哀れな貴族
悪党成敗をした俺はエルザちゃん親子の所に戻った。そこに戻るってみるとガルフさんがエルザちゃんの目と耳を塞いでいた。
エルザちゃんにはまだあれを見せるのは早いと判断したらしい。
「ガルフさん、ただいまです。 もう終わりましたよ。」
それを聞いたガルフさんは、はぁとため息をついて口を開く。
「ルディくん、君のやってる事は私的には正しいと思うけどエルザの見てないとこでやってくれ。 かなりショッキングな光景だから。 」
「ハハハ、すいません。 つい。 」
俺は、頭を掻きながら苦笑気味に答える。
「大変だったんだよ? エルザは見たい、見たいって暴れるから抑えてる目と耳がズレてしまうのではないかと気が気ではなかったんだから。」
ガルフさんが如何に大変だったかと語っているが、今のエルザちゃんの状態に気づいているのだろうか?
かなりギリギリの状態だ。
「ガルフさん? エルザちゃんそろそろ離した方が‥‥。」
俺がガルフさんに忠告したが遅かったようだ。
「お父さん! なんで離してくれないの! お父さんなんて大っ嫌い! 」
先ほどまでふくれっ面をしていたエルザちゃんが、とうとう爆発してしまった。
そのエルザちゃんの大っ嫌いはガルフさんの中ではエコーしているだろう。
「だ、大っ嫌い。エルザが大っ嫌いって‥‥。」
ガルフさんは腰に力が入らなくなってしまったのか崩れ落ちてしまう。娘の大っ嫌いはお父さんにとって如何なる攻撃よりも強力な攻撃だ、悪いことをしてしまった。貸し1つという事で許してもらいたい。
ガルフさんが沈んだことによって解放されたエルザちゃんは俺を見て先ほどまでの怒り心頭な顔をコロッと変え輝かせる。
「ルディ! 帰ってきたの? 」
「うん、悪い人は退治したよ。」
髪を掻き上げ輝くような笑顔でそう言う。
俺はこんな事をしたくないのだが、目線を後ろにそらすと俺がボキボキにした大男が見えてしまう。
そこで俺は俺に目線を集めることによって大男に目線がいかないようにしてるのだ。
逝ってしまったガルフさんの意思を継がねば。
「え〜、ルディのかっこいいとこ見たかったな〜。」
それを見たエルザちゃんは案の定顔を赤くして俺に抱きついてきた。
「機会があったらね。さあ受験登録しに行こう。」
俺は抱きついているエルザちゃんを腕に抱きながらガルフさんに向け歩き出す。
はあ、なんか俺チャラ男みたいだな。
でも仕方ないこれしかないんだ。
(ヒューヒュー)
レヴィが囃し立ててきてとてもウザいが我慢だ。
「終わりだ‥‥。 天使は居なくなってしまった。 死のう‥。」
地面にへたり込み、空虚な目で空を見上げブツブツと言っているガルフさんのすぐ隣に着き、俺は肩にそっと手を置き耳元に囁く。
「エルザちゃんには僕から言っときます。 大丈夫、エルザちゃんも本心じゃないと思いますから。」
俺の言葉を聞いたガルフさんの空虚な目は徐々に光を取り戻していった。
「あ、ありがとうルディくん。 借りができてしまったね。」
「いえいえ、借りができたのは僕の方ですよ。 こうなったのも僕のせいですし。困ったらなんでも頼ってください。力になります。」
そう言い切った俺は、肩をトントンと叩いて元の声の大きさに戻す。
「ガルフさん早く受験登録に行きましょう。」
「そうだね、じゃあ行くとしようか。」
立ち上がったガルフさんは足についた汚れをはたき落として、遠くに見える王立リーデンブルグ学園に歩き始める。
それにおれとエルザちゃんはついて行くのだった。
因みにエルザちゃんはガルフさんと話している間ずっと頬を膨らませソッポを向いていた。
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「はい、ルディア・ゾディック様とエルザ・ワーライト様ですね。受験番号は5034番と5035番です。試験実施日は3日後となります。 試験実施日にこの番号が書かれたバッチを左胸につけお越しください。試験方法は当日発表します。これで以上です。何か質問はありますか? ありませんね。では、試験当日お待ちしております。」
何気に今初めてエルザちゃん親子の名字を知った。
ワーライトというのか覚えておこう。
今俺たちは王立リーデンブルグ学園の大きな門からまっすぐ進んだ所にある受付で受験登録をしている。
俺たちの番号が5034と5035ということは俺たちは結構遅めに登録に来たらしい。
それにしても試験内容は当日発表か。
対策防止の為だろうか? 徹底してるな。 流石スーパーエリート校様、やることが違う。
バッチを受け取った俺たちはもうやることはないと足早に受付から出る。
俺たちはというかエルザちゃん親子が、だが。
さっきから受験登録をしに来ている貴族の親子が他の受験登録をしに来ているおそらく平民の親子をを蔑んだ目を向けていて居心地が悪いようだ。
俺は今すぐにでも押し潰してやりたいが流石にそれだけでやるのはやり過ぎ、かな?
