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召転のルディア  作者: NTIO
壊れゆく日常
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ジョーカー


 俺が口元に邪悪な笑みを浮かべているとついにゲートが音も立てることなくスーッと消えた。出てきた時とは大違いで静かなものだ。ゲートの先にケモ耳、エルフ耳天国が広がっていてそこをゴミカス共が荒らしている思うと胸にくるものがあるが、今は我慢。


 どうせあっち側に行ったとしても今の俺に出来ることなんて無いに等しい。ゲートが現れ、消えた時間から考えて俺があっち側に行き、兵士共を皆殺しにする事は容易い。軍の規模にもよるが長くても5分はかからないだろう。だがあっち側にいる兵士達を皆殺しにしたとしてなんの意味も無いのだ。


 何故ならそんなことしても援軍が来るし、俺はゲートが開いている間しかあっちにいれないからだ。悪いけど、俺はやる事があるのであっちに残るという選択肢は無い。つまり俺は一回限りの強力な助っ人にしかならない。別に一回で戦争が終われば良いのだが、そうなる事は無いだろうからな。絶対に報復として援軍は来る。これは絶対だ。


 そして今度こそイリス達の国、ユグドラシルは完膚なきまでにやられ、国民全員奴隷になるだろう。いや、軍を皆殺しにした事で更に扱いは悪くなるかもしれない。ではこっち側に連れてくれば良いのでは? となるかも知れないが、それは無理だ。一体何人いるのかは知らないが、国なんだ。数百人という事はあるまい。数百人程度なら俺の私兵として雇い、その対価として衣食住と安全を提供する事と亜人ということを隠すという事が出来るが、さすがに千人を超えると厳しい。


 騎士王としての地位、ルディア教を使ったとしても限度というものがあるからな。心苦しいが、仕方ない。機会があれば、俺の持つもの全てを使って助けると約束するので許してくれ。


 俺はふぅ、と息を吐き、一度目を瞑って淀んでいた心をリセットしてから、辺りに視線を巡らせる。


 辺りには召喚魔法をする前と同じ光景が広がっている。まあ、所々に血のシミがあったり、鎧の破片があったりと違うところが多々あるが、魔法陣を消しさえすればこれらは全て魔物のせいにすることができるので大丈夫だろう。きっとこの森には凶悪な魔物が住み着いてんだろうなぁ。こんな規模で森を目茶苦茶にできるとはコワイデスネー


 俺はそう考えてから、未だにイリスに顔を埋めているフィアリナにチラッと目線を向け、驚かせないように心がけながら重力操作で魔法陣をぶっ壊しにかかる。ドガン! とかバゴン! とか俺の心がけとは全く正反対の音が響き渡るが俺は、もう仕方ないよね〜 だって壊す時に音鳴らさないとか不可能だし〜と思いながら魔法陣を破壊していく。案の定というかなんというか、フィアリナが音が鳴るたびにビクッ! と震えているが、俺はそれを見て、はぁはぁと危ない考えが湧いてきた。


 ネコ耳が、ピクピクって‥‥可愛い‥‥! 本物の、エセじゃ無い本物のネコ耳、ヒヤッホォォォ!! もっと見たい。あれかもっと大きい音を鳴らせば良いのか? ウヘヘヘ‥‥いやいや! だめだぞ俺。落ち着くんだ。


 もしそんな事をしてしまえば、嫌われる事は必至だ。それではあの素晴らしいネコ耳を同意のもと堪能出来なくなってしまう。それはだめだ。ケモミミは両者ウィンウィンの関係でこそ真価を発揮する。ならばここは見てはぁはぁするだけにとどめよう。そうしよう。


 そうと決めた俺は頭を横に振り余分な煩悩を払ってから、フィアリナに気づかれないように視線を向けつつ、魔法陣があった痕跡が残らないように地面を粉々にした。壊し残しが無いか確認してから俺は一度、フィアリナに視線を向けて存分にケモパワーを補充してからイリスに目線を移す。イリスに聞きたい事があるのだ。それはこの大陸でどのように暮らすのかという事。考えがあるのであれば別に良いが、無いのであれば先ほどのお詫びとして俺が私兵として雇い、面倒を見ても良い。


 ああ、別にこれはただの善意だけでやろうといわけではない。エルフや獣人はこの大陸にはいない。これは言い換えれば、この大陸の人間はエルフと獣人が使う技に対する免疫がないとも言えるのだ。


