暗黒領域に引きずり込むな
「頼む! この私を奴隷にでも何でもしていい、例えどの様な仕打ちでも喜んで受けよう! だからフィアリナ様とガウス様の安全の保障、衣食住の確保をお願い出来ないだろうか!? この通りだ! 」
「な!? 何を言っているんだイリス! 奴隷ってあ、ああ、あんなことやこんな事をすんだぞ!? 」
「お兄ちゃん、あんな事ってなぁに? 」
イリスが言った事に対してガウスが耳と尻尾をピンと立たせて、顔を赤らめ声を荒らげた。そのガウスの反応を見てあんな事の意味が分からないのか、フィアリナはガウスの裾を引っ張り首を傾げて聞く。ガウスはそれを受けて挙動不審になるが、俺はそれをジト目で見つめていた。
このマセ餓鬼が、あんなことやこんなことをどこで知ったのやら。確かにそんなのが気になり出す時期だが、それらで得た桃色の知識を人に当てはめないでくれますかね。俺はそんな破廉恥な事は相手が同意しない限りしないんだよ。
それにな、俺は7歳児だぞ。そんな俺に一体なんの期待をしているんだ。7歳児と立派な大人の女性がフュージョンなんてショタコンな人がヨダレを垂らしそうなシュチュエーションじゃないか。そんな暗黒領域に俺を引きずり込もうとは‥‥。もう1度言おう、俺に一体なんの期待をしているんだマセ餓鬼が。モフるぞワンコロ。永遠に妹に、あんな事ってなに? って聞き続けられるがいい。俺は助けんからな。
俺はフィアリナに詰め寄られているガウスから視線を逸らして、イリスに目を向ける。イリスはガウスとフィアリナのやり取りなど、気にせずに地面に頭を擦り付けていた。俺はそれを見てはぁ、とため息をつく。追い込みすぎた、か。まさか奴隷まで行くとは思わなかった。俺は奴隷は欲しくないんだけどな。
なんていうか、奴隷っていう言葉が気にくわない。俺の考えでは、奴隷はどうしようもないゴミカスを馬車馬の如く使うためにあるものだと思うんだよね。荒地の開墾から、戦争の時に特攻として使ったり、はたまた凶悪な魔物の退治とかをさせたりとかな。だがらそんな奴隷にイリスをするつもりはない。それにあくまで俺の私兵としてイリス達がほしいんだ。そこんとこ間違えないで貰いたい。俺は奴隷をジョーカーにするつもりなんてないんでな。
俺はスッと目を細め、人によっては狂気とも取れるような色を宿しながら首を横に振る。
「イリス貴方の提案は大変嬉しいものだけど。でも僕は奴隷は要らないだ。だg‥‥」
「そんな! どうかフィアリナ様とガウス様だけでも! 」
俺の言葉を最後まで聞く前にイリスは、顔を上げて悲痛な声を上げ俺に縋り付いてくる。そのイリスの顔は絶望で彩られており、これからの事に対してどんな事を考えているのかは知らないが、決して前向きではないことが頭の中を埋め尽くしているだろう。そんな事を予想するのは想像に難くない。今にも泣き出してしまいそうだ。目に涙が溜まっていっているし。
恐らく、イリスは俺が自分達を助けてくれない、とでも思っているのだろう。全く早とちりにも程がある。そんなんでは交渉ごとには向かないな。相手の言葉は最後まで聞くものだぞ。割り込むなんてご法度だ。交渉が終わる前に首が飛ぶからな。多分これは、俺と交渉する場合が特殊なんだろうけども。
俺は後ろで既に武器を召喚しているアリアとアイリスを見て、ゲンナリとする。これじゃあ俺が、交渉を成功しようがしまいがアリアとアイリスが武器をチラつかせてこっちに有利な条件を引き出すのでほとんど意味がない。まあ、そこで相手に自分も有利な条件がある! と思わせるのが俺の腕の見せ所なんだけどね。はぁ、一介の高校生だった俺にはきついっすよ。マジで。1日でいいからなにも考えないで、日向ぼっこしながら眠り続けたい。
俺はおじいちゃんのような事を考えて、日向ぼっこに思いを馳せながら、縋り付いているイリスの涙を拭い、笑顔を浮かべる。
「そんな慌てないで、最後まで聞いて。奴隷は要らない。でも駒は必要なんだ。いくらあっても困らないと言ってもいい。そこで提案なんだけど僕の私兵にならない? 」
「私兵だ、と? 」
イリスは俺の言葉を聞いて目をパチパチとさせ、首を傾げた。ガウスに詰め寄っていたフィアリナも、フィアリナに詰め寄られていたガウスも首を傾げている。というより聞いていたのか? あれだけ見ている方が、居た堪れなくなるような応酬をしていただろうに。
あ、耳がいいのかな? よく聞こえそうな耳持っているもんな。きっとそうだろう。ならば話が早い。後でフィアリナとガウスに説明する手間が省けた。ここで、3人同時に説明するとしよう。俺の私兵になる事でどのような利点があるかをね。俺は1つ頷いてから、説明を始める。
