変わり始めたクラスメイト
◇王国内某所◇
王国内には仕事にあぶれ路頭に迷った浮浪者や、親を亡くした孤児、犯罪に身を染め闇に潜むもの達が寄り集まって出来た場所がある。
スラム街だ。
そこは、華やかな表通りとは打って変わり、薄暗く異臭が漂っている。
そんなスラム街を、黒いローブを深く被った者が歩いていた。
その者は只者ならぬ雰囲気を漂わせ、古びた一軒の小屋に向かっていく。
コンコン、コン、コンコンコン
古びた小屋にたどり着いたその者は一定のリズムで扉を叩く。
すると、古びた小屋の扉が開き、中からも同じような格好をした者が姿を表す。
「入れ。」
ただそう告げ小屋の中に戻っていった。
それを聞いた者は、無言で小屋に入っていく。
コツコツ、と足音を立て小屋の奥に向かう。
たどり着いた小屋の奥には円形のテーブルのみが置かれており、その周りには数人のローブを被った者が席についていた。
入ってきた者を見て、そのうちの1人が声を上げる。
「闇に生しもの。」
「光に通ず。」
それに入ってきた者は迷いなく答えた。
「それで、何があった?」
「王国が勇者召喚を行った。」
その、答えを聞いた途端、ガタンっと殆どに者が立ち上がった。
動揺しているようだ。
「なんだと!? それは本当か!」
「ああ、協力者から得た情報に加え、その同時期から王城にこの国の者でない者が複数確認された。確かな情報だろう。」
声を荒らげ、問い詰めた相手に向け淡々と返す。
その落ち着いた、声を聞いた、声を荒げた者は幾分か冷静になる。
「勇者召喚か‥‥。大変なことになったな。早急に皇帝陛下に報告するとして、さてどう対応したのもか。」
それに再び、入ってきた者が答える。
「私にいい提案がある。」
入ってきた者に向け、声を荒げた者が視線を向ける。
「聞こうか。」
それに対して入ってきた者は頷きその提案を告げた。
最初は、訝しげに聞いていた声を荒げた者は徐々に内容を聞いていくうちに納得した顔になった。
「それでいこう。私から皇帝陛下に報告しておく、しかしお前もえげつない事を思いつくものだ。」
尊敬と少々の恐怖をにじませた声で声を荒げた者は言う。それに 、入ってきた者はまるで感情がない人形の様になんの感慨もなく答えた。
「それが私の仕事ですので。」
ただ一言、しかしその言葉にはあらゆる意味が集約されている。それが分かっているのか、声を荒げた者はただそうかと返すだけに止まった。
「それでは、この作戦でいく。各々配置についてくれ、では解散。」
声を荒げた者の合図で部屋にいたもの達はそれぞれ退室していく。そして、ただ1人になった部屋で声を荒げた者はぽつりと呟いた。
「王国よ、お前達は必ず破滅に導く。何をしてもな。」
その呟きは、部屋に虚しく響くだけだった。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「っふ!、っふ!」
今俺は訓練所の端で素振りをしている。流石に他のクラスメイト達と同じメニューをこなすのは辛いとラインハルトさんに懇願したのだ。別に俺は辛くとも意地でもやるつもりだったが、大半の男子や一部の女子にお前、邪魔という視線に晒されたり、その中でもグチグチと言ってくる奴に辟易したのだ。
何故こんな視線を晒されなきゃならんのだと、最初は思ったのだが曰く2週間前つまり青山とのデートの直後から、俺が弱いことをいいことに青山や山田さんといい仲になろうと画策しているという噂が立ち始めたらしい。確かに、はたから見たらそう見えるかもしれないが、なぜ青山と山田さんのみなのか不思議だ。作為的な意図が節々に感じる。俺が内心で愚痴っていると、そのグチグチ言ってくる奴が現れた。
「お〜い、龍太く〜ん。大変そうだね〜、俺が振り方教えてあげよっかあ〜? まあ、龍太くんは〜クワの方がオススメだけどね! アヒャヒャヒャ」
前より、ウザレベルが急上昇した、高木が言ってくる。
「ちょっw、本当のこと言ってやるなよ。まだ俺たち、勇者になりたいって夢持ってんだからさ〜。」
これまたウザレベル急上昇した蛭田が現れた。
