お前のせいだ!
む、難しい‥‥
あれから暫くしてみんなの涙が引っ込み、離れたところで俺は問いかける。
「聞きたいんだけど、魔物狩りに来ていた1年生達は大丈夫だった? 」
それをクロエは涙を拭いながら答えた。
「それは大丈夫よ。 さすが最難関校に受かっただけあるわね。ただ‥‥。」
「ただ? 」
「学園都市の被害が酷いのよ。人的被害はこの規模での魔族の襲撃では少ない方なんだけど建物はボロボロ。 無事なのはある程度強度のある建物だけで、それ以外は壊滅的だわ。復興に3年は掛かるそうよ。」
そんなにか‥‥。
「そうか‥‥。」
「でも大丈夫! 建物は作り直せばいいんですもの。それより気づいているの? 」
俺が暗い顔をしたのを見て明るく返してくるクロエ。
だか気づいているとはどういう事だろうか?
「なんのこと? 」
俺がそう首を傾げて聞くとクロエが自分の頭を指差した。
「髪の毛の色よ。 金髪からプラチナブロンドに変わってるわ。」
「え!? うそ!? 」
進化したらそんな効果まであるのか?
「本当ですよ坊っちゃま。 はい。」
俺が疑問に思いながら頭を触っていると、アリアがメイド服のポケットから手鏡を出してきた。
なんでそんな物をポケットにいれているんだ? と聞きたいが、俺は手鏡を受け取り覗き込んだ。するとそこには髪がプラチナブロンドの美少年、俺がいた。
自分で自分の事を美少年と言うのは恥ずかしいが事実なので仕方ない。
しかし、本当に髪の色が変わってやがる。
顎に手を当てマジマジと自分の顔を見ているとクロエが ね? と言ってきた。
「本当にそうみたいだ。まさかあれにこんな効果があるなんてね。」
「どうして髪の色が変わったか分かるのかルディ? 」
グレイはなんで俺の髪の色が変わったのか気になるらしく聞いてきた。
他にも口には出してはないがみんな気になっているようだ。
「ああ、固有スキルの影響かな? 戦闘中に進化が起こっちゃって危なかったよ。」
アハハハ、と頭を掻きながら言うとそれを聞いたクロエがハッと何かに気づいたようだ。
「あ! 突然苦しみ出したあの時か! タイミングが悪いわね。」
クロエは俺にジト目を向けてくるが、俺にやられても困るんですけど。
「でもその髪のルディもいいわね。」
「うん! 王子様みたいだよ! 」
エルザちゃんは頬に手を当てホウっと熱いため息を吐き、ヴィオラちゃんは何故か頭を撫でながら言ってきた。
「ありがとう。 エルザちゃん、ヴィオラちゃん。」
俺はそれに対して笑顔で返す。
「はう、お兄ちゃんルディくんかっこいいよ〜。」
リザが俺の素敵スマイルにあてられたようで、グレイを引張ている。
それをグレイは顔を引きつらせながら答えた。
「そ、そうだね。 お、お、お兄ちゃんもそう思うぞ。 」
自分の腕を爪を立てて握りしめ耐えているようだ。
フッ、兄は辛いな。
「ああそうだ。おれはもう退院していいのか? ピンピンしているんだけど。」
俺はベットから立ち上がり動いてみせる。
「それもそうね。 私、お医者さん呼んでくるわ。 」
そう言ってクロエは病室を出て行った。
さて、多分俺は今日で退院出来るだろう。 退院したら何しよっかな〜
まずはどれ位まで力が上がったのか確かめないとな。 まだ重力操作しか試してない。
あ、家壊れてないといいな。 あそこまだ住み始めて全然経ってないけど結構気にいってるんだ。
俺はそんな事を考えながらクロエとクロエが連れてくるであろう医師を待つのだった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「うわ、本当に酷いな彼方此方壊れているよ。」
医師の人から退院おっけいと言われた俺は、アリアが持ってきていた制服をぴしっと着てお見舞いに来てくれた学園組と一緒に寮に戻っている。
