父は父
「お! キタキタ! これはでかいぞ! 」
父さんの釣竿が大きくしなる。確かにこれは大物だ。
手伝ってもいいが、能力を使っては面白くないだろう。ここは子ども殺法秘伝・弍の型で援護する。
「父さん頑張って〜! 」
両拳を握り、胸の前に持って行きムッと構え目を潤ませて声援を送る。
子ども殺法とはルディが赤ん坊の頃より編み出した技を効率化し、進化させたものである。
この技を受けたものは、必ずと言っていいほどメロメロになるか、若しくは体から力が湧くという一子相伝の必殺殺法だ。
「父さん頑張るぞ! うおおおお!! 」
腕に力を込め思いっきり引く。
すると、水面を割りかなり大きい魚を釣り上げる。
おお! かなり大きいな。
2メートルほどの凶悪な顔の魚が水しぶきを上げながら宙を舞う。
「大っきい! さすが父さん! 」
釣り上げられた魚は地面に落ち、ピチピチと跳ねている。
かなり生きがいいので逃げられてしまいそうだ。
それは、嫌なので能力を使わせて貰おう。
俺は魚に向かって重力をかける。
するとピチピチ動き回っていた魚は動きを止めた。
うん、かなり制御出来るようになってきたな。
ペチャンコになって無いし、いい感じだ。
(かなり、上手くなってきたわね。 まあ、まだまだだけど。)
レヴィからも及第点を貰えた。
すこし嬉しい。
「やったぞ。 どうだったルディ、父さんかっこよかったか? 」
膝に手をつきながらもそう聞いてくる。
「うん、とってもカッコ良かった! 」
ああそうだな、すこしはカッコ良かったぞ。
リップサービスに色をつけるくらいにな。
「そ、そうか。 これで今日のキャンプのメインは大丈夫だろう。」
そう今日は俺が王立リーデンブルグ学園に行くことが決まった日より2年が経ち学園へ向け出発する前日だ。
昨日、母さんとエルさんが出発する前にキャンプをやろうと言い出したので、夕食のメインを狩りに俺、父さん、ベルグさんで来ていたところだ。
ベルグさんはヴィオラちゃんのお父さんの名前だ。最近になってようやく分かった。
因みに、ヴィオラちゃん達は料理の準備をしている。
「アルス! 今日のメインは俺の釣った魚だ! 見ろ! 俺の方が脂が乗ってるぞ! 」
先ほど釣り上げていた魚を指差しながらそういうベルグさん。
どうやらベルグさんはメインを譲らないらしい。
俺から見たら大差無いのだが。
「なんだよ、ベルグ。どっちでもいいじゃないか。」
「いいや! 俺はメインを釣り上げたとしてヴィオラにかっこいい! パパ! って言われるのだ! 」
それはない。 全くその想像ができないぞ。
最近なんてパパくちゃい、って鼻を摘まれながら言われてたじゃないか。
「いや、それはな‥‥。」
父さんが残酷な事を言おうとしたので裾を引き首を横に振る。
いいじゃないか、もしかしたら天文学的な数値だがパパ! かっこいい! と言われるかもしれないじゃないか。
夢を見ることは悪いことじゃない。
「そうだなルディ。 男には黙ってさせてやる事もあるもんな。」
俺の無言の訴えを聞き入れた父さんは一つ頷きベルグに話しかける。
「ベルグ、今夜のメインはお前が釣った魚だ。‥‥頑張れよ。 」
最後の方にボソっと父さんはエールを送る。
「よし! じゃあ帰るぞ! 」
ベルグさんは意気揚々と、釣った魚を背負いキャンプ地に戻っていく。
歩調が弾んでいる。よほど楽しみのようだ。
「ルディ俺たちも行くか。」
「うん。 今から楽しみだよ。」
「そうだな、父さんも母さんの料理が楽しみだ。」
俺と父さんは笑い合いながらキャンプ地に戻っていった。
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「帰ったぞ〜、準備できてるか? 」
父さんが釣った魚を持ち上げながら料理の準備をしていた母さん達にそう言った。
「出来てるわよ。そこにおいてね。」
母さんが指差した場所にはすでにベルグさんが釣った魚が横たえられていた。
じゃあベルグさんは? と視線を巡らせると端っこでズーンと落ち込み体育座りをしていた。
どうやら現実は残酷だったらしい。
撃墜された様だ。
「あ! ルディ〜! 」
ベルグさんを撃墜したであろう犯人が俺に抱きついて来た。
ヴィオラちゃんだ。
「今帰ったよ。ヴィオラちゃん。」
7歳になって俺より少し大きくなったヴィオラちゃんの頭を撫でながらそう言った。
「うん! ルディは何を釣ったの? 」
俺を離し、俺の釣りの成果を聞いてくる。
「小さい魚を少しだけかな。」
「ルディすごいね! かっこいいよ! 」
おい、聞いてたのか? それのどこにすごい要素がある。
逆に釣れなすぎてすごいという意味か?
