さあ、始めようか最後の仕上げを①
俺はスミナ孤児院のドアをガチャっと開け、使徒ズを連れて外に出る。このスミナ孤児院には8名の盗賊に捕まっていた子供達がいたが、その8名を使徒化させるまで好意的感情を上げるのにはかなり労力を使ったと言っていいだろう。どっと疲れた。まあいいスミナ孤児院でエイバの孤児院は全て回ったからな。これでお仕舞いだ。
俺がティーダ孤児院から始まった孤児院巡りは合計53名の使徒を生み出した。俺が助け出した子供の数から考えてこれはかなり少ない。恐らくだが養子に取られたか、別の都市の孤児院に回されたのだろう。どこも財政難だったからな。チッ早めに狂気感染のことに気付いていれば、手を打っておいたものを。
俺はそこまで考えて心の中でため息を吐く。
はぁ〜今うだうだ言っても仕方ないか。まあ孤児院を回る事で大体のエイバの現状も分かる事が出来たし、成功と言っていいかな。あ〜疲れた。
「おう、お疲れ様! でそっちのガキ達が新しい使徒か? 」
「「「あ! ルディア様! 」」」
スミナ孤児院から出てきた俺達にゲインコングが声を掛けてくる。そのゲインコングの声を聞いて俺が使徒化した子供達が駆け寄ってきた。
ゲインコングと子供達は外で待たせていたのだ。さすがにこんな大所帯でぞろぞろと入って行けないからな。まあ、ゲインコングは子供達のお守りとして外で待って貰っていたんだけど。
「ただいま。待たせたかな? 」
俺が周りに駆け寄ってきた子供達に笑顔で問いかけると、全員一斉に首を横に振った。少しだけ怖いと思った俺は可笑しくないだろう。だってコンマ1秒の狂いも無いんだもの。誰でも怖いと思う。
「いいえ! 全く! 」
「ルディア様を待つ事など、1時間でも1秒に感じます! 」
うんそれは重症だね、とは言えない。こうしたのは俺だからな。
子供達は俺の目論見通り、俺に対して絶対に悪感情を抱くことは無いと言い切れるほど使徒となった。俺に助けられたという強烈な印象が土台にあるんだ。こうなるのは必然と言えるだろう。
これでこの子達を俺が育てあげれば狂気感染のデメリットを無くした完璧な使徒の完成だ。ククク しかし、俺が学園に行っている間にどうやって育てるか‥‥。どこかに俺の指示した事をしっかりこなせるいい指導役はいないかな?
「おい、ゲインコング! 前から気になっていたがなんだその口の聞き方は。ルディア様に失礼だろうが! 」
俺が子供達の相手をしながら考えているとアリエルがカツカツとゲインコングに詰め寄った。それを見て俺は口元に笑みを浮かべる。
いるじゃないか、いい指導役。アリエルは聞くからに神軍の小隊長だし、俺の一言ったことを十理解しようとしてくるし、最適だ。それに確かエイバを出た時、アリエルは強くなったら俺の親衛隊にしてくれないかって言っていたしな。冒険者ギルド前での用事を終わったら頼んでみよう。
「ああ、いいんだアリエル。僕がお願いしたことだからね。」
「そうなのですか。私如きが差し出がましいことを言ってしまい申し訳ありません。」
心の中でそう決めた俺は首を横に振り、アリエルにそう言った。それを聞いたアリエルは詰め寄っていたゲインコングから離れ俺に頭を下げる。俺に謝るのね。はぁ〜まあいいやゲインコングもアリエルが、こういうのという事を分かっているようだし。
「いいよ。言っていなかった僕が悪いんだ。アリエルは悪くない。」
「なんと慈悲深きお方‥‥。」
俺がアリエルの肩に手を置いて微笑みながら言った言葉に、アリエルは跪き両手を組んで目をトロンとさせた。はぁ〜もう俺は突っ込まんぞ。
「ルディア様、全ての孤児院を回りましたがいかがなさいますか? 冒険者ギルドに行くまでまだ時間がありますが。」
腰に両手を当てやれやれと首を左右に振っていると、バトラーが空を見上げながらそう言ってきた。
俺もバトラーにつられて空を見てみると、空は茜色に染まっていた。今の時期を考えたら大体‥‥5時位か。あと1時間しかないな。
俺はどうしたものかと顎に手を当てる。予想以上に孤児院巡りに時間を使ってしまったから計画を変更せねば‥‥。
ふむふむと考えていると、ふと視線にアリアとアイリスが入った。それを見た俺はこれからの計画を決める。
アリアとアイリスは馬車の旅で疲れているにも関わらず結構連れ回してしまったな。本人達は俺と一緒に回っていれば疲れないと言っているが、疲れは溜まっているだろう。よし、計画は破棄だ。残り1時間はゆっくりしよう。正直な所俺も疲れた。
「止めておきましょう。欲張りすぎたらバチが当たりそうです。」
「そうですか。ではもう冒険者ギルドに? 」
俺が言った事にバトラーは頷いてから聞いてきた。
