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召転のルディア  作者: NTIO
壊れゆく日常
219/220

調教されてたらしい


 今俺は、学園都市の門の近くにある茂みの中に隠れていた。アリア、アイリス、シルヴァスや、イリス、ガウス、フィアリナの新しく俺の私兵となった3名も一緒だ。


 神軍の拠点へと鎧をとりに行くため一旦アリア達と別れた俺は、シルヴァスと一緒に門を潜るのも面談なのと、一緒に門を出たアリアとアイリスがいないのを怪しまれたらいけないのもあって上空から都市内に侵入。あ、因みに俺は貴族になったので俺と俺の同伴者は、都市に入る時にお金を払わなくていいことになっているので、そういういけない事はしていない。役得というやつだ。


 話が逸れたが、それはともかく、都市に侵入した俺は上空から神軍の拠点を見つけ、そこに降下した。空から降りてきた俺とシルヴァスを見た、使徒達が神のご降臨と言って大変な事になったがなんとか纏め上げて、イリス達の鎧を手に入れることができた。少しサイズが合わないとかそういうことが起こるかもしれないが、そこは我慢してほしい。そして首尾よく鎧を手に入れた俺は、明日学園の寮に数名でくる様にと指示を出してから、アリア達に合流して今に至る。


 俺は跪いて動こうとしない使徒や、歓喜のあまり俺の賛美歌を歌いだそうとした使徒を纏め上げるのは疲れたなと思いながら、後ろにいるイリス達に目を向ける。するとイリス達は神軍のあの仮面ライ○ーのようなあれを身につけていた。その鎧は俺が指摘したのをすぐに実行に移したのか、目の赤い部分が無くなっている。とんでもない行動力だ。これを注文された鍛治師は、うん、どんまいとしか言えないな。


 俺は顔も知らぬ鍛治師の人に黙祷を捧げながら、口を開く。


「いい? もう一度言うけど絶対に街中では兜を外さないように。 」


 俺はイリスとガウス、フィアリナに念を押すそうにそう言った。するとイリス達はどこか不備はないかをカチャカチャと体を回して、確認し俺に向き直る。


「「「分かりました。(はい。)」」」


 俺はそんなイリス達を見て、やっぱりおかしいと首を傾げた。イリス達に上下関係を教え込みはしたが、あまりにも従順すぎる。この効果が出てくるのは、街に入ってこの大陸で生活を経験してからじわじわと出てくるものだと予測していたんだが、それがどうだ。イリスは神軍の鎧に包まれていて、その顔は伺えないが、声色だけで使徒になる前のアリアと同じ様な気配を感じるし、フィアリナとガウスに至ってはカチャカチャという音が動いていないのにもかかわらず聞こえてくる。恐らく震えているのだろうが、一体どういうことだ?


 俺はここまで怯える様な事はしてない。いや殺気とかはバンバン出していたけどそれはイリスに対してだ。フィアリナとガウスには殺気が行ったとしても、ここまでなる事はまずないと言っていい。となると原因は他にある。俺以外の誰かに調教された、のだろう。俺は犯人に物凄く、ものすっごーく心当たりがあったので、その犯人であろう人物たちへと振り向いた。


 その犯人であろう人物達。アリアとアイリスは俺を見てニコニコといい笑顔を浮かべている。アイリス川で体を洗ったこともあり、血は大体取れたので、ショッキングな事になっていないのは幸いだ。血塗れでこんな笑顔を見たら、ちびっちゃうかもしれない。というかモザイクがかかると思う。R18指定なのは間違いないだろうからな。


 それはともかく、アリアとアイリスのこの笑顔はとても怪しい。俺が合流した時にアイリスがさっと拳を意識してやったのかはたまた無意識でやったのか知らないが、隠したのでやった確率はこの時点で999パーセント位あるだろう。それにこの何かを隠す様な笑い方。間違いない。黒だ。ブラックホールよりも黒い、真っ黒、黒だ。何をやったのかは知らないが、これは聞いておかないとなるまい。これから一緒に色々する中でギクシャクとしていたら支障が出かねない。


