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召転のルディア  作者: NTIO
壊れゆく日常
197/220

ただいま我が寮


「つ、つかれた‥‥。」


俺は今、ズサッズサッと足を引き摺る様に真新しく建てられた建物の間を歩いている。やっと俺が起こした問題の全てを解決できたのだ。あちこちにすいませんでしたと言って回ってから、冒険者ギルドに行って死体の回収買取をお願いし、担当の人達と共にまた門の前に戻って、浮かべていた死体を担当の人達が持ってきていた台車に乗せると査定には時間がかかると言うので担当の人達と別れ今に至る。あ、その時にゼンツ先生とも別れた。なんでも他にもやる事があるらしい。


気にせずに帰れと言われたがおそらく俺関連の事だろう。ばれない様にしていたので突っ込まなかったが、ゼンツ先生には今回に1番と言っていいほど迷惑をかけたので、今度何かお礼の品でも買って渡さなくては。


「はぁ〜」


俺はそこまで考えてはぁ〜と息を吐いた。


はぁ本当に疲れた。謝って回っている時は相手が俺、つまり子供という事もあってスムーズに進んだが死体運びがヤバかった。精神的に。運んでは台車の上に乗せ、運んでは台車の上に乗せの繰り返し。工場の機械になった気分だったと言っておこう。しかし査定が終わったら知らせると言っていたが、直接寮に来るのだろうか? それとも手紙で査定終わったんで、来てくだーいとでも言われるのだろうか?


ま、いいや。今は何も考えたくない。とっとと寮に帰ってしまおう。そしてご飯食べて寝よう。そうしよう。そうと決めた俺はただひたすらにゾンビの様な足取りで学園への道のりを歩いていく。


ズサッズサッと歩いていた俺はそう言えばと周りには視線を向ける。


謝り回っている時にも思っていたけど、随分と復興は進んでいる様だ。ここら辺は見る限りもう魔族に襲われた面影は残っていない。壊された建物は綺麗に直されいる。まあ、恐らくここは人が多く住んでいる区画だから重点的にやったんだろうけど。だが5ヶ月でここまでとは脱帽する。手際がいいっていうかなんていうか。どうやらここ学園都市の領主は有能な様だ。


俺はふっと口元に笑みを浮かべてから空を見上げる。門の前に着いた頃はまだ日は高く登っていたのだがもう既に空は茜色に染まっていた。そしてその夕日に照らされている学園都市の往来を行き来する人は仕事帰りの人、学校帰りの学生などと様々だ。


俺は空に向けていた視線を戻してギュッと手を握りしめる。


よかったぜ、ここの領主が有能で。もし前のエイバの豚領主みたいな奴だったらさらに被害が増えると判断して俺が殺していた所だった。そういう事にならなくてよかったよかった。後始末が色々と面倒だからな。さてと、黒い考えはここまでにして早く帰るとしますか。アリアとアイリスも待っているだろうし。あ、その前に‥‥。


俺はカツカツと右手の方に見えたアイスクリームを売っている屋台へと歩いていく。疲れた後には甘いものが1番だからな。糖分最高。


「おじさん、それ頂戴。」


「おお、聖魔ルディアじゃねえか。お前さんが死体の山をやっていたんだってな! あれ見た時は腰が抜けそうになったぜ! ガハハハ!! 」


アイスクリームを指差した俺を見て屋台のおじちゃんは目を見開いてからそう言ってきた。しかしそう言っていながらも手は動いている。さすがプロというところか。というか目を瞑って大声で笑っているが、どうやって見ずにアイスクリームを適度に掬い、コーンに盛っているのだろうか? 不思議だ。


俺はその屋台のおじさんの手を見ながら頭を下げる。この人にも迷惑をかけた様だからな。謝るのは当たり前と言うものだ。


「ご迷惑をお掛けして申し訳有りませんでした。」


屋台のおじさんは頭を下げた俺を見て、ガハハと笑う。なんとも豪快な笑い方をする人だ。


「いいって事よ! 聞くところによると魔物の死体を他の魔物に取られたくない、尚且つ死体を傷つけたくなかったから浮かべてたんだろ? 死体、つまり商品を傷つけたくないって思うのは冒険者も俺たち商売人も同じだ。多かれ少なかれ、冒険者達も同じ様なことをやってるさ! ま、規模が違うがな! ガハハハ! ほれ出来たぞ! 」


