神軍
「「「誠に申し訳ありませんでした! 」」」
兜を外し土下座するゲインコング、アリエル、おじいさん。
それを見て俺はため息を吐く。
これで何度めか、と。確かに攻撃された事は怒っているが今は何故こうなったかという事が知りたい。
3人を見るに精神支配されている訳でも、人質を取られている訳でも、アイリスから感染した使徒以外の使徒という訳でもなさそうだ。
俺は土下座している3人の内、真ん中で地面に額を地面に擦り付けているおじいさんの肩に手を置いた。
「もういいですから、どうして僕を攻撃してきたか教えて貰えませんか? 」
おじいさんは肩に手を置かれたからか、ピクリと震え顔を上げた。その顔は涙と、鼻水でぐちょぐちょだ。
「はあ、これを使って下さい。」
俺はため息を吐き、ポケットに入れていたハンカチを手渡す。
このままの酷い顔で会話など到底出来そうにないからな。いけないとは思うが、いつまで笑いを堪えられるか分からない。
「おお! ありがたき幸せ。」
おじいさんは涙を目から更に溢れさせ恭しくハンカチを受け取った。少し大げさに過ぎると思うわないでもないが、俺がエイバでやった事を思えばこうなるかも知れない。
よしよし、エイバをルディア教の手中に収めるためにやった事はいい方向に作用しているようだ。
俺がうんうんと頷いていると、おじいさんが両手に持ったハンカチに顔を近づけたり、離したりしているのが目に入った。
なにやっているんだ? 早く拭かないのか? と疑問に思っているとブツブツとおじいさんが呟く声が聞こえてくる。
「こ、これがルディア様の聖布、なんて神聖なオーラが漂っているんだ。しかしルディア様はこの聖布でわしの馬の糞にも劣る下賤な顔を拭けと仰るのか? わしには出来ん! だが、ルディア様のご命令とあらば致し方、ない! 」
それ露店で特売で売ってたやつなんですけど‥‥。5枚セットのやつ‥‥。
やがて意を決したのか、おじいさんはハンカチに顔を突っ込む。
最初の内はハンカチに顔をつけたまま微動だにしなかったかが、次第に顔を動かし、深呼吸し始めた。
「スゥ〜ハァ〜スゥ〜ハァ〜」
それを見て俺は顔が引き攣る。当たり前だ。俺のハンカチを60を超えた男がクンカクンカとしているのだから。これが美少女なら喜びの1つも浮くものだが‥‥。
俺はゆっくりと目を閉じ再び開けてみるが、60を超えた男が俺のハンカチをクンカクンカしている事実は変わらない。
き、気持ち悪!! え、なに? 俺のハンカチを嗅いでるの!? おぇ、おえぇぇぇ!!
心の中で思う存分吐いた俺は顔にハンカチを押し付けているおじいさんに声をかける。ずっとこのままじゃいけないからな。 しかし、顔の形がくっきり出るまで押し付けるとはどういう事だ。絶対息ができないだろうに。
「あの、改めて聞きますがどうして僕に攻撃を仕掛けたのですか? 」
おじいさんは俺に話しかけかけられハッとなる。ちゃっかりと懐にハンカチを仕舞っているが俺は咎めない。クンカクンカされたハンカチなんていらないからな。あげるぜ。
「はっ、はいそれはですね。わしら神軍はエイバ近郊を巡回し盗賊や魔物を狩っていたのですが、突然爆発が起きまして。その爆発を引き起こした光線が放たれた大元へと行ってみたのですが。 そこにはオーク達の死体の中で奇怪な踊りをしている子供がいたので、わしらは相談し攻撃行動に‥‥」
(き、奇怪な踊り‥‥ククク)
‥‥。
レヴィが笑っているが無視し、おじいさんの説明を受けた俺は顎に手を当てる。
神軍、気になるワードが出てきたが今は置いておこう。最近、魔物や盗賊と合わないと思っていたがその神軍が狩っていたんだな。しかし、その時点でその子供が俺と分からないものだろうか? しっかりと見ていたようだけども。わざわざ子供という言葉を使っている事も気になるな。
「その時点で僕と分からなかったのですが? 」
「それはこれをかぶって貰った方が理解が早いと思うぜ、ます。」
疑問に思い尋ねた俺にゲインコングが傍に置いていた兜を差し出して、ぎこちない敬語で答えた。
兜を受け取った俺はくるりと兜を回して見てみるが何もわからない。ただの仮面ライ◯ーだ。はぁ、ゲインコングの言う通りかぶってみないと分からなそうだな。
「お借りしますよ? 」
俺はゲインコングに一声かけてから兜をかぶった。カチャカチャと兜を合わせていると視界が開ける。その視界は真っ赤に染まっており、物の輪郭がかろうじてわかる程度だ。
成る程、つまり俺の髪も、制服も、何もかも一緒くたに真っ赤に見えて分からなかったと。こいつらバカなんじゃないだろうか。
「なるほど、つまり真っ赤に見えてて分からなかったと訳ですか。 はぁ〜一応聞いておきますがどうしてこれをつけていたんですか? 」
兜を外し、コンコンとその兜を小突いて聞いた俺の言葉に先程まで頭を下げていたアリエルが頭を上げ答えた。
「それは私が説明させて頂きます。少々時間がかかりますが宜しいでしょうか? 」
それに俺は後ろを指差し笑顔で答える。
「大丈夫だよ。どうせ僕はあの馬車が来るまで身動きできないから。」
「成る程、かしこまりました。なぜ私達神軍が聖鎧を身につけているかを説明するには今から2ヶ月と13日前まで遡らなければなりません。」
俺が指さした方向を見たアリエルは1つ頷き胸の前で腕を組み説明を始めた。
「2ヶ月と13日前エイバはルディア様が去ってしまった悲しみに暮れていました。住民は外へ出るのが億劫になり、中には寝込んでしまう人が出る始末。無理もありません。神、ルディア様によって安寧は保たれていたのですから。その不甲斐なさを身にしみて知り誰もが自己嫌悪に陥っていると、とある奇妙なことがおこりました。」
「奇妙なこと? 」
俺は腕を組み首を傾げる。なんだ? 何か事件でもあったのか?
