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召転のルディア  作者: NTIO
壊れゆく日常
204/220

君は僕に取り憑かれている

「う〜む、これはどうしたものですかね〜。」


俺は図書館の階段を見て腕を組みながら唸る。今どうして俺がこんなことをやっているのかと言うとその原因は俺の周りをグルグルと回っている本達だ。まあ、俺が回しているわけだけども。それはともかく、その本達の数は131冊、遠くから見たら本で出来たちょっとした柱に見えなくもないかもしれない。その本達がどう問題なんだというとそれはつまり、物凄い邪魔。


ここに来るまでは通路が広いこともあり、大して邪魔にもならなかったが階段は別だ。通路と違って俺と俺を取り巻く本達が通れば前から来る人は押し出され、後ろから来る人は邪魔で仕方ないだろう。ただ突っ立って自分を取り囲んでいる本をずらした隙間から階段を見ている今ですら彼方此方からなんだなんだ、邪魔だぁ! という声が聞こえてくるくらいだ。


階段をこのまま突っ切った場合、色々な問題が起きることを想像することは容易い。今は俺を取り囲んでいる本達で俺が見えないこともあって怪奇現象として処理されているのは幸運と捉えるべきか否か。いや、確実に否だな。学校の七不思議確定ルートのような雰囲気が幸運な筈がある訳ないな。うん。


俺はそこまで考え、自分の考えのなさに顔に手を当ててため息を吐く。


はぁ〜なんで俺、こんなことになる事くらい考えられなかったんだ。あれかウキウキになってたのか。強くなる可能性を見つけ出せた事と戦力の増強が出来るって事に‥‥。はぁ〜それだな。確実にそれだ。あとは頭がおかしくなった直後という事で頭が働かなかったというのもあるか‥‥。


しかしトラウマか、いろいろなところに絡んできやがるなこのトラウマは。邪魔くさくて仕方がない。自分では割り切って制御しているつもりでも全然制御できてないし、いっその事感情そのものを封じ込めたいな。感情を封じ込める、そんな魔道具があったら購入または、製作を考えた方がいいかもしれない。


そうした方が必要に応じてその魔道具をつける事で、感情に左右されることなく論理的に物事を考えることができるからな。そうすれば俺は弱点が消え、完璧な人間になれるし、その方が俺の計画が成功する可能性が高い。調べてみるか。


そうと決めた俺は顔から手を離して、今直面している問題に戻る。


さてと、俺の今後の予定を決めたところでそろそろ行動に移すとしますか。周りもうるさくなってきた事だし。じゃあ、どうやって移動するかだが‥‥。階段を移動するのはダメ、かと言ってここで周りを回している本を解いて縦一列に並べ直し、俺の後ろをカルガモの親子のように引き連れる事もできない。


ていうか、ここで俺が本の中からジャジャーンと登場したらせっかく考えたイメージ向上の作戦がおじゃんになってしまう。それだけは避けねばならない。また作戦を考え直すのはめんどくさいからな。


う〜む、というか階段が使えない時点で片付けるという事自体が無理な様に感じてきたんですけど‥‥ん? 階段が使えない? あ! そっか階段を使わないれればいいのか! 本を周りに回したまま目的の場所に行けばいいんだ! だれが階段を使わなければならないと言った? というやつだな! 危うく前世の常識に引っ張られて解決策を見過ごすところだったぜ!


解決策を思いついた俺は早速実行に移す。好奇心に押されて俺の周りを回している本に触ろうとしている男の子を危険だからと重力操作で丁寧に浮かべ、椅子に座らせてから俺はふわっと飛び立った。勿論下から俺の姿が見えない様に本でコーティング済みだ。飛び立った俺は空中で滞空し周りの一冊の本を手に引き寄せ、その本の側面を見る。側面には289と3007という数字が書いてあるシールの様なものが貼ってあった。俺はそれを見て頷く。


「よし、やるか。200番台のものを取ってきたからあそこだな。」


戻す本の場所を改めて確認した俺は手に本を引き寄せた事によって生まれた隙間からの覗き込み視線を巡らせ、やがて目的の本棚を発見した。俺はそこに人がいない事を確認してからスーッと滑る様に飛んで移動してから着地する。着地した俺は本棚の空いている状況、番号を確認し始めた。