 そう結論付けた俺は、未だにニコニコと笑っているアリアとアイリスに話しかけた。


「アリア、アイリス聞きたいんだけどイリス達に何かやった? 」


「いいえ、何も。ただ坊っちゃまに仕えるに当たっての心構えなどはお教え致しました。」


「犬の調教と、猫の躾、耳の粛清くらいしかしてないよ! 」


 アリアは首を横に振ってから、えっへんと胸を張る。その時に人類の秘宝が揺れ動いて、思わずそっちに目線が行きそうになってしまった。まさか重力を操り、万有引力を思うがままにする俺が、別の法則、万乳引力に引き寄せられてしまうとはなんたる不覚!! でもなんだろうこの感覚。このまま引き寄せられて飛び込んでしまいたい! ‥‥はっ! 危ない危ない。危うく、アリアの胸に飛び込んでしまいそうになってしまった。流石パイザック・乳トン先生。このようなすごい法則を発見するとは尊敬します。


 さて、おふざけはさておきアイリスは隠すつもりはさらさらないのか、そう言ってからサムズアップかましてきた。どうやらアイリスの中ではガウスは犬、フィアリナは猫、イリスは耳というあだ名が付いている様だ。う、う〜ん。確かに的を射た的確なあだ名だと思うんだけどそれはちょっと可愛いそうっていうか、なんていうか。もうちょっと可愛いあだ名にしたあげたほうがいいと思うんだよね。いや、ガウスはどうでもいいけど。むしろ、ワンワンじゃなくてよかったと安堵してほしいくらいだ。アイリスならやりかねないしな。


「まあ、いいけどさ。はぁ。」


 俺ははぁと溜息を吐いてから、イリス達へと目線を移した。


「イリス、フィア、ガウスごめんね? アリアはまあ、まだ大丈夫だけど。アイリスは怒ると直ぐに手が出るから気をつけて。」


「はい分かりました。ルディア様。」


「分かった、です。ルディア、様。」


「うん分かった。ルディア様。」


 俺はカチャっと音を立てて頷いたイリス達を見て目を細める。イリスは自然だった。何も問題はないだろう。というか、口調が変わっている事が結構気になるのだが、まあいい。問題はさほどないからな。だが、だがしかし! ガウスが途中からぎこちなくなったのは怪しい。絶対に第三者からの妨害を受けたと推測できる。うん、アリア達だな。というか、ガウスが口を開いて分かったと言った途端、後ろから刃物かの様な鋭い視線が飛んできていたし。


 俺は、ジト目になりながらも、アリアとアイリスに振り向いてみるが、2人はなんですか? と首を傾げるだけだ。もういいや、この2人は俺には制御できん。俺に実害がでない限り、好きにされてあげよう。その方が、俺のためになると第六感がつげているし、尚更だ。うん。決してめんどくさくなったとか、そう言うのではない。決してない。


 俺は心の中でそう考えてから、イリス達に目を巡らせて、準備が整ったのを確認してから、口を開く。


「じゃあ行くか。僕の後ろを離れないように。」


「キューー! 」


 レッツゴーとばかりに歩き出した俺にシルヴァスが頭を擦り付けてくる。それを俺は撫でながら、門へと向かって歩いていく。後ろから、ぎこちない足音が聞こえてくるが、恐らくイリス達だろうな。


 今まで敵対してきた人間のみの街に入る事に緊張するのはわかるが、ヘマだけはしないでくれよ? あのいい人そうな門番を口封じのために殺さなけれないけなくなる。色々と後始末が大変なのでそれだけは勘弁していただきたい。例えば、門番をやった犯人として、適当な悪党を殺してでっち上げないといけなくなるからな。


「ああ、ルディア様お帰りですか? 」


 俺がイリス達に向けた目に、狂気的な色を宿していると近づいてきた俺に気づいた門番が話しかけてきた。それに俺は頷いて答える。


「そうです。試したい事も済みましたし、早めに帰ろうかと。」


「ま、まさか。それはドラゴンですか? 召喚魔法を試したいと仰っていましたがまさか、召喚なされたので? 」


「はいそうです。シルヴァスと言います。可愛いですよ? 」


「キュー! キュッ! 」


 俺が頭を撫でるともっと撫でろ! とばかりに頭を擦り付けてくる。俺はそれに対して、コリコリと爪を立てないように気をつけながら、掻いていく。シルヴァスはそれが気持ちいいのか、喉をゴロゴロのならして、目を細める。かわいい。今のシルヴァスを見たものは皆皆そう言うだろうな〜と思っていると兵士達の様子がおかしいのに気づいた。


