試験開始
哀れな貴族の面白騒動から3日経ち試験当日の朝を迎え、俺達は王立リーデンブルグ学園の門の前に来ていた。
「ルディ、エルザちゃん頑張ってね! 」
両腕をムンと胸の前に構え声援を送って来るヴィオラちゃん。
「全力で行くよ。」
「絶対受かるわ! 」
俺は笑顔でエルザちゃんは少し緊張した表情で声援に応える。
まあそれは仕方ないだろう。俺も高校受験の時は緊張したものだ。
「ルディ、つまらないヘマするなよ? お前が落ちたらヴィオラちゃんはここに来た意味がなくなるからな。」
「坊っちゃま頑張ってくださいませ。私の為にもヴィオラ様のためにも! 」
そうヴィオラちゃんはすでにシナス総合学園への入寮が決まっている。
俺が落ちたら本当に来た意味がない。
まあ、落ちないがな。
「大丈夫だって、行くよエルザちゃん。」
俺は父さん達に大丈夫と一言言って、エルザちゃんの手を引き受付に向かう。
すでにぞろぞろと数多くの受験者達が受付に並んでいてウンザリするが我慢だ。
俺が人の多さにゲンナリしているとようやく俺たちの番が回ってきた。
俺たちの受付をやるのはなんかこう、くたびれたおっさんだった。
髪ボサボサとしていて目が死んでいる。
「はーい番号は、5034番と5035番だね。 34の方はC会場、35の方はA会場に行って下さ〜い。」
番号はあんまり会場には関係ないらしい。
連番なのにバラバラだしな。
しかしエルザちゃん心配だな、ここは俺が一肌脱ごう。
「エルザちゃん僕とは違う試験会場だけど、頑張ってお互い受かろうね! 」
そう言って頭を撫でる。
「うん! ルディも頑張ってね! 」
よかった緊張は飛んだようだ。これで俺も安心して試験に臨めるというものだ。
「じゃ、僕はC会場に行くからまた後で 」
そうして俺とエルザちゃんはお互いの試験会場に向かうのだった。
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「ここがC会場、デカイ‥‥。」
俺がたどり着いたC会場は体育館を二つ繋げたくらいの大きさだった。
普段は何する所なんだ? と考えながらC会場のドアを開き中に入る。
すると目に入ったのは大きな円形の闘技場だった。
闘技場の地面は舗装はされておらず、地面がむき出しだ。その中央にカカシのような人形が何体も立てられていた。
なんでこんな所にカカシ?
と思いながら既に入っていた子供の所に向かう。
俺がそこに着くとピリピリとした空気がそこを満たしていた。
精神統一を図る者、ただイライラと貧乏ゆすりをする者とさまざまだ。
俺はまだ試験官はきていないようなので壁にもたれかかり目を瞑る。
結構早起きしたので少し眠い。
ここで眠らせてもらおう。
「グーグー」
壁にもたれ掛かり呑気に夢の世界に旅立ったルディを見て他の受験者はふざけているのか、アホはほっとけと蔑んでいたが、1人だけルディをみて目を見開く受験者がいた。
「(いくら試験官がきてないとはいえ寝れるなんてそれ程の大物か、ただのバカか‥‥。
見せてもらおうかしら? 【心理眼】! )」
心理眼とは、魔眼系固有スキルで比較的有名な魔眼だ。
その効果は心理眼を発動した対象のステータスを見るというものだ。
「な!? 」
その心理眼をルディに向かって使った生徒は驚愕の余り声を出してしまった。
その受験者の周りの受験者がなんだ、なんだとなり始めてようやく自分が声を出してしまったことに気づいたのか口に手を当てて、手を振り何でもないですと誤魔化す。
「(なんのよあのステータス! 化け物みたいな能力値に、最高位職業が2つ、固有スキル6つですって! しかも、恐らく契約している魔剣はあのレーヴァテイン‥‥。)」
周りに何とか誤魔化したその受験者は再び眠っているルディに視線を戻す。
「(暴力の化身のようなやつね。 轟魔といい、キリカが言っていた奴といい、こいつといい今年は豊作なのかしら? まあこの化け物は別格でしょうけど。) 」
「(まあ、そうじゃなくっちゃ楽しくないしね。 私も巷では剣聖と呼ばれているんだから負けないわ! ) 」
顔に凶悪な笑みを浮かべフフフと笑うその受験者は他のC会場の受験者たちからは危ないやつ認定されるのだった。
