召喚魔法①
やっとの事で周囲一帯の状況は、よを足している最中に襲いかかってきたバトルコングとマッドコングに対する俺の反撃によって起こされたものだと言うことを説明し、納得させることが出来た。2人は本気で俺が立ちションでこの状況を作ったと思っていたらしく、こと細かく説明するのに俺の心が折れそうになった。なぜに人にさっきのあれやこれやを話さなければならないのだ。
アリアが坊っちゃま〜 私よくわかりません、もっとよく詳しく教えてください! どこをどうして! なにをしたのですか! と鼻息荒く聞いてきたときには貞操の危機を感じたね。アリアもお年頃なのは分かるけど未だに自分の殻に閉じこもったシャイな息子には刺激が強すぎましたです。はい。
アイリスはずっと口に手を当ててへへっと笑っていたのが気になるが、今俺にあれをどうにかする手はないのでほって置いた。脳内の片隅に完全に捕食者の目だったアイリスが残っているから、きっと夢の中に出てくるんだろうなぁ〜 はぁ〜。
俺はがっくりとため息を吐いてから後ろに浮かせていた本を手に引き寄せて、未だに色々とやばい視線を送ってきている2人に召喚魔法をやるからと下がって貰い、2人が下がったのを確認して本を開く。
開くのは召喚魔法を行う手順が書かれたページだ。家で読んだときに見つけた必要な箇所が書かれたページは暗記済みなのですぐに目的のページにたどり着くことができた。俺はそのページに書かれていることを確認の意味を込めて口に出す。
「召喚魔法をやる場合は、まず魔法陣を正確に描くと。注意事項、正確に魔法陣が描かれていない場合、魔力を注ぎ込んだ時に失敗する。場合によっては爆発するので注意。最初に読んだ時も思ったけどこれってムリゲーだろうが‥‥」
俺は魔法陣が書かれているページを開いてうへ〜っとゲンナリとした表情を作った。それはムリもないだろう。何故ならその魔法陣は一言で表すなら複雑。そしてもっと詳しく! となると説明する言葉まで複雑になるという言っている俺までおかしくなってくる程にごちゃごちゃだ。
こんな魔法陣、コピー機でも使わない限り普通の人に正確に描くことは無理だろう。書いている途中に絶対にミスをする。そして爆発する。理不尽だと思うのは俺だけでしょうか。もう召喚魔法じゃなくて爆弾みたいな使い方のほうが需要がありそうだ。わざとミスしてドッカーンとかね。まあ、魔力を注ぎ込んでいた人が木っ端微塵になりそうだけど。
魔力を注ぎ込むのが人以外で代用することができれば立派な兵器として使えそうだが、俺にはそういった魔導具関連の知識がない。アイディアはあるけど出来ないって結構歯痒いことだな。こういうことに詳しい人を頼るか、自分でやるという二択があるけどこれは後回し、今は召喚魔法だ。
俺はさてと呟き、今立っているこの場所の整地に取り掛かる。こんなごちゃごちゃとした場所じゃ落ち着いて召喚魔法が出来ない。自分でやっておいて言うのもなんだけども。
俺は苦笑いを浮かべてから指をクイっと曲げて死体を除いた全ての残骸を上空に持ち上げて一箇所にまとめた。そしてその残骸に向けてブラックホールを放つ。すると残骸達は現れたブラックホールにギュルギュルと全て飲み込まれた。
もう上空にはブラックホール意外に何もない。それを確認した俺はブラックホールを搔き消しながらそう言えばを思い出す。そう言えば最近ブラックホールを掃除機みたいな使い方をする事が多いけど、吸引力が落ちないただ1つの掃除機とはこの事だな。色々と面倒な事をしないでただ出すそれだけで何もかも吸い込む。
当社販売価格としてはなんと! なんと! 10万円をきりまして! 9万9800円! と売り出したら主婦が殺到する事間違いなしだ。まあ、ブラックホールをそんな値段で売ったら別の意味で星全体を掃除する羽目になるか。生き物が生きる事が出来ない不毛の地と化すこと請け合いだ。
「どうしたのですか? 坊っちゃま? 」
「ルディ、大丈夫? 」
俺がくだらない事を考えていると、後ろにいたアリアとアイリスが声をかけてきた。どうやら上を向いたまま固まっていた俺を心配した様だ。それに俺は心配させてしまったなと思いながら振り返って笑顔で返す。
「え、うん。大丈夫だよ。問題ない。」
「分かりました。ですが、何かありましたら気軽に声をお掛け下さい。」
「おかけください。」
俺の返事を聞いたアリアとアイリスはそういって再び前で腕を組んだ姿勢に戻った。なんでもあれがメイドの基本姿勢らしい。アリアは長年メイドをやってきた事もあり堂に入っているが、アイリスはどこかぎこちない。でもそこが初々しくていいです。はい。
俺は鼻から欲望が噴き出さない内に前に顔を戻してから次の段階に入る。周りを整地した後は魔法陣を描く。こんな複雑な魔法陣は普通の人に描く事は不可能だが、恥ずかしながら俺は普通の人ではない。やりようなどいくらでもあるのだ。造作もない。
口元にニヤリと笑みを浮かべた俺はまずは観測眼で脳内に上空からここを見る視点を作る。そしてその視点をそのままに本に書いてある魔法陣を見てその通りにプラズマキャノンでビーッと描いていく。魔力操作が極な俺は一片の狂いもなく魔法陣を描く事ができる。手書きでは出来ない方法だ。手書きだったら書く事は出来るかもしれないが、絶対に途中で投げ出す。その自信が俺にはある!
