進化の序章
「陛下に学園都市を潰して来いとご命令された時は人の子如き潰して何になるのかを思ったものだが‥‥。」
そう言って魔族の男は目を細めた。
「陛下も人が悪い。この様な骨のある人の子がいるとは俺にサプライズという事かな?
ククク ただの殺戮もいいが闘争も心地いいものだ。 絶望と殺戮のレクイエムを聞きながら踊ろうではないか! アハハハハハ!! 」
魔族の男は両腕を広げ高笑いをする。
俺はそれを見ながらも体を駆け巡っている先程より増した痛みに動くことができない。
マズイ! マズイ! マズイ!
この魔族が現れてから俺の危険察知が強い反応がとまらない。
何か、何かないかこの状況を解決する方法は!
ドカァァァン!!
先程現れた魔物達が学園都市内、魔物狩りに来ていた王立リーデンブルグ学園の生徒達に降り注いだ様だ。
学園都市内からは悲鳴、物を破壊する音が断続的に聞こえる。
そこかしこから子供の悲鳴が聞こえてくる。
赤い煙がひっきりなしに上がる。
クソ! これじゃあみんな死んでしまう!
何でこんな時に進化が起きるんだよ! 何も出来ないじゃないか!
俺は何のために力を得たんだ!
奪われないためじゃないのか!?
俺が頭の中でグルグルと考えていると俺を抱いていたクロエが膝を震わせながらも立ち上がった。
まさか、やめてくれ。
お前じゃ勝てない、お願いだ‥‥俺から離れないでくれ。
「おい、クロエ! やめろ! お前じゃ勝てない! 」
「大丈夫よ。私はこれでも剣聖って呼ばれているんだから。」
振り向き、顔を引きつらせながらも笑顔を作るクロエ。
ふざけやがって自分がよくわかっているんじゃないか! 勝てないって!
「そんな震えた足で何を言ってるんだ! いいから戻れぇ! 」
俺が必死に呼びかけるがクロエは剣を構え魔族の男に向き直った。
それを魔族の男はニヤニヤと何がおかしいのか嗤っている。
「素晴らしい! その絶望に立ち向かい退けようとする意思! メインディッシュを食べる前にはちょうどいいオードブルとなる。 この俺が手折ってやろう。 」
「残念ね貴方はオードブルも食べれないで死ぬなんて可哀想だわ。」
「俺は好きだぞ? 生きのいい子は‥‥」
そう言葉を区切り魔族はクロエの後ろに回り込んだ。
「だが少し言葉使いがなっていない様だ。」
魔族の男は左手で手刀を放つ。
それをクロエは間一髪で前に転がる様にして避けた。
もう既に息が切れている。
「やめろ! 俺を殺れ! 俺を殺せ!! 俺は生きてるぞ! 」
お願いだ俺を攻撃してくれ。 そしてクロエ、そのうちに逃げてくれ。
このままよりもその方が生きる確率は高い。
呼吸するだけで焼き死にそうな程の痛みに耐えながら叫んだ俺の願いが通じたのか魔族の男はピタリと止まった。
よかったこれでクロエは‥‥
俺が安堵した瞬間、魔族の男に目で追えないほど速さで迫られ腹を蹴り上げられた。
「人の子が俺に命令するとは調子にのるなよ? 今は殺しはしない。そこで大切なものの死と絶望の声を聞いとけ。 嬉しいだろ? 特等席だ。」
顔に底冷えさせる笑みを浮かべた魔族は再びクロエへと歩き出した。
「さあ、邪魔が入ったが続けるとしよう。 まずは左腕。 」
そう言って踏み込みクロエの左腕を殴り砕く。
「イヤアアア!!」
クロエは左腕を抱え蹲る。 その左腕からは抑え切れないほどの血が溢れ出していた。
痛みを堪えて噛み締めた下唇からは血が滴っている。
「いいねぇ、いい悲鳴だ。次は右腕だ。」
クロエの悲鳴を存分に堪能した魔族は腕を振り上げる。
ルディはそれを目を見開いて見ることしかできない。
周りからは聞き知った声の悲鳴、目の前には大切な人が痛ぶられている。
そんな受け入れがたい現状にルディの心はピキピキと悲鳴を上げていく。
俺はまた奪われるのか? 大切なものヲ。
ソレハダメダ。 ウバワレルナラスベテウバッテコロス!
ついにルディの心は壊れて暴走する。
そして時同じくルディを苦しめていた痛みはピタリと止まり、頭の中に声が響いた。
《魂喰による進化が終わりました。》
感想、評価お願いします




