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召転のルディア  作者: NTIO
壊れゆく日常
26/220

豹変

「オリャア!」


殴りかかってきたゴブリンを盾でいなし、その隙をついて足にローキックをかます。

その蹴りはゴブリンの脛に直撃し、ゴキっと嫌な音を響かせる。

俺は、足を押さえ蹲っているゴブリンを見下ろしてショートソードを振り下ろした。

ブチブチとショートソードを持っている手に肉を切り裂く感触が伝わってくる。

その感触に少し眉を顰めながら、最後まで切り裂きた。


「光輝、こっちは終わったぞ。」


ショートソードについた血を振ることで飛ばしながら、光輝に話しかける。


「僕も丁度終わったところだよ。」


そう言いながら笑顔で手についた血を拭っている。

あいつ、素手でゴブリンを撲殺してやがる、なんて奴だ。


「それにしても、いないなー例の魔物。結構奥に来たっていうのに。」


今俺たちは、得られる経験値が高く、弱いという魔物を狩りに実戦訓練を行った場所に来ている。しかし、かなり奥に来ているにもかかわらず出てくるのはゴブリンのみだ。


「そうだね、もう少し奥に行ってみようか。それでダメなら諦めよう。」


そう言って光輝は森の奥に向け歩いていった。

それ見て俺も光輝について行く。


「ああそうだな、もうそろそろ日が暮れそうだしな。」


暫く森の中を歩いていると唐突に光輝が立ち止まり、此方に手をかざしてきた。


「龍太君止まって。彼処にゴブリンでもスライムでもない魔物がいる。」


俺はその言葉に光輝が指差した方向に視線を向ける。

しかし俺はその方向を見て目を見開く。

なぜなら、そこには体長6mほどの漆黒の体毛をした巨大なモンスターが数えるのが片手では足りないほど森の開けた場所にひしめき合っていたのだ。

その魔物たちはまるで何かを待ち伏せる様に動こうとしない。


な、なんだこいつらは!?

どう見ても、ヤバすぎる! 件のモンスターでは無いのは本能的にわかった。

明らかに生物的な格が違う!


早く逃げねば、そう思い光輝に視線を向けた瞬間。

俺の体に悪寒が駆け巡った。

光輝が此方に笑みを浮かべていたのだ。

その笑顔はいつもの万人受けする笑顔ではなく、まるで正反対の見る人に恐怖を感じさせる笑顔だった。


「やっとだよ、龍太君。これで君を排除することが出来る。」


いつもより数段低い声で光輝はそう呟く。


「な、何を」


「この者の自由を奪え【パラライズ】」


俺が何を言っているんだ?と言い終わる前に此方を指差し魔法を行使して来た。

その魔法を受けた俺は体の自由が聞かなくなった。

必死に、動かそうとするがピクリとも動かすことが出来ない。


「光輝! 何するんだ!」


咄嗟に声を張り上げる。

なんで、声を出すことが出来るんだ?体はビクともしないのに。


「龍太君、君今なんで声は出すことが出来るんだって思ったでしょ?それはね〜、散々僕の計画を邪魔してくれた君の断末魔を聞いて〜ちょっとでも僕の癒しにでもしようかな〜ってね。だから、声だけは残して置いてあげたんだよ、ただそれだけ。」


ただただ悪寒を誘う声で言ってくる。

こ、こいつは本当に光輝なのか?あまりにも違いすぎて別人にしか思えない。

それに俺たちは友達だったはずだ。

光輝がこんなことをするはずが無い!


「お前! 本当に光輝なのか!」


「何を持ってそんな結論に達したのか疑問だね〜。教えてくれるかな?」


首だけをコテンと傾け聞いてくる。

き、きみが悪い。


「光輝は友達なんだ! こんなことをするはずが無い!」


それを聞いた光輝は、キョトンとして次第に笑い出した。


「アハハハハハハハハ、アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


一体どこからその声を出しているんだと聞きたくなる声でひとしきり笑って、いきなり無表情になった。

しかしなんでこんなに騒いであの魔物たちがここに来ないんだ?