201〜250番台の棚は右手側、251〜299番台の棚は左手側、本は上から下へと番号が若い順に並んでいるな。俺はそれを見てゲンナリとする。これはどこどこが空いているのをいちいち調べるのは大変そうだ。めんどくさい事この上ない。司書の人たちはどれほど苦労している事か。そしてどれほどの無駄な時間を使っている事か。


これは俺の考えた作戦は生徒たちのイメージ向上だけでなく、司書の人たちからのイメージ向上も期待できそうだな。僥倖。さてと、とっとと片付けるとしますか。


俺は口元に笑みを浮かべてから、観測眼を発動させた。なぜこんなところでと思うかもしれないが、これは手早く本を片付けるために必要な事なのだ。俺までも、ちまちまと歩いて本を一つ一つ仕舞って行くつもりなんてさらさら無いからな。


ではどうやって手早く片付けるかというと、それは簡単にいえば、観測眼で200番代の本棚全てを見て、そこの本の数字を確認しながら重力操作で本を仕舞って行くというなんとも能力ゴリ押しなやり方だがだれも困らないのでいいだろう。ここで手でしっかりやれ! とか言う奴がいるかもしれないが、そういう奴は怠慢と正義の名の下に俺がぶっ飛ばすのでやはり大丈夫だろう。うん。


俺はそんなバカな事を考えながらも頭の中に浮かんだ膨大な視点から得られるこれまた膨大な情報量を人外レベルの智力で捌いていく。そして1分と経たない内にどこにどの本を仕舞えばいいか把握した俺は指を鳴らして周りに浮かべていた本を解き、全ての本たちを戻すべき場所へと移動させてから、改めて戻す場所があっているか確認し、再び指を鳴らして一斉に本を本棚へとバタン!と叩き込んだ。


「これでよしと。」


それを見た俺は観測眼を解き、手をパンパンと払う。手など一切使っていないので汚れるはずは無いが気分でやっているので許して頂きたい。そこを追求されれば、なんで重力操作するときにわざわざ指鳴らすのぉ〜とか、腕横に振るのぉ〜とか心ない言葉が飛んでくるからだ。あれだって一応カッコつける以外にもちゃんと意味があるんだからね! 本当なんだから!


「相変わらずやる事なす事が派手ですね。ルディは。」


俺がふぅ〜仕事した〜とばかりに腕で額を拭いながら馬鹿な事を考えていると後ろから声が聞こえてきた。この声はフランか。俺は額に当てていた腕を下ろして振り返る。するとそこには胸に何冊かの本を抱いたフランがいた。どうやらフランは本を片付けている最中にここにきた様だ。それにしてもと俺は顔をムスッとさせる。


派手とか言われることはしたつもりだけども、やる事なす事が派手とは言われるいわれは無いからだ。結構慎重を期す事も多いんだぞ? 例えば、俺への悪感情を芽生えさせないために使徒達への言動に結構気を使っているし? あとは〜、あと、あ‥‥とは、無いな! でも一つあったから俺偉い!


誇っていいのやら、悪いのやらよく分からない事にえっへんと心の中で満足げに胸を張ってから俺はムスッとしていた顔を元に戻してから口を開く。


「フランか、僕のどこが派手なんだい? 自分では結構抑えて動いていたつもりなんだけど‥‥」


俺のその言葉を聞いたフランは驚いたとばかりに目をパチパチと瞬きしてから胸に抱いていた本を持ち直して、歩み寄ってきた。そしてやれやれと首を横に振り、苦笑いを浮かべる。


「何言っているんですか。ルディの存在そのものが派手なのですよ。歩く、その一つの動作だけで人をいい意味でも悪い意味でも引き寄せるそれが貴方です。まるでとりもちの様ですね。」


「はぁ〜最後の一言を除外してから、ありがとうとお礼を言わせてもらうよ。」


「無理です。とりもちですから。」


「参ったな、とりもちという言葉自体にも粘着性があるとは初めて知ったよ。」


俺とフランはお互いに冗談めかした様な口調で、言葉をかわす。俺はわざとらしくこりゃあ参ったとばかりに額に手を当てて苦笑いを浮かべた。それをしている俺の心はとても穏やかだ。それを自覚した俺ははっとなる。俺が心安らいでいるだと? なぜだ。俺が本当に安らぎを感じる事なんて、甘いものを食べているときか、ルディア・ゾディックとしての仮面を外した時だけなのに‥‥。