 なんだかこう、どうしたものかとあたふたした感じだ。チラッチラッと俺のことを見ているし、俺関連の事に間違いないが、しかし、何を戸惑っているのかあちら側から口に出そうとしない。このままでは日が暮れそうなので、俺は話しかけた。


「どうかしましたか? 」


「あ、いえその‥‥」


 1人の兵士が俺に話しかけられて、さらに挙動不審になりはじめたが、もう1人の兵士がそれを肩に手を置くことで止める。どうやらその兵士は、挙動不審になった兵士よりは落ち着いて話が出来そうだ。


 俺がそう思っていると、兵士は口を開く。


「実はですね。調教師の職業持ちの人が魔物を連れて都市に入るには、魔物を冒険者ギルドに登録しないと入れない決まりになっておりまして、ルディア様は調教師ではなくそのドラゴンは使い魔という事ですが、ドラゴンは魔物という事に変わりはありません。ですのでルディア様も例外なく冒険者ギルドにそのドラゴンを登録するという事になるのですが‥‥」


「なるほど、つまりは今から私が冒険者ギルドに言ってシルヴァスの登録をしてくればいいのですね? 」


「はい、その通りでございます。」


 俺は顎に手を当ててさも分かりましたという表情を浮かべているが、心の中は結構ヤバい状況になっている。あ、あっぶねぇ〜。そういうあれな法に触れることやってたよ。騎士王ともあろうものが、そんなことをしていたとしれればスキャンダルは必至。この世界にマスコミがいるのかは知らないが、いたとすればいい記事の種だ。


 某騎士王、魔物を無許可で街に解き放つ!? とかなんとか、目に黒線入れられて号外配られちゃうよ。まっずいな。誰かに見られるとか、考えてなかったわ。まあ、幸い神軍の拠点がある所は、住宅街から外れているし、比較的人が少ない区画にあったのでなんとかなっていると思うが、絶対という事はない。神軍への口止めはするとして、他には周辺住民へは‥‥ないな。というか無理だ。不特定多数の誰が見たとか分からない中で、口止めを敢行した所で無意味だろう。


 覆水は盆に帰らずというし、無意味な抵抗は止めよう。ここはいかに噂が流れたとして、その噂って本当なのぉ〜? と思わせることが重要だ。つまりは俺の噂をガンガン流そうぜ! 作戦に移行する。手始めとして、神軍に街の巡回をしよう。悪行を働いた者を公衆の面前で捕まえたら完璧だ。ルディア様ったら治安まで維持してくださるなんてと言われる事請け合いだ。


 ふふふ、そして、巡回すると名目打ちながらも市井の調査。今はまだ持ち込んだばかりで起こっていないかもしれないが、俺が持ち込んだ大量の魔物の死体によってどれだけ、魔物の関連の商品の値段が下がるのか調査してもらいたい。


 俺の考えが正しければだが、これはものによっては使えるかも知れないからな。うん、明日神軍に話す内容にこれも加えておこう。


 そうと決めた俺は顎に当てていた手を離して頷く。


「分かりました。ではこれから向かうとしましょう。」


「ありがとうございます! では私が冒険者ギルドまでお供させていただきます。規則ですので、すいませんがお許し下さい。」


「別にいいですよ。気にしていませんから。それに実は私、冒険者ギルドへの道を忘れてしまいましたので案内して下さるとは、とても有難いです。」


 俺はホッと胸を撫で下ろした。勿論これは嘘だ。俺は智力が上がってから重要と思った事を忘れる事はなくなった。それは重要と認定されている冒険者ギルドまでの道なりも同じ。


 ではなぜ俺がこんな事をやっているのか。それは俺と話している兵士の人も、未だに緊張が全面に出ているもう1人の兵士と同じく、緊張している節が見られたので、それを解くためだ。おそらく俺の予想だが、兵士達が緊張しているのは俺の肩書きが原因だろう。


 そりゃあまあ、いきなり伯爵と同等の地位を有している騎士王に出向かれたらそうなるかも知れない。門を出る時もそうだったし。アルバイトの前にいきなり社長がなんの前触れもなく現れたようなものだ。だから、弱いところ、人間っぽいところを見せて、安心させる。これが狙いだ。さて、その効果は‥‥


