別大陸の住人③
俺はふっと笑みを浮かべてからゲートに手を翳す。そしてその手のひらに本気のプラズマキャノンの生み出していく。今生み出しているプラズマキャノンは今までボコスカ撃ちまくっていたプラズマキャノンとは異なり、完全ではない今ですらとんでもない光量を発している。完全な物となれば普通の人では目を開くことすら困難な程になるだろう。威力としては正直にどれほどの物かは分からない。
だって撃った事ないんだもん。撃つ程の相手がいなかったとか、試し射ちをする場所がなかったとか様々な要因が重なってそうなった訳だが、どれくらいの威力なんだろうな。都市を吹き飛ばすか、国を吹き飛ばすか、はたまた地図を書き換える羽目になるものか、まあいいやなんとかなるだろ。
俺は考えるのが面倒くさくなって来たので、ほへ〜っと楽観的な捉え方をする事にしてから此方に一体なにをするつもりなんだという視線を送ってきているイリス達に視線を向けて口を開いた。
「あの、ボケっとしている所すいませんが早くあのゲートを潜る準備をした方がいいですよ? 今もどんどん縮んで行っていますし、今度また僕が貴方の大陸にゲートをつなぐ事ができる保証はありません。確率で言えば、ないと言っていいほどに低いので。ですから僕がこれを放ったすぐ後にゲートを潜ってもらいます。なに、安心してください。これを放ったあちら側は灼熱地獄になっているでしょうが、僕が保護しますので皆さんは無傷であちら側で暫く活動出来ます。」
そう、なんとなんとの安全の保障付きだ。あちら側に行く時に重力バリアを張ってあげて灼熱地獄の中でも何とかなるだろうという安直な考えだが、俺の脳内では困った時は重力バリアという方程式が成り立っているのでまあいいだろう。‥‥死んじゃったらごめんね☆
「いや、それはできない。」
俺がキラッ! と効果音がつきそうなてへぺろを披露しているとイリスが首を横に振り、そう答えて来た。それを聞いた俺はバッと勢いよく振り返り目を見開く。なん、だと。自分たちの故郷に帰りたくないのか? 渡航技術が発達するか、もしくはイリス達の大陸の場所がある方角が分からないかぎり二度と帰れないんだぞ?
それにこの大陸には亜人の国家が存在しない。つまりは亜人の人権を保障する所がない事を示しているんだぞ? その意味がわからないのか!? イリスお前はフィアリナとガウスの2人を守るのが任務なんだろ! それならばここは帰ること一択しかないんじゃないのか!? このアホフが!!
「なぜですか!? ゲートの先に繋がっている場所が戦場なのは分かります。そして貴方達亜人が一方的に蹂躙されているという事も! ですから僕がゲートから攻撃をたたき込みあちら側の一帯を全て消し飛ばすんです! そうすれば安全でしょうし、先程言ったように今を逃せば貴方達が帰る事ができる可能性はグンっと低くなるのですよ!? 」
俺が声を荒らげてイリスを説得しようとするがイリスはフィアリナとガウスを抱きしめ俺をじっと見つめてくるだけだ。俺はそれを見て苛立ちが積もっていく。この馬鹿野郎。ここまで言っても分からないのか!
俺はああもう! クソが! と悪態をついてから手に生み出していたプラズマキャノンを握り潰し、ドスドスと足音を鳴らしながらイリスに詰め寄る。俺は近づくたびにフィアリナが酷く怯えるが俺は気にせずにイリスの肩に手を置いて、目を見ながら言い聞かせる様にいいですか? と荒っぽく話しかける。
「いいですか! それにこの大陸には亜人は確認されていません! という事はです! 貴方達は街すらまともに出歩けないんです! 悪い事は言いません、ゲートが閉じる前に早く! 」
しかし俺の説得は虚しくイリスは先ほどより大きく首を横に振った。俺はそれを見て歯を食い縛る。なんで分からないんだ。全く知らない世界で生きる事がどれ程辛い事で、幼いフィアリナとガウスにとって命取りな事かすらも分からないのか。もういい、関心した俺の間違いだった。俺は何もしない、勝手にしろ。奴隷にでも、魔物の餌にでもされるがいい。だが、そんな馬鹿な大人に付き合わされる子供は見ていられないんだ。ここで死んで貰うぞ、イリス。死ね。
俺は肩に乗せている手を滑らせて、首をへし折ろうとするとイリスが俺の目をじっと見つめて口を開くのが見えた。なんだ? 命乞いか? いいだろう聞いてやる。だが死は免れられないと思え。そうと決めた俺は目を細め、肩を滑らせている手を止めて聞く体勢に入る。するとイリスが淡々とした口調で喋り始める。
