終幕
「いいねぇ、いい悲鳴だ。次は右腕だ。」
魔族の男が私の右腕を攻撃しようと腕を振り上げた所で大気が軋み、地面が悲鳴をあげる様に揺れる。
「なんだ!? この恐ろしいまでの魔力は!? 」
魔族の男も突然起きた現象に驚きルディのいる方に振り返った。
まさかこれをルディが起こしているっていうの?
私は腕の痛みに意識を持っていかれそうになりながらルディをみる。
そこには、プラチナブロンドの髪を揺らし、俯いて立っている子がいた。誰だろうか?
ルディはどこに行ったの? と思っているとその子が顔を上げる。
人外染みて整った顔立ち、全てを飲み込んでしましそうな澄んだ碧い瞳。まごうこと無きルディだ。
しかし、その瞳にはなんの感情の色も宿していないし、髪は金髪だったはずだ。
ルディに一体何が起こったのだろうか?
「お前、本当に先程の人の子か? 何だその出鱈目な魔力は。」
その魔族の問いに答えの代わりなのか右手をゆっくりと上げる。
すると先程まで軋んでいた空気と揺れていた地面がピタリと止まった。
「 何を!? 」
ズゥゥゥゥゥン!!
ルディが腕を振り下ろすと同時に生徒たちを襲っていた周りの魔物たちがぺしゃんこに潰れた。魔物がいたであろう場所は地面が陥没しひび割れていた。
原型を留めている魔物を探す方が難しいくらいだ。
学園都市内から断続的に聞こえていた破壊音と悲鳴もはたりと途絶えた。
ま、まさかさっきのたった一瞬で全てを倒したっていうの!?
私がその事実に戦慄しているとさっきまで口を閉じていたルディが虚空の瞳を魔族の男に向けて口を開いた。
「俺の前に這い蹲れ。 許しを請え。 そして死ね。」
全く感情の篭ってない声で表情を変えることなく淡々と言った。
それを聞いた魔族の男は体の周りにドロドロとした紫色のオーラを立ち昇らせる。
「貴様、言葉には気をつけろ。 死期が早まるからなぁ! 」
魔族の男が放ったその気持ち悪いオーラを纏った拳は一定の距離でピタリと止まった。
止まった拳を更に押し込もうとしているのが腕に浮いている血管でわかる。
「なぜだ!? なぜ俺の拳が進まない! クソ! オラオラオラオラ!!」
「嘘でしょ、どうしてあれだけ攻撃を受けて何1つ届いていないの? 」
魔族の男の攻撃は1つの例外もなく先程と同じく距離で止まるのだ。
まるで、そこが魔族の男の限界とでも言うように。
「俺は言ったはずだ。 這い蹲れと。それ以外の行動は許さない。」
ルディはそう言ってただ人差し指を動かす。
ズゥゥゥゥゥン!!
「カハッ! 」
地面に強く打ち付けられた魔族の男は喀血する。
それをルディは今まで見たこともないほどの残虐な笑みを浮かべ見ていた。
その表情を見て私は心が冷えていくのが分かる。
ただ寒い。あれはルディのする表情ではない。別の誰かだ。
「潰れないように、手加減してやった。 俺が這い蹲るのを手伝ってやったんだ。次はちゃんとやれるな? 」
「次とは、なんだ? 」
「聞いてなかったのか、お仕置きだ。」
ルディがそう言うと魔族の男の腕が捻じ切れた。
「アアアアア!! 」
う、そでしょ。 強靭な魔族の肉体をああも簡単に。
「ククク、ハハハ、アハハハハハ!! 確かにお前の言う通りだったな。 殺戮はとても楽しいお礼にもう一本取ってあげよう。」
そして残り一本の腕が捻じ切れ、グチャグチャに押し潰された。
「ギャアアア! フゥフゥ。」
「アハハハハハ! 今のお前の声も最高だ。 もっと聴かせろよ。俺のこの心を癒してくれ!
」
ルディは大きく口を開け嗤っている。
「やめて、やめてくれ。お願いだ! もう帰るから! 2度とこんなことしないから! 」
魔族の男が泣きながら言ったのを見て酷く興醒めした表情になった。
「無理だ。」
「何故!? 」
「死ぬのに、そんなことできるわけないだろ。興醒めした、死ね。」
そう言ったルディは魔族の男を上空に浮かべていく。
「まって、待ってくれ! そ、そうだ金をやろう! 金貨2000万枚だ! これだけあれば小国を余裕で買えるだろう! どうだ! 」
「馬鹿を言うな、お前の命ほど価値のあるものは無い。だからお前もそんなに必死なんだ 、そうだろ? だから俺はお前の命を奪う。」
ルディは吹き出しそうになる笑みを堪えながらそう言う。
「さあ、聞かせてくれよ! お前の大事なものを奪われる時の悲鳴を! 【ブラックホール】
」
ルディの手から発生したその空間を黒く塗りつぶしたような不気味な球体はゆっくりと魔族の男に迫っていく。
確かあれは最初魔物たちを一瞬で消しとばしたやつだ。
でも大きい。前と比べて10倍ほどでは無いだろうか?
「やめてくれ! 誰か助けてくれ! アアアアア!! 」
その威力を魔族も見ていたのか空中でみっともなく暴れている。
そして黒い球体がついに魔族の男にぶつかった。
すると黒い球体に全て飲み込まれていく、草木、雲、地面、魔物の骸。
ただそこにあるのは、圧倒的な力だ。
しかし、あそこまでの威力があるのにもかかわらず学園都市にも私たちにも一切被害が出てない。
恐らくルディが完全にコントロールしているのだろう。
私がそんなことを考えていると、その黒い球体はゆっくりと縮んでいき消滅した。
「全て奪ってやったぞ、全、て 」
そう言ってルディはパタリと倒れこんでしまう。
私はそれを見て駆け寄る。
「ルディ! 」
ルディの体を片手で抱え上げ急いで胸に耳を当ててみるがちゃんと鼓動が聞こえる。
よかった。
私はほっと息をつく。
「全く、心配したこっちがバカらしくなるほど清々しい寝顔をして。 この! 」
私は気持ちよさそうに寝ているルディの頬を抓る。
でもあのルディはなんだったんだろう?
起きたらしっかりと聞かなくちゃ!
「おーい、大丈夫か! さっきのはルディアがやったのか!? 」
私がそんなことを心に決めているとゼンツ先生が此方に駆け寄ってきた。
「ゼンツ先生! それはまた後ほど、今はルディを運びましょう。」
「そうだな、ルディアは大丈夫なのか? 」
「はい、気絶しているだけですので。」
「そうか、クロエも大分怪我しているようだな。私がルディアを運ぼう。 クロエ歩けるか? 」
「大丈夫です。」
こうして私とゼンツ先生はルディを担ぎ学園都市へ戻っていくのだった。
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