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「時間だ! これより試験を開始する! 」
野太い大きな声を聞いた俺は眠りから目をさます。
俺が眠っている間にだいぶ集まってきたのかおよそ500人ほどの受験者が集まっていた。
会場に集まった凡その受験者の数を推測した俺は先程の野太い声を出したであろうマルッパゲの大男を見てみると後ろにはカカシの数と同じだけの試験官が控えている。
「私はこのC会場を担当するゼンツ・ガフェインだ! よろしく頼む。 それで、試験内容だがあの攻撃威力測定装置に最高の攻撃を打ち込んでくれ。 こんな感じにな! 」
カカシを指差したゼンツさんはどこに隠していたのかカカシにナイフを投擲した。
そのナイフはカカシに刺さることなくカキン! と弾かれる。
見た目以上に硬いんだなと思っていると、カカシの真上に271と文字が浮かび上がった。
「このように攻撃威力測定装置はその攻撃の威力を数値化する装置だ。この数値が他の会場と合わせて上位150名が二次試験に行ける!一回きりしか測定しないので悔いのないように! それでは各自、攻撃威力測定装置の前に並び、始めるように! 」
そう言ってゼンツさんと他の試験官はそれぞれカカシの横に並んだ。
それを見た受験者達は各々カカシの前に並び始めた。
「俺も並ぶか、どこがいいかな? お! あそこが空いてるな。 」
俺から見て右手側にあったカカシのところが空いていたのでそこに並ぶ。
しかし並んでいる間かなり暇だな、他の受験者達でも見とくか。
各々持参してきた剣や魔法を使ってカカシに攻撃しているな。
何で剣持ってきてんだ?、と思ったがここは戦闘系で試験をする奴らが集まっているんだそりゃあ剣くらい持ってきてるかと思い直す。
俺が受験者達に目を走らせていると、おお! と隣の列から歓声が上がった。
そこには腰まで綺麗な碧髪を伸ばした女の子が綺麗な姿勢で剣をふりぬいているところだった。
しかし、歓声が上がっているのはそれではないだろう。
カカシの上に浮いた5000という数字だ。
平均として500〜600なのを考えてかなり高い。
「次! 準備はいいですか? 」
あの子やるな〜、と感心していると俺は試験官に声をかけられた。
どうやら順番が来たらしい。
おし、いっちょ俺もやりますか!
「大丈夫ですよ。 」
「そうですか、ではお願いします。」
試験官がそう言って下がる。
レヴィいくぞ。 全力全開だ!
(はいはい、あなたの後にやる人が可哀想ね。 )
「【顕現せよ我が力、世界を恐怖のどん底に叩き込め、魔剣レーヴァテイン】! 」
俺が魔剣召喚をする言葉を唱えると、胸に銀色の魔方陣が浮かび上がりそこから魔剣の柄が出てくる。
それを俺は掴み取り引き抜く。
「【身体強化】 【聖具召喚lv.1】 」
体がキラキラと輝き最後に白を基調として縁に金をあしらった見るからに聖なる防具一式を纏う。
俺が魔剣召喚した段階で真っ青な顔をしていた試験官は今では真っ白な顔だ。
それ見て気分を良くした俺はカカシの上に浮かび上がる。
全力の一撃を方向も考えず打ってしまったら大惨事が起きかねないからだ。
「 【グラヴィティソード】 【体術:火龍装 】 」
魔剣を振った方向に超重力を掛けるグラビティソードと体に炎を纏い一撃の威力を上げる火龍装を発動し、カカシに向かって真っ逆さまにシュン!とものすごい速度で突っ込む。
カカシを魔剣の間合いに捉えたところで俺は最後のスキルを発動させた。
「【剣術:龍牙撃】! 」
龍牙撃が発動したその一撃は、グラヴィティソード、火龍装、今のルディが発動出来る最高スキルと落下速度が合わさり圧倒的な破壊を生んだ。
攻撃威力測定装置もちろんのこと、周りの地面を大きく消滅させその余波で会場を粉々にしていく。
その一撃の後には会場はなくなりただの瓦礫の山が残るだけだ。
受験者達は試験官達が俺が空中にいる間に駆け寄り何とか守ったようだ。
それを見たルディは一言。
「これは二次試験行けるな。 」
ちょっとずれているルディだった。
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