俺がそんな事を考えている間にも魔法陣を描く作業は終わった。それをみた俺は観測眼を解いて、本を召喚魔法を行う手順が書いてあるページに戻す。
「で、次は‥‥書いた魔法陣に魔力を注ぎ込みながら心の中で召喚したい魔物の特徴を思い浮かべ、自分なりの詠唱を唱える。」
俺はそう書いてある本を見て頭を悩ませる。初めて見た時もなんだこれ? は? 自分なりって‥‥プッ! ふわっとしすぎだろ! と爆笑したものだ。それはともかく自分なりという事は出てこい!といったシンプルなものから我が深淵より出でし〜といった痛々しいものまでOKというわけで‥‥。どっちにしようかな〜迷う。
俺は腕を組んで目を瞑って考え込む。
「え〜っと、心の中に浮かんできたものか。そうだねぇ〜」
うんうんと考え込んでいると突然心の奥底からものすごい勢いで這い上がってくるものを感じた。こ、これは‥‥遠い過去に心の奥底に封印したルシファー!?(昔の俺 厨二病という状態異常になっている)
目を瞑っている俺の前に現れたルシファーは首にマントのつもりなのかシーツを括り付けており、片手には布団叩きを持っている。そして1番目立つ髪型は片目だけ隠す様に極端に伸ばされていて、目がチクチクしそうだ。うん、間違いないルシファーだ。
みたっくなーい! 昔の俺なんて見たくなーい! なんなの? あれのどこがかっこいいと思ってたの!? 昔の俺! ばっかじゃないの!!
俺ではない俺よ うぬはどっちにするというのだ?
俺がルシファーを見て精神的ダメージを負っているとそうルシファーが問いかけてきた。それに俺は心の中で頭を抱えながら転げまわって答える。
お前を見て決めました! シンプルなのにします!
それはならん。 俺は魔界語の方を望む。俺はお前、お前は俺つまりは俺の望みはお前の望みだ。聞き入れて貰うぞ。
ルシファーはそう言うと俺にはどんどんと近づいてくる。俺はそれを見て慌てふためく。
魔界語とか言うな! それにそれを言うなら俺の望みもお前の望みだろうが! ボケ、カス! バーカ! バーカ! ちゅ、ちょっと待って! 本当にこないで! 俺を状態異常にしないで! 来たらぐちゃぐちゃにするぞ! い、イヤァァァ!
俺は必死に抵抗したが、俺に飲み込まれてしまった。無駄な抵抗などしなければ良いものを。俺はただ、カッコいい魔界語を言えればそれで満足なのだ。さて始めるとするか、いつまで俺が俺を抑えていられるか分からない。
そうと決めた俺は手に持った本を上に投げて空中に浮かべてから、魔法陣に魔力を大量に流し込み力強く詠唱を開始した。頭に思い浮かべるのは漆黒の強靭な鱗に覆われ、巨大な翼を持ったドラゴン。その爪はいかなるものも断ち切り、見ただけで魂を抜き取られる様な顎から放たれるブレスは一瞬で国を滅ぼす。そのドラゴンの名はバハムート!
「天空を支配し、一切合切を見下ろす圧倒的な力を持つ王者よ。我は汝の全てを滅ぼし、焼き尽くす灼熱の炎を欲す。その灼熱の炎は我が野望の一助となるだろう。我が野望の為に顕現し、従え! バハムート! 」
すると魔法陣はチカチカと激しく銀色に輝きだした。その光はどんどんと大きくなっていき、やがて前も見えない程の光量を発して、収まった。光を発し終わった魔法陣の上には小さい銀色の神々しいドラゴンがいた。
いや小さいと言っても今まで見てきたドラゴンからってだけで、今の俺から見たらかなり大きい。体長2メートル、体高1メートルといったところか。これは恐らくドラゴンの子供だな。俺を見つめている愛くるしい目から見てそうに違いない。か、かわいい‥‥。
俺はドラゴンの子供に手を伸ばそうとするが、ドラゴンを見た時の衝撃で俺を押さえつけていたものに隙ができてしまったのか、俺が出て来そうだ。ククッ そろそろ深き闇の中に戻る時間か、いいだろう。今回は大人しく戻ってやろう、だがな。俺がお前で、お前が俺という事を忘れるなよ? また腑抜けた事をしようものならこの魔剣グラムで灼熱の業火の中に叩き込んでくれるわ! フハハハ!
