アイ・ラブ・オーク
「ああ、うまい。うまし!! 」
俺はオーク亜種の魂の味を表現する様にマドマーゼル先生直伝のダンスを踊る。
ステップ、ステップ、ジャンプ!
飛んだ俺はくるくると周った後着地し、両腕を広げ叫び声を上げた。
「オーク最高! アイ・ラブ・オーーク!! 」
どこまでも届けとばかりに発した叫び声は虚しく草原に広がっていくだけだ。ヒューヒューと風がなり、サワサワと草が揺れる。
「‥‥。」
俺は広げていた腕を下ろし、姿勢を正す。空を見上げてみると太陽が燦々と輝いていた。今日は雲ひとつない快晴だ。その大空を鳥だか魔物だかが飛んでいる。
そこでふと、俺は思った。
「なにしてんの俺。」
(こっちが聞きたいわ! )
「多分だけど、美味しい魂を食べてハイテンションになったんだと思うんだ。レヴィはどう思う? 」
(知るか! はぁ、それで美味しかったの? )
顎に手を当てて真剣な表情で聞いてみたが、知るかと即答されてしまった。なんだよ。おふざけが通用しない奴だな。
「ああ、最高だった。気分爽快だ。美味しい魂は人をここまで幸せにするんだな。」
(爽やかな顔で恐ろしいことを言わないで。そろそろ帰りましょう。あなたが気持ち悪いダンスしているうちに馬車が近づいてきたわ。)
レヴィに言われて振り返ってみると遠くに俺たちの馬車が近づいているのが見えた。
俺はパンパンと服を払ってからオーク亜種達の死体が邪魔になるといけないので、重力操作で浮かし退かせているとそう言えばと思いつく。
「そうだな。ん? それよりこれ食べれるのか? 」
そう、オーク亜種達が黒豚に見えてきたのだ。食べれるのならば是非食べたい。
(食べれるけどま、まさか食べるつもりじゃないでしょうね? )
「いやだって魂は味がしても腹に溜まる訳じゃないし。魂があれだけ美味しいんだったら肉も美味しいんじゃないかと思ってな。」
(やめなさいって! ゲテモノよ!? 気持ち悪いわ。)
レヴィはうげ〜とばかりの声色でそう言ってくる。だが俺は首を横に振る。
「いや魂以上のゲテモノないし。大丈夫だろ。」
(う、それはそうだけど、体は人間に似ているじゃない? )
「確かにそうだけど、似てるってだけで人間じゃないだろうが。それになんで魔剣のレヴィがそれを気にするんだ? 気にするとしたら俺だろ? 」
首を傾げ何故だと疑問を抱く。レヴィは魔剣だ。それが人間に似ているからゲテモノとはおかしな事だな。
(う、それは‥‥)
俺の質問にレヴィは詰まる。どうやら答えたくない類の事らしい。
「ふ〜ん、まあいいさ。言いたくなったら言ってくれ。」
(ルディ、ありがとう。)
「おいおい、らしくないな。俺が無理に詮索するとッ!? 」
両手を腰に当て、首を横に振りやれやれとしていると突然俺目掛け、物凄い勢いで何かが飛んできた。
俺はそれに手を翳し、重力操作を発動して対応する。
その何かは紅く煌めく槍だった。バチバチと激しく放電し、俺の重力バリアとせめぎ合っている。
「とんでもない威力だな。俺の重力バリアを前にここまで耐えるとは‥‥しかし、それまでだ!」
俺は口元に笑みを浮かべてから、重力バリアの出力を上げ弾き飛ばす。するとその紅い槍は地面に落下しカランカランと音を鳴らした。
カツカツとその槍へと歩み寄り、手に取る。
いい槍だ。一部の無駄もない。ただ命を奪うために特化された作りをしている。しかしなんの鉱石で出来ているんだ? 見た事ないんですけど。
コンコンと叩いてみるが何もわからない。まあ、それっぽくしてみただけだから分かるはず無いんだけどね。
俺は手にヒンヤリとした感触を感じながら槍が飛んできた方向に振り向く。
「いきなり攻撃して来るなんて、礼儀がなってないんじゃないか? 」
俺は槍を突きつけ挑発げに言うが、太陽の光を反射し輝いている槍を見て、ん? となる。
「ん? この光何処かで‥‥。」
改めて見てみるが、装飾など一切無い紅い二股の槍だ。太陽に翳してみると少しだけ透けてる。 こ、これってもしかして‥‥。
俺が槍の正体に気づき冷や汗を流し始めているとふっ、とその槍が手から消えた。それを見て俺は目を見開き確信する。
「おい貴様! 何故生きている! 」
間違いない。使徒だ。使徒ならば俺でも気を抜いたら万が一があるかも知れないので視線を下げる間に観測眼を発動しておく。
金色に変わり怪しく輝く眼で声が聞こえた方向を見てみるが、俺は思わず声を上げた。
「は? 」
先程まで誰もいなかった場所には3人の人が立っていた。これを聞けば普通だと思うかも知れないがその3人の格好が問題だ。全員白銀の甲冑を纏い、紅いマントを羽織っている。ここまではこの世界では騎士が着ないでもないが、何だあの兜は!? 何で目の所に紅いガラスみたいなの埋め込んでんの!? 何でそんな仮面ライ◯ーみたいなの!?