「有難うございます。次からは本当に気を付けます。」


俺は屋台のおじさんが手渡してきたアイスクリームを受け取り、代金を払ってからぺこりと頭を下げて、屋台のおじさんに背を向け歩き出した。手に持ったアイスクリームをペロリと舐める。すると口の中に広がるヒンヤリと広がる糖分。それに俺は顔に恍惚とした表情を浮かべた。ああ、やっぱりいい!


「おう、そうしてくれ! また来いよ! サービスするからな! 」


俺がたまらないとアイスクリームぺろぺろと舐めていると後ろから屋台のおじさんの声が聞こえてきた。ほほ〜サービスしてくれるとな。よし、あそこはできればアリア、アイリスを連れて毎日行こう。学園のみんなにも奢ってあげるのもいいな。今回は迷惑かけたし。あと、神軍の子供達か。う〜んそうなるとかなりの額になるな。


ま、いいか。どうせ今回の魔物狩りで大金が一気にどっさりと入ってくるだろうし。お金の心配なんてしなくていいよね? しかも定期的に魔物を狩ればお金は減るどころか増えていく一方だろうからな。そのお金は何に使おうかな〜前から考えていた武器作り? はたまた学園都市のスイーツ巡りってのもいいな〜どうしよっかな〜。


アイスクリームを食べたことで糖分を摂取し、疲れが吹き飛んだ俺は上機嫌にスキップで前方に見えてきた学園の門の中へと入っていく。するとおしゃべりをしていたり、何やら特訓をしていた人達が俺に気づいて此方に目を向けて話し始めた。


「あ、ルディアだ。」


「あいつ帰ってきて早々騒ぎ起こしたそうだな。デスボール事件。」


「知ってる知ってる。死体を大量に浮かべて帰ってきたんだろ? 轟魔が男子寮の上でどデカイ声で言ってた。」


「ヤバイな。」


「ああ、本当にヤバイな。」


「「さすが聖魔。やる事が違う。」」


俺はその上半身裸で剣を持ち、首にタオルを掛けた男子生徒達の言葉には? となる。なんだよ、そのデスボール事件って。俺はそんな宇宙の帝王を彷彿とさせるような事件を起こした覚えなんてないぞ。俺がやったのは大量の魔物の死体を空中に浮かべただけだ。そんなデスでボールな事はやって、やって‥‥るな。うん。


死体の山を遠くから見たら球体に見えたんだろうな、きっと。しかし、ジルコあいつ何やってんだ。あいつの行動は時々よく分からん。はぁ〜なんかまた気分が下がってきた。さすが聖魔って絶対褒め言葉じゃないだろ。きっと後ろに(笑)か、(恐)がついてるんだろうな。今回の事件でついた俺のイメージを剥がすのにどれくらい時間がかかるのやら‥‥。


俺がスキップしていたご機嫌な足取りを、普通の歩調に戻しているとおしゃべりをしていた2人の女生徒の話し声が聞こえてきた。


「私、ルディアくんの事よく知らないんだけど、怖いのかな? 死体を大量に浮かべる位だから‥‥。」


胸に本を抱いた恐らく図書館帰りだと思われる女生徒は隣で腕組んで俺を凝視している女生徒に話しかけた。聞かれた女生徒は首を横に振るう。


「私に聞かれても話した事ないし、分からないわ。でもあの子、騎士王になったんでしょ? とんでもない玉の輿じゃない。うふふふ。」


女生徒は俺から一切視線を外さずに答え、ふふふと口元に笑みを浮かべた。それを見た俺はアイスクリームのコーンの部分を食べながらビクンッと体を揺らす。これはアイスクリームを食べたから体が冷えて震えたわけではない。なんていうか‥‥そう、これは恐怖だ。