「お、俺の魚‥‥。 釣った、大きい‥‥。」
あ、ベルクさんが壊れてしまった。
止めを刺してしまった様だ。もう体育座りすらしてない。
「ヴィオラ、ルディくんといちゃいちゃしてないでこっちを手伝いなさい。」
俺とヴィオラちゃんが話しているとエルさんが少し怒った声で言ってきた。
「はーい。ルディ、じゃあまたね。 」
そう言ってヴィオラちゃんは、エルさんの所に戻っていった。
じゃあ俺は夕食まで重力操作の訓練をするとしよう。
やること無いしな。
俺は近くにあった木に寄りかかり、手と手の間に重力球を発生させる。
最近の訓練内容だ。
これがまた難しい。結構神経を使う。
ムムム、と唸りながら夕飯ができるまで過ごすのだった。
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「フフィー、食った食った〜」
父さんがお腹を叩いて満腹と表現している。
あれだけ食べてそれで済むとは父さんの胃袋は化け物らしい。
まるまるでかい魚1匹食ってたぞ。
夜空が見える小高い丘の上に寝そべりながら、俺は明日の確認をする。
「ねえ父さん、明日は父さんも一緒に来るんだよね? 」
そう、学園都市までは父さんが一緒に行くらしい。
なんでも道中で魔物が出るそうだ。
俺がいれば大丈夫なのだが、ヴィオラちゃんとかアリアとかが心配だそうだ。
じゃあベルグさんは、となるがどうしても外せない仕事が入った様で渋々父さんに任せていた。
「ああ、お前の受験の結果が出るまでな。 落ちるなよ〜。」
ヴィオラちゃんがいく学校には受験は無いらしいが、俺の行くところは違う。
王国内の神童、天才達が集まる学園だ。
そりゃあ、入学前に試験くらいする。
戦闘系の子供なら戦闘系試験、頭脳系の子供なら筆記試験をといった形だ。
試験の成績に応じてクラス分けをされるらしい。
まあ俺なら大丈夫だろう。子供なんぞに負けはしない。
「大丈夫だよ父さん。 帰りは1人で帰ることになるから。」
「言うじゃないか、でもそうだよな。お前より強い子供なんて想像できん。」
夜空を彩る星々を見上げながら父さんが苦笑い気味に言った。
だいぶ夜遅くなった。
そろそろ寝ないと明日に響くな。
ちょっと眠い。
「父さん、もう眠ろう明日に響くよ。」
「ああそうだな、じゃあ戻るか。」
背中についた汚れをはたき落とし、立ち上がった。
テントに向かい歩いてく。それに俺も続いた。
俺と父さんの間には会話はなく静まり返っているが逆にこの静かさが心地いい。
しかしその静寂を父さんが突然口を開き破る。
「なあ、ルディ。 俺はな初めてお前と会った時、恐怖を感じたんだ。なんで俺の家にこんな赤ん坊が居るんだ、サーシャはどうした。まさか殺されたのかってな。」
そりゃあそうだ、家に帰ったら魔剣を振り回す赤ん坊だ。
俺でもそう思う。
「それが俺の息子だと分かっても変わらなかった。 お前の強さに恐怖した、年不相応の賢さに恐怖した。 しかしな、その感情の正体を知った時俺は俺に恐怖したんだ。
それは、嫉妬。嫉妬だったんだ。俺が手を伸ばしても届かない所に簡単に届く才能にな。」
「おかしいだろ? 実の息子に嫉妬って。 学校に行く様に提案したのだってお前のためと思っている。でもその中に嫉妬がなかったかと聞かれても否定はできない。」
父さんはそこで言葉を区切り、こちらに振り向いた。
「でもな、今は違う。 ここ2年お前と色々一緒に過ごしてこう思ったんだ。
この子は俺の子供なんだってな。 誇らしい事じゃないか自分の子供が才能に溢れる天才なんて。 お前は俺の誇りだ。 学園都市でも暴れてこい。 そして知らしめてやれルディア・ゾディックここにありってな! 」
と、父さん‥‥。勿論だよ。
俺は自重する気なんて微塵ない。
学園都市に集まる神童、天才なんて持て囃されているボンボンどもに教えてやるよ。
父さんの息子は世界最強の子供だってな!
「うん! 勿論だよ。ありとあらゆる奴らをなぎ倒して学園都市で一番になるから! 」
「ああ、ここまで聞こえてくるのを楽しみにしてるぞ。」
父さんは、笑顔で俺の頭を撫でてきた。
父さんにそうされて、俺の中でカチっと何かが嵌る音が聞こえる。
多分この時初めて父さんを本当の意味での父さんとして認識したと思う。
彼奴に復讐し、青山を守る事が一番の目標にしていたがここ7年で他にも色々と目標ができてしまった。
でもそれでもいいと思う。
全てを達成すれば良いんだから。
決意を新たにした俺は父さんと一緒にテントに戻るのだった。
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