ヴィオラちゃん達、シナス総合学校組とはまた週末に会う約束をして病院で別れた。
しかしかなり目立っている。 壊れた家を直している人や瓦礫をどかしている人etc‥‥
その人々の目には尊敬、感謝、時々憎悪。
「おい、あれは聖魔じゃないか? 英雄の 」
「本当だわ。彼がいなきゃウチの旦那も魔物に食われるところだったのよ。 感謝しても仕切れないわ。」
「もう少し、あと数秒早くでいいから魔物を始末してくれれば‥‥」
こういった声があちらこちらから聞こえてくる。
正直、間に合わなかった人達は運がなかったとしか言えない。
俺には冥福を祈ることしかできないので、心の中で手を合わせておく。
俺は帽子を視線を遮るように被り直し歩いていく。
クロエ達が心配そうに俺を見ているが大丈夫だ。全員救えるなんてはなから思っていない。
極論、大切な人たち以外どうでもいいのだ。
俺が少し晒される視線にウンザリしていると、前に俺たちより少し下くらいの年代の男の子が飛び出してきた。
一体なんだ?
「なんで、なんでもっと早く魔物達を倒さなかったんだよ! そうすれば母ちゃんが俺をかばって死ぬことなんてなかったんだ! 母ちゃんが死んだのはお前のせいだ! 」
この子魔物にお母さんをやられたのか。
そして俺に逆恨みと。
「ちょっと僕、それはないんじゃないかな。 ルディだって‥‥」
俺はクロエの言葉を手で遮ることによって止め、帽子を深く被りその子に向かって歩き出す。
すると今度は中年の男が出てきてその子を抱え込む。
「すいません! で、でもこの子はまだよく分かってないんです! だからどうかお許しを! 」
必死に頭を下げている。 どうやら勘違いしているようだ。
だが修正はしない。
どうせこれからわかることだしな。
「君の言っていることは間違いだよ。 君のやっていることはただの逃げだ。大好きな母の死から逃げて逃げて、たどり着いたのが僕への憎悪。今の君を見て死んだお母さんはなんて思うのかな? よく思い出してみて、最後にお母さんが何を言っていたのかを‥‥」
俺の言葉を聞いて、男の子は固まり泣き始めた。
「母ちゃんは、前を向いてしっかりって言って、た。」
「そうだよね、君を庇って最後にそんな言葉を残したお母さんが今の君を見てなんて思うかな? 」
「しゃんと前を向きなさいって、い、って ウッ 」
「じゃあ君は前を向かないといけない。 お母さんの死は悲しいけどしっかりと受け入れて進まないといけない。 いいね? 」
そう言って頭を撫でる。
「う、うん。」
「今のうちに泣いておくんだ。そして悲しみを全て洗い流してお母さんに誇れるような男になるんだよ。」
「う、うぇ〜ん! お父さん!! 」
男の子はお父さんに泣きついて泣き出してしまった。
俺はフッと笑って立ち上がり再び歩き出す。
「あ、あの! どうして妻の最後の言葉をわかったんですか? 」
お父さんが男の子の背中を撫でながら聞いてくる。
俺はそれに振り返らずに答えた。
「その子の母親ならそういうのではないかと思ったのですよ。では。」
勿論そんな訳ない。 俺はさも知っていたように言っていたが、全て男の子から聞き出したことだ。
まあ、気づいている人はいなさそうなのでいいだろう。
「す、すごい。 逆恨みした子を逆に救ってしまうなんて。」
「あの人はもしかしたら、神様の生まれ変わりなのかもしれないぞ! 」
‥‥なんでそうなる。
ほって置こうどうせ今だけだし。
こうしてルディは向けられる視線にごく少数含まれていた憎悪を崇拝へと変えたのだった。
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