(世間一般ではやり過ぎと言うわ。)
へ〜そうなんだ。 あ、今思ったんだけど世間一般てどこの世間一般なんだろう。
どこからどこまでが世間一般なんだろうな?
俺が世間一般の心理を追求しているとその貴族親子も受付から出てきたようだ。
胸を反らして偉そうに大股で歩いている。
見ているだけでイライラする歩き方だ。重力をかけて面白い歩き方にしてやろうかと思っていると、その親子の前を1人の双子の兄妹が通り過ぎる。
「お兄ちゃん、早く早く! 」
「おい待て! リゼ! 走ったら危ないだろ! 」
いい兄弟だ、俺も父さんが家に帰って大人の慰めとやらを成功させたら妹か少ない確率だが弟ができるだろう。
俺は絶対、妹にお兄様! と言わせるんだ!
(弟はなんで確率が少ないのよ? )
俺は妹が欲しいから。
(‥‥。)
俺のあまりに素晴らしい理由を聞いてレヴィは言葉が出ないらしい。
俺が妹育成計画改を考えていると、さっきの貴族の親子がいきなり怒り出して怒鳴った。
「おい! 平民! 私たち栄光のゲースィ男爵の前を横切るとは何事だ! 」
「僕は、ゲースィ男爵の次期当主だぞ! 」
ゲ、ゲースィって名前にごうが刻まれちゃってんじゃん。
なんて哀れな貴族なんだ。可哀想になってきた。
俺はゲースィ男爵に哀れみの視線を向ける余裕があるがその怒りを向けられた双子は怖くて声も出ないのか震えて口元に笑みを浮かべている。 ん? 口元に笑みを浮かべている?
「ねえ、お兄ちゃんゲースィだって面白い名前だね。 」
「言うなリザ、きっと本人たちも気にしてるんだ。可哀想だろ。 」
それを聞いた子供貴族の方が双子を指差し怒り出した。
「お前たち! 平民の癖に僕の家名を馬鹿にするな! それにこのゲースィの真の意味は希望、光、正道っていう意味だって父さんが言ってたんだぞ! 」
‥‥それ絶対、お父さんに騙されてるぞ。対極に位置する意味じゃないか。
俺と同じ結論に達したらしい双子は腹を抱えて笑いだした。
「「アハハハハハ!! 」」
ひとしきり笑った双子は目に浮かんだ涙を払い貴族親子に頭を下げる。
「いやはや、私たちとしたことがゲースィの真の意味履き違えておりました。」
「感服いたしました。ゲースィ男爵様方。 先程の無礼をお詫びいたします。」
声は真剣に謝っているように聞こえるが、俺は知っている。
あれは笑いを隠すために頭を下げているということを。
しかし子供貴族はそれを間に受けウムと頷いた。
「わかればよい、わかれば。」
「では私たちはこれで。」
「では。」
そう言って双子たちは去って行った。
もう終わりか、もっと見てたかったのだが。
終わりを告げた騒動から俺とエルザちゃん親子も目線をそらし宿に帰って行ったのだった。
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