 つまりはこれをうまく鍛え上げる事ができれば、絶大な威力を誇る初見殺しになる、かも知れない。ジョーカーを手に入れるためとあらば俺はどんな経費も惜しまないのでイリス達にとっては俺の提案に乗った方が良いと思うけどな。イリス達は良い暮らしが出来る、俺はジョーカーの可能性を秘めた種を手にできる。両者ウィンウィンな案だ。


 俺としては、イリス達がこれからの生活に対して具体的な案を持っていない方が良いのだが、さてイリス達はどんな考えを持っているのかな? まあ持っていたとしても俺の鍛え上げられた口八丁で、俺の望む方に気づかれないように誘導しますけどね。


 俺はフフと一瞬邪悪な笑みを浮かべ、イリス達が生活に対して具体的な考えを持っていませんようにと思いながら、口を開く。


「さて、ゲートが閉じたわけだけど。これで君達は元いた大陸に帰れなくなったね。それで君たちはどうするの? 前にも言った通りこの大陸は亜人という存在が確認されていない。言い換えれば、言い方が悪いかもしれないけど君達は貴重な人種となる。そしてその貴重な人種を奴隷狩りが放って置くはずがない。」


「な、何が言いたい。まさか私達を奴隷として売る気か!? 」


 イリスは、突然真剣な顔つきになり声色が低くなった俺に顔を強張らせ、フィアリナとガウスを抱きしめて、声を荒らげた。どうやら、俺がイリス達を奴隷として売ろうとしていると思っているらしい。俺はそれを見て、ふっと笑みを作る。やっぱりイリス達は俺、というより人間に対してかなり警戒心を抱いているようだ。


 まあ、それは分かっていたんだけどね。ではなぜわざわざ俺が、イリス達を刺激するような事を言ったのか。それはイリス達に今の自分達の現状をしっかりと認識させるためだ。これをする事によって、自分たちがいかに危険な現状なのかを分からせ、ここで安易な考えを捨てさせる事が出来る。例えば、この大陸の人間ならば私達を奴隷として見ないのではないかとかな。ククク そして次でイリス達に自分たちがなにを考えたとしてもそれは悪手だと思わせる。チェックだ。


 俺は心の中でほくそ笑みながらしゃがみ込み両頬に手を当てて、声に心配という感情を乗せてイリスに話しかける。


「違うよ。僕が言いたいのはこれからどうやって生きていくの? っていう話さ。街に入る事が出来ない中で、衣食住や、盗賊、魔物の様々な問題についてイリスは考えがあるのかい? 」


「それは‥‥」


 イリスはフィアリナとガウスを抱きしめたまま俯いた。どうやらしっかりと、なにをするにしても悪手という事を分からせることができたらしい。生活の基本的な要件、衣食住をしっかりと満たす為には人の社会に入る事は重要だ。


 だが、住む所は都市に入るにしてもお金が必要だし、軽く不審者じゃないかという確認があるのでまず入ることが不可能。そして運良く入ることが出来たとしてもお金がないんじゃなにも始まらない。冒険者としてやっていこうにも身を隠す手段がないイリス達にはそれも出来ない。では村という方法があるがそれも出来ない。村は閉鎖的なところが多いからなぁ。


 衣食住の内の住ただ1つですら、ないない尽くしの八方塞がりだ。しかも他の衣食も同じような理由でダメ、ムリしかない。フフフ、さてこのままでは死期が少しだけ伸びただけという事になるぞ? イリス。


 それは貴方も分かっているはずだ。この状況を脱却する為には誰かに頼り、後ろ盾になって貰うしかない。じゃあ誰に頼る? 今イリス達がこの大陸で頼れるのは怖くとも、人であろうとも、ただ一人、そう俺だ。イリスの選択肢はAもBも俺に頼る一色に染まっている事だろう。さあさあ! 俺を頼れ。そうすれば、望むものを用意しよう。魔王みたいに世界の半分を用意する事は出来ないけどな。


 俺がそう考え怪しい笑みを浮かべていると、イリスがバッと顔を上げてから、抱きしめているフィアリナとガウスを離して土下座をしてきた。俺はそれを見て目をパチパチとさせる。は? 何故に土下座? 俺を頼るという事でいいのか? 言葉で言ってくれればいいものを。こんな美人さんを土下座するまで追いつめるとは、誰だそんな鬼畜な所業をした奴は。俺か。


 イリスは俺がそんなふざけた事を考えているとは知らずに綺麗な土下座を維持したまま口を開く。

今日は後2つ投稿します。

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