「ハハハ! そうですか。ではこれは責任重大でございますね。心してご案内致します。」


 兵士は大声で笑って見せた。俺はそれを見てよしと頷く。これで、冒険者ギルドまでの道を兵士のぎこちないロボットダンスを見ながら行く事にならなくてすみそうだ。俺はそれを見て笑顔を浮かべる。


「頼もしい限りです。」


 俺は前を歩き出した兵士を見て、行くぞとアリア、アイリス、イリス達に合図を出してから、後を追ったのだった。


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



 今俺は大きい建物の前に来ている。その建物は3階建てをしていて、両開きのドアが印象に残る。冒険者ギルドだ。


 どこの冒険者ギルドも作りが同じなので、街に入ったらまずは冒険者ギルドを探し、そこから広がるように散策するのが王都までの旅路で習慣付いていたのは、いい記憶だ。ただテンプレというテンプレに合わなかったのが残念で仕方がない。異世界に転移、転生と誰もが夢見るものを二度経験した俺が言う事ではないが、一度、一度でいいからあのテンプレやってみたいと思うのは間違っている事なんでしょうか。


 はぁ、でもどうせこれから俺がテンプレに見舞われる事はない。どこに貴族にしかも、全騎士に命令権を持つ奴にそんな事をする奴がいるのだというのだろうか。いたとしたらそいつは底抜けのバカだ。そしてその底向けのバカが万に1ついたとしても、俺にテンプレをやる前に排除されるのがオチだ。あ〜あ 騎士王になる前に無理矢理でいいからやっておくべきだった。失態だぜ。


 俺が、ズーンと落ち込んでいると兵士がコツコツと両開きのドアへと歩み寄って、こちらに振り返った。


「こちらが学園都市支部、冒険者ギルドになります。では少々こちらでお待ちを。」


 そう言ってから、兵士はドアを開いて中に入っていった。多分これからルディアがきますよ〜とかいうのだろう。突然来たらパニックになるだろうからな。主にルディア教信者達が、な。


「凄いのですね。ルディア様は。アリアからルディア様は上級貴族のしかも国王直属の将軍と聞いた時は目が飛び出すかと思いました。」


 イリスがカチャと音を立てて、俺の隣に立ちそう言った。都市の中に入った時はビクビクしていたのだが、もう慣れてきたらしい。順応が早いのだろう。いい事だ。それにしてもアリア達からそこまで聞いていたのか。水浴びをしている時にどこまでイリス達に情報を出したのか後で聞いておこう。


 イリス達が知っている前提で話を進めて、実は知りませんでしたじゃ話にならないからな。例えば‥‥う〜ん思いつかないけども。


「そこまで凄い事ではないさ。魔族を倒しただけに過ぎない。」


「いいえ、それは凄い事だと思いますよ? 魔族は本来であれば軍で対処する一種の災害のようなものなのですから。」


「フィアもそう思う。お父様がわしだったらサシで勝負して勝てるかどうかって言ってた。」


 俺とイリスが話しているとフィアリナが会話に入ってきた。フィアリナが言うお父さんは相当強いのだな。魔族とサシで勝負して勝てるかどうかなんて、この王国にどれほどの数がいることやら。


 俺は例外として、メフィストはギリ勝つだろ。クソジジイもまあなんだかんだ言って勝つと思うし、あとはメフィストの事から考えて、SSランク以上は大体勝てるな。SSSは見た事ないからわからないがこれも勝てるな。まあ、その全てが人外と言われる領域なので、3桁行くか行かないだろうな。本当よく人類生き残っているよ。

 

 どんな手品を使ったら魔族に滅ぼされないで済むんだ。意味わからん。物量作戦ならあるいはというところだが、それやってたらこんな栄えてないしな。やっぱりわからん。


「だけどね〜。そうは言っても10万くらいいる魔族の内のたった一体な訳でしょ? それを倒しただけでそんな騎士王だなんだって。1000くらい倒したなら分かるけどさ。まあ、騎士王は僕の計画に丁度いい地位だったからありがたくもらったけど。」