おかしい。俺は今は仮面をかぶっているんだぞ? だと言うのにこの状態で感じるこの安心感はなんだ。あり得ない。俺はこの状態で心に隙を作ってはいけない、今の俺は完璧じゃないといけないんだ。みんなが望むルディア・ゾディックでいないといけないんだ。そうじゃないと、何もできない、何も成し遂げられない。だれもついてきてくれない。だれも‥‥信じられない。全てのイニシアチブを握らなければまた裏切られる。


俺が額に当てていた手の力が抜けて、目に手が差し掛かったところで再び見たくもないクソ野郎の顔が脳裏に浮かんできた。それを見た俺の顔はどんどんと険しくなっていき、手に力がこもる。


又か、又お前が出てきたか。だが、もう俺は平常心は失わないぞ。お前は幻想だ、俺の弱い心が生み出したものに過ぎない。さっきの影響か知らないが、俺が同じ手で心を乱すと思うなよ。


俺は少し乱れた呼吸音を聞きながら消えろと念じた。しかし、クソ野郎の顔は消えない。それどころかそのクソ野郎の顔は濃くなり、笑顔を浮かべ、やがて口を開いた。


そうかな? 彩月君。


なんだと?


心を乱されないと言っているけどそれはどうなのかな? 君は事あるごとに僕の事を思い出して発狂しては周りの人に止められているね。フフフ 彩月君は相当僕の事が好きな様だ。


何が言いたい? はっきり言え、幻想の言葉だろうが聞いてやる。


フフフ、アハハハハハ! 君は僕という存在に取り憑かれているんだよ!だから特別なキッカケがなければ本当の自分で話せないし、周りの人間を騙し続けるんだ。君は本当に信頼を置いている人間なんていないんだよ! 何があってもいい様に力を貯めているんだ! 刃を向けられた時に死なずに済む様にね!


違う! 俺はお前を殺し、世界からお前の様なやつをあぶり出して皆殺しにして!、二度と俺の様な人を生み出さない様に!


それは建前さ! 君は怖いんだぁ! 本音は死にたくない、裏切られたくないって怯えているただの人に過ぎないんだよ! 手駒として絶対に裏切らない、己に忠誠を誓っている使徒を生み出して、使っているのがいい証拠だよ!


黙れ! 消えろ、消えろ、消えろぉぉぉ!


僕は嬉しいなぁ〜 君の心に残ることができて。これがと・も・だ・ちっていうやつかなぁ〜。まあ、僕は君なんて微塵たりとも友達なんて思っていないけどね! アヒャヒャヒャヒャ!


クソ野郎はその気色の悪い笑い声を残して俺の脳裏から消えていった。今の脳内で行われたやり取りは数秒と時間を要していないだろうが、俺に与えた心理的ダメージは大きい。今日は厄日だ。転生してからこれ程に不快感を覚えた日はごく稀と言っていいだろう。


全ては召喚魔法という文字を見たことと俺の心の弱さが招いた事が原因だが、俺はギロリと脇に挟んでいる召喚魔法の本へと視線を向けた。こんなに俺を苦しめたんだ。役に立ってもらうぞ召喚魔法。こき使いまくってやるから覚悟しておけ。


俺がぎゅっと汗をかいた手を握りしめているとフランが口に手を当ててふふふと微笑む。俺はそれを見て顔から手を離し、先ほどまでの幻想とのやり取りで受けた心理的ダメージを感じさせない様に心がけて顔に浮かべたままの苦笑いを維持する。


フランに心配かけたくないし、それに例え幻想といえどクソ野郎の影響で俺の大切な人達に迷惑をかけたくないからな。そんな事は我慢ならない。


「ルディといると心が落ち着きます。なんて言うんでしょうか。そう、これは安心感ですね。ルディ、貴方はお父さんって感じがするって言われた事ありませんか? 」


俺が心の中に燃え滾る怒りを押さえ込んでいる事を知らないフランはひとしきり笑って口から手を離し、胸に手を当てながら首を傾げてそう聞いてきた。それに俺も首を傾げる。


お父さんだと? それってあれか、遠回しに老けてるねって言っているのか? いやいや〜それはないか。今の俺はピチピチの7歳児。老化などと言った言葉とは無縁な存在だ。きっとあれだな。俺の内なるものからにじみ出るこう、なんていうのか包容力とかそういう奴の事を言っているのだろう。そうに違いない。‥‥なんか自分で言ってて恥ずかしくなってきたな。


