初顔合わせ
「誰だ貴様ら。ルディア様に馴れ馴れしいぞ。聖槍ロンギヌス 」
「聖杖ケリュケイオン、異教徒にルディア様の名において天罰を 」
「聖槌ミョルニル 」
アリア、アイリスの過激な登場に神軍のアリエル、ゲインコング、おじいさんは各々の手に紅い武器を召喚し、臨戦態勢を取る。しかし、さっきから思っていたのだが神軍は使徒特有の武器召喚を聖なんちゃらと言ってからやる決まりでもあるんだろうか?
(ちょっと貴方! 現実逃避してないでこの状況なんとかしなさいよ! )
不思議だ、と3人を見て思っているとレヴィがそう言ってきた。
何を失敬な。現実逃避なんかしていません。ただ、目を逸らしていただけですぅ〜
(そういうのを現実逃避って言うのよ! )
はぁ、やっぱり?
(ええ! )
俺がため息混じりに言った言葉にレヴィが激しく同意してきた。そうかそうか。現実逃避か。でもそれって現実を逃避するから現実逃避であってこれは夢だから現実逃避じゃありませ〜ん
(屁理屈言うな! しばき倒すぞ! )
俺がまるで口笛を吹くようにおちゃらけて言った言葉にレヴィはドスを効かせた声で怒鳴りつけてきた。怖っ!?
予想外のレヴィの反応に俺は必死に謝る。
スンマセンでした! つい調子に乗ってしまいました!
(はぁ、でどうすんのよこれ。いつおっ始めてもおかしくないわよ。)
俺の謝罪の気持ちが通じたのかレヴィはため息を吐いていつもの調子に戻った。よかった。あのレヴィさんのままだったら気を使いすぎて病んでいたかもしれない。
そうだな。しかし、クソジジイ何やってんだよ。2人を止めてくれたって‥‥。
俺はお互いにゴゴゴとオーラを出し合っている使徒ズから目を逸らし、2人の核弾頭を野に放った元凶へと目を向ける。
するとクソジジイは口から紅い液体を垂れ流し、窓から仰向けにぐったり飛び出ているのが見えた。これだけ見ればアリアとアイリスに殺られたと思うかもしれないが俺は騙されないぞ。
まず窓から飛び出しているくせにちゃんと、窓が開いていて割れてないし、綺麗すぎる。次に、口から垂れてる赤い液体! あれクソジジイが飲んでたトマトジュースだろうが! サラサラすぎてバレバレだわ! 何あれ予め口に含んでいたものを少しずつ出してんの? 汚っ!?
俺がクソジジイを見てうげっとしていると、クソジジイの口角がヒクヒクとしているのが見えた。笑いそうになっているのを堪えているようだ。
あんの野郎ぉぉぉ!! 後で覚悟してやがれ!
俺がクソジジイに殺気を込めた視線を向けているとアイリスがカチャリと紅い剣を神軍へと向けた。
「黙れメスが。今からお前らはただ1つだけ答えればいい。ルディに攻撃したか否か。はいなら死ね。いいえならやっぱり手間を取らせてるから死ね! 」
どっちも死ぬんかい! と言う俺の心のツッコミをよそにアイリスは紅い線を引きアリエルに斬りかかる。
ガキン!
アリエルは槍上段に構えてアイリスの一撃を受け止めた。ギギギ、と押し合っている。しかし、そのつばぜり合いは長く続かなかった。アリエルがはぁ! と気合いを込めアイリスを弾き飛ばしたからだ。
「野蛮な猿女がぁ! 」
アイリスを弾き飛ばしたアリエルは槍をブンブンと風を切るように体の周りで回してから構えた。
「唸れ聖槍ロンギヌスよ。絶対神ルディア様の神威を示せ! 」
真意を示すなら今すぐ戦い止めてと言いたいがもう止められそうにないだろう。まあ、これもいい機会だ。アリア、アイリスにとっても神軍の3人にとってもな。
見るからにお互いの力量は互角といったところか。そういう相手と戦うのはいい経験になるだろうし、いざという時に役に立つ。危なくなる時まで静観するとしよう。俺は転んだらただでは起きないのだ! はっはっは!