「「「じゅ、10万!? 」」」


 イリスとフィアリナ、しかも話に加わってなかったガウスまでもが、俺の話を聞いて、声を荒らげた。兜をかぶっているので分からないが、体をのけぞらせている事から相当驚いているのが伺える。顔には驚愕の二文字が張り付いている事だろう。ていうか、オーバーリアクションだな、おい。外人さんか。外人さんだな。別大陸から俺が召喚したんだし。


 俺がイリス達を見てそんな事を考えていると、イリスが飛びついてきた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! ださい! この大陸には10万も魔族がいるのか!? 」


 イリスは俺の事を力一杯揺すってくる。俺は揺れる視界の中で、殺気を滾らせているアリアとアイリスを目にした。それは、通行人があ、あの人やばいと逃げ出すほどにヤバいアレだ。アレとは口にする事も憚れるアレなわけだが、それはともかく、このままではイリスが危ない。アイリスに首を飛ばされる。


 全くさっきもアイリスはヤバいと教えたばかりでしょうが、先生、覚えの悪い子は嫌いですよ?


 俺はキツイ家庭教師のような事を心の中で言ってから、まあまあとイリスに話しかける。


「お、落ち着きなって。いきなりどうしたの。確かにその位いるって聞いたけど。」


「大丈夫なのかこの国、いや大陸は‥‥今日明日にでも魔族に支配されるのではないか? 」


「それはなんとかなっているみたいだね。まあ、僕もどうして人類が滅びてないのか不思議でならないんだけど。」


 俺の言葉を聞いたイリスは一歩二歩と下がって行き、しゃがみ込んでしまった。ガウスとフィアリナまでもが、しゃがみ込み3人ともブツブツとなにやら呟いている。耳を澄ましてみると、呟いている声が聞こえてきた。


「「「ヒューマン怖い、ヒューマン怖い、ヒューマン怖い‥‥」」」


 うん、なんかおかしくなっちゃった。イリス達は余程、魔族10万が衝撃的だったのか、どこかの世界に旅立ってしまったようだ。イリス達の反応からして、向こう側と大陸には魔族はこちら側と比べて、かなり少なかったのだろう。それで、こうなった訳ですか。


 例えるとあれだろうか、夏休みの宿題が10pだけと思ってたら、学校が始まる直前で実は30pと知った時のあの絶望感と同じだろうか。いや〜あの絶望感半端ないもんな。死ぬかと思うもの。そして、学校初日に今日忘れましたという最終奥義を切っちゃうくらいだもの。分かるよ〜すっごく、よく分かるよ。あの時はふて寝したね。


 ふぅ、俺の宿題あるあるはさて置き、ヒューマン怖いをずっと呟いているイリス達が、ヒューマンである俺は怖い訳だが、壊れた玩具のようにずっと呟いているこの子達をどうしたものか。


 ヒューマン怖くないよ〜と、いないいないバァでも、かましてやるか。


「お待たせ致しました。ルディア様どうぞお入り下さい。」


 俺がフフフとイタズラげな笑みを浮かべてイリス達ににじり寄っていると、ドアを開き、兵士が冒険者ギルドの中から出てきた。チッ、あと少しでいないないばぁやれそうだったのに。まあいいか、あとでやろう。お楽しみはあとにとっておいた方が、面白みが一層増す。


 俺はそう考えて、兵士に向き直った。


「はい。ほら、イリス達もそこでしゃがみこんでないで行くよ! 」


 イリス達は俺に言われて、立ち上がったがヒューマン怖いという声だけは止まない。見方によってはゾンビ映画に出てきそうな奴に見えるし、兵士の人がどうしたんだろうという顔を浮かべているのでいい加減元に戻って貰いたいものだな。また変な噂が立つかもしれないしな。ゾンビマスター、ルディアと呼ばれた日には俺泣いちゃう。


 俺がそんな事を考えながら、イリス達に目を向けて歩いていると、ドアの前にたどり着いた。兵士は1つ礼をしてからドアを勢いよく開く。


「ルディア様のおな〜り〜 」


 開かれたドアの向こう側には、見慣れた冒険者ギルドの光景が広がっていると思いきいや、全然広がっていなかった。まずは入り口から、受付まで固めるように跪いている神軍。そしてその後ろで祈りを捧げている人々。うん、ルディア教だ。


