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召転のルディア  作者: NTIO
壊れゆく日常
198/220

頭脳対決①


ゆらゆらと揺れる意識の中に強い光が差してくる。それを受けた俺の意識は深い海の底から浮上する様に上がっていく。そしてぱちっと目を覚ました。目を覚ました俺は起き上がりグッと背伸びをする。夕飯の後、少し荷物の整理をしてからすぐにお風呂に入り布団に入ったので、かなり睡眠を取る事が出来た。昨日の疲れがすべてとはいかないがかなり取れたと言っていいだろう。


俺はグッと上に伸ばしている手をゆっくりと下げていき体をほぐす。今日から学校だ。気合いを入れて行こう。


「ああ、よく寝た。なあレヴィ。早起きしたからなんか特訓でもしたいんだけど何かないか? 」


体をほぐし終わった俺は布団から出て、レヴィに話しかけた。しかし、レヴィの様子がおかしい様だ。


(腕立て伏せでもやればいいじゃない。一々私に聞かないで。フン! )


俺の質問に帰ってきたのはなんとも投げやりな言葉だ。そしてそれを言っているレヴィの声色は怒り。どうやら今日のレヴィはプンプンレヴィの様だ。まあ、その原因に心当たりはある。


昨日の俺の仕返しのからかいに怒っているのだろう。しかし、それくらいでここまでプンスカ怒るとは本当にレヴィは長い時を生きてきた魔剣なのだろうか。どうにもそうには思えないんだけど。


俺は腰に手を当ててはため息を吐く。


「はぁ〜、おいなに怒っているんだレヴィ? まさか昨日のことまだ怒っているのか? 」


俺はなんとかレヴィとの和解を図ろうと話しかけたが無視。これは相当怒っている様だ。め、面倒くせ〜。


コンコン


「坊っちゃま、起きてますか? 」


俺がプンスカレヴィに面倒くさ〜と思っていると、ドアがノックされアリアの声が聞こえてきた。どうやら俺を起こしにきたらしい。あ〜あ、せっかく早起きしたのに時間を有効に活用できなかった。全くプンスカレヴィにも困ったもんだ。まあ、レヴィとは早めに和解をしよう。昨日の俺もやりすぎたからな。


「ああ、起きてるよ。」


俺はどうやってレヴィと和解をしようと思いながらアリアに返事を返して立ち上がりクローゼットへと歩いていく。クローゼットに辿りついた俺はバタっとクローゼットを開き、制服を取り出す。そこまでやって俺はピタリと手を止めた。ここから先をやってしまったらアリアの仕事を奪うことになるからな。アリアが入ってくるまで待つとしよう。


「入りますね? 」


アリアはその言葉と共に入ってきた。俺はアリアにおはようと言ってから制服を差し出す。はい、おはようございますと返したアリアは俺から制服を受け取り、着せてくる。俺はアリアになされるがままになりながらそういえばアイリスはどうしたんだろうと疑問に思った。


昨日ハマったのか知らないがご飯を食べている最中も、荷物を整理している最中もずっとメイド力と口にしていたアイリスだが、こんなザ・メイドな時にいないとは何かあったのだろうか? メイド力を爆発せるなら今だぞアイリス。


俺がそんなバカな事を考えているとアリアが俺に服を着せながら俺の疑問に答える。どうやら俺がアイリスどうしたんだ? と考えていることに気づいたらしい。


「レーティシアは起こしたのですが、どうやら疲れた様でしてまだ眠っています。全くこれからメイドとしてやっていくのにこれで大丈夫なのかしら。」


俺はアリアのその言葉を聞いて納得した。確かに昨日あれだけはしゃいでれば疲れるだろう。しかも昨日は魔物狩りまでしたんだ、ベットの魔物に取り憑かれて朝が起きれなくなる事は請け合いだ。


それにアイリスはまだほんの10歳。そんな疲れが溜まった状態で起こすのは酷というもの。今日くらいはグッスリ眠らせてやろう。アリアに今日は思う存分寝かせてやる様に頼んでおくか。


