厄介ごとの予感
俺が戻った所で再び馬車は出発した。
しかしあの盗賊共の臭さは尋常ではなかった。おそらくあの臭さで敵を動けなくしているんだろう。
恐ろしい奴らだ。2度と会いたくない。 今度近寄ってきたとしても馬車の中からお空に打ち上げようそうしよう。
ガタゴト、グラグラと揺れる。
はぁ〜また暇になってしまった。
前の世界の快適な車とか知っている俺からしたら乗り心地最悪だ。これじゃあ眠れもしない。
こんなのが後4ヶ月もあるのかと考えると憂鬱になってくる。
次の街で本か何かでも買おうかな。 マンガ売ってないかな〜無理か。
俺はそんなことを考えているとピンっと思いついた。
この揺れ、浮いたら関係ないんじゃないか? と、今頃気づくのが遅すぎる気がしないでもないがまあいいだろう。
そうとわかれば‥‥。
俺は自分の体を少しだけ座席から浮かせる。
よし! これで寝れる!
「痛って!? 」
そう俺が喜んだも束の間、後頭部を激しく馬車にぶつけてしまった。
そうだった、この馬車動いてるんだった。 馬車のスピードに合わせて俺も前に進まないと頭をぶつけてしまう。アホだ俺、こんなこと中学校で習うことだぞ。
しか〜し、俺はこれでまた成長した。 次はちゃんと前にも進もう。
「どうされたのですか? 坊っちゃま? 」
頭を押さえながらガッツポーズをしている俺を見てアリアが不思議そうに聞いてくる。
「いや、何でもないぞ。」
「? そうですか。 何かありましたら言ってくださいね。」
アリアはニコッと笑って再び編み物に戻った。
さて、やるか。
俺は今度は前に進むのも忘れないでほんの少しだけ浮く。
すると先程まで苦しめられていた馬車の揺れがなかったかのようにピタリと止まった。
これは凄い! まるで浮いているようだ! ‥‥まあ浮いてるんだけども。
なんか1人でやってて寂しくなってきたな。次の都市では本屋に行こう。絶対だ。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
周りの人に俺だけ浮いて楽していることをバレないようにして眠っていると危険察知が反応した。
また盗賊か、多すぎやしないだろうか? 最初の盗賊を抜いてもこれで大小合わせて6回目だぞ。
俺はこれまでと同様にお空に打ち上げる。
「お主えげつないのう。 せめて顔を見せてからでいいじゃろうに。」
目を覚ましてそう言ってくるクソジジイ。
この人毎回俺と同じタイミングで目が醒めるのだ。恐らく俺と同系統のスキルを持っているんだろう。
「嫌ですよ。 あの臭さが鼻に残ったらどうしてくれるんですか。」
「それはそうじゃ。」
ホッホッホと笑い、突然真剣な表情になった。
いつものふざけた表情からガラッと変わったので衝撃が大きい。
「しかし、ちと多いのう。 面倒ごとが起きなきゃいいのじゃが。」
やっぱりこの数は多いのか。確かに魔物なんて全く出て来ていないのに盗賊だけって言うのもおかしいか。
「いつもはどのくらいなのですか学園長? 」
「そうじゃのう。 大体会うか会わないかといったところか。」
はぁ〜絶対何かあるぞこれは。
俺はため息をついて顔に手を当てていると御者の人が暗い声を上げる。
「前方に壊れた馬車があります。 恐らく盗賊に襲われたものではないかと‥‥。」
それを聞いたクソジジイはふむと頷いた。
「わかった。 このままでは進むこともできんし、一旦調べに行くとするかの。 ルディア君も来なさい。 」
何で俺も来いと言っているのか分からないが、行くとするか。
「分かりました。 アリアここで待っててね。」
「はい。 分かりました。」
俺とクソジジイはアリアを残し外に出る。
すると確かに俺たちの馬車が通っている街道のだいぶ先に壊れた馬車があった。
あれか。
「さあ行くぞ、わしについて来なさい。」
そう言って馬車に向かい飛び立っていった。
おい、あれ無詠唱じゃないか?
(ええ、かなりレベルが高いわね。 )
伊達に学園長やってないか。 やるなクソジジイ。
俺もクソジジイに遅れないように飛び立つ。すると徐々に壊れた馬車の全容が見えてきた。
車輪は壊され、周りに死体らしきものが転がっている。
死体は全部男だ。 しかも剣が幾つも突き刺されている。
あれは遊ばれたのか? 盗賊達に。
俺がこれまで殺してきた盗賊達だろか? ならもっと惨たらしく殺しておくんだった。
自分たちがどんな事をやったのか思い知らせるために。
次からは徐々に押し潰して、最後は四肢を削いで殺してやろう。
俺は自然と手に力が篭る。
「降りるぞい。」
「はい。」
ストンと降り立った俺たちは馬車を調べていく。
学園長は死体を見て、唸る。
「う〜む。 商人達か‥‥。これは殺されてからそう経っていなそうじゃな。ざっと2、3時間と言ったところじゃろう。 女子供は攫い、男は殺す。盗賊の常套手段じゃな。」
2、3時間か。
攫われた人達はもうどこかに連れさられてしまっただろう。
「しかし、エイバの警備隊の奴らは何をやっておるのじゃ。 冒険者に討伐依頼でも自分たちで討伐隊を編成する事も出来るじゃろうに。 それを怠っておるのか? いやそれとも討伐が追いついていないのか? どっちにしても推測しかできんな。」
エイバとは次に向かう都市の事だったな。
つまりクソジジイの言っている事を聞くに相当やばいのか。
「学園長、この馬車と死体如何しましょうか。」
俺がそうクソジジイに尋ねると、顎に手を当てたままこっちを向いた。
「ああ、そうじゃのう。馬車は傍にどかして死体はわしが燃やそう。アンデットになったら大変じゃからな。」
「分かりました。」
俺は馬車に手を翳し馬車を浮かせ、10メートル程右に行ったところでゆっくりと下ろす。
「終わりました学園長。」
「わしもちょうど終わったところじゃ。 帰るとするかの。」
俺は先ほど死体があった場所を見てみると、地面が黒くなっているだけで灰すら残っていない。何て威力だ。
「はい。」
馬車を調べ終えた俺とクソジジイは馬車に向かって飛び立ち戻っていく。
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