防ぎ、周囲を見渡す。


 一体あの男はどこに....っ


 その時だ、突如頭上に巨大な空気の塊が現れる。


「まず....っ!」


『プレシオン』


 魔法を唱える声が聞こえる。とっさに壁を蹴って回避を行うが、次から次へと頭上から襲う空気の塊を転がりながら避けてゆく。


 そして洞窟内の土埃が晴れた頃、先ほどまで転がって逃げていた場所を見れば地面の部分が大きくえぐれ、もし喰らっていたら生きてはいないだろうと思った。そして、再び正面を見ると、そこには片手を突き出して嗜虐的な笑みを浮かべている『刑事を受けし者の会』の男が立っていた。


「次は、その右腕もらうぞ」


「....取れるもんだったら、取ってみろ」


 パレットソードを鞘に収め、柄をひねる。それと同時に、地面を抉りながら不可視の風の刃が迫り来る。


 そして、抜刀。


 その瞬間に不可視の風の刃は着弾し、激しい爆音と土埃が洞窟を揺らす。


 その一部始終を眺めていた男は、確実に決まったと思うだろう。土埃が晴れる間もなく、男は前へと進む。


 次の瞬間。


 土埃の中から現れたのは、右腕を吹き飛ばしてうずくまる男の姿ではなかった。大量の水でできた鎖が土埃を割って現れ、近づいてきた男を拘束しようと襲い掛かる。


 とっさにその場から離れ、風を周囲にまとい、近づいてくる水の鎖を粉砕してゆく。しかし、水で生成された鎖は何度でも再生し、再び襲い掛かる。


「これは....青の魔術」


 土埃が晴れる。


 そこにあったのは、ドーム状に展開された青い膜で覆われた防御膜らしきもの、それは一切傷が付いておらず、そして、その背後から伸びている無数の水の鎖が襲い掛かる。


 そしてその中心で、地面に槍を突き刺している男の姿。しかして、その姿は先ほどまでとは違う。


「第二ラウンドだ」


 両目を青く光らせ、青く染まった髪をなびかせている。


 男の姿。


 第二ラウンド、開戦。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『アクア・ウィクルム』


 鎖の量を増やしてゆく。今目の前に映る、水脈を全てを駆使して地面から、壁から大量の鎖を拘束させに向かう。しかし、風をまとっているせいか、近づいていた風はどんどんと弾かれてゆき、なぜだかわからないが、その鎖が二度と機能しないのである。


(緑の魔術とはやっぱり相性が良くないわ、畳かけるなら一気にやったほうがいいわよ)


「了解」


 頭のウィーネにアドバイスを受け、次は趣向を変えてみる。


 手に持った槍を回転させ、周囲に存在する水脈を切断、そして切り取った水脈に均等に魔力を流してゆく。


「うまくいってくれよ....っと!」


 そして、槍の先を思いっきり地面へと叩きつける。その瞬間、切り取った水脈が次々と姿を形を変えて行き、それは今自分の待っている槍と全く同じ長さの水の槍へと変化した。


 その数、10本。


『アクア・トレース』


 自分の両側に現れた槍は水で編まれているものの、その色は水の色ではなく、どちらかといえば青の絵の具を溶かしかのような色をしている。そしてそれは空間位固定されたかのように中を浮かび、その槍の先は目の前で身の鎖で苦戦をしている男の方へと向いていた。


 地面から槍を引き抜き、姿勢を引く保つ。そして右手に持った槍を後方に限界まで引き絞り、目線を男の頭に定める。


『アクア・リレース』


 限界までひきしぼった槍は、自分の右ほほをすれすれを通過して正面を走って放たれた。そして、その後を追うかのように、次々と空間に固定されていた槍達は飛ばされていった槍の後を追うようにして、一斉に放たれる。


「....」


 放たれた槍は、それぞれ水脈に沿って流れるように飛んでいる。そして、男の目の間に当たるその瞬間、槍は突如停止し、残りの槍も次々と目の前に壁があるかのようにピタリと停止する。


「なかなかだとは思うが、一歩甘かったな」


 甘い?