 神軍の構成員はギルドに入っていると言っていたし、きっとギルドに来ていた人達だろう。跪かれている側としては、もう慣れたのでいいが、やる場所を選んでほしいと声を大にして言いたい。


 今もルディア教の人達をみて、顔を引きつらせている人達が、ちらほらと見られるしなにより俺がやらせているみたいだ。それは些かまずい。俺が変な貴族と思われるかもしれない。そして、種が芽吹きにくくなるかもしれない。まあでもいいか。


 芽吹くかもしれない種の心配よりも既に芽吹いたものを優先すべきだ。俺の行動如何では、その芽吹いたものが水の泡となってしまうからな。そうと決まれば、するべき行動はただ1つ。


 俺は跪いている、ルディア教と神軍達ににこやかに手を振る。すると、全員目に涙を浮かべた。中には訳のわからないことを呟いている人もいるが、放っておいていいだろう。古代言語とかそういうやつだろうな。ルディア様、今が食べごろとか俺には全く理解できません。読解不可能です。


 俺は背中に少し冷やせを流しながら、受付へとたどり着いた。受付にはただ1人の受付嬢がいた。見るからに新人といった感じで、俺をみて氷像の如く固まっている。他の受付嬢はどこに行ったのだろうかと目線を巡らせてみると、奥の方にチラッと受付嬢が覗いているのが見えた。


 ほほう、あれですかい。相手は怖いのでこの子に押し付けて逃げたのですかい。あ〜あ、完全に怖がられていますわ。ビビるのはいいけど、この子に押し付けるは少し頂けんな。自分でいうのはなんだけども、こういうのはベテランが対応して、粗相がないようにするべきじゃないんですかね。それをフッ、 新人に押し付けるとか‥‥腐った腐臭が漂ってきやがる。このギルド潰すか?


「きょ、今日はどのようなご用件でしょうか! ルディア様! 」


 俺が危ないことを考えていると、固まっていた受付嬢が詰まりながらも、声をかけてきた。それに対して俺は、目に宿らせていた殺気を解き、笑顔でシルヴァスを撫でながら答える。


「シルヴァスの登録に来ました。お願い出来ますか? 」


「か、かか、畏まりました! 只今其方に‥‥」


 受付嬢はゴソゴソと受付に置かれている箱から何かを取り出し、スタタタッと駆け足で受付から出てきた。その手には輪っかのようなものを握っている。あれが、登録に必要なものなのだろうか? だとしたらやけに安っぽいものだな。誰でも作れそうな感じがするんだが。


「失礼します! 」


 受付嬢はなぜかシルヴァスにお辞儀してから、シルヴァスの腕にその輪っかを通した。すると、その輪っかが輝きだす。成る程、冒険者カードと同じく何か仕組みがあるのか。まあそれはそうだな。登録がそんな簡単に作れる物のわけないもんな。あれで、登録しているかどうか識別する機能がついているのだろう。


 輪っかは徐々にその光を小さくしていき、やがて元に戻った。そこには先ほどとはなんらかわらない輪っかがサイズを変えて、シルヴァスの腕に合わせるように、ついていた。それを見た受付嬢は1つ頷く。


「これで登録は完了しました。街中では必ずルディア様がそばにイテクダサイネ。」


 最後はカタコトになってしまったが言わぬが花という奴だろう。俺は頷き返す。


「分かりました。あとですね。もう1ついいですか? 」


「は、はい! なんなりと! 」


「私が前にここに持ち込んだ魔物の査定終わっていますでしょうか? 後日知らせを出すと言われていたのですが、今日は折角冒険者ギルドに来ましたので、査定が終わっていたのであれば、今日受け取ろうと思いまして。」


「少々お待ちください! 今確認してまいりますので! 」


 受付嬢はそう言ってから奥に見える階段へと駆け足で向かって行って、姿を消した。俺は先ほども言った通り今日報酬を受け取るつもりだ。何度も足を運ぶのも面倒だし、時間が勿体無い。そんな時間を割くくらいなら、俺は図書館に篭りたいし、ヴィオラちゃんのところに顔を出したいし、魔物狩りに行きたいし、スイーツ巡りしたい。やりたいことが山ほどあるのだ。1分1秒たりとも無駄は嫌だ。だから今日中に受け取りたい。査定が終わっていたらの話だけどね。