「ないな。断じてないぞ。僕は純然たる7歳児だ。それに僕はお父さんというよりお兄ちゃんという感じでしょう? 」


「そうですね〜。同い年にお父さんというのは可笑しかったです。では‥‥」


フランは心の中にムズムズした物が上がってくるのを感じながら言った俺の言葉に、頬に人差し指を当てて、何やら考えこみやがて頷いた。そしてその傾げていた首を元に戻すと口元に笑みを浮かべる。


そのフランの笑みを見た俺は、嫌な予感がこみ上げてきた。なぜならその笑みは何かを企んだ時に俺がよくやる動作に似ていたからだ。瓜二つと言っていいかも知れない。俺はその嫌な予感に従って人差し指と中指を結んでバリアを張る。


これでよしと、俺のバリアを突破出来るものならして見るがいい! だがな、このバリアは彩菌を防ぐ事が出来る優れものなんだぞ! これは小学校の頃にやられて、枕を濡らしながらも習得した最終奥義なんだ。これを破れるものはこの世には、いない! ああ、思い出したら泣けてきた。


俺がさあくるがいい弾き返してくれるわとほくそ笑みながら目に光るものを浮かべているとフランは目をキラっと光らせて俺を上目使いで見つめて、口を開く。


「ルディお兄ちゃん! 」


「カハッ! 」


俺はフランのお兄ちゃん、その言葉を聞いて胸を抑えて床に倒れこんだ。未だに頭の中でお兄ちゃんがエコーしている。俺は鼻から滾る欲望が吹き出しそうになるのを床に頭を何度も叩きつけることでなんとか引っ込めてから、鼻息を荒くして目を見開く。


はたから見たら不審者丸出しなわけだが、見た目はまだ子供なので大丈夫だろう。ただの頭が可笑しい子に見られるかも知れないが‥‥。だがしかし、今重要なのはそこではない! この俺にお、おお、お兄ちゃんだと!? フランにお兄ちゃんバージンを奪われた!


なん、なんて‥‥素晴らしい響きなんだ! しかもな、なんだこの破壊力は、圧倒的じゃないか。まさか彩菌ですら突破できなかったこのバリアをいとも容易く突破してくるとは、な。


「萌えた、萌え尽きたよ、真っ白なピーーがピーーする所だったぜ。お兄ちゃんの完敗だ。」


「あ、ルディ大丈夫ですか? 」


フランはフッと笑みを浮かべて床に再び倒れ込もうとしている俺の肩にしゃがみ込んでから手をおいてそんな事を言ってきた。俺は自分の肩に置かれているフランの手に、自分の手を重ねてからフランに話しかける。


「フラッシュ、疲れただろう。僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ。フラッシュ。」


俺の言葉を聞いたフランは瞼が徐々に下がって行き、じと目になった。俺はそれを見てしまった! という顔を作る。


しまった! このネタこっちの世界の人に通じないんだったぁぁ! ここで、それってお前ただの賢者タイムじゃん! とかのツッコミを望んでいた俺がバカだった‥‥。いや通じたとしても相手は子供の女の子、そのツッコミが来ることなど期待出来ないし、よしんばきたとして俺がしょっ引かれるだけだ。


そして翌日の見出しにこう乗ることだろう。騎士王同年代の女の子にセクハラ! っと。ああ、イヤァァァ!! 恥ずかしいィィ! チッキショォォ!!


(フッ アハハハハ! や〜い 変態! 変態! 彩菌が移るぞ! こっち来るな〜 )


やめてぇぇ! 心の傷に塩塗りこまないでくれぇぇぇ!


心の傷に塩を塗りこまれ、俺が心の中でもがき苦しんでいるとじと目をしているフランが口を開いた。俺の心の傷がさらに広がるようなことを言われないのを祈るばかりだ。


「なにを言っているんですかルディ。それになんです? フラッシュって。もしかしてフラン・レーベルシュタインを略しているんじゃありませんよね。ルディは人の名前をそんな雑な略し方しませんもんね。」