俺はそのルシファーの声を聞いたと同時に体の主導権を取り戻した。手をグーパーと握った俺はふぅーっとため息を吐く。何やってくれてんだ。あのアホ野郎。それに腑抜けた事をしたら魔剣グラムで灼熱の業火の中に叩き込んでくれるわだと? やってみろっての。その布団叩きではダニを日光の元に叩き込むことしか出来ないからな。
俺がそんな事を考えていると、魔法陣の上に乗っていた筈の子供ドラゴンが俺の顔にグリグリと頭をこすりつけてきた。
「キュー キュー キュー 」
俺はそれをよしよしと撫でる。これは甘えていると捉えていいのか? ペットみたいだな。かわいい。本当ならワイバーンとかアースドラゴンを各500体ずつ召喚して神軍の騎獣にし機動力をあげようと思っていたんだけど‥‥。これはこれでいい。よし、決めた! このドラゴンを俺のペットにしよう。となると名前が必要だな。俺はうーんと考えてからドラゴンの見た目を見て頷く。
「お前の名前はそうだな。シルヴァス、シルヴァスだ。」
「キュー! 」
見た目が銀色のだからシルヴァス。我ながら安直だと思うがシルヴァスが喜んでいるのでいいか。しかし力、強いな。俺だから犬と戯れているみたいになっているけど普通の子供だったら首の骨がポッキリいっているぞ。色々と教え込まないといけなそうだ。
俺がどうやってこのドラゴンを育てていこうかな〜と考えながらシルヴァスに甘噛みされていると、アイリスがシルヴァスに猛スピードで突っ込んで抱きついた。シルヴァスは突然の襲撃に逃げようとするが、使徒のアイリスの手から逃げることは不可能。やがて逃げる事が出来ないと分かったのか諦めてアイリスに身を委ねた。俺に助けを請う眼差しを送ってきているけど、まあ頑張って。アイリスは変なことしないから。
「かわいい〜♡ 」
「キュー キュー 」
俺は腰に手を当て、美少女と神々しいドラゴンが戯れている光景を見て眼福眼福と思っているとふとシルヴァスを見て頭に疑問が過ぎった。
「それにしてもシルヴァスはなんの魔物なんだ? 図鑑にも載っていなんだけど。」
そう、シルヴァスの見た目は銀色のドラゴン。そんな色をしたドラゴンなんて図鑑には載っていなかったはずだ。俺が忘れているという線はない。何故ならこんな目立つ様なのを覚えていなはずがないからだ。では図鑑に載っていない種類か? 希少種? ん〜分からん。ま、いっか。分からないからって問題が起こる訳じゃないもんな。
俺はふぅと一回息を吐いてからさっきからシルヴァスを見て手を忙しなく動かしているアリアに行っていいよという合図を出してから再び魔法陣へと視線を戻した。視界の端でアリアがアイリスと一緒にシルヴァスと戯れているの見ながら俺は魔法陣に手を翳す。
「次に行こう。次はもっと魔力を注ぎ込む。」
俺はさっきのアホ野郎がやった時とは桁違いの魔力を体に漲らせながら目を瞑り、頭の中に500体のワイバーン、500体アースドラゴンを鮮明に思い浮かべて行く。
「す、凄い魔力です。押し潰されてしまいそうな‥‥」
「これが、ルディの力‥‥! ふふ、ふふふ 私の全てをルディに‥‥。」
「キュー! キュー! 」
アリア、アイリス、シルヴァスが俺が放出している魔力を感じ取ってそれぞれ感想漏らす。アイリスがちょーっと危ない事を言っているがいつものこととスルーし、目をカッと見開いて、体に漲らせていた魔力を一気に魔法陣に流し込みながら、詠唱を始めた。
「千の軍勢。されど一つ一つは一騎当千の猛者なり。よって100万の大軍と同等! 我は望む! 天と地を制する軍勢を!出でよ、ドラゴニックレギオン! 」
俺が少し、アホ野郎に影響を受けた詠唱を唱えると魔法陣はバチッバチッとスパークし始め、辺りに台風なんて比べものにならない程の強風が吹き荒れている。そしてスパークは白い色から徐々に紫色に変わっていき、最終的には黒になった。俺はそれを見て何かおかしいと顔に緊張感を漂わせる。
シルヴァスを召喚した時のが正常とすればこれは明らかな異常。何か良くないものが出てきそうな気配だ。俺は額に冷や汗を流しながら、変なものが呼び出されないでくれよとただ祈る。すると、俺の想いが通じたのか知らないが、魔法陣に起きていたスパークは止まり、辺りに吹き荒れていた暴風は収まった。
俺が何だったんだ? と呟こうとすると魔法陣の上に黒い楕円形の靄が現れた。なんだありゃ? あれが召喚された奴か? と思い、俺は恐る恐る黒い靄に歩み寄る。
しかし、すぐにその靄が俺に召喚された魔物ではない事を知った。何故ならその靄から人が飛び出してきたのだ。その人は所々焦げている鎧を纏っている。それを見た俺は慌てて駆け寄るが、その足はその人に近づくうちに遅くなっていき、やがて止まった。別に俺が助けるのめんどくさいとか思った訳ではない。止まったのは別に理由がある。それは‥‥
「エルフ‥‥だと? 」
そう、黒い靄から出てきたのは鎧を纏ったファンタジーでは定番のエルフだったのだ。
間に合わなかった‥‥。