「僕と君が友達? いつからそんなことになったのかな?僕がいつ君のこと友達って言ったのかな? 確かに全員に友達に見える顔を見せていたから勘違いするのは仕方ないよね。でも〜、僕は君の事を友達なんて一度たりとも思ったことなんて無いよ?寧ろ、邪魔で邪魔仕方なかったくらいだ。その気持ちはこの世界に来てから膨らむ一方だったんだよ。あー我慢するのが大変だったな〜、でも君を殺すことが出来る。僕はこの日が来たことがとっても嬉しいよ!」


両腕で自分の体を抱きしめ喜びを表現する光輝。俺はもう声が出ない。


「君がいなくなれば、クラスも主導権も青山さんも山田さんも僕のものだ!アハハハハハハハハ!!」


光輝はまた笑い出した。どうやら俺を殺すことが嬉しくてたまらないらしい。

だが、聞き捨てならないことが聞こえた。

青山が光輝、いやこいつの物だと!? 巫山戯るな!!

それだけは絶対にさせない!

だが、冷静にならねば。この痺れがある限り俺は動くことすらできない。

なんとか時間を稼ぐんだ、いつかこの魔法の効果も切れるはずだ。


「なあ、お前もし俺を殺したとしてばれないとでも思っているのか?俺とお前が一緒にここに来たとこを何人見たと思っているんだ。それにラインハルトさんも知っているだろ!俺が死んだらまずお前が疑われるぞ!」


俺は時間を稼ぐために、光輝を諭しにかかる。

しかし、光輝はそれを物ともせず平然と返してきた。

寧ろ、俺を小馬鹿にするように笑っている。


「やっぱり君はバカだよ、僕がなんの準備もなしにこんなことをすると思う? 僕の計画は完璧さ! 誰一人として僕が殺したことなんて気づかないよ。僕の仲間以外ね。」


仲間だと!? こいつ以外にも俺を殺そうとするやつは‥‥‥。


「まあ、単純な利害の一致だけどね。向こうは勇者と王国の決裂、僕は、もう言ったよね?」


「ま、まさかお前帝国か魔族と手を組んだのか!?」


驚愕の表情を貼り付け光輝に尋ねる。

どうか喋ってくれ、生きて帰れた時その情報を伝えなくちゃいけないからな。


「帝国の方だけどね。色々なことを協力してくれたよ。だ・か・ら安心して死んでね?大丈夫、青山さんも山田さんも最初は悲しがるだろうけど、僕が慰めてあげるから。」


目に獣欲を宿し、舌舐めずりしながら言ってくる。

クソ!! こいつにやらせはしない!!

ぶん殴ってやる!


光輝を殴ろうとするが全くとして体が動かない。


動け! 動けよ!!

クソクソクソクソ、クソオオオ!!


俺がなんとかして殴ろうとしているところに光輝が寄ってきた。


「そろそろ、死のっか。行くよ。」


そう言って、俺の足を掴みさっきの魔物の所にズルズルと引きずって向かっていく。


「光輝! やめろ! やめてくれ!!」


俺は最後の希望として光輝に泣きながら懇願した。

しかしそれは無情にも切り捨てられる。


「そんな悲観しないほうがいいよ? 今から君はたくさんの魔物に食い殺される。もとの世界にいたら絶対経験できないことだよ?もっと楽しまなくちゃ!」


何が楽しまなくちゃだ! これのどこに楽しむ要素がある!?

なんで、どこでこんな事になったんだ。

友達だったのに、どうして、どうして‥‥‥‥‥‥。


「さあ、着いたよ。龍太君、今までヘドが出る学生生活ありがとう。じゃあ、死ね。」


俺が絶望に打ちひしがれている内に俺の処刑場にたどり着いたらしい。

そして俺は魔物たちの中に投げ捨てられた。


「お前たちその、人間を喰らえ。」


地面に打ち付けられた俺に光輝の声が聞こえてくる。

どうやらこの魔物たちは光輝が操っているらしい。

その合図と共に魔物たちは一斉に俺に食らいついてきた。


グチャリと腕を食い破られ、爪で臓物を引きずり出される。


「グアアアアアアアア!!!」


身体中をこれまで味わったことのない痛みが駆け回る。

視界が真っ赤に染まる。もう痛すぎて、痛覚が麻痺してきた。

もはや痛みなど感じなくなった。

ただ、体が食べられていくという事実が赤色に染まった視界からボンヤリと見えるだけだ。


俺は、ここで死ぬのか? 魔物に食われて、誰にも本当の死因を知られず、俺を殺したやつはのうのうと生きて俺の好きな奴と笑って‥‥そんなこと、許せるはずがない!!