「はい、冒険者ギルドまではジュースでも飲みながらゆっくりと景色を楽しみましょう。学園都市に帰る前にいいものが見れそうだ。」
俺は少し遠い所にあるジュースを売っている屋台を指差してニヤリと笑う。この夕焼けの中上空から見る景色は最高だろう。ああ楽しみだ。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ズズズと屋台で買ったジュースを啜りながら、俺は冒険者ギルドの近くにある1番高い屋根の上で地平線に沈もうとしている太陽を眺める。上空から見える視界いっぱいの夕焼けというのもいいが、落ち着いてただボーッとしているのもいい。
まあ周りから聞こえる喧騒を考えると、とても落ち着いているとは言えないが。
太陽へと向けていた視線を下げるとそこには人、人、人。既に冒険者ギルド前では収まらない程の人が集まっている。イレイザー達神軍は十分以上に役割をこなしてくれた様だ。だが‥‥。
「時間まであと10分。少しだけ冒険者ギルドに寄って行きたかったけどこれじゃあ無理そうだ。」
そう冒険者ギルドに少しだけ寄って行きたかったが、この人混みじゃ無理だろう。諦めるしかない。はぁ〜
「ルディア様を妨げるとは本来であれば滅してやりたいが、クッ! これはルディア様が集めた人々であり、ルディア教信者達だ。致し方な、い! 」
時計台を見て呟いた俺の声をアリエルが聞いた様で、拳を握り閉めて何か葛藤しているのを、俺は頬杖を突きながら苦笑いして眺める。アイリスとか、アリエルのタイプの使徒は見ている限りは面白いのだ。見ている限りはだが。
「隊長〜小さい頃からそんなにうだうだ悩んでいたら、ストレスで禿げるぜ? 」
「そうじゃよ。わしなんて年中女房にいびられてこのザマじゃ。」
俺がアリエルを見ているとはゲインコングとバトラーが、アリエルに話しかけた。
アリエルは禿げると言う言葉を聞いて、握り閉めていた拳を勢いよくゲインコングとバトラーへと向ける。そしてためを作ってからピシッと人差し指を立てた。
「ゲインコング! 、バトラー! 隊長に向かって禿げるとは何事だ! そこに直れ! この私が直々に成敗してくれる。聖槍ロンギヌス! 」
アリエルは召喚した槍を頭の上でブンブンと回してから、カチャっと構えた。それを見たゲインコングとバトラーはマズイと思ったのか、冷や汗を流して両手を必死に横に振る。
「た、隊長〜冗談だってだからさ。ロンギヌス仕舞ってくれよ、な! 」
「ジ、ジジイジョークじゃから許して、ね♡ 」
「おっと! 危な。」
人差し指を頬に当て語尾に♡を付けたバトラーを見て、俺は思わずジュースを取り落としそうになった。他にもその3人のやり取りを見ていたみんなも取り落としそうになっている。まあ、全員落とす前にキャッチしたんだけどね。使徒のスペックのお陰だ。こんな所で実感して欲しくなかったが‥‥。
暫くの間ピューっと風が吹く音だけが屋根の上で鳴り響く。その沈黙を最初に破ったのは腰を低くし、槍を構えたアリエルだった。どうやら殺る気らしい。
「よし、遺言はきちんと奥さんに伝えておくとしよう。」
「まって隊長! ゲインコング! どうしてお主がわしを抑えておるのじゃー! 」
「いや、かなり気持ち悪かったから。」
「気持ち悪いって!? たんま、たんまーー!! 」
俺はアリエルが放った槍をバトラーが真剣白刃取り見たいな事をしている所で目を逸らした。やり過ぎる事はないだろうからな。きっと大丈夫だ。
「坊っちゃまいよいよ明日、学園都市ですね。」
俺がまた太陽へと視線を向けているとアリエルが話しかけてきた。
そういえばそうだな。使徒の子供達や教師役を頼むアリエルを連れて行くと決めた俺だけど、みんなどんな顔するんだろ? 絶対鬼になるだろうが、それもまた懐かしい。
「ああ、久しぶりだ。みんなに会うのは5ヶ月ぶりになるな。まあ、この5ヶ月間が濃厚すぎて昨日の事のように思うんだけどな。」
「びっくりするでしょうね〜。坊っちゃま立派になりましたもの。」
「立派、ね。どうだか。」
少なくとも精神面は全く成長してない。だって最初からずっと同じだし。だとしたら背か? 背だな。この年齢の子供はすごいスピードで成長するし。それくらいか、あとは思い浮かばない。
「ねえねえ。ルディ〜学園都市ってどんな所なの? 」
俺が考えているとアイリスが体を揺すってきた。俺とアリアが学園都市の話をしていて気になった様だ。
「ああ、そう言えばアイリスは行った事がないんだったな。そうだな〜一言で言うなら学生の、学生による、学生のための都市って感じだ。」
「へ〜よくわかんない。」
有名人の言葉を借りてドヤ顔で言った俺にアイリスはきょとんとして首を傾げた。うわ恥ずかしっ! ドヤ顔で言った俺恥ずかしっ!
