エイバの現状
「おお見えてきたぞ、エイバじゃ。何とかついたの。 」
遠くにエイバの城壁が見えてきてクソジジイが声を上げる。
もう夕方だ、ギリギリ門が閉まる前につけたな。
まあいざとなったら、俺とアリアだけでコッソリと入るが。
俺たちの馬車がエイバの門の前にたどり着いた所で、2人の兵士が近寄ってきた。
だがピリピリとした雰囲気だ。
「そこで止まってください。 エイバにはどのようなご用でしょうか? 」
2人の兵士の内の1人がそう目線を鋭くして御者の人に聞いている。
御者の人も戸惑っているようだ。
「それはわしが答えよう。まずこれをみなさい。」
それを見たクソジジイは、馬車のドアを開け封筒のようなものを取り出した。
それを見た2人の兵士は慌てて敬礼をする。
「し、失礼しました。 あの王立リーデンブルグ学園の学園長様とZクラス、ルディア様ご一行だったとは知らなかったとはいえご無礼お赦しください。」
「そういう事じゃ。 所でお主らピリピリしているようじゃの。 何かあったのかの? 」
クソジジイが直立不動で敬礼をしている兵士にそう尋ねると、顔を暗くして答えた。
「ここ最近このエイバに向かう馬車とエイバから出て行く馬車のみが盗賊に襲われるのです。 もちろん私たち警備隊も討伐隊を編成したり、冒険者に依頼したりしてみたのですが被害は増える一方でしてどうにも出来ず。」
変だな。そんな話、あのクソジジイが知らないはずが無い。
でも、知らない様子だったしな。
「それは奇妙な話じゃのう。 このエイバのみ、か。 ありがとう、それじゃあわし達はこれで。」
そう言ってクソジジイは馬車に戻ろうとするが、1人の兵士がクソジジイに詰め寄る。
「あ、あの! あなた達なら、盗賊達を根絶やしに出来るんじゃないでしょうか!? この騒ぎでエイバには商人が寄り付かず食料の物価が高騰しています! 今は高騰するだけで済んでいますが、いつ尽きるかわかりません! どうかお願いします盗賊達を倒してくれないでしょうか! 」
最後の希望に縋るように懇願する兵士。しかし、クソジジイは無情のようだ。
「無理じゃ、わし達は国王陛下のご命令で動いておる。 1日たりとも遅らせていかんのじゃ。すまんの。」
「そ、そんな‥‥。」
もう1人の兵士がへたり込んでしまった兵士の肩に手を置き慰める。
「いいのですか? 学園長。」
「仕方ない、としか言えんの。 次の都市で救援要請を出すしかわしにはできん。 大人はしがらみが多くていかん。しがらみが無ければ、わし自ら行くのだがの。」
しがらみの部分を強調して、俺にニヤリと笑ってくる。
成る程、そういう事か。
「そうですね。 大人になりたく無いものです。 すいません学園長。少し体調が優れないので、申し訳ないのですがエイバに数日滞在してもらえませんか? 」
「おお、それは仕方ないの。 Zクラスとはいえまだ子供。無理させるわけにはいかん。 よし、エイバで暫く休息をとる事としよう。」
他の用事で遅くなるのはダメだが呼ばれている本人が体調が思わしく無いとなればまた別。
しかも、俺は心は立派な大人だが、見た目はまだあどけない子供だ。
そんな子供に無理をさせてでも間に合わせろとは言えないだろう。
「フフフ 」
「ホッホッホ 」
「ぼ、坊っちゃまが悪い笑い方をしている。素敵‥‥」
俺とクソジジイの笑い声は馬車が宿に到着するまで続いたのだった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
宿に着いた俺は、1人で都市の中を歩いて見回っている。
アリアは危なそうなので宿においてきた。着いてくると聞かなかったが今度なんでも言うことを聞くからと言ったら直ぐに認めてくれた。現金なやつだ。
市場はどこもかしこも活気がなく、通行人も下を向いて歩いている。
俺はどれ程値段が高騰しているのか気になって学園都市でも売っていた果物を見てみると約3倍だった。
なるほど、これなら活気が無いのも頷ける。
店主も売れるとは思っていないのかぐでーとやる気なしだ。
この店だけでなく他の店もだいたい同じだった。
物資がもうほとんど無いのだろう。
でもなんでこんな危機的状況に領主は何をやっているのだろうか?
他の都市に助けを求めるくらい出来るだろうに。
俺が顎に手を当て考えながら市場を歩いていると、前方で騒ぎが起きた。
「やめてください! これは私たちがちゃんとお金を出して買ったんです。 ちょっと、誰か助けて! 」
「うるせぇんだよ! こっちはもう3日も食ってなえんだ! よこせ! 」
12歳位の女の子が持っている紙袋、おそらく食べ物が入っているのだろう。
それをやつれた中年位の男が奪い取ろうとしている。
女の子は周りに助けてを求めているが周りの通行人はチラッと目線を向けるだけ。
無駄な体力は使いたくないとばかりに無視。
はぁ、そこまで深刻なのかこの都市は。
でもな、小さい子からいい大人が力ずくで奪い取ろうとするとは頂けないな。
少し懲らしめてやろう。
まあ、今回は原因も原因なのでいつもより手加減はするが。
俺はよだれを垂らし、紙袋を必死で引っ張っている男の後ろに回り込み首をトンッと叩く。
すると男はドサッと倒れこんだ。俺が気絶させたのだ。
しかしこれ結構神経使うな。 力込めすぎたら、首が真っ二つだ。
「あ、あの助けてくれてありがとうございます? 」
紙袋を引っ張り合っていた相手がいきなり気絶したことで転んでしまった女の子が顔を上げ俺を見て首を傾げた。
まさか助けられた相手が年下だとは思わなかったのだろう。
「大丈夫ですか? 立てます? 」
俺はこちらを見てクエッションマークを浮かべている少女に手を差し伸べた。
「う、うん。 でも君が助けてくれたの? そうは思えないんだけど。」
俺の手を借りて立ち上がった少女はそんな事を聞いてきた。
「ああ、それは仕方ないね。 でも、僕が倒したよ。」
俺が笑顔で言うと、疑わしげな目になった。
少しじと目気味だ。
「ほんと〜? うそじゃない? 」
む、失敬な。
こんないたいけな子供を疑うとはさては心が汚れているな?
(見た目がいたいけな子供だから疑っているのよ。バカね。)
さすがレヴィ、盲点だった。
でも疑われたままというのも癪だな。
分からせてやろう。
「本当ですよ。 僕は王立リーデンブルグ学園1年Zクラスですから。 この制服が証拠です。」
俺が今着ている制服を指差して説明すると女の子は固まってしまった。
この子だけ時が止まってしまったようだ。
目の前で手を振ってみても瞬き1つしない。
やりすぎたかなと覗き込んでみると、突然叫び声を女の子は上げる。
「キャアアアア!! 」
「キャアアアア!!」
(はぁ〜、なんであなたまで悲鳴を上げているのよ。)
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