そうと決めた俺はアリアに視線を合わせ笑顔を浮かべて話しかける。


「いいよ。昨日あんな事があって疲れるのは当たり前だからね。それがアイリスくらいの年齢な尚更。今日くらい思う存分寝かせてあげて。」


「レーティシアより、歳の低い坊っちゃまが言うと説得力がありませんね。でも分かりました。今日は寝かせておきましょう。」


俺の言葉を聞いたアリアは俺に帽子を被せながら分かりましたと答えた。それにありがとうと返してから俺は机へと歩み寄り昨日のうちに置いておいたものを手に取る。


これは王都で買ったクロエ達へのお土産だが、色々あって渡すことができなかったので今日渡すために、昨日のうちに袋に入れて準備していたのだ。しかし、これをどこで渡すか‥‥。


クラスのみんな、というか1年生のみんなの前で渡したら俺のは? 私のは? と聞かれるに違いない。それは困る。全員分のお土産は買ってないからだ。いや別に俺が薄情な奴とかそう言うのじゃないよ? ただ単に忘れていただけだ。クロエ達のは怒りを収める供物的な感じで買ったが‥‥。本当にどうしようかな? いっその事1人1人呼び出すか? いやいや〜


「あれ? 坊っちゃまそれは? 」


俺がお土産が入った袋を見つめて考えているとそんな俺を不思議に思ったのか、アリアが袋に視線を向けながら聞いてきた。俺はそれを見てあ、やべっと冷や汗を掻く。このお土産を普通に買っていればこんな事にはならないのだが、残念ながら買った時がアリウシア様とのデート中だ。それがバレたらアリアにコッテリ絞られるかもしれない。それは嫌なので俺は誤魔化しに入る。2日連続お仕置きとか絶対嫌だ。


「ああ、これ? みんなへのお土産かな。」


「そうですか。みなさんの分にしてはう〜ん? 」


アリアは袋を持ち上げて笑顔で言った俺の言葉に首を傾げる。どうやら袋に入っている量を推測してその数がみんなの人数から考えて少なすぎると思っている様だ。


ど、どうしよう。ばれそうなんですけど。い、嫌だ! お仕置きされたくない!


俺がダラダラと掻いている冷や汗の量を増やしているとこの危機的状況を打破する助けが舞い降りた。


「「「ルディ、学校行こ〜!! 」」」


グレイ達、男子諸君の声だ。ナイス!


それを聞いた俺は袋を肩に背負い、ドアの前にシュンッと移動した。アリアが突然移動した俺を見てあっちょっとという顔をしているが、俺はこの絶好の機会を逃すつもりはないので気にせずにじゃっと片手を上げる。


「じゃあ、僕は行ってくるね。皆んなを待たせたらいけないから。」


そう言ってから左手でドアを高速で開け、その時の勢いを利用して反時計回りの華麗な動きで自分の部屋を出た。部屋を出た俺はクラウチングスタートで走り出し、スタタタと廊下を駆ける。これは時間との勝負だ。アリアにお土産が見つかれば俺がお仕置きされ俺の負け、ここで逃げ切りクロエ達にお土産を渡せたら俺の勝ちだ。この行動をとっている時点で相当怪しいが証拠がなければいいのだよ。証拠が! フハハハ!


「あ、坊っちゃま待って下さいよ! 」


俺は後ろにアリアの声を聞きながら心の中で高笑い上げ続けるのだった。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



家の前に迎えに来ていた男子諸君と合流し食堂に向かった俺は今、カツカツとお皿に盛られた料理をナイフとフォークを駆使して食べている。今日の朝食はベーコンとタマゴと野菜、デザートのプリンだ。


ベーコンとタマゴと野菜は朝食としてありふれているが、デザートにプリンとは今日は運いい。朝から糖分が取れるなんて今日はいいことがあるのかもしれないな。とっととベーコンとタマゴとサラダを食べてデザートのプリンに行こう。


しかしさっきからグレイがにやけ顏で俺を見てくるのは何故だろうか。まあ、どうせロクでもない事を考えているは目に見えて分かるので俺はちらりと視線を向けるだけで再び食事に戻った。今はベーコン討伐に忙しいのだ。グレイに構っている暇はない。ベーコンウマッ!


