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召転のルディア  作者: NTIO
壊れゆく日常
208/220

召喚魔法③


「ヒューマン!? 一難去ったらまた一難だっていうのか! 」


俺が目をパチパチとさせていると、ガウスがそう言ってから俺から距離を取る様に後ろに大きく飛んだ。俺はそれを見て目を細める。へ〜すごいジャンプ力じゃないか。予備動作なしにそれほど飛べるなんてやっぱり獣人は強靭な肉体を持っているのかね。


しかし、どうしてガウス達は俺に対して負の感情をごちゃ混ぜにしたようなものを宿した目を向けてきているのだろうか? さすがに会話に割り込んだだけでこうはならないだろうに。こうなるとすればそうだなぁ〜 大切な人を俺に殺されたとか、か? でも俺は人と魔族と魔物以外殺したことないもんなぁ〜。うん、考えていてもわからない。直接聞くとしよう。


そうと決めた俺は立ち上がってずっと同じ姿勢をしていた事によって凝った体をほぐしていく。首を傾けボキっと鳴らし、腕をうーんと伸ばしてバキバキと鳴らしているとエルフの女性、確かイリスだったか、が腰に差していた剣をスーッと抜き放ち俺に向けて正眼に構えた。


どうやら俺と殺り合うつもりのようだ。殺気がビンビンに伝わってくる。いきなり憎しみの目を向けられたと思ったら剣を抜き放って殺す! っとやられて俺が少し戸惑っていると俺を守るようにそれぞれ戦闘の体制をとって右にアリア、左にアイリス、正面にシルヴァスがついた。各々凄まじい殺気を放っている。アリアとアイリスはわかるが、シルヴァスまでこれほどの殺気を放てるとは‥‥将来が末恐ろしいな。大人になったらどれほど強いドラゴンになるのやら。


正面にいるシルヴァスの背中を見て戦慄を覚えた俺はそれよりもとアリア達の殺気を浴びて額に冷や汗を流しているイリスへと視線を向けた。するとイリスはカタカタと手に持っている剣を揺らしていた。濃密な殺気に当てられて恐怖を覚えているようだ。しかし、それでも剣を手放そうとしない。


俺はそれを見て関心する。これ程の殺気を浴びて尚戦意を失わないなんて肝が座っているな。さっきの変態ゴリラとは大違いだ。さすがエルフといったところか。だが、俺の殺気に耐えられるかな? どんな事情があれ、殺気を向けられて黙っていられるほど俺は人が出来ていないんだ。


俺は目に殺気を宿し、イリスにむけ殺気を解き放とうとするがそれは声を張り上げたアリアによって阻まれた。


「坊っちゃま! あの耳が異様に長い怪しい女、坊っちゃまに対して殺意を抱いております。なんて不遜な! 」


「殺していいよね? ルディいいよね? 」


「ガアァァァ!! 」


アイリスとシルヴァスも激昂しているアリアに続けとばかりに声を上げた。アイリスは召喚したレーヴァテインそっくりな紅い剣を手に持って、それをうっとりとした眼差しで見つめながら言い、シルヴァスは牙をむき出しにして先ほどの愛くるしい顔からは想像できないような顔つきになっている。


それを見た俺はやっぱり辞めたと殺気を押し留めた。たった1人の女性に対して寄ってたかって殺気を飛ばすなんて事は俺に矜持に反するからな。たとえそれが俺に殺気を向けてきている相手だとしても変わらない。


それによく考えてみればあっちは恐らく俺に召喚された側、こっちにその気が無かったとしても召喚したことは確かだ。俺なら相手側の事情を聞いてからことと次第によってはぶっ殺している所だろう。殺気を向けられるのはわかる。しかし、どうして魔物を召喚するはずのものから人が召喚されたんだ? 未だに出ているさっきより少し小さくなったあの黒い靄が原因なのか?