「あ、当たり前だよ。僕がそんなことするわけないじゃないか。噛んだだけさ。それよりも! なにをするんだよ、フラン。危うく昇天、んっ! 死にかけたじゃないか。」


俺は咳払いをした時に当てた手をそのままに、目線をスーッと逸らした。あ、あぶね〜。また下ネタぶっこむ所だった。俺って一度そういう下ネタスイッチ入ると抜け出すのに時間かかるからな。気をつけなくては。それにしても今の意味、フランはわかってないよね? わかっていたら俺、社会的に死んじゃうんですけど。


「そんなこと言われましても、私はただルディお兄ちゃんの事をお兄ちゃんと呼んだだけなのですが‥‥」


俺がヒヤヒヤしながらフランに視線を向けてどうなんだ? と思っているとフランはわざわざお兄ちゃんの部分を強調しながらそう返してきた。それに俺は胸を押さえて再び床に倒れこむ。


く、苦しいぃぃ! お兄ちゃんという言葉は人を死に至らしめる効果でもあるというのかぁぁ! よく世の中の兄達は生きていられるな。は! 奴ら兄族もしや不死身!? な、わけないか。近くに兄族がいるがあいつはそんなんじゃないしな。まあ、ある意味あれは不死身と言えなくもないが。


‥‥なんだか、グレイも事を考えていたら今の自分がアホらしくなってきたな。それに絶対フランは俺がお兄ちゃんの部分にもがき苦しんでいる事を分かってやっているからな。そして俺の反応を見て楽しんでいると。なんて酷いやつなんだ。そんな子にお兄ちゃんは育てた覚えはありません!


グレイの事を考えて冷静を取り戻した俺はそんな事を考えながら胸を押さえて立ち上がり、しゃがんでいるフランを見下ろす。そして若干フランに侵食されている事実に戦慄しながら口を開いた。


「フラン、僕で遊んでいるだろ? 」


「さあそれはどうでしょうか。」


フランはしゃがんでいた姿勢から立ち上がり、わざとらしく首を傾げた。目が笑っている事から俺で遊んでいた事を隠すつもりはないらしい。俺はそれを見てこやつ〜っと視線を強くするが、すぐにフッと柔らかくした。俺がいつもクソジジイにもやっている事だし、こういうやり取りをするのが友達というものだから。


「まあいいけど。 フラン、君に渡すものがあるんだ。」


俺はそう言ってから内ポケットにしまっていたものを取り出す。お土産だ。今ならば俺とフラン以外誰もいないし、渡すとしたらこれ以上の機会はないと言っていいからな。図書館内でこういう機会が訪れるかどうか分からなかったから一応と、他のみんなの分も含めてあちこちのポケットに入れといてよかった。


「これは、なんでしょう? 」


フランは密かに胸を撫で下ろしている俺など、目に入らないとばかりに俺の手に持っているリボンで結ばれたお土産へと視線が釘ずけだ。俺はそれを見て喜んでくれたかと気分を良くしてからお土産を持った手をフランへと差し出す。


「これなんだけど、王都に行った時に買ったお土産なんだ。フランに似合うと思ってね。はい。」


「‥‥。」


フランは無言のまま、お土産から視線をそらす事なく本を床に置き、受け取ってその姿勢のまま固まってしまった。それを見た俺はそんなに喜んでくれるなんて嬉しいな、供物として買ってきた事が惜しいくらいだと思い、照れ臭そうに頬を掻く。


今度からはどこか行く時はそう言う事は関係なくお土産を買うのもいいかもしれないな。自己満足かも知れないけど。俺は前世で変な置物をもらった時にどうしていいのかわからず、悩んだ経験があるからお土産を送る相手に変なのを送らないように気をつけなくちゃな。


俺はあのお土産の置き場所にかなり困ったっけと苦笑いを浮かべていると未だに固まっているフランが目に入った。俺はそれを見てそういえばいつまでフランは固まっているんだ? と疑問に思う。いくらなんでも固まっている時間が長すぎだ。何か可笑しい。


「フラン? 」


俺が固まっているフランの肩に手を置いて声をかけると、フランは動きを見せた。手に持っていたお土産から視線を上げて俺を見たのだ。俺はその目を見て目を見開く。フランの目は俺を見ているようで見ていない、まるでなにかに俺を重ねているようなそんな目だ。


フランはどうやらお土産をきっかけに何かを引き起こしたらしい。クロエといい、フランといい、俺といい、学園にはなにかしら問題を抱えている子供が集まるようにでもなっているのか? まあいい。俺が全て解決すればいいだけの話だ。


俺は‥‥いや、言うな。これを言ったらそれこそ自己満足になるし、口にした時点でそれは意味を失う。だから言うな。俺はお前になんて取り憑かれてない。俺は俺だ。だから俺のやりたいようにやる!