「そう、私兵。神軍って言うんだけどあそこならばフィアリナと同じ年齢の子供もいるし、神軍の鎧を着ちゃえば、亜人ということは全然分からないだろうからね。それにあそこは僕に絶対な忠誠を誓っている人しか居ないから例えばれたとしても、なんの問題はないよ。まあ、極力バレる事は避けたいから、僕の護衛として近くにいてもらう事になるけど。もう既に親衛隊というものがあるからそこに入ってもらう事になる。」
俺は人指しを立ててペラペラと喋ったが、俺に縋り付いているイリスの顔をは険しくなるばかりだ。それだけではない、ガウスも俺に軽蔑の眼差しを送り、フィアリナは耳をペタンとさせガウスの背中に隠れている。俺はそれを見て首を傾げた。なんでそんな顔をするんだ? 俺、何か言ったか? さっき言った言葉を振り返ってみても全く分からないんですけど。うむむむ‥‥
俺は立てていた人差し指でこめかみをグリグリとしながら、考えて込む。俺はちゃんと神軍に入る利点を言ったぞ? イリス達にとっては身を隠せる場所はとても価値のある物の筈だ。では何故そんな顔をする? ん〜不満なのか? 意外と欲張りだな。‥‥あ! 俺、肝心な事は言い忘れてたじゃないか! そうそれは‥‥
金だ。それはそうだよね。給料を明確にしない雇い主にそんな顔をするのは当たり前な事だ。うんうん。その反応はいたって普通ですよ〜。それが無ければ生きていけないんだからな。俺とした事が抜かったわ。
俺はこめかみを人差し指でグリグリしていたのをやめ、手をポンとつく。
「あ、お金の事なら心配しなくて大丈夫だよ? 月に、そうだね。一人につき銀貨40枚用意しよう。因みにこの額は大人2人を養って有り余る額だから安心して。それと仕事の内容だけど‥‥」
「金の事ではない! おい、先ほど子供と言ったか? つまり貴様は子供を兵士として使っている。そういう事でいいのか? 」
イリスは俺に縋り付いている手にグッと力を込め、目に殺気を宿らせてそう言ってきた。俺はそれを見て、なるほどそっちかと頷く。俺は今まで大人よりも強い子供達や、頭の回転が早い子供達を見てきたから忘れかけていたが、子供を兵士して使う事は本来であれば唾棄されてもおかしくないような事だ。
それを目の前で平然と語り、しかも自分の守るべきものまでその対象とされればそうなってもおかしくないだろう。だが、その考えは甘い。甘いよイリス。角砂糖のような甘さだ。お前はさっきなにを見た? 目の前で俺たちがなにをしたのかすらもう忘れたのか? それに頭に血が上って当初の目的を忘れているな? うんポンコツだな。アホフやはりアホフか。
俺は使えるものは使う主義だ。力を与え、金を与え、希望を与える。そしてその対価として、俺の計画を成功させるための駒になってもらう。別に悪い事ではないだろう。俺が与えるものはどれを取っても本来であれば得られないほどの価値が有ると言い切れるし、そうであるようにと心がけている。
みんなの期待に応え、その通りに動き、理想のルディア・ゾディックを演じている。それに神軍のみんなはそれを望んでやっているんだ。それになんの問題がある? 唾棄したければするがいい。だが、その甘い甘い考えを俺に、俺達に押し付けるな。甘いものは糖分で十分だ。
俺は手を上げ、イリスが二度も俺の話を遮った事に対して殺気をまき散らしているアリア達に手を出すなと指示を出してから口を開く。
「何を勘違いしているのか知らないけど、神軍にいるもの全員は自分で志願して入っているし、それに全員イリス、貴方よりも圧倒的に強いですよ? 傷1つ付けられないくらいにね。勿論子供も含めてです。」
「にわかには信じがたいな。ヒューマンの子供が森守の私よりも強いことなど‥‥」
イリスは俺の言葉を聞いて、疑惑を滲ませた声色で返してくるが、途中で俺達を見てハッとなった。どうやら気づいたようだ。目の前にその森守よりも強い子供がいることに。俺はそれを見てニヤリと口元に笑みを浮かべて、ドッと魔力を放出する。何故か俺が魔力を放出したすぐ後にアリア、アイリスそしてシルヴァスまでもが魔力を放出したが、まあいいだろう。
これでより効果的にイリス達に分からせることが出来る。誰が上で、誰が下か、をな。神軍に入るのだとすれば使徒になっていないイリス達にそれを分からせないと、何か支障が出るかもしれないからな。こういうことはビシッとやらなければ。
俺はそう考えて、イリスの肩に手を置き更に魔力をもはや大瀑布のように放出してから口を開く。
後1つ