俺がアリア達に囲まれながら黒い靄に目線向けて顎に手を当て考え込んでいるとイリスは震えを振り払うように首を横に振ってから、目線を鋭くして俺たちを睨みつけてきた。


「お二人共ここは私にお任せを。先ほど感じた膨大な魔力にあのゲート、このヒューマンの子供が引き起こしているのかもしれません。」


「イリス、ダメ! もしそれが本当ならイリスじゃあ敵わないよ! 」


イリスの言葉を聞いたフィアリナが悲痛な声を上げてイヤイヤと首を横に振るうがイリスはフィアリナに笑顔を向けるのみで何も返さなかった。その笑顔には俺ではどんな意味が込めているのかわからないが、フィアリナは理解することができたのかガウスの背中に顔を押し付けて泣き出してしまう。


泣き出してしまったフィアリナを見てイリスは苦笑いを浮かべガウスに視線を向け、頭をペコリと下げた。


「ガウス様、フィアリナ様を連れて私が戦っているうちに避難をしてください。私も後から追いますので。」


するとガウスは1つ頷いて何も言わないで俺たちに背を向けて走っていく。その時に光るものが宙を舞っていたがあれは恐らく涙だな。俺達にイリスが殺されるとでも思っているのか? ものすごい勘違いしているようだ。俺なんて最初友好的に話しかけたのに先に敵意むき出しにしてきたのはそっちだろうに。


しかも、イリスの言葉を聞くに俺たちが襲う前提で話が進んでいるのが気になる。俺、本当に何かしたか? ただ話しかけただけなんですけど。俺ははぁ〜とため息を吐く。


それにさっきイリスの言葉に出てきたゲートという言葉が気になった。あのしゃべり方からして黒い靄については知っているように聞こえるからな。これはしっかりと聞かないといけなそうだ。俺が片手の指を一本ずつ曲げてボキボキと鳴らして口元に笑みをうかべるとガウスに背負われたフィアリナの叫び声が聞こえてきた。


「イリス、イリス!! いや、イヤァァァ!! 」


「お元気で、貴方様達が生きてさえいれば、ユグドラシルは再び再建できます。」


「その為とあらばこのイリス・ファーレンガルト! たとえどのような苦難乗り越えてみせる! ハァァァ!! 」


俺がフィアリナの顔を見て首を傾げているとイリスは俯き、ふっと口元に笑みを浮かべてからバッと顔を上げ、気迫のこもった声を上げながら俺に向けて剣を振り下ろしてきた。それに俺は手を翳すことで、重力操作を発動しイリスの剣を受け止める。俺に受け止められたイリスの剣はビクともしない。イリスはな!? と驚き剣を引き抜こうとしているが、今の俺にそれを構っている暇はない。


今にも飛びかかりそうな、アリアとアイリス、シルヴァスを止めなければならないからだ。今わかったことだが、イリスの強さでは殺気立っている2人と1匹のうちの1人もしくは1匹でも相手にすれば八つ裂きにされることは確かだ。それはダメだ。イリスと今現在進行形で逃げている2人は貴重な情報源、殺させる訳にはいかない。早くやめさせなければ。


ではどうやって止めるかだが、これは正直に言って無理だ。もうとっくに止めることができる領域を超えている。使徒であるアリアとアイリス、俺に召喚されたシルヴァスは俺に剣を抜き、攻撃してきた時点でたとえ誰であろうと殺すことは確定なのだ。これを聞いたら無理だ、と思うかもしれないが止めるのではなく、辞めさせればいいだけなので方法は2つほどある。


1つ目はイリスを説得して止めるで、2つ目はアリア達の意識を別にそらすだ。


俺は早速1つ目の方法、イリスを説得して止めるに取り掛かる。俺は未だにふんー! と顔を赤くして剣を重力操作の束縛から引き抜こうとしているイリスに視線を向け、アリア達にいつまでもつか分からないが少し止まるようにという合図を出しながら話しかけた。


「ちょっと待って! 話をしよう! あなたは何かを誤解している! 」


両手を上げて何もしませんというジェスチャーをして、にこやかに言った俺の言葉だが無意味だった様だ。イリスは重力操作の束縛から剣を引き抜くことを諦めたのか、剣から手を離して俺に手を翳してきた。そのイリスの目は殺意に染まっている。ドロドロとしたとても子供に向けるような目ではない。この人正気を失っているのか?