 いや、


「その言葉、そのままお返ししましょう」


 奴と同じ、嗜虐的な笑みを浮かべて。その表情の意図に気付いたのだろう。とっさに周りを見渡すと、男の背後から突如、ものすごいスピードで槍が迫ってくる。そう、それは複製した槍ではなく、自分のもっていた本物の槍の『魔槍アクア・トゥーテラー』だ。


「くっ!」


 猛スピードで迫ってくるをギリギリのところでかわし、今度は張った井川の正面に立っている俺の方へと向かってくる。しかし、自分の目の前までその槍は飛んでくると、その場で急に向きを変え、再び男の方へと向かって飛んで行く。


 そして、再び外すとまた方向転換、そして同じルートは二度と通らず乱数的にやり放たれルートは変化し、そして切り返すたびにそのスピードは上がって行く。波の人間が付いていける速度ではない。


 そして、突如変化した軌道を読み切れず、槍が左足の太ももを跳ね飛ばした。


「アァアアアアッッッ!」


「....今だな」


 その一部始終を眺めていた自分は、左足を抑えてうずくまる男の方へと走りだす。そして、左足を抑えながらも懸命に不可視の風の刃を飛ばしてゆく男だが、その目線と、痛みで冷静さを失った攻撃は簡単に読みやすい。


 そして、一歩踏み出すのと同時に跳躍をする。男の頭上を捉え、その地面に広がる数多の水脈を読み取ってゆく。


「く、くるなっ! この無色の分際でっ」


「知ったこっちゃねぇよ」


 頭上で右手を差し出すとそこに先ほど飛ばした槍が収まり、空中で右手を引き絞ってゆく。


 そして、再び、槍を放とうとしたその時。


 男の周囲に緑色のオーラが収束してゆく。あの時と同じだ、監獄で無差別に大勢の人を切り刻んだ、あの時の暴走のような魔力の爆発が同じように起きようとしている。


 だが、予想済みだった。


 引き絞った右手で思いっきり槍を放つ。そして、放たれた男の方へ。ではなく、地面へと勢いよく刺さり、そこから広がったドーム状の青い膜が男のことを覆い始める。


『アクアリウム』


 最強の防御、それはすなわち裏を返せば最強の密閉空間である。


 拘束が効かない以上、こうするほか手はない。そして、魔力の暴発が仮に起きようとも、この中であれば外に攻撃が出ることもない。


 詰みだ。


「な、なんなんだ貴様っ! 魔術師かっ!? こんな魔術聞いたこともないぞっ! そ、それにだっ! 私を王都直属の『啓示を受けし者の会』の人間だと知ってのことかっ!?」


「....だから、知ったこっちゃないって言ってんだろ。あんた、どうでもいいけどあの村襲ったろ。それだけで十分なんだよ、死んでもらうの」


 防御で使われるはずの膜に、現在拘束され、その中にいる男はそれを叩きながら訳のわからないことを話している。どちらにせよ、耳を貸す価値もない。


 しかし、しばらくして、男は突如、訴えるのやめてその中で急に笑い始めたのだ。全くもって気味が悪い。


「は....ハッ、殺すだって? 殺してみろっ! この訳のわからん膜に覆われた状態で、殺せるのならばなぁっ!? ほら、殺してみろっ! これを解除した瞬間、貴様をズタズタに引き裂いてやるっ! 形も残らないくらいになっ! そして、貴様の右腕を妹の前で晒してやるっ!」


「....それは困るな....確かに、僕じゃこれを破れないし、かといって解除させるわけもない。でもさ、あんた一つ忘れてないか?」


 一つ忘れている。


 そう、致命的な、それさえなかったらもっと違った結果だったはず。


 次の瞬間、閉じ込められた男の喉から二本の剣が生えた。


 それは後ろの方から伸びており、それは防御膜の向こう側から伸びていた。突然の出来事に脳が理解できていなかったのだろう。目を丸くさせて、虚空を見ながら膜を血で汚して地面へと崩れ落ちていった。


「そう、あんたがこの国に来た元凶だ」


 崩れ落ちた防御膜の向こう側、その向こう側で二本の剣を構え、防御膜を貫通させている一人の人物がいた。


 レギナだ。


「散々待たせた結果がこれか、拍子抜けだな」


「お疲れの一言もないんですか、案外神経使ったんですよ。レギナさんのことバレないように意識を自分に向けるようにしたりとか」


「当然だろ、私がいなかったらこの作戦は通じなかったのだからな」


 レギナはどうやら不満げだった。しかし、彼女がいなかったらこれは成功しなかっただろう。この男は村を襲った時点で確実にこの国に来た目的を忘れている。理由は定かではないが、おそらく自分に対しての復讐のためということなのだろう。ならば、レギナには闇討ちに出てもらおうとしたわけだ。


 確実に意識のない方向から攻撃をされたら反応できないだろうからな。


「早くリーフェさんを追いましょう、けが人がいるかも」


「あぁ、そうしよう」


 槍の防御を解除し、それを取り上げるとリーフェが逃げていった方向に足を進める。


 背後には、喉を貫かれて絶命をしている、リーフェの兄を残して。


さて次回更新も明日だぜっ!

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