今の俺は肉食獣の前に放り出された小動物のような状態になっている。女生徒から放たれる禍々しいまでの捕食してやるという視線がそうさせているのだろう。お、恐ろしい。


俺が恐怖に怯えながらその震えを利用してコーンを高速で食べているのを知ってか知らずか本を胸に本を抱いている女生徒は犬歯を覗かせ始めた女生徒にまさかと話しかける。


「ま、まさか。狙ってるの!? 相手はまだ一年生だよ? 7歳だよ!? 」


女生徒は胸に本を抱いた女生徒に話しかけられて、ふっと俺に向けていた禍々しい視線を切りはぁ? とばかりに胸に本を抱いた女生徒に目を向けた。俺はといえばその禍々しい視線から解放されて今のうちにとばかりに足早に歩き出す。ナイス、本の人図書館であったらお礼をさせて貰います!


「煩いわね。地位、力、容姿が揃っている男がどれほどの希少生物と思っているのよ。見つけたら即捕獲するに限るわ。それに実家が婚約、婚約煩いのよね。しまいにはどこの骨とも知れない坊ちゃんとくっ付けられそうなのよ。それなら自分から取りに行ってやるわ。男を! 」


「はぁ〜もう。」


俺が足早に自分の寮に向かっていると後ろから力のこもった女性の声とため息が聞こえてきた。恐らく、女生徒が拳を天に突き上げ、それを見た本の人がため息を吐いたのだろう。ありありと目に浮かぶ。そこまで考えた俺はどうなったのか気になったので観測眼で見て見る。すると、先ほど俺が予測していた事とほぼ同じ事が行われていた。やっぱりか、うん。はい、帰りますか。


余りに予想通りの事に俺はつまらないなと思ってから、すぐに観測眼を切ってスタスタと歩いていく。そしてしばらく歩いていると前方に久しぶりの俺の寮が見えてきた。それを見た俺の足取りは早くなり、ついに辿り着いた。


ふぅと息を吐いてから俺は胸ポケットから生徒手帳を取り出してドアに翳し、ドアを開け中に入る。家の中に入った俺はドアをガチャっと閉めてから声を上げた。


「ただいま〜アリア、アイリス。いま帰ったよ〜。」


家の中に俺の声が響き渡る。するとドタドタという足音と共にアリアとアイリスが玄関に出てきた。


「坊っちゃま、お帰りなさいませ。」


「ルディお帰り〜」


「ただいま。」


俺は笑顔を受けべておかえりと言ってきた2人にただいまと返してから、手を出してきたアリアに帽子を預ける。帽子を受け取ったアリアは帽子に少しついている汚れを優しく払ってからご飯を今すぐ食べるかどうか聞いてきた。


「坊っちゃま、夕食は既に出来ていますが直ぐにお食べになりますか? それとも休んでからお食べになりますか? 」


「じゃあ直ぐに食べようかな。歩き回ってお腹ぺこぺこなんだ。」


「ふふ、では早速準備して来ますね。」


アリアはお腹に手を当てて言った俺の言葉に、口に手を当て笑ってからキッチンへと向かって行った。それを見た俺も靴を脱いでスタスタとゆっくりと歩いてリビングに向かっていく。首をゴキゴキと鳴らしふぅ〜疲れたと呟いているとアイリスに袖を引かれた。


「ねえ、ルディ。私も野菜を切るの手伝ったんだよ! 」


「へぇ〜それは楽しみだな。アイリスが切った野菜ならとても美味しいんだろうね。」


俺はアイリスに視線を合わせて笑顔を浮かべた。アイリスのあのナイス捌きなら上手に切れているんだろうなぁ。


「エヘヘヘ。」


アイリスは俺にそう言われて頬に両手を当てて喜ぶ。俺はアイリスのその反応を見て苦笑いを浮かべた。これじゃどっちが年上なのかわからないな。ま、見た目はどうあれ精神的な年齢は俺が圧倒的に上なのでこれでいいと思うが。


俺がそんな事を考えているうちにリビングへと辿り着いた。すでにリビングのテーブルの上には料理が置かれている。キッチンで手を洗っているアリアを見るに準備は終わったのだろう。