「問答無用!覚悟ヒューマン! 貴様らに殺された同胞の仇! 」


俺がイリスの目を見て何がそうさせているんだと思っていると、イリスはそう言うのと同時に俺に翳していた手から緑色の三日月状のものをいく本も発射してきた。俺はそれを見て目を見開きながらもイリスの剣を捕まえている重力をそのままに俺とアリア、アイリスそしてシルヴァスを囲むように重力バリアを張る。


すると、イリスの手から発射された緑色の三日月状のものは全て重力バリアに弾き返され、あらぬ方向に飛んでいき地面に着弾して爆発を引き起こした。結構な威力だ。俺はほへ〜すごいなと頷く。はじき返した俺が言うことではないが、あの攻撃はかなりの威力だった。アースドラゴンの致命傷を負わせるくらいじゃないだろうか? 十分に冒険者でやっていけると思う。まあ、ここではエルフはなんらかの正体を隠せる手段がない限り、奴隷狩りにでも合うかもしれないが。


俺はそう考えてさてどうするかと自分の技が弾き返されて着弾した場所を凝視し、固まっているイリスに目を向ける。


今ので、イリスを説得することは普通の方法では無理だということが分かった。今のイリスは負の感情に支配されていてまともに話ができる状態ではない。俺に攻撃してくる際に覚悟ヒューマンとか、貴様らに殺された同胞の仇! とかなんとか言ってたことから考えるに、人間に仲間を殺されたのか。


ふむふむ大体読めてきたぞ。今さっきまで戦闘をしていたような格好、俺に対する敵意の視線、人間に仲間を殺されたというイリスの言葉。つまりは俺は亜人と人間の戦場からこの人達を召喚したという訳か。そしてあの黒い靄はここと、その戦場が繋がっているという訳か。ほーん。‥‥それってまずくないか? 靄は今も少しずつ小さくなっているが、そこからイリスたち以外の人が出てくるかもしれないわけで‥‥


俺はそこまで考えて首を横に振る。いやいや、今はifを話している場合じゃない。さっきのイリスの攻撃で負の感情を高ぶらせ目を紅く光らせている2人と体になにやら銀色のオーラを纏っているシルヴァスをどうにかせねば。俺は時間が惜しいばかりに高速でこの状況を解決する策を考え、その策を実行に移そうとすると硬直していたイリスが大声をあげた。


「なに!? 」


俺はそのイリスを見て反応遅っ!? と思いながら今度こそと策を実行に移す。まずは負の感情に支配されているイリスを負の感情から解放して、まともに話をできる状態にすることと、アリアとアイリス、シルヴァスをこの場から離して頭を冷やす時間を与えること。これをやらなければならない。でないと話にならないからな。


心の中で策を確認した俺はイリスを負の感情から解放するために空間が軋むような殺気を魔力と共に解き放った。するとイリスは膝をつき息を荒げ、アリア、アイリス、シルヴァスはこっちに尊敬の眼差し送ってきている。この場にいる全員の視線が自分に集まっていることを確認した俺は口を開いた。


「状況から見て君たちを召喚したのは俺という事は間違いなさそうだし、なにやら事情があるようだからこの一撃はカウントに入れない。だが、次やったら殺す。アリア、アイリス、シルヴァス、逃げた2人を連れ戻して。怪我をさせないようにね。」


「はい! 分かりました坊っちゃま! 今すぐに連れ戻してまいります! 」


「八つ裂きだぁ! 」


「ギャォォォ!! 」


アリア、アイリス、シルヴァスは俺の命令に素直に頷いて、フィアリナとガウスが逃げて行った方向へと物凄いスピードで駆けて行った。アイリスが八つ裂きだぁ! とか言っていたがきっと大丈夫だろう。アイリスは俺の命令は感情が高ぶっていないとき以外は聞く。あれ? 今感情高ぶってね? ま、まあ大丈夫だよね? きっと、うん。大丈夫だ。


俺は冷や汗を流しながら頬をぽりぽりと掻いてさてと、とイリスに目を向ける。アリア達の目を別のものに向けさせることはできた。次は、イリスにもっと恐怖を与えて、負の感情をより大きな感情で押し出してやろう。


心の中でそう考えた俺は口元に見たものが恐怖を覚えるような笑みを浮かべる。これを見ればたちまち失禁を誘うこと請け合いだ。さあ、泣け! 喚け! ハーハッハッハッ!


