召喚魔法②
エルフとは筋力は比較的弱く肉体的な耐久力も低めだけど、手先の器用さや身のこなしは得意で魔法の扱いに通じていたり、自然に関わる力を使いこなすのにも長けている。 そして耳が長く尖っていて、なにより男女ともに顔が非常に整っている美男美女の亜人、というのが俺が持っているエルフに対する知識だ。
これはライトノベルやゲームで得たもので実際にエルフを見たことがない俺はこの知識があっているかどうかなんて確かめようがないと思っていたが、今目の前で地面にうつ伏せに倒れている女性はまさにそれに合致する。顔はよく見てなかったので分からなかったが髪から飛び出ている耳はまさにエルフ耳そのものと言っていいだろう。
ここで昔の俺ならエルフに会えた喜びのあまり、踊り狂っていた事だろうが今の俺にそれはない。あるとしたら驚愕だ。何故なら、この世界ではエルフどころか人間と魔族以外の人種の存在を見た事も聞いた事もないからだ。
物語の中にも、街中でも、人との会話でも一切出てきた試しはないし、そして王城で見た地図上にも人間と魔族以外の国家は存在しなく、それ以外は海だ。ではもしかしたらどこかに隠れ住んでいるのではないか、という事になるがそれはない。それならば架空の存在としてでもちらっとは出てくるはずだ。完全に隠し通せる事などできない。王国がその存在を隠蔽しているという事はなさそうだし、そういう訳で俺はこの世界は人間と魔族が争っている世界だと断定した。
彩月だった頃の俺とルディアとしての今の俺を合わせてそうだったのでこの世界はそういう世界なのかな? とガッカリしていたのだが今現実、目の前にエルフの女性が倒れている。
いったいこれはどういう事だとレヴィに話しかけた。
レヴィ、この世界は人間と魔族以外に人種が存在するのか? 俺はてっきりこの世界は人と魔族のみいるものだと思っていたんだけど。
(さ、さあね〜。私も初めて見たわ〜。エルフ? 何それ? )
レヴィは俺の質問にそう答えた。俺はそれを聞いて怪しいと目を細める。声が震えているし、棒読み。嘘をついていることが丸わかりだ。というより嘘をついている事を隠すつもりがあるのか? 大根役者もびっくりな大根っプリだぞ。俺は再びレヴィに問いかける。
レヴィ、本当に知らないのか? 俺の計画にとって人間と魔族以外の第三勢力がいるかいないかはかなり重要な事なんだけど。
(‥‥知らないわ。でも! あなたの計画に支障はないと思うわよ。私の勘でね。勘だからね! )
レヴィは暫く黙り込んでから知らないと答えた。しかし、勘で俺の計画には支障はないらしい。俺はそれを聞いてフッと口元に笑みを作る。
勘、ね。そういう事にしておいてやるか。レヴィ、話したくないんだったら今は聞かない。だけどいつか話してくれる事を期待するよ。相棒の何から何まで知りたいからなぁ〜 ウヒャヒャヒャ!
(ルディ‥‥ありがとう。あなたはいい男ね。)
俺が心中で手をわしゃわしゃとして気持ち悪い笑い声を上げているとレヴィは弱々しく答えた。俺はいつもとは違う弱々しいレヴィの声を聞いて頭をぽりぽりと掻く。調子狂うなぁ〜いつもならツッコミの1つも飛んでくるものなのに。俺をツッコミがないと死んじゃう体にしておきながらツッコミをしないとは何事だ。ハッ! もしかして放置プレイか!?
俺はそこまで考えてオッホンと咳払いをした。
‥‥まあいい。今は目の前に倒れているエルフだな。この世界でエルフというのかどうか知らないが、それ以外の呼び方を知らないのでとりあえずエルフと呼んでおく。とにかく俺はそのエルフの女性に向かって歩み寄っていく。すると、エルフの下に何やらいるのが分かった。黒い靄から出てきた時はエルフの女性1人しか見えなかった筈だが、なんだろうか?
俺が疑問に思って首を傾げているとエルフの下からん〜という寝起きのような可愛らしい声が聞こえてきた。俺はその声が気になってしゃがみ込み、エルフの女性の下を覗き込んでみる。するとそこには2人の子供がエルフの女性にまるで庇われるように抱きしめられていた。しかし、その子供はただの子供ではない。ふさふさとした耳に尻尾があったのだ。これは‥‥
「獣人!? 」
俺は驚きのあまり声を上げてしまった。その時に見えたエルフの女性の顔が美しかった事も俺の驚きに拍車をかけてかなり大きな声を出してしまったが、俺は今更ながら慌てて口を塞ぐ。ずっと後ろで首を傾げて見ているアリアとアイリスに聞かれたくないからだ。今まで見た事がないものをさも知っているように口に出していたら不審極まりないからな。
しかし、それにしてもエルフの次は獣人とは‥‥いったいどうゆう事だ? 召喚魔法は魔物を召喚するものじゃなかったのか? もしかしてこの世界ではエルフと獣人は魔物扱いなのか? 分からん、全く分からん! 一体どうなっているんだ!