俺は料理が置かれているテーブルへと歩いていき席に着いた。アイリスも俺の隣に座る。キュッと蛇口を閉めて手を拭き席に着いたアリアを見て俺は手を合わせた。


「頂きます。」


「「頂きます。 」」


その頂きますという言葉を言ってから俺たちは料理に手を付けていく。俺はビーフシチューのような料理をスプーンで掬って口に運んだ。うん、おいしいな。コクがあっていい。しかし、これか。アイリスが切った野菜って言うのは‥‥。分かりやすいな。


俺はスプーンですくった野菜を凝視する。


こういう時って大体大雑把に切られてて分かりやすいって言うのがパターンなんだけど、さすがアイリス。その逆をいくとはな。向こう側が見えるほどまでに細く切るとは‥‥。


「あの坊っちゃま。聞きたいんですけど、学園長に何かしました? 」


俺がそのアイリスが切ったであろう野菜を口に含んでいるとアリアがそう聞いてきた。俺は思わず吹き出しそうになるのを我慢してからしっかりと飲み込みアリアに聞き返す。


「な、なんの事かな? 」


アリアは俺の質問に手に持っていたスプーンを置いて答えた。


「いえ、実は坊っちゃまがゼンツ先生について行ったあの後、私達は坊っちゃまのご命令通りに動いていたんですけど、1人の坊っちゃまのお友達がんっ! そう言えばよぉ、学園長はどうしたんだ? ルディアと一緒にいるって事だがこんなに騒ぎが起きても馬車から出てきやしねぇじゃねえかと言いまして。」


うん、ジルコだな。しかし声真似うまいな、おい。


「それを聞いたクロエ様がんっ! 寝ているんじゃない? ほら学園長お歳だから。実際に見てみればわかるでしょと返しましてそれで馬車の中を見てみると学園長が舌を口からダラーンと垂らして目が上を向いたなんとも間抜けな表情をしていたのです。どうにもよった様でして。ん〜おかしいですね。これまで一切酔わなかった学園長がどうして今回に限って酔ったのでしょうか? 」


アリアは目を細めて俺を見つめてくる。そのアリアの目からはお前がやったんだろ〜という意思がひしひし伝ってくる光線が出ているが俺は目を逸らして口笛を吹く。やったって言わなければ証拠なんて無いからな。そもそもクソジジイが変な手紙を書いたのが悪いんだ。俺は悪く無いもんね〜


「し、知らないな〜。うん、僕何も知らないよ〜。ヒューヒュー 」


「そうですか。私の勘違いだった様です。」


それをじっと暫く見つめたアリアは目線をふっと緩めて再びご飯を食べ始めた。ふぅ、なんとかなったか。あぶね〜。しかし、ククク。クソジジイはそんな間抜けズラ晒してたのか、俺も見たかったな〜。


「ねえルディ。明日から学校なの? 」


「うんそうだね。本当なら学校に通っているところを叙勲式に行くからって休んでいたんだ。その叙勲式を終わって帰ってきたからには学校に行かなくちゃね。」


「そうなんだ。」


俺の言葉を聞いたアイリスはショボーンと効果音が付きそうな落ち込み方をしながらちびちびと口に料理を運んでいく。俺はそれを横目で見ながら、でも仕方ないしな〜騎士学校とは違って学園はメイドの同行は認められてないしと思っているとそんなアイリスにアリアが話しかけた。


「レーティシア、坊っちゃまと離れるのが寂しいのは分かるけど、坊っちゃまが授業を受けている間にやる仕事はいっぱいあるんだからね? 掃除、洗濯、買い出し、etc‥‥。これらの事は坊っちゃまの役に立つ事だからそれを坊っちゃまを思いながらやれば寂しくないでしょ? 」


「うん、そうだね! そう考えれば全然寂しくないよ! 」


アイリスはアリアのちょっとよくわからない励ましに元気よく頷いた。俺を思いながらやるのはいいけど。トイレを掃除する時だけはやめてね? なんていうか、ねえ?


「じゃあ明日はまず仕事を覚える事から始めようか。」


「分かった、アリア! 私のメイド力を見せてやる! 」


頷いたアイリスを見て言ったアリアの言葉に、アイリスはスプーンをしゅっと勢いよく振って意気込む。俺はアイリスがスプーンを振ったことで飛んだ汁を重力操作でキャッチし、行儀が悪いとアイリスの頭にチョップをかましたのだった。

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