二つ名獲得
「ほれ、ちょうどだ。」
父さんがラングの門の前に立っていた兵士にお金を支払う。
都市に入るにも金がいるようだ。
まあ父さんは冒険者で免除されるらしいので俺たちの分だが。
「はい、確かに。 ラングにようこそ! 」
それを受け取った兵士は笑顔で両手を広げそう言った。
なんてサービス精神旺盛な兵士なんだ。
それともそれは、仕事のうちに入っているのか?と下世話なことを考えていると馬車が動き出す。後ろからガルフさんの馬車もついてきているようだ。
エルザちゃん達と会ってから5時間程経った。
この5時間は混沌を極める時間だったとだけ言っておこう。
口に出すのも恐ろしい。
もう宿に入って寝たい。 疲れた。 アースドラゴンとの戦いより疲れた。
はあ〜、とため息をついて窓から都市の街並みを見てみる。
随分と賑わっているようだ。
二階建てでレンガ作りの家々が並び露店が立ち並んでいてその店主が大声を張り上げ客寄せをしていた。
そこを俺たちのような旅装束をした子供と親が回っている。
あの子達も学園都市に行くのだろうか? 随分と多いんだな。
すれ違っただけでも20組はいたぞ。
(そりゃあそうよ。 )
知ってるのかレヴィ?
(私は数えるのも憶測になるくらい生きてきた魔剣よ? そのくらい知っているわ。)
で? なんでだ?
(いい? この王国では子供が7歳に達したら貴族も平民も学校に通わせる事になってるの。そこで学園都市。 学園都市は大小合わせて100以上の学校が集まってできた都市なの。
その学園都市にある学校といえば最高の設備、教師陣で有名だわ。 そりゃあ親なら行かせたくもなるわよ。 )
へ〜有名なんだ学園都市。
俺が行く学園だけが有名なんだと思ってた。
(は〜、因みにあなたの行くとこはその学園都市で群を抜いてのエリート校よ。一番の難関で毎年5000人中100人しか受からないと言われているわ。そこに入っただけで別格視されるわ。)
5、5000人て‥‥。
(あら? あなたでも緊張するのね。 大丈夫あなたの力なら‥‥)
アハハハハハ!
わ、笑える!
毎年自称天才君達が5、5000人も集まるなんてアハハハハハ!!
(心配した私がばかだったわ。 いい性格してるわよホント。)
衝撃の事実に心の中で爆笑していると馬車が止まる、どうやら宿に着いたようだ。
「おーい着いたぞ! 」
「ヴィオラちゃん、エルザちゃん着いたよ起きて。」
俺は混沌5時間で疲れ果てつつも寝てしまった2人を揺すり起こす。
すると目をこすり寝ぼけ眼で起きた。
「もう? ルディ眠い。」
そう言ってヴィオラちゃんは、抱きついて再び寝てしまった。
「私も‥‥。ぐうぐう」
それを見たエルザちゃんも続く。
はあもう面倒だ、2人とも運んでしまえ。
2人を重力操作で浮かばせ首に捕まらせる。これでよし。
2人を運ぶ準備をした俺はドアを開け放ち、颯爽と馬車から降りた。
アリアが口を押さえ笑っているがどうでもいい。
疲れてるんだ。
「おう、ルディきたか。 ん? 素敵なマフラーをつけてるじゃないか。 中々見ないぞ。」
馬車を繋いでいた父さんがにやつきなが言ってくる。
「うるさい。疲れてるんだ。 早く宿にいこう。」
「はいはい、ってそのまま行くのか? 流石にそれは‥‥。」
うだうだと何を悩んでいるか知らないがイライラしてきた。
「父さん、俺は疲れてるんだ。それに俺のどこにおかしな所がある。 」
早く休みたい俺は殺気を込め父さんを見る。
「い、いや無いぞ。 (お前のその首に巻いてるものだよ! ユラユラと幼女を2人はためかせやがって!)」
「じゃあ行こうよ。」
(アハハハハハ!! )
うるさい、レヴィ。
怒るぞ。
(ご、ごめんなさい。 プッ! )
「ああ、そうだな。じゃあついて来い。」
そう言って父さんは宿に向け歩いていく。口を膨らませて何かを堪えているがどうでもいいことだ。
歩いてる途中に殆どの人が二度見からのガン見をしている事もどうでもいい事だ。
宿の前についた父さんは両開きの扉を開け中に入る。
それに俺も続いた。
すると、俺が入った瞬間に宿に併設されている酒場がしんと静まり返った。
さっきまでガヤガヤと騒がしかったのにこちらを見て硬直、中には酒瓶を床に落としたものまでいた。
そしてにわかに騒がしくなる。
「お、おいあのガキの首につけているもの幼女じゃないか? しかも2人。」 「あ、あれは幼女マフラーだと!? 」 「なんて羨ましい‥‥。」
俺と父さんとアリアはそんな言葉たちをBGMに受付まで歩いていく。
「済まないが先ほどガルフという男が部屋を取ったはずだが。」
俺を見て固まってた受付嬢の人が父さんに話しかけられ言葉に詰まりながらも答えた。
「は、はい。聞いておりますよ。 アルス様に、ルディア様、エルザ様、ヴィオラ様、アリア様ですね。203の4人部屋です。(首に幼女を巻きつけているとは聞いてませんでしたが。) 」
父さんは受付嬢の人からそう聞いてお礼を言う。
「ありがとう。じゃあ行くかルディ。 」
そう言って部屋に向かって歩き出す。
「はあ、やっと休める。眠りたい。」
俺は目を擦りながらも、やっと休めるという気持ちでついて行ったのだった。
ルディが部屋に入った後の酒場はルディの話題で持ちきりだった。
「おい、聞いたかあの子供、ルディだってよ。 」 「幼女をマフラーにしているなんて、恐ろしい。」
ある者は、その事実に戦慄し、またある者は羨んだ。
そんな話が飛び交う中で誰かがポツリと呟いた。
「幼女マフラーのルディ‥‥。」と、こうしてルディはわずか7歳にして幼女マフラーのルディの二つ名を得たのだった。
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