俺は目を一回ギュッと強く瞑ってから目を開いてフランに話しかけようと口を開こうとした所でフランがポツリと呟く。


「う、うそ。私に‥‥お父様。」


そうか、お前のその原因はお父さんが絡んでいるんだな。お前が望むならそれはなにがあろうと俺が解決してみせる。だから戻ってこい、フラン。それじゃあ会話出来ないだろ! お兄ちゃんを1人にするなんて悪い妹だな!


「フラン! 」


俺はフランの両肩に手を乗せて強く揺さぶった。すると、フランは目をパチパチとして間近にある俺の顔を凝視し、声を上げる。どうやら元に戻ったようだ。よかったこれで話ができる。


「どうしたんですかルディ? 私にそんなに近づいて、はっ! もしかして私もエルザやクロエ、リザみたいに籠絡するつもりですか!? 」


「お前なあ、こっちがどんだけ心配したと思っているんだ? 俺は‥‥いや、いい。お前がなんともないんだったらな。ただ一つだけ言っておくぞ。何かあったら俺を頼れ。」


「へ? 」


フランの目を覗き込んで言った俺の言葉にフランは素っ頓狂な声を上げた。俺はまだよくわかっていないという表情をしているフランを見て、肩から手を離し数歩下がってから腕を組んで偉そうに胸を張る。


これから言う事はたとえ、偉そうに見えたとしても自信満々に言ったほうがいいからな。安心感というものが違う。


「自分で言うのもなんだが、俺は結構力を持っている。」


「本当に自分で言うことじゃありませんね。」


「まあ、最後まで聞け。俺の持っている力は戦闘力、権力、財力などなど多岐にわたるがこれらを使えば大抵のことは解決する事が出来る自信がある。出来そうになくとも戦闘力を前面に押し出して力尽くでやり遂げるしな。まあ戦闘力をそういう使い方するのは時と場合によるが。長ったらしく自慢話になったが、つまり俺が何を言いたいかというとだ。フラン。」


「俺は俺の持っているもの全てを使って、たとえ何を犠牲にしてもフランの望む事をしよう。なんでも一つ言うこと聞くって約束もしたしな。」


張っていた胸を元に戻してから組んでいた腕を解き、代わりに片手を胸に当てて目を鋭くして俺はそう言い切った。これで俺の気持ちは伝わったはずだ。伝わってなかったら俺、泣いちゃうかも知れないなと思っていると、フランは俯いて何かをぼそぼそと呟いてから顔を上げた。そしてやれやれとばかりに首を横に振る。


「貴方は、まるで絵本に出てくる悪魔ですね。ええ、悪魔です。ですが、どうしてエルザ達が貴方に惹かれるのか分かりました。ルディ、何かあった時、頼みますね? 」


フランは胸の前にお土産を抱きながら微笑んでそう言ってきた。俺はそれに無言で頷き、フランに歩み寄る。スタスタと足音を鳴らしてからフランの前に立った俺は、お土産を握っているフランの手にそっと手を当てて、ちょっと借りるよ? と呟いてからお土産を借りた。


そして、そのお土産のリボンをシュルシュルと解いて箱を開け、その中に入っていたフランへのお土産、ペンダントを取り出しフランへの首へとかける。


「任せておけ、これは約束の証だ。」


「ありがとうございます。ところでルディ聞いていいですか? 」


フランは頬を赤らめながら、首にかけられたペンダントを指でなぞりお礼を言ってきた。しかしフランはなにか俺に聞きたい事があるらしくペンダントに触れながら、俺に目を向けて質問していいかと聞いてきた。それに俺は何だろうと思いながらも首を傾げて聞き返す。


「なんだ? 」


「貴方口調変わってますよ? 」


フランのその指摘を聞いて俺は目をパチパチとせわしなく瞬きしてから、目を見開いて頭に両手を当てて大声を上げる。


「あ、アッー!? またやっちまったぁぁ! 俺のバカぁぁぁ! 」


俺の絶叫は普段とは全く声色が違うこともあり、図書館内にいる生徒たちに俺の声と気づかれる事がなかったのは幸運なことだろう。

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