意図せぬ狂信者
アリエルを家に送り届けた俺は、少し暗くなってきたエイバの街を歩いている。
宿に向かって歩いているわけでわない。冒険者ギルドだ。盗賊を根絶やしにするにはまず情報が必要だ、1人たりとも逃すつもりはないからな。
俺はアリエルに聞いた道を歩いていると、ガヤガヤと騒がしい建物が見えてきた。
あれが冒険者ギルドだろう。
こんな状況でも冒険者達は元気らしい。
俺は両開きのドアを開け中に入る。
すると、前方に受付嬢が座っているカウンターが見える。
みんな美人揃いだ。きっとそういう人を選んで採用しているのだろう。
ガヤガヤと煩いのは隣に併設された酒場か。
依頼帰りであろう冒険者達が酒盛りをしている。
俺はそんないかにもな冒険者ギルドを見ながらカウンターに向かって歩いていく。
しかし、俺を見た途端先ほどまで騒がしかった酒場が徐々に静まっていく。
これはあれだろうか? 異世界に転生または転移した主人公達が経験するというあの有名なイベントだろうか?
俺がそんなことを考えていると、前を顔を赤らめた大男が道を塞ぐ。
きたか、テンプレよ。 無数のラノベを読み漁った俺が完璧な対応をしてやる。
「おい、坊主。 その格好はどういう事だ! ルディア様の真似をするとはこのルディア教エイバ支部所属激震のゲインコング様が許さないぞ! 」
‥‥‥‥お前、ルディア教なのか。
どう反応したらいいんだ。さすがにラノベにこの展開はなかったぞ。
「真似というわけではないんですけどね。 でも口で言っても納得しないでしょう。ですので‥‥。」
俺はクイクイと手招きをする。
「上等だぁ ひっく この俺様が見極めてやるぜぇ。」
そういってゲインコングは俺に殴りかかってきた。
それを俺は自分の周りに外側に向けた重力で防ぐ。
「なんだとぅ!? 」
この人ベロンベロンだ。
さっきから足元が覚束ない。もしかしたら酔拳の使い手かもしれないが、それを考え始めた終わらないので俺は左手でデコピンの姿勢を作る。
この人も一応ルディア教信者らしいので気絶させるだけで終わらせる。
「これでわかりましたか? 僕はルディア・ゾディックです。 あなたは少し酔いすぎてしまった様ですね。 頭を冷やしてください。」
そう言ってジャンプしてデコピンを食らわす。
バチン!
俺のデコピンを食らったゲインコングは白眼を向いて仰向けに倒れた。
「お、おい。酔っていたとはいえ激震のゲインコングをデコピンで倒したぞ。」
「じゃ、じゃあ本当にルディア様なのか? 」
「この目でルディア様を見られるなんて、私はなんて幸せ者なのかしら。」
こう言った声が酒場から聞こえてくる。大体半数といった人が俺をルディア様と呼んでいるな
しかし、ルディア教はどこまで侵食しているんだ?
絶対広めている人この手のプロだろ!?
俺は白眼を向いて仰向けに倒れているゲインコングをこのままにしておくのは忍びないと思い、重力操作で浮かせ、椅子をちょうど良く動かしてそこに寝かせた。
「神が、神がご降臨なされたぞ! 」
それを見た占い師風の格好をしたおばあちゃんが叫んでいる。
俺はそれをウンザリとしながら聞いてカウンターに歩いていく。
ここには盗賊の情報を集めに来たんだ。何もせずには帰れない。
「すいません。 何でもいいので盗賊の情報をもらえませんか? 」
1番近くにいた銀髪をツインテールにした14歳くらいの女の子にそう聞く。
するとその女の子は両手で口を覆い、目を潤ませる。
「ま、まさかルディア様自ら盗賊を討伐なさるおつもりですか? 」
「ああ、数日は掛かるだろうけど必ず殲滅してみせるよ。」
「「「おお!! 」」」
俺と受付嬢の話を盗み聞きしていたのか冒険者達が歓声をあげた。
「ありがとうございます! ありがとうございます! これで妹も助かります。」
「これで姉さんも。」
「親父の仇も打てるぜ! 」
受付嬢の女の子は泣きながらありがとうございますと何度も頭を下げてくる。
冒険者の人たちも大切な人を盗賊に殺されたり攫われたりしたようだ。
そうか、その攫われた人たちも助けなくちゃな。
「安心してください。僕が攫われた人たちを助け出し、盗賊には死よりも恐ろしいものを見せますので。」
俺が顔に残虐な笑顔を浮かべてそう言うと冒険者ギルドにいた人たちが全員跪いた。
え!? 何これ。
(あ〜あ〜 一杯一杯の時に貴方の顔でそんな事言われたら‥‥)
「神よ。 塵芥に等しい者どもに裁きの鉄槌を。」
「ルディア教が怪しいなどと考えていた私は死にました。 今この時よりルディア様の忠実な僕として生まれ変わったのです。」
「神よ 神よ! 神よぉぉぉ!! 」
(狂信者の出来上がりよ。)
おっふ、マジかよ‥‥。
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