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召転のルディア  作者: NTIO
壊れゆく日常
183/220

使徒誕生の瞬間

「あ、エイバが見えてきましたね。」


ガラガラと馬車が鳴らす車輪の音を聞きながら、俺は窓から見える景色を見て呟いた。エイバ、俺が学園都市を出た後に最初に寄った都市だ。


このエイバは俺がルディア教を広めようと決意した場所であり、アイリスや神軍のアリエル、ゲインコングなどと出会った俺にとって結構重要な場所と言っていいだろう。エイバを出てから約3ヶ月の間に活気を取り戻しているといいけど。


頬杖をついて景色を眺めながら、活気の無かったエイバの市場を思い出しているとそう言えばと気づく。


あ、エイバに着くって事は学園都市にも近づいているってことじゃん。ていうか、明日学園都市じゃん。うわ〜行きたくね〜。


「はぁ〜。」


「ルディア様、私先にお触れを出して来ますので失礼いたします。」


俺が頬杖をついていた手をずらし、顔に手を当て深くため息を吐いているとアリエルがカチャリと自分の胸に手を当てそう言ってきた。


なぜお触れを? と思ったが俺はエイバのルディア教信者数を考えて頷く。お触れも出さずに俺がいきなり現れたらパニックになるかも知れないからな。


「ああ、うん。ありがとう、気を付けてね。」


「有難きお言葉。」


アリエルはぺこりと頭を下げてから膝の上に置いていた兜をかぶり、馬車のドアをバタンと開けた。俺はその兜かぶっていくんだと言いたいが言わないほうがいいだろう。神軍の証って言ってたもんな。俺がいつも制服着ているのと同じことだ。


「ルディア君! 悪かった! わしが悪かったから入れてくれ〜! 」


アリエルが開けたドアからクソジジイが手足をバタバタとさせているのが見えるが、アリエルは気にせず、馬車から飛び降りる。


スタッと地面に着地したアリエルは、ドンっと勢いよく踏み込み白銀の残像を残してエイバの方向へと去っていった。


それを見送った俺はさて、と馬車の隣を飛ばしているクソジジイへと目を向ける。


すると、クソジジイは手足を振り回して悪かったと連呼していた。若干目に涙が浮かんでいる気がしないでもない。まあ、それもそうか。自由に飛べないように俺が重力操作で縛りつけているもんな。ふふふ、怖かろう。


「分かりましたよ。流石にエイバに入る時まで外に出したままとは行きませんからね。」


俺はクソジジイのそんな姿を見て満足し、指を鳴らして重力操作でクソジジイを馬車の中に入れた。馬車の中に入ったクソジジイは席にどっかりと腰掛ける。 はぁはぁと息を荒く吐いているのは恐怖からだろう。まあ、演技っぽいが。


「はぁはぁ、鬼じゃ。 年寄りにこの様な事をするとは。アリウシアも、大変な婿をとった、ぜぇ、ものじゃな。」


「何言っているんですか。 僕は鬼じゃないですよ。ねえ? 」


クソジジイは恨みがましく俺を睨みつけてくるが、俺は首を傾げ他の車内に乗っている人達に問いかけた。他人の意見は重要だからな。ククク。


(貴方ねえ‥‥はぁ )


俺の考えを分かっているレヴィがため息を吐いてくるが、俺は無視する。どうせ何か言ったらわーわー言ってくるからな。魔剣の癖に変なところで常識的な奴だ。


「はい、坊っちゃまは最高です。」


「ルディが鬼なら私も鬼になる。」


「ルディア様は神です。鬼畜生と一緒にすることはあり得ますまい。」


「そうだなぁ〜ルディア様はエイバを救ってくれたからなぁ。」


俺に問いかけられた俺とクソジジイ以外の4人はそれぞれ答える。アイリスが少しずれている気がしないでもないが、まあいいだろう。


俺はクソジジイに向けどうだとばかりにドヤ顔を向けた。


「いや、全員お主の信者の様なものじゃろうがい。参考にならんわ。」


しかしクソジジイは首を横に振り、俺のドヤ顔をバッサリと切り捨てる。


な、んだと!?


「はぁ、全く。しかし、神軍じゃったか? とてつもない強さじゃのう。お主それをどう使うつもりじゃ。おいたはせんじゃろうな? 」


目を見開いて驚きの表情を作った俺を見てクソジジイはため息吐く。やれやれと首を振った後俺に目を向けてきた。その目からは牽制、詮索しようとしていることが伺える。


はぁ、また狸クソジジイモードに入りやがった面倒くせぇ。


俺は心の中でため息を吐いてから、両手を広げおちゃらける様に答えた。


「さあ、まだ決めていませんね。まあ悪いことには使いませんよ。ルディア教は善を助け悪を挫く、僕の精神を受け継いでいるのですから。そのルディア教信者で構成された神軍がその様な事をするわけないじゃないですか。」