「できないのだ。私達いや、私達の種族はヒューマンに常に狙われている。狩る対象、奴隷として。私達の種族は個々の力はヒューマンのそれよりも強いが、そこまでかけ離れているというわけではない。襲いかかられても一度、二度は撃退できる。だが三度目で疲れが現れ、四度目、五度目と重ねていくうちに捕まってしまうのだ。そして待っているのは奴隷としての生活。ここで君に聞きたい、そんな私たちが例えヒューマンがいない所に出たとしてどこへ行けばよいのだ? 」
「祖国は滅び、周りはヒューマンの国で囲まれている。私達を受け入れてくれるだろう国までいくにはヒューマンの国を必ず通らなくてはいけない。そこから先は言わなくても分かるだろう。」
俺はイリスの言葉を聞いて目を見開き、イリスの肩に置いていた手を離して一歩二歩と下がり、勢いよく頭をさげた。馬鹿なのは俺だ、あちら側の事をよく知りもせずにペラペラと自分の考えを押し付けていた。傲慢にも程ある。そしてあまつさえイリスを殺そうとしていた。謝ってすまないだろうが、俺は謝らせて欲しい。もちろん謝るだけではなく、何かお詫びをさせて貰う。はぁ、もう自分が嫌になるな。カスが。
「すまない。考え足らずだった。知識不足の僕を責めてくれていい。」
「いいのだ。それにな、ユグドラシルを吹き飛ばされたくもないのだよ。あそこにはまだ同胞が生きているかもしれないし、戦っているかもしれない。そして運が良ければ逃げ延びているかも‥‥。」
「そうか、僕は貴方の気持ちを考えずに仲間を殺そうとしていたんですね。本当にすみません。」
イリスは苦笑いを浮かべていいと言っているが、俺は再び頭を下げてから、イリスに抱きしめられているフィアリナとガウスに目を向けた。この2人にも謝らなくてはいけないな。目の前で人を大量に惨殺していた奴が今度は仲間をぶっ殺すとか言っていたのを見るのはさぞ、怖かっただろう。せめても俺のキラキラスマイルでその恐怖を解きほぐしてみせる。
俺はしゃがみ込み、フィアリナとガウスに目線を合わせてから笑顔を浮かべて話しかけた。
「フィアリナとガウスだったね。君たちにも謝らせて貰いたい。無神経なことを言ってごめん。」
「ヒッ! 」
勢いよく頭を下げた俺だったが、フィアリナがイリスに抱きついている力を強くしてプルプルと震えを大きくさせてしまった。俺はそれを見てあっちゃーこりゃあ相当怖がられているな、どうしようと苦笑いを受けべながら頭を掻く。まあ、目の前であれだけの事を見せられたらこうなるのかな? 仕方ないか。こうなっては流石の俺の最大の矛の1つ笑顔は通用しないだろうし、ほんとどうしよう?
俺がそう悩んでいるとガウスがフィアリナの頭を撫でながら口を開く。
「気にするな。お前は分かっていないようだったからな。俺は気にしない。だが、妹はこの通りお前を怖がっているんだ。あまり勢いのある行動をしないでくれ。」
勢いのある行動をしないでってそんな無理難題なと思ったが、口に出さずに俺は1つ頷いてからガウスに撫でられて落ち着いてきたのか、若干口元に笑みを浮かべているフィアリナに視線を移し、今度はゆっくりゆっくりと心がけながら頭をさげる。はたから見たらアホな行動だろうが気にしない。気にしないったら気にしない。
「分かった。ごめんね? フィアリナ、ちゃんでいいのかな? 」
そんな滑稽な俺の姿を見て何を思ったのか、フィアリナは猫耳をピクピクとさせながらイリスにしがみついている手に力を入れ首を横に振る。
「ううん。フィアはフィアって呼んで欲しい、です。」
フィアリナはそう言ってから自分の顔を隠す様にイリスに抱きついてしまった。それを見て場違いにもか、わいいと思ってしまった俺は首をを横に振って煩悩を飛ばし、ゆっくりと立ち上がった。そして、俺はスーッと視線をゲートへと向ける。ゲートは俺たちが話している間にかなり縮んでもう既に人が通れる大きさではなかった。これでイリス達はこの大陸で暮らすしかない事が確定した。
もう本当にどうすればいいんだ俺は。次から次へと問題が起こりやがって、これはあれか? イジメなのか? こんないたいけのない子供に高難易度な問題をボコスカとマシンガンの様に撃つとは鬼畜の所業だな。もし神とやらがいるのだとしたらこのことに対する慰謝料を要求してやる。それも膨大な額をな。フフ、フフフ!