だがこうなったのも俺が原因だ、弱かったからこんな事になったんだ。

強かったら魔法を使われた時点で弾き返せたかもしれない、殺せたかもしれない。

全ては俺に力がなかったから!! 力が全てだ。


だが、今そんなことを言っても遅い。

もう俺の命は後数十秒持てばいいほうだろう。

今の俺にはただ青山だけが心残りだ。俺を救ってくれた青山。いつか守りたいと思っていた青山。

幸せになって欲しい。俺のことなどスッパリ忘れて、他の彼氏でも見つけて幸せに。

ただ、光輝奴だけはやめてくれ。

やつは俺が恨み殺すから。


ボリボリ、ボリボリ。


もう俺の下半身がない。そろそろ死ぬようだ。

意識が深く暗い海に沈むように遠くなっていく‥‥‥。


「ねえ、復讐したい?」

俺は完全に意識が沈む前に美しい女性の声が俺の鼓膜を打った。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


俺は今なぜか食い殺された場所に無傷で立っていた。

しかしさっきの事が夢だったとかそういう事ではないと思う、何故なら俺の隣で魔物たちが俺の体をボリボリ、バリバリと絶賛食事中だからだ。

あんまりにも一心不乱に貪るものだから俺の体は美味しかったのか?と考えてしまった。

俺が4周回って平常心になっていると、意識が沈む前に聞こえた声が再び聞こえてきた。


「改めて聞くわ。あなた、復讐したい?」


俺はその声がする方に振り向く。

そこには銀髪を腰まで伸ばし、銀目をした絶世の美女がいた。

しかし、今の俺には見とれている余裕などない。

ここは、流すのが妥当だろう。


「それはもちろんしたいが、お前は誰だ?それに何故俺は生きている?」


俺は気になることを次々と美女に聞いた。


「質問が多いわね。まあいいわ、まず私は魔剣レーヴァテイン。それと、あなたは生きてはいないわよ。平たく言うと今の貴方は幽霊に分類されるかしら?まあ私がそうしているんだけどね。」


なんと、こいつ魔剣なのか。

しかしなんでそんなことをする必要がある?

俺の復讐に何か関係あるのか?


「では何故、こんなことをした? 」


「貴方と契約結ぶためよ。龍太君。」


何故俺の名前を!? いや光輝が連呼してたなそう言えば。


「契約?俺とお前がか?しても意味ないだろ俺もう死んでいる。」


「いいえあるわ。私と契約すれば、今すぐにはできないかもしれないけど、復讐することも、大切な人を守ることもできるわ。」


「は!、俺を蘇らせて、それに加えて力もくれるというのか? あり得ない、馬鹿げてる。よしんば出来たとしてお前は何が得になる? ふざけるのも大概にしろ!」


あり得ないことを提案され、回りに回って平常心になった心が乱れていく。


「あるわよ。貴方の復讐を手伝う代わりに、私の復讐も手伝ってくれればね。」


そう真剣な眼差しで言ってくる。

こいつも誰かに復讐したいのか?いや聞くまい、いつか時期になったら話すだろう。


「そうか、それなら納得がいく。いいだろうお前と契約しよう。」


俺はレーヴァテインに手を差し出してそう言う。

それを見たレーヴァテインは微笑みながら、こう告げた。


「最後の確認だけど、あなたは私と契約したら、貴方は貴方じゃなくなる。あなたの知り合いが貴方を見ても貴方とは気づかないわ。それでもいい?」


「ああ、勿論だ。このまま死ぬよりはずっとマシだ。」


死んだら何もかもおしまいだ、奴を殺すことも、青山を守ることもできはしない。


「そう、じゃあ契約成立ね。契約内容は後で説明するわ。」


俺の言葉に一つ頷いてレーヴァテインは、俺の手を握った。

すると俺とレーヴァテインから金色の光がすごい勢いで立ち上っていき、天まで届いたところで飛散した。

綺麗だなと眺めていると、唐突に力が抜け俺は膝をつく。


あ、れ?体の力が、はいら、ない。

そうしてまた俺の意識は遠のいていった。



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