俺が額に手を当てて頭痛いとばかりに眉を潜めていると気を失っているエルフ達が動きを見せ始めた。どうやらさっきの俺の大声で起きたらしい。初めに鎧を着たエルフの女性が起き上がり、その次にエルフの下にいた獣人の子供達が起き上がる。
エルフの女性は起きるなり、自分の体をペタペタと触ってホッと息を吐いた。しかし、改めてエルフの女性を見るとエメラルドグリーンの眼に俺と同じ綺麗なプラチナブロンドをしている。だがその髪は直前まで激しい戦闘でもしてきたのか? と思わせる程にボロボロな見た目のせいか本来の輝きではない事は俺でも分かる。
場違いと思えるほどに妖艶な輝きを宿した髪を見て魂が吸い込まれそうになるのを堪えながら俺はエルフの女性を観察して行く。煤が顔についている事から炎の中で戦闘していたのだろう。幸い怪我はしていないようだ。
俺はそれを見て安堵し、大丈夫ですか? と声をかけようとしたが俺が口を開く前に獣人の子供の内の1人、眼が金色で髪の毛が絹の様に真っ白な女の子がこれまた真っ白な猫耳をピクピクと動かしながら寝ぼけまなこで尻尾をゆら〜っと動かし立ち上がろうとするが、崩れ落ちてしまった。どうやら足を怪我している様だ。
「痛っ! 」
「大丈夫か! フィア! 」
崩れ落ちた女の子、フィアにもう片方の獣人の男の子が慌て気味に駆け寄った。その男の子は銀色の眼をしており、髪もまた同じく銀色だ。そしてピンと犬耳を立てて心配そうにフィアを覗き込む。それにフィアは頷いて返した。
「うん、大丈夫お兄ちゃん。でも此処はどこ? 」
俺はフィアの言葉を聞いてへ〜という顔になる。フィアと男の子は兄妹なのか。確かにフィアは9歳くらいで男の子は12歳くらいだから兄弟としてはあり得るとは思っていたけど、まさか本当に兄妹だったとは。でもフィアの方は猫耳、男の子の方は犬耳、どういう事だ? 兄弟なのに違うのか? よくわかんないな〜。
しかし、それにしてもこの人達俺に気づいてないのか? 結構近くにいるんですけど。それに少し離れているけど、目立つシルヴァスまでいるっていうのにこの人達結構鈍いのか?
俺がしゃがんだまま頬に両手を当てて呆れの眼差しを送っているとエルフの女性がフィアと男の子に声をかける。
「フィアリナ様! ガウス様! お怪我は!? 」
どうやら2人の名前はフィアリナとガウスというらしい。フィアは愛称の様だ。さっきから気軽にフィアフィアと呼んでいた俺が恥ずかしい。
俺がイヤァァァっとばかりに顔を手で覆っている事に気づいているのかいないのか、ガウスは立ち上がって暗い顔でエルフの女性に返す。尻尾がシュンっと下に垂れ下がっているのをみると尻尾が気持ちを表している様だ。犬みたいだな。
「イリス 俺は大丈夫だ。だけど、フィアが怪我をしてしまった。これでは走ることはおろか歩くことも‥‥。」
「ううん、私は大丈夫だよ。歩け、いつっ! 」
フィアリナは足に怪我をしているにも関わらず気丈に振舞って立ち上がろうとしたが、また崩れ落ちそうになってしまった。それをガウスは抱きとめて首を横に振る。
「無理をするな。お兄ちゃんが背負う。少しの辛抱だからな。」
「お兄ちゃん‥‥」
ガウスは軽々とフィアリナを背負って立ち上がった。ガウスに背負われたフィアリナはなぜが目に涙を浮かべて半泣きみたいになっている。俺はそれを見て首を傾げた。なんでこの人達はどうしてそこまで悲しい顔をしているんだ? まるでこの世の絶望を見てきたみたいな顔をして‥‥。エルフの女性、イリスの鎧にある戦闘痕と何か関係があるのか?
「イリス急いで此処を抜けるぞ! いつヒューマン共が来るか分かったものじゃない! 」
俺が疑問に思い首を傾げているとガウスは一度フィアリナを背負い直してからイリスに声を荒げた。しかし、イリスは動こうとせずに首を横に振って答える。
「しかしガウス様、このよくわからない所を駆け抜けるなど危険極まりないです! ここは‥‥」
「黙れ! そんなこと言っている時間なんてないんだ! 大体イリスはいつも‥‥」
俺が傍観に徹していると、ガウスとイリスが言い争いを始めてしまった。俺はそれを見てため息を吐く。この人達はいつになったら俺に気づくのだろうか。普通気づくでしょう。それともあれか遠回しにお前影うす〜いと言っているつもりなのか。いや、ないな。異常事態に目に周りが入らなくなっている。そんな感じだ。
何があったのかは知らないが、そろそろ俺も話に混ぜてもらうとしよう。人の話に割り込むのは趣味じゃないけど状況から見て俺が無視されている事にお怒りな約2名と一匹がいるからな。この人達が八つ裂きにされる前に話しかけないと色んな謎が解けないまま迷宮入りしてしまう。それは避けなくては。
そうと決めた俺は言い争っている、ガウスとイリスに声をかける。
「あの〜 お取り込み中すいませんが皆さんは僕に召喚されたという事でいいですか? 」
「「「っ!? 」」」
俺に声を掛けられた3人は一斉にこちらを向いて眼を見開いた。その目には驚愕、憎しみ、恐怖が宿っていた。え、俺何かしましたか?
夜にもう一回出します