しかし、視線をちらりとでも向けたのがいけなかったのかグレイはにやけ顏を維持したまま俺に話しかけてきた。


「なあルディア、お前今日から授業だけど大丈夫なのか〜? 」


「なんだよグレイ。随分楽しそうに聞いてくるね。」


俺はグレイの言葉を聞いてタマゴの討伐に取り掛かりながらグレイに目を向けた。グレイは俺が目を向けたのと同時に勢いよく立ち上がる。


なにがやりたいんだこいつ。あ〜あ上級生の人達がメンチ切って来ているよ。生徒会とか騎士王とか色々な肩書きを持っている俺がいなかったら今頃グレイはメンチ切っている人達にミンチにされていたな。うんうん感謝しなさい。では助けた報酬として、プリンは頂きます。


しかし俺のプリンに伸ばした手はグレイに叩き落とされてしまった。そして俺の手を叩き落としたグレイは身振り手振りを交えて大声で話し始める。それでさらに上級生達の視線が強くなっているが‥‥何かあっても助けないからな。俺はただでは助けん(男性限定)


「当たり前だ。ルディアァ〜お前が王都に行っている間にどれだけ授業が進んだと思っているんだ? この学園は学園都市、いや! 王国のトップ校として君臨している学校だぞ?その学園の授業は1ヶ月受けなかっただけで置いてきぼりを食らうと有名なんだ。それをお前、フッ 5ヶ月も受けてないとなると‥‥。」


グレイはそこで言葉を区切りバサッと両腕を広げた。


「もはや、俺達との差は天と地ほど開いていると言っていいだろう! まあ、実技はともかくこっちの方がな。」


頭をコツコツと人差し指で叩いているグレイを見て俺はグレイに向き直り、足を組んで頬杖をつき口元に笑みを浮かべる。この俺にバカとでも言いたいのかグレイは? フフフ、ハハハ、アーッハッハッハッ! いいだろう。その挑発受けてやる。小学1年生如きが前世で高校をやっていた俺にバカと言ったこと後悔させてやろうではないか。


「へ〜グレイ。僕が頭が悪いと言いたいのかな? その挑発、受けようじゃないか。フフフ、よろしい戦争だ。」


俺はワザとらしく足を組み替えて指をクイクイと曲げる。


「なんでもいい。僕に問題を出してみなよ。それに答えてみせよう。でも出す問題はよく考えた方がいい。これは勝負だ、僕が間違ったらなんでも1ついう事を聞くが‥‥」


「もし僕が正解した場合は1人につき、一個朝食のデザートのプリンを貰おうか。」


「い、いいだろう。皆んな聞いたか! ルディアに頭脳対決で勝ったらなんでも一回言う事を聞いてくれるらしいぞ! 」


グレイは自分のプリンを俺にビシっと指さされた事に臆したのか、俺からプリンを庇うようにしてからこの場にいる1年生全員に聞こえるように大声でそう言った。フッ 俺を前に不安になるのはわかるが数で勝てるというものでは無い。絶対的強者こうこうせいの前に弱者しょうがくせいが何人集まろうと無意味だ。0がいくつ集まろうと0のようにな!


まあいい。俺に挑む人数が多いほど、俺が獲得できるプリンも多くなるというものだ。ククク


「それは本当!? ルディア君の絶対命令権ってどんな宝石よりも貴重じゃない!」


「ふふふ、実技では勝てないけど頭ならまだ勝算はあるわ。これでルディア君にあ〜んな事やこ〜んな事をお願いしてふふふ‥‥」


「やってやるぜ。ルディアに前々からお願いしたいことがあったんだ。」


俺が黒い笑みを浮かべているとグレイの言葉を聞いた1年生達が一斉に立ち上がり、各々自分の欲望を口に出し始めた。しかし、あ〜んなことやこ〜んなこととは一体どういう事だろうか? ‥‥あの女の子だけわざと負けようかな? ん〜やっぱりやめておこう。小学生に頭脳勝負で負けたくないし、何よりプリンをみすみす逃すつもりはない。これは絶対だ。


それにしてもと俺は誰が先に行くかと話し合っている、俺に頭脳勝負を挑もうとせん挑戦者達へと目を向けた。大体、1年生ほぼ全員言ったところか。ノリいいな、おい。いない人と言えばクロエ、エルザちゃん、リザ、ジルコだな。まあジルコはそもそもここにいないが。毎回毎回朝食の時にいないが一体あいつはどこで食べているのだろうか? まあいい。そういうのは人それぞれだからな。俺がとやかく言う事じゃないだろう。


