進撃のルディ
結局あの後、家の近くの医師の所まで連れて行かれた。
医師と言っても、元の世界のような医師では無い。
魔法のお医者さんだ。
メルヘンに聞こえるかもしれないが、魔法を使う医者のことだ。
俺は母さんが泣きながら必死に私の赤ちゃんを助けて!と懇願している所で目覚めた。
母さんは酷く混乱しているが、そこは流石の医者ですぐさま俺の症状を見抜いた。
「こ、これは魔力欠乏症‥‥。何故こんな赤ん坊が! 」
症状の判断は冷静に見抜くことができても、その症状が俺に掛かっている事に酷く驚いている。
そして俺は今この状況を把握した。
おい! レヴィ何だよ、魔力欠乏症って!聞いてないぞ。
(魔力欠乏症は、魔力をスッカラカンまで使った時になる症状の事よ。)
じゃあ、スッカラカンになる前に止めろよ! めっちゃ痛かっただろうが!
(仕方ないじゃ無い、全部使い切った方が魔力の伸びがいいんだから。それにそんなことでうだうだ言ってたら強くなれないわよ?)
う、わかったよ。でも次からは言ってくれ心の準備というものがある。
(分かったわ。次からね。)
医師が判断した症状を聞いた母さんが、眼を見開いて俺のことを見てきた。
「魔力欠乏症、何でルディちゃんが魔力欠乏症になるの? ねえ、アルファさん何かわかりますか?」
母さんが、医師のアルファさんにそう尋ねた。
尋ねられたアルファさんは暫く顎に手を当てて考え、口を開いた。
「確か、非常に稀に魔眼系固有スキルを持って産まれた子供が無意識のうちにスキルを使ってしまい起こることがあると聞いたことがあります。普通のスキルでは、まずこんな事はありえない。」
無意識じゃないです、バリバリ意識して使ってました。
「ま、魔眼系固有スキル‥‥。」
口に手を当て、驚く母さん。
そりゃあそうだろう、固有スキルは持っているだけで神童だの、100年に一度の天才だの持て囃されるのだ。
座学の時に習った時は、あいつら持ってんじゃん100年に1人多いなと呑気に思ったものだ。
あ、光輝のこと思い出すと殺意が湧いてきた。
「アルファさんこの事は、他言無用でお願いします。」
「分かっていますとも、このことが広まれば大変なことになりますからね。」
え? どうして?
(魔眼系固有スキルは固有スキルの中でも希少だから見つかったら朝から晩までひっきりなしに奴隷狩りが来るからよ。)
うわ、奴隷あんのかよ‥‥。
王城にばかりいたから見なかったのか。
俺がそんなことを考えていると、母さんが俺を抱え立ち上がった。
「アルファさん夜遅くに有難うございました。」
「いえいえ、ルディくんが無事でよかったです。」
頭を下げお礼をする母さんにそう笑顔で返した。
鼻血事件の時といい、今回といいこの世界の医師の人はいい人ばかりだ。
ここは俺もお礼を言った方がいいだろう。
「あいあおー(ありがとう)」
手を、アルファさんに差し出してお礼を言う。
それを見たアルファさんは少し驚いた顔をして、再び笑顔に戻った。
「おやおや、君は言葉がわかるのかな? 将来が楽しみだ。」
そう言って頭を撫でてくる。
き、気持ち良い。この人撫で慣れてやがる。
今度から撫でさせてやろう。
「それでは、帰りましょうかルディちゃん。」
そうして、俺と母さんは家に帰っていった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
俺が魔力欠乏症を起こしてから早くも2ヶ月が経過した。
まああれから、毎晩観測眼を使いつずけているので、毎日魔力欠乏症になっている事になるが。
そのおかげで魔力はうなぎ登りだ。転生する前よりも遥かに多くなっている。
転生する前が雑魚すぎるため比較にはならないのであんまり喜べない。
因みに最近では、なぜか痛みが気持ちよく感じてきている。
恐らく痛みに対する防御本能だろう。 そうに違いない。 決して目覚めてなどいない。
そんなことを考えながら家の中をハイハイしている。
ようやくハイハイ出来るようになったのだ。
初めて部屋を出た時は、余りの家の大きさに驚いた。
魔力欠乏症になった時は夜だったので家の大きさを見ることができなかったのだ。
だいたい3階建てで、部屋が20部屋以上ある。ザ、豪邸といった感じだ。
俺の両親は金持ちなのだろうか? おいおい聞いてみよう。
今は、訓練に集中だ。
ハイハイが何の訓練になるのか、と思うだろうがレヴィから聞いた体に魔力を巡らせる事によって体を強化をする身体強化の練習をしながらなので訓練なのだ。
身体強化のスキルを得られたら声が聞こえてくるはずなのでまだ身体強化のスキルは得られていない。
おっと! 危ない危ない。
俺が、余計な事を考えていたせいかメイドと接触しそうになってしまった。
そう、メイドだ。
この家はかなり大きいのでもちろんメイドがいる。
見つかると、あ! 坊っちゃまダメですよ? お部屋に戻らないとと強制連行されてしまう。
いつもは観測眼で避けているのだが、眼に巡らせていた魔力が切れてしまった。
この訓練のクリア条件は、メイドさんたちに見つからず調理場にあるお菓子を取ってくることだ。赤ちゃん用の味であんまりしないお菓子だが文句は言わない。
俺はこの訓練、なかなかスリリングで結構はまっている。
そろそろ、調理場だ。
お菓子は‥‥。
あった! テーブルの上か‥‥。
椅子をつたって取りに行くか。
料理をしているシェフたちに気付かれないようにそーっと、椅子をよじ登りテーブルの上のクッキーに手を伸ばした。
しかし、あと少しの所で何者かに抱え上げられてしまった。
な!、俺の観測眼に掛からないとは何者!