 俺がそんなことを考えていると、レヴィが話しかけてきた。


(貴方、以外とセッカチなのね。生き急いでも何もいいことないわよ? )


 いやいや、これでもゆっくり進んでいる方だよ。俺は人間だ。いずれ寿命というものが来る。だから俺は死ぬその時に後悔はしたくないんだ。やりたいことは全てやって、もう後悔はないと言うところで俺は死にたい。そのためにはダラダラとは出来ないんだよ。人生は計画的に進めないとね。


(そう、素晴らしい夢じゃない。でもね。そう、うまくいかないものよ? 人生っていうものは。)


 おいおい、言うじゃないか。魔剣なのに人生を語るなんてな。


(それを言うなら貴方も、7歳児が何を語っているのよ。笑えるわ。)


 笑うな。笑ったら、魔剣でおっさんのウィンナーを調理するからな。


(や、やめて! それはやめて! ごめんなさい、本当にすいませんでした! )


 ふっふっふ 分かればいいのですよ。分かれば。


「ルディア様お席をご用意しました。どうぞお座りを。」


 俺とレヴィがそんなやり取りをしていると、神軍の1人が椅子をおいて、ささっとばかりにそう言ってきた。俺はレヴィとの会話に意識を持って行かれていたので、気づかなかったが俺達を囲むように、神軍とルディア教の皆様がいた。


 それぞれ手に飲み物やら大きなうちわやらを持っていた。うちわは一体どこから取り出してきたんだと言いたくなるくらい大きいのだが、気にしたら負けだろう。俺はどっかりと椅子に座る。そして差し出された飲み物を受け取り飲み干した。


 これは別に俺が王様気分だぜ! わっしょい! とかそんなことを考えてやっている訳ではない。むしろ気分は下降していると言っていいだろう。恥ずかしいことを極まりないからな。


 では何故俺がこんなことをしているのか、それは使徒がそれを望んでいるからこれに限る。俺がその意思に反した行動をしてしまえば、狂気感染が解けるかもしれないからな。悪感情を抱く可能性が1パーセントでもあれば、俺はその選択肢を避けざるおえないのだ。


 まるで使徒という意思の操り人形だと自分でも思うが、こればかりは仕方ないと割り切るしかない。大事な戦力だからな。


「ありがとう。貴方達の忠誠に私は心から感謝しています。これからもよろしくお願いしますね? 」


 俺は足を組んで、輝くような笑みを浮かべた。すると神軍の1人の男が声を張り上げて答えた。


「ハッ! 我ら神軍は常にルディア様と共にあり、剣であり、盾であり、下僕! ルディア様の覇道を阻むのもであれば、例えなんであろうと、誰であろうと切り捨てる所存です! ですので! ルディア様はただ前を向いて頂ければ結構でございます! 我らが例え命を賭してでも、切り開きますので! それはここに居るもの皆同じ気持ちにございます! 」


「「「その通りでございます! 」」」


「全てはルディア様の御心のままに! 」


「「「全てはルディア様の御心のままに! 」」」


 もう最終的には大合唱みたいな感じになってしまったが、まあいいだろう。やっている側は満足そうな顔だ。これを見たギルド内の冒険者達は俺に畏怖が大量に込められた目線を送ってきているが、そこまで驚く事でもあるまい。どこの宗教の狂信者も同じようなものだろう。ただそれがルディア教の場合、色濃いだけだけであってそれを除けば健全な一般市民だ。それに俺がきちんと正しい方向に導けばいいだけのこと。


 毒は使いようによっては薬になるんだ。フハハハハ!!


 俺はイリス達が背後でなんて事だと呟いたのを聞いたが、チラッと視線を向けるだけで何も言わない。自分たちが入る事になる軍隊があれなのを見て、ショックでも受けているんだろう。


「これはなんの騒ぎだ? 」


 俺がそんな事を考えていると、嗄れた声が聞こえてきた。俺はイリス達に向けていた視線を前方に戻す。するとそこには杖をついた老人と、先ほどの受付嬢がいた。この老人は誰だ? と心の中で呟くが、俺は老人の目を見てそんな事などどうでもよくなった。


 何故ならその目は、俺を軽蔑し、見下す色がありありと伺えたからだ。


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