(何もしないとも言うんだけどね。)
おい、そこはながせよ。まあいい、今は戦いを見るとしようか。
俺はいつでも動けるように観測眼を発動しから腕を組むと同時に、アリエルが飛び上がり槍を振り下ろす姿勢で構えた。
「聖槍ロンギヌス! 異端なる蛮族に死を! 【槍術:ルインワールド】! 」
アリエルが技を発動すると、槍が紅く輝き辺りを照らす。その槍をアリエルはやり投げのように体をしならせ勢いよく投擲した。
ギュンッ!と、もはや光学兵器のようなアリエルの一撃を見たアイリスはズササーと地面に着地してから、剣を腰だめに構える。
「【剣術:龍牙撃】! 」
アイリスは腰だめに構えていた剣を紅い残像を残して振り抜く。
アイリスの放った一撃と、アリエルの放った一撃はバチバチと余波だけで辺りを蹂躙していく。地面を砕き、草を枯れさせている。
どうやらアリエルの槍が放っているあの光は生物を破壊する効果がある様だ。これは止めに入った方がいいか? と俺が腕をとくとアイリスが雄叫びを上げた。
「効くかぁぁ!! 」
グググと徐々に槍を押し返して行き、とうとう弾き飛ばした。
弾き飛ばされた槍はクルクルと回り地面に突き刺さった。その槍が突き刺さった地面は槍を中心として円を描く様に草が枯れ果てる。なんて恐ろしい技なんだ。しかし、アイリスよくあの一撃をはじき返したな。成長したじゃないか。あとで褒めてやろう。
「【体術:縮地】」
俺が再び腕を組み直し、頷いているとアリアが点と点を移動する様に地面に着地したアリエルへと迫る。
「【体術:瞬ッ!? 」
腕を引き、技発動しようとしたところで白い光線がそれを阻む。アリアは白い光線を体を捻って回避したが態勢を崩してしまった。その間にアリエルは後ろに飛び退いた。
「すばしっこいのぅ! 」
おじいさんが、アリアに杖を翳したまま声を上げたことからさっきの光線はおじいさんが放ったのだろう。俺がおじいさんを見て早いなと感心しているとその背後からゲインコングが飛び出てきた。
「だがよくやったぜ! バトラーの爺さん! 」
「浅はかな男ですね。 坊っちゃまに鍛えていただいた私がこの程度で隙を晒すとでも? 死んでやり直しなさい。【体術:崩撃】 」
アリアは戦鎚を振り上げているゲインコングを見て口元に笑みを浮かべ、正拳突きの構えを取り、紅いオーラを纏った拳を放つ。
「それは貴様も同じだ! 【槍術:セイクリッドストライク】! 」
これは決まったなと思っていると、アリアの拳目掛け白く輝く槍が風を切り激突した。
ズドォォォン!!
「やりますね。レーティシアどうする? 」
その衝撃で飛ばされたアリアはクルクルと空中で回り、アイリスの隣にスタッと着地した。手を振っていることからかなりの衝撃だったことが伺える。
「処刑に変わりはないよ。アリア。」
アイリスはアリアの問いかけに剣を構えて答えた。
「わかったわ。」
それにアリアも頷き、ファイティングポーズをとる。まだまだやる気十分の様だ。
「隊長奴ら、神軍であるわしらと同等以上に戦っておるのじゃ。如何いたす? 」
「念のため信号弾を放っておけ、奴らも神軍10名以上を相手にしたらひとたまりもないだろう。まあ、その前に我らでかたをつけるがな。」
先ほど名前が明らかになったおじいさん、バトラーがアリエルにアリア達に視線を向けたまま問いかけ、それにアリエルが答えた。信号弾というもので仲間を呼ぶつもりみたいだ。それにしてもアリエルが隊長をしているとは‥‥。まじか。
「了解。 腕がなるぜ。」
俺が目を見開き驚いているとゲインコングが首をゴキゴキと鳴らし、凶悪な笑みを浮かべる。
アリエルとゲインコングが武器を構え、バトラーが信号弾とやらを打ち上げる様だ。
俺は組んでいた腕を解き、そろそろ止めるかと目に力を込める。他の神軍を呼ばれたら何かと面倒くさそうだし、戦闘経験もこれ位で十分だろ。
「行くぞ。はぁぁ!! 」
「シッ!! 」
アリエル達と、アリア達がいざ激突するというところで俺はこの場にいる全員に向けて魔力を解き放つ。
「そこまでにしろ。」
「「「ッ!? 」」」
俺の重圧を伴った膨大な魔力は殺気立っていた神軍とアリア達を止めるのには十分な働きをした。
俺はカツカツと両者の間に歩いて行き立ち止まる。
「アリア、アイリスいきなり人に攻撃するとは何事だ。 お前らの好意は嬉しいが時と場所を考えて、状況判断を欠かすなとあれほど言った筈だろうが。忘れたのか? 」
「ル、ルディこれはちが‥‥ごめんなさい。」
「坊っちゃま、すいませんでした。」
目を見開き、無感情な声で言った言葉にアリアとアイリスは自分の武器を消し去り、頭下げて謝った。それを見た俺は頷き、アリエル達へと顔を向ける。
「アリアとアイリスがいきなり攻撃を仕掛けてすまない。しかしこの2人は俺の事を思ってやってくれた事なんだ。2人とも反省しているから、許してくれないか? 」
俺が苦笑いして言った言葉にアリエル達は一斉に跪く。
「滅相もございません。まさかルディア様のお知り合いでしたとは。私共はまた無礼な事を‥‥。この罰は如何様にでも、いっその事自害して‥‥」
「それは止めてくれ。俺が悲しい。」
おかしな方向に行き始めたアリエルを俺は片手を振って止める。アリエルならというか、使徒ならばやりかねないからな。
さて、と戦闘を止めたことだし、エイバに向かうとするか。そろそろ出ないと門が閉まる。
空を見上げてそう結論付けた俺は、手をぽんと合わせた。
「さて、ここで話しているのもなんですね。 よかったら僕の馬車に来てください。一緒にエイバへと向かいましょう。」
先ほどの口調とはうって変わった俺に跪いていたアリエル達が驚いているが、まあ慣れてくれ。俺は必要に応じて口調を変えるんだ。
「坊っちゃま、これほどの人数が馬車に乗れる余裕ありましたか? 」
俺が汚れている制服を叩いてこの汚れ、落ちるかな〜と悩んでいるとアリアが顎に人差し指指を当てて聞いてくる。
「ん? 大丈夫大丈夫。 あれを外で浮かべればギリギリ入れるでしょ? 」
俺はそれに口の中に溜めていたトマトジュースが切れたのを誤魔化すために、白目を向いているクソジジイを指差してそう言った。
「ああ、成る程名案ですね! 」
さて、久しぶりのエイバへと行くとしようか。