‥‥あ、お菓子に夢中になりすぎて切れてた。
恐るべし、お菓子の魅力!
「ルディア坊っちゃま、ダメですよ? お菓子を取ろうとしちゃ。」
そう俺に言ってくるのは、1ヶ月前より俺の専属メイドとなったアリアだ。
およそ、9歳くらいの紺色の髪と碧眼をした少女だ。
ずっと俺の面倒を母さんが見るわけにもいかないのでその間の面倒を見てくれる。
捕まった俺だがお菓子を諦めるつもりはない。
ここ、2ヶ月で編み出した必殺技を食らわせてやろう。
「アリアー、おあいー、おちー」
手を伸ばしながら拙い言葉でおねだりする。
必殺技萌え萌えアタック!
これで落ちない人類などいないだろう。
可愛いは正義なのだ!
「カ、カワイイ‥‥。すこしなら、いや! ダメよアリア。 でも、1枚くらい‥‥。」
お菓子に手を伸ばす手と、それを止める手でせめぎあっている。
これはあと少しで落ちそうだな。
もう一回行くか。
(貴方の中身を見たら可愛いもへったくれも無いでしょうね。)
うるさいレヴィ。結局人間見た目なのだよ。
ハッハハハハ
俺が心の中で高笑いを上げていると、調理場の入り口から母さんが入ってきた。
「あら、またルディちゃんお菓子取りに来ていたのね。 どうして毎回誰にも見つからないのかしら?」
俺が魔眼系固有スキルを持っていると知っていても俺が使っているという事にはたどり着かないようだ。
「お、奥様。どの様なようで?」
今まで、葛藤していたアリアが手を隠しながら母さんに尋ねる。
どうやら、俺にお菓子をあげる方に傾いたらしい。
今のところ、この必殺技は撃墜率100パーセントだ。
「ああ、そうだったわ。 来週アルスが帰ってくるの。 だから、色々準備してもらおうと思って。」
‥‥アルスってだれ? 男なのか!? どう言う事なんだい母さん!
(なに、浮気を見つけたみたいに言っているのよ。 貴方のお父さんでしょ?)
あ、そうだった。俺が生まれた時、私とアルスの子って言ってたわ。でもなー、産まれたばかりの子供を5ヶ月もほって置くやつだし不安だ。
「だ、旦那様が!? それでは急いで歓迎の準備をせねば。」
父さんの帰還の知らせを聞いた使用人たちが慌ただしくなった。
しかし1週間前から準備するとは、どれだけ盛大な歓迎をするつもりなんだ?
その様子をボケっと、アリアに抱えられながら見ていると母さんが俺をアリアから受け取り話しかけてきた。
「ルディちゃん、お父さん帰ってくるって〜、初めて会う事になるね。楽しみ?」
ニコニコ笑いながら聞いてくる。しかし俺は全く楽しみでは無い、自分の子供をここまで放置するやつなど会いたくも無い。だが、母さんが楽しみそうなのでゴニョゴニョとごまかす事にする。俺は空気が読める赤ちゃんなのだ!
「ばぶおー」
「そっかールディちゃんも楽しみかー」
そうして、1週間が経ち父さんが帰ってきた。
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