俺とクソジジイの間には沈黙が降りる。暫くお互いに視線をやり取りしてやがでクソジジイが笑い声を上げた。


「それもそうじゃな。ホッホッホ 」


「そうですよ。アハハハ 」


俺もクソジジイに合わせて笑い声を上げる。馬車の中に俺とクソジジイの笑い声が響くが、笑い声を上げている本人達の目は全く笑っていない。そんな異様な雰囲気に気圧された神軍のゲインコング、バトラーが額に冷や汗を流す。


まあ残りの2人のアリア、アイリスはいつものことなので気にせず、アリアは編み物を織りアイリスは寝ている。ある意味大物なのかも知れない。


「ホッホッホ 」


「アハハハ 」


「ル、ルディア様。エイバの門が見えてきましたぞ。」


俺とクソジジイの雰囲気に耐えられなくなったバトラーが窓を指差し、そう言ってきた。


「お、そうですか。早いですね。」


俺はバトラーに言われて目を窓に向ける。するとそこには目を疑う光景が広がっていた。門の前に白銀の鎧を纏った人達、つまり神軍の人達が左右に綺麗に分かれ跪いていたのだ。合計1000人程いるのではないだろうか。しかし、各自自分の横に紅い武器を置いているのは何故だろうか。恐らく有事に備えるためだと思うが、こんな中襲う輩など居ないだろうに‥‥。


「偉大なる神! ルディア様の訪れをいまやいまやと、心よりお待ちしておりました! ルディア様万歳! 」


「「「ルディア様万歳! ルディア様万歳! ルディア様万歳! 」」」


俺が顔を引き攣らせていると、1人の神軍の構成員が声を張り上げそれに合わせ他の神軍の構成員達も大声でルディア様万歳と連呼している。


俺達の馬車はその中をひた進む。ルディア様万歳と言う声がキンキンと車内に響いてかなり煩い。しかし、耳を塞いで俺を出迎えにきた神軍達が俺に対して悪感情を抱いて狂気感染が解け、使徒でなくなってしまってはいけないので、耳に響く声を堪えながら俺は窓から顔を出し笑顔で手を振る。


俺が顔を出したことで更に神軍達の熱気が上がり、歓声が大きくなっているが我慢だ。だってこの人達は俺を出迎える為にわざわざ門の前に出てきたんだ。俺が煩い程度我慢できなくてどうする。


「とんでもない練度と士気じゃな。王国の騎士団より上なのではないか? 」


俺が神軍達に手を振って応えていると、クソジジイが神軍を見てそう言った。俺はなんでいつもは耳がとんでもなくいいのにこの騒音下で平気そうにしてんだ、と思ったがクソジジイは耳栓をしていた。


このクソジジイ。


「すごいですね。坊っちゃまを慕っている人がこんなに‥‥。」


「ルディなら当たり前だよ〜。」


俺が笑顔を浮かべながらクソジジイを恨みがましく見るという器用なことをしていると、アリアとアイリスがそう言った。アイリスは今起きた様で寝ぼけ眼だ。


まあそれはそうか、この状況で寝ていられるわけがないな。


「いやいや、ここに居るのは神軍のみじゃ。ルディア教の信者はエイバの全体に及んでおる。この数十倍はいると考えたほうがいいじゃろう。」


「そうですね。僕も応えなくては‥‥。」


俺はアリアとアイリスに答えたバトラーの言葉を聞いて呟く。まあ応えるだけが目的じゃないが‥‥。


「その様な事はルディア様はお気になさらなくていいんだぜ! 、です。」


「プフッ! 」


俺の呟きを聞いたゲインコングが慣れない敬語で気にしなくていいと言ってきたが、思わず吹き出してしまう。なんだよ最後に無理やりつけただけじゃないか。そんな使い辛いならいつもの口調でいいのに。


「フフフ、すいません。ゲインコング、敬語が使い辛いならいつもの口調で結構ですよ? 僕は気にしません。」


「ですが‥‥。」


俺はゲインコングに一言謝り、いつも通りでいいと言ったがゲインコングは納得できない様だ。仕方ない、あれを使うとするか。


俺はわざとらしく、目に手を当て泣き真似をする。


「そうですか。ルディア様ルディア様と慕っているのにも関わらず、僕のお願いを聞いてくださらないのですね。しくしく 」


「わ、分かりました、じゃなくて分かった! これでいいか!? 」


ゲインコングは泣き真似をした俺をみて慌てふためき、始めて会った冒険者ギルドの時と同じ口調に戻した。それを見た俺は目から手を離し、頷く。


「はい。」


「たく、食えないガキだぜ。でよ、改めて言うがルディア様がそんな事を気にしなくていいんだぜ? 」


ゲインコングは頭をガシガシと掻き、改めて気にしなくていいと言ってくる。だが俺は首を横に振った。


「いいえ、これは僕がやりたいんです。僕のためにも、ね。」


そう俺のため。エイバにいる信者達に信仰に応えるためと各所を回り、まだ使徒になっていないルディア教信者達の中から1人でも多く使徒を出すのだ。使徒の数だけ俺の計画が現実味を増すからな。今日は忙しくなるぞ。