「いやいや、無謀な夢を見るバカには、ちゃんと教えてやらないと!うっかり死んじゃいましたじゃあ寝覚めが悪いからな〜。俺ってほら、優しいからさ。」
高木が腰に手を当て、首を左右に振る。おいやめろ、顎が揺れてるぞ。笑を堪えるのに、死にそうなんですけど。あ!そうかこれで俺の事を攻撃してきているんだな!なんと卑劣な。俺が笑いを堪えてプルプル震えているのが怯えているとでも思ったのか俄然調子にのる高木と蛭田。
「まあそうだな、じゃそうゆうわけで訓練しに来ないでくれる? ぶっちゃけ目障りなんだよね。殺すよ?」
お前が死ね、と言ってやりたい。だが言えないのだ。俺の力では本当に殺されかねん。2週間前までならこいつらがここまで積極的にやってくる事はなかったのだが、今ではグイグイやってくる。止める人が噂によって減ったことが原因だろう。俺はこいつらが噂を流したのでは?と密かに考えている。
「君たち、何をやっているのかな? 」
そこへ、キラキラと効果音がつきそうなオーラを漂わせながら光輝がやってきた。
「あ? お前には関係ね〜だろ。 ただ俺たちは、龍太くんに忠告してただけだよ。」
「その通りだよ。な! 龍太。」
そう言って蛭田が肩を組んでくる。なにが、な!だよ。はっ倒す事は出来ないので朝お前が寝てる時、布団に水ぶち撒けて恥ずかしい思いさせてやるからな。
「じゃあ、僕が龍太君を借りてもいいよね?行くよ龍太君。」
光輝が俺の手を引き、訓練所の反対側に連れいく。流石に勇者最強には意見は言えないらしく、高木と蛭田が地団駄を踏んでいる。‥‥あいつらどんだけ俺をいびりたかったんだよ。引くぞ。
「大丈夫だったかい? 彼らもいきなり手に入れた力に酔っているんだと思うんだ。許してやってくれないか?」
ザ勇者な事を言ってくる光輝。結果として助けられた形になったので、言えないがこいつも勇者としての力に酔っていると思う。今回のだって前までならこんな事は言わなかった、どこか狂い始めている。いや、本性が力を持ったことによって出てきたということかな。光輝だけじゃない、先生も正義も山田さんも青山もクラスメイト達も大なり小なり力に酔っている。
「ああ、そうだな。(いつか必ず300倍にして返す)」
顔は笑顔を作りながら、心の中では真逆の事を考える。そもそも、なぜ俺が許してやらないとならない。嫌な事を言われて泣き寝入りする趣味はないのだ。
「そうかわかってくれたか。 ところで、僕いい情報を手に入れたんだよ。聞きたい?」
俺の思う中で一番の返しに、光輝は頷き、いい情報を手に入れたと言ってきた。
「いい情報?」
俺が聞き返すと得意げに勿体をつけ話し出す。
「うん、いい情報。 龍太くんも知っての通り普通に訓練するより魔物を狩ったほうが経験値が高いのは知っているよね? それでね、その魔物の中にも一際経験値が多くて、弱い魔物がいるらしいんだ。」
なんだそりゃ、まるではぐれメタ○じゃないか。もし本当ならぜひ狩って経験値をいただきたいものだ。
「それで、そのモンスターが何と‥‥。実戦訓練をやっている、森に出たらしいんだ。どうかな? まだ日が暮れるのにも時間が早いし今から行ってみないかい?」
おお、それは願ったり叶ったりだ。
「いくいく。あっ、でも今訓練中だろ?」
あまりの興奮に今訓練中という事を忘れてしまうとこだった。しかしそこは万事抜かりはないらしい。
「それなら大丈夫だよ。ラインハルトさんに許可は取ってあるからね。」
手が早いな、俺が断るとは思ってなかったなこいつ。
「そうか。じゃあ行こうぜ。」
そう言って、俺は駆け出す。はぐれメタ○的なモンスターか、これなら少しでもましな強さになるだろう。俺は、いい友達を持ったものだ俺なら人に言わないで独占する自信があるぜ。
「ちょ、まってよ龍太君。」
後ろから、光輝の慌てた声が聞こえてくる。だが今の俺は強くなれるかもしれないと、気がはやっているので止まらない。
それを見た光輝は苦笑いをした。
「全く、龍太君は本当にバカなんだから。」
そう呟いたあと、苦笑いはなりを潜め、代わりに誰も見たことがないほどの残忍な笑みを浮かべた。
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