「なん、という圧力。だが、言ったはずだ! どのような苦難だろうと乗り越えてみせると! 貴様今すぐに倒してお二人を負った女のヒューマンを殺す! 」


俺が心の中で高笑いを上げていると、膝をついていたイリスは足を震わせながらも立ち上がって啖呵を切った。それと同時に俺の後ろの地面が盛り上がり、先端が尖った触手のようになって襲いかかってきた。不意をついた攻撃で俺を仕留めるつもりだったようだが、舐められたものだな。この程度の攻撃なにもしなくても傷1つつかないが、制服が汚れるのが嫌なのでまた重力バリアで粉々に弾き飛ばす。


「うそ、だろ。」


するとそれを見たイリスは口元に浮かべていた笑みを引き攣らせて膝から崩れ落ちた。俺は戦意喪失といったイリスに歩み寄っていき、イリスの目の前で立ち止まって手を翳し底冷えするような声を心がけて口を開いた。


「そうか、お前の答えは分かった。ならさよならだ。せめても苦しまない様に一瞬で消してやろう。」


イリスは、自分に翳されている俺の手を凝視して呼吸を荒くしている。俺はそれを見てよしと心の中で頷く。今のイリスの心は死に対する恐怖一色だ。俺というより人間全てに抱いていた敵意は綺麗さっぱりとはいかないがなくなっているだろう。これならば話すことができる。よし、そろそろ殺気を抑えてやるか。そして少しずつ恐怖を和らげながらアリア達がフィアリナとガウスを連れてくるのを待つとしよう。


そうと決めた俺はイリスから手をスーッと下ろしていく、がそれは途中で妨げられた。黒い靄から直径3メートル程の火球が飛び出してきたのだ。俺はその火球に対して、重力操作で握りつぶすようにして対応する。すると火球は火の粉を辺りに盛大に撒き散らして跡形もなく消え去った。


「今度はなんだ? 今結構フラストレーション溜まっているんだ。相手によってはぶっ殺すぞ。」


俺がそう呟くのと同時に黒い靄から鉛色の鎧を纏った兵士達がガシャッガシャッと音を立てながら続々と出てきた。中には旗を持っている兵士もおり、その旗には見たこともない様な紋章が描かれていて風にパタパタとはためいている。俺はそれを見てため息を吐いた。俺が危惧していた事が起こったぞ‥‥


「レンディバー王国!? 私達を追ってきたというのか! クソ! こんな時に! 」


俺があ〜もうめんどくさいと思っていると黒い靄から出てきた兵士達を見たイリスは飛び跳ねる様に俺と距離をとってそう叫んだ。チッ! せっかくうまくいっていたのに邪魔しやがって。決めた、あいつらどんな事情があろうと半殺し以上確定だ。どうせ俺の推測が正しければあいつらは戦争をしているわけだ。それが戦地で怪我を負うことは当たり前なこと。そして怪我を負わされる相手が敵国以外でもそれは同じ。だから俺が殺ってもオーケーだ。フフフ


俺が邪悪な笑みを口元に浮かべている内に黒い靄から出てくる兵士達は止まり隊列を組んだ。そしてその隊列の中から1人のちょび髭を生やした男が出てくる。


「おやおや、薄汚い亜人共を追ってゲートに入ったと思えば、森ですか。奇怪ですねぇ〜 それにヒューマンの子供がいるとは〜 どういう事でしょうかぁ〜 」


ちょび髭が何かをピーピー鳴いているがしかし、俺の目はちょび髭には行っていない。ただ一点、一部の兵士達に釘付けだ。その兵士達は2つの死体を複数の槍で刺していてそれを高々と掲げている。そしてその死体は獣人とエルフだ。


「カーリー! ジェイク! 貴様らァァァ!! 」


イリスは槍に刺されている死体を見て怒声を上げた。どうやら知り合いだったらしい。俺は激昂しているイリスを見てから再び兵士達に視線を戻した。


なんて胸糞の悪いものを見せやがるクソ野郎ども。決めたお前らは惨たらしく、殺して下さいというまで痛めつけてからジワジワと1番残酷な方法で殺してやる。

今日は間に合った!

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