「そうか? まあみんな喜ぶからいいけどよ。」


俺がどう効率よく回るか、考えているとゲインコングが遠くを見る様な目をして呟いた。俺はそれを見てあ、と思いつく。


俺はエイバの地理をよく知らない。地理を知らなければ効率よく回るなど到底不可能だろう。なら知っている人に案内して貰ってはどうか。丁度都合よくここにはゲインコングとバトラーがいる、頼んでみるとしよう。


そうと決めた俺はゲインコングとバトラーに顔を向けた。


「ゲインコング、バトラー。僕がエイバに居るのは今日1日だけ、明日には学園都市に帰ってしまいます。その間にできるだけエイバを回らないと行けません。お二方手伝ってくれますか? 」


「喜んで! 」


「はいですじゃ! 」


ゲインコングとバトラーは俺のお願いに快く頷いてくれた。うんうん、持つべきは良き信者だな。


「ああ、隊長もいいか? 隊長、神軍の中でも1、2位を争うルディア様の熱狂的な信者なんだよ。俺たちだけがそれに付き添うなんて知られたら殺されちまう。」


俺がよしと心の中でガッツポーズをとっているとゲインコングが頬を人差し指で掻いてそう言ってきた。殺せれるとは物騒な。そんなわけ、あるな。アリエルなら絶対殺る。基本的使徒はそんなんだし。


俺は窓から神軍をキラキラした目で見ているアイリスに視線を向けてから頷く。


「そうですか、分かりました。アリエルにも頼むとしましょう。」


「‥‥。」


しかし、先程からクソジジイが俺を凝視してきているが、とても気持ち悪い。まあ、どうせ何を企んでおるお主〜とか考えているんだろう。ほっといてOKだ。どうせ俺の考えなんて分かりやしないし、分かったところで止めることは不可能。俺はいいことしかしないからな。ククク


俺が黒い笑みを浮かべていると馬車が止まった。どうやら門の前に着いたらしい。窓から外を見てみるとそこには何故か土下座をした2人の門番がいた。何やってんの?


「大変申し訳御座いませんが、お止まり頂けないでしょうか? 法律で定められている決まり故、愚鈍な私は逆らう事など出来ないのです。ああどうしてルディア様をお止めしなければならないんだろう。こんな事なら警備隊には入らなければよかった。死にたい。」


俺が首を傾げていると、土下座している門番の1人が声を上げた。後半にいくにつれどんどん危ない人になっているが、この人もルディア教信者か!


「そもそも何で法律なんてあるんだ。人類皆ルディア様を信仰すれば争いも貧困も無くなるから法律なんて下賤なもの要らないのに。意味がわからない。もしかしてルディア教以外は人間じゃないのか? 」


もう1人の門番が先ほどの門番の後に続く様に言葉を発した。しかし、ルディア教以外は人間じゃないって‥‥やり過ぎたか?


俺はさすがにほって置くわけにもいかないので、馬車から降りて土下座している門番達へと歩み寄り肩へと手を置いた。


「その様な事を言ってはいけません。法とは人を律するもの。それが無ければ人は魔が差し、足を踏みはずしてしまう事でしょう。必要不可欠な物なのです。それにルディア教は善を助け、悪を挫く。そのルディア教が違う教徒だからだといって人間じゃないなど‥‥ダメですよ? 」


俺は優しく語りかける様に2人の耳元で囁く。すると2人の門番はガバッと顔を上げた。その目は見開いており、涙が溜まっている。


「「ありがとうございます!、ルディア様! 新しい境地が見えた気がします! 」」


俺がそんな2人に少し引いていると、2人の目が一瞬紅く光った。それを見た俺は目を少しだけ開き、納得する。


成る程、狂気の種が芽吹き狂気感染に変わった時、一瞬だけ目が紅く光るのか。いいものを見せて貰った。これで狂気の種が芽吹くラインを割り出すことが出来る。ハハハ!


「これ、お金です。」


俺は心の中で黒い笑いを上げていることを微塵も感じさせない笑顔で、2人の門番にお金を手渡す。


「「こ、これって! 」」


2人は入場料を受け取ったつもりがそれを遥かに超える額をだったことに驚きの声を上げた。俺は2人に視線合わせ口に人差し指を当てる。


「家族とでも、友人とでもはたまた恋人でも一杯飲むのに使って下さい。これは秘密ですよ? 」


「ありがたき幸せ! 」


「家、宝に致しますッ! 」


2人の門番そのお金を自分の胸に抱き喜びを表現している。まあ、そのお金はいいものを見せて貰ったお礼なのでそこまでお礼を言われる筋合いなんて俺にないんだけどね。


俺は2人に背を向け馬車に戻っていく。


さて、使徒量産計画始動しますか!


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