「そ、そうか。分からないか。」
俺は心の中で悶えながらも、頷いて誤魔化す。幸いアイリスとアリアにはバレていない様だ。よかった。
「でも、楽しそうだね! 」
ほっと胸を撫で下ろしていると、アイリスは目を輝かせて俺を見てくる。
うん、そうそうそれを伝えたかったんだよ〜、やっぱり人に気持ちを伝えるのに大切なのは言葉じゃない。ハートなのさ!
(よく言うわ。全く。)
呆れたとばかりに言ってきたレヴィの言葉を流して俺はアイリスに目を合わせた。
「ああ、楽しいぞ。あんまりいなかったからよく分からないけど。」
「坊っちゃまそれで楽しいなんて言えませんよ? 」
「ぐっ そこを突かれると痛い。」
アリアに最後ボソッと視線を逸らしながら言った言葉を突っ込まれて俺は項垂れる。確かに1ヶ月もいなかったからな〜。
「プッ アハハハ! なにそれ〜 」
アイリスはそんな俺を見て笑い転げる。屋根の上で笑い転げるとは、肝が太いというかなんと言うか。
「ルディア様、任務完了致しました。ん? そちらの子供達は? 」
俺がアイリスをじと目で見ていると屋根の上にスタッと白銀の鎧を纏った男、イレイザーが着地した。どうやら休憩時間は終わった様だ。仕事モードに入るとしますか。
俺はジュースを一気に飲み干し、手のひらに発生させたブラックホールでゴミをかたす。ゴミをかたし終わった俺はブラックホールを消し去り、イレイザーに目を向けた。
「任務、御苦労様です。子供達についてはあとで詳しく説明しますが、簡単に言うと使徒、イレイザー貴方の部下になる子達ですね。」
「そうですか、畏まりました。ですが1つ修正させて頂きます。差し出がましいようですがお許しください。神軍には指示をスムーズに出すために役職は存在しますが、部下上司と言う間柄では有りません。全てはルディア様の元に平等であり、僕なのです。そこをお分かりいただきたく。」
「分かった。ありがとう。」
「では私はこれで。」
シュンっと去っていったイレイザーを見送った俺は立ち上がり、後ろを振り向く。
「さて、みんな俺はこれからやる事があるんだけど。ここで見ていく? それとも、下に行く? 」
「私はここで、坊っちゃまをよく見られますし。」
「私もここがいいな。あの人混みの中に入りたくない。」
アリア、アイリスの意見を聞いた俺は、スーッとアリエル達へと視線を向ける。するとアリエル達は既に兜を着用して跪いていた。アリエル達も仕事モードに入った様だ。
「私共、神軍第103分隊は他の神軍と合流し警備に当たらせて頂きますので失礼します。この子達はまだ聖鎧を身につけていないのでここに置いていただけないでしょうか? 」
「うん、分かった。」
「有難き幸せ。」
アリエルが子供達を指差して言ってきたことに俺は頷く。それを見たアリエルはぺこりと頭下げてからイレイザーと同じ様に去っていった。あれが神軍の去り方らしい。全員同じことをやっているのできっとそうだ。
俺はギルド前に集まっている人達へと視線を向けてから、時計台へと視線を移す。カチカチと針は進んでいき、6時を指した。
それを見た俺は口元に笑みを浮かべる。
「さあ、始めるとしようか。最後の仕上げを‥‥。」