「はい、冒険者ギルドの受付嬢が他の都市から来た冒険者にしつこく絡まれたのです。その冒険者は一目惚れだ、結婚してくれと繰り返していました。受付嬢はルディア様という絶対神に身も心も捧げていたので丁重に断っていたのですが、その冒険者は諦めませんでした。日々行為はエスカレートしていきついには、抱きつこうとしたのです。」
俺はその受付嬢が誰なのかとても気になるが聴きに徹する。冒険者ギルドの受付嬢って美人な人多いからなぁ。
「受付嬢は身を守るために手をあげました。本来であれば一介の受付嬢が魔物狩りを生業としている冒険者に傷1つつける事は出来ませんがそれは起こってしまったのです。」
「受付嬢の一撃は目視出来ないほどのスピードで冒険者の顔面に迫り、首をへし折りました。」
「ッ!? 」
俺は組んでいた腕を解き、目を見開く。
それってもしかして‥‥。
「受付嬢は正当防衛という事でかたがつきましたが、周りは疑問に思います。そんなに強かったかと。受付嬢も疑問に思ったのかステータスを確認しました。そこにはこう記されていたのです。」
「使徒。使徒とは未だに所得条件が明らかになっていない最上位職業ですが、その時誰もが理解しました。これはルディア様が迷える子羊の信仰をお認めになり授けてくださった力なのだと! 」
違いまーす。アイリスでーす。やっぱり使徒だったか。
俺がやっぱりそうかと解いていた手を戻し顎に手を当てているとアリエルがヒートアップし始めた。拳を握りしめ目が教信者的なアレな事になっている。
「その時より、エイバ各地でルディア教信者の中から使徒が生まれ始めました! その使徒で構成された組織が神軍! 今では神軍は3000は下らない大規模な組織に成長しました! そしてこの聖鎧は神軍がのみが纏う事を許されし物! ルディア教信者を代表し、ルディア様に仕える事が許された我々神軍が、聖鎧を常に身に纏っている事は当然なのです! はぁはぁ 」
アリエルは拳を天高く掲げ言い切ったと満足げな顔をしているが、俺はそれに反応する事ができない。
3000、その数字を聞いたからだ。最高位職業持ちが3000も‥‥。
おいレヴィ! 3000ってどういう事だ! 好意的な感情の一定の数値は厳しいものじゃなかったのか!? 3000ってめっちゃいるじゃないか!
(あなたね〜、自分がエイバでやった事を思い出してみなさい。)
俺がエイバでやった事を‥‥崖ぶっ壊す、盗賊を皆殺し、俺を神のように見えるように演出‥‥。
俺はそこまで考えて、うんとうなずいた。
あ、そりゃあなるな。 使徒大量生産だ。
「そ、そうなんだ。でも目だけは開けとこうね。見えなくて怪我とかしたら大変だからさ。」
疑問を解消した俺は未だに拳を突き上げているアリエルへと目を向け、持っている兜の目の部分を指さして話しかけた。
「な、なんという事‥‥。」
だが、アイリスはそれを聞いてへたり込む。
あ、やべ。確かその聖鎧? は神軍の証だとか言ってたな。それを信仰している対象に目を開けましょうなんて言われたら‥‥。
「分かりました! 聖槍ロンギヌス! はぁぁ!! 」
俺が心の中でやっちまったと呟いた言葉は最後まで言う事はできなかった。何故ならぐわっと、アリエルが勢いよく立ち上がり手に槍と召喚し、自分の兜の目掛け振り下ろしたからだ。
俺はその槍をガシッと受け止める。もうやだこの子。
「帰ってから、帰ってから専門の人にお願いしよう、ね!? 」
「畏まりました。」
アリエルは俺に言われて素直に手に持っていた槍を消し去った。
ふぅ、全く。それにしても神軍か、使えるな。ルディア教を使った計画の第2段階に進んでもいいかもしれない。ククク
俺がああでもないこうでもないと考えていると、後ろから激しい衝突音が鳴り響いた。ごうっと土煙が舞い俺の制服にかかる。
ああ、また俺の制服を‥‥。
今度はなんだ、と勢いよく振り向くとそこにはうちの核弾頭達がいた。アリアは手に紅いガントレットを纏い、アイリスは紅い剣を手に持っている。
「坊っちゃまそのお方達はどなたでしょうか? 」
「ルディさっきまで戦闘音が聞こえていたけど‥‥」
「まさかそいつらじゃないよね? 」
なんで馬車から出てきてんのぉぉぉ!!