それはともかく、ではどうしてクロエ達は俺に頭脳勝負を挑まないのだろうか。俺はその疑問を解消する為にクロエ達へと視線を向けた。するとクロエ達の話し声が聞こえてくる。


「クロエは行かないんですか? ルディを一回自由にする権利が手に入るんですよ? 」


「行かないわよ、見てみなさいあの顔。鴨る気満々じゃない。」


フランが首を傾げて聞いた事にクロエはプリンを掬っていたスプーンで俺を指差してそう言った。なんとクロエは俺がみんなからプリンを巻き上げようとしている事に気づいているようだ。俺、そんなに顔に出てるか? うん出てるな。黒い笑み浮かべてたわ。


「ほほ〜つまりはこれで動いていない人はルディの表情の意味をよく分かっている人達という訳ですね。」


顎に手を当ててふむふむと頷きなるほどと言っているフランに、エルザちゃんは違うわとばかりに首を横に振る。


「いや、あれで分からない人の方がおかしいわよ。片手にスプーン握りしめている時点で負ける気なんてさらさらないと言っている様なものじゃない。」


エルザちゃんは俺の左手を呆れ顔で指差してそう言ってきた。俺はエルザちゃんにそう言われて自分の左手を見てみるとしっかりスプーンを握りしめていた。俺はそれを見て目を見開く。


な、なんだと!? 無意識のうちにスプーンを握っていたというのか! どんだけ俺はプリンが食べたいんだ! バカか!? バカだ! ふぅ、俺がバカなのは置いといて俺がスプーンを握っている事が知れれば鴨、んっ! 挑戦者達が減ってしまうかもしれないのですぐに隠そう。


そうと決めた俺はサッと椅子の後ろにスプーンを隠した。


「あ、隠しましたね。」


「聞いていたのかしら。」


俺がスプーンを隠していたのを見ていたのかリザとクロエがそう言った。俺は俺がプリンを巻き上げようとしている事に気づいた3人へとお口チャックのジェスチャーを送る。それを見たフランが口元に笑みを浮かべた。あ、やばい予感がする。


「黙ってろってサインが来ました。やっぱり鴨る気ですね。」


フランは誰が先に行くか話し合っている挑戦者達にギリギリ聞こえるか聞こえないかの声量で返してきた。それを聞いた俺は慌てて次のジェスチャー出した。ちょ、ちょっとフラン黙ってて!という言葉が伝わるように顔の表情は変えず、手をだけを忙しなく動かす。するととその言葉が伝わったのかフランは1つ頷いた。ふぅ〜分かってくれたか。


「いいから黙ってろですか。はい分かりました。ルディが鴨る気満々なことは黙っておきます。」


俺はがっくりと項垂れる。ぜんぜんわかってないじゃん。というか絶対わざとじゃん。もうやだフランさん。


しかし、俺はプリンは諦めるつもりは無いので俺は何が目的だとジェスチャーで聞く。こういう事をやってくるという事は何かしらの目的があるはずだ。それを聞けばフランさんの猛攻も止むだろう。たぶん。


「そうですね。私たち3人で3つだけなんでもいう事を聞く権利で手を打ちます。」


俺は〇〇〇ロンか! と心の中で突っ込みながらOKサインを出した。クロエ達なら無茶なお願いしてこないだろうしな。フランは俺のOKサインを見て頷く。どうやら納得してくれたようだ。よし、これで俺のプリン巻き上げ作戦を邪魔するものはいなくなった存分に鴨らせてもらおうか!


「フランちゃんよくルディア君と会話できますね。」


「ふふふ、私は秘密多き女なんですよ。ミステリアスガールって呼んでください。」


「アハハハ、なにそれ〜 」


フランから視線を外し意気込んでいるとそんな会話が聞こえてきた。俺はそれに確かにミステリアスガールだな頷く。俺並みに人を操るし、交渉の仕方が巧みだし、一体どこで覚えたのだろうか。俺は愛読書、人を操る7つの法則をで学んだが‥‥。は! もしかしてフランも読んでいるのか!? 人を操る7つの法則を! 今度話しを吹っかけてみようかな。


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