目をゴシゴシとしてもう一度見てみるがその事実は変わらない。全員仮面ライ◯ーだ。しかも1人だけ明らかに子供がまじっているし。凹みたいになっている。
「下賤な輩め、我がルディア教への信仰の証、聖槍ロンギヌスを受けてみよ。」
俺がもう何なのこいつらとげんなりしていると唯一の子供が手に先程の槍を召喚して勢いよく投擲してきた。
俺はそれを先程と同様に重力バリアで弾き飛ばす。先程より槍の威力が上がっているが俺はそんなのに構っている余裕はない。
い、今ルディア教って言ったか!? じゃあどうして俺を攻撃する!?
攻撃してくるつまりそれは俺に対して悪感情を抱いているという事だ。しかし、使徒の職業を持つならば俺に対して悪感情を持っていない筈だ。
これは矛盾している。アイリスから感染した使徒以外の使徒なのか? しかしそれならルディア教とは名乗らない筈‥‥。じゃあどうして? 精神支配か? いや、それか俺の悪感情を抱かずに攻撃してきている、人質か? クソ! どれも有り得る事で絞れない!
情報が足りなすぎる!
また飛んできた槍を重力バリアで弾き飛ばして悪態をついていると、残りの2人が動きを見せた。
「聖杖ケリュケイオン、異教徒にルディア様の名の下に天罰を 天それ即ち絶対なる理、理に逆らいし者へ、死の救済を【バニッシュ】 」
先端が翼のようになっていてそれに2匹の蛇が絡み合っているような紅い杖を召喚した仮面ライ◯ーが詠唱を唱え、ビームを放ってくる。
「チッ、また使徒かよ。【ブラックホール】」
そのビームをブラックホールを発生させた手を翳し飲み込んでいると、最後の1人がズドンっと飛び上がった。
「聖槌ミョルニル。」
その最後の1人は空中で、紅い巨大な戦鎚を召喚して構え俺目掛けて振り下ろしてきた。
「【槌術:クラッシュ】! 」
「結局、全員使徒じゃねぇかぁぁぁ!! 」
俺は叫び声を上げながら戦鎚を手で受け止める。
ドゴォォォン!!
俺と戦鎚が激突した衝撃で地面が沈み、亀裂が入った。辺りにはモクモクと土煙が立ち込める。その土煙は両者を包み込みやがて晴れて行った。
俺は自分の体に目を向ける。
土煙のおかげで制服は所々汚れていた。
それを見た俺はプルプルと震えクワッと目を見開く。
「やってくれるなぁ、制服が汚れちゃったじゃないか。お前がどこの使徒だろうが、何の理由があろうが、ぶっ殺す。」
「貴方様はルディア様!? 」
俺が体から殺気を放出し、戦鎚を止めていない方の手で抜手を構え振り抜こうとしていると目の前の仮面ライ◯ーが驚きの声を発した。
その声を聞いた俺は見開いていた目をパチクリとさせる。
「その声! お前、ゲインコングだな!? いい度胸だ、買ってやらぁぁ!」
正体が分かった所で制服の恨みは消えないので、抜手から正拳突きに変えて構えた。
「ちょ、ま! 」
戦鎚から手を離し、手を左右に振り待ってっと言ってくるが待たない。
俺は拳をゲインコングの腹に叩き込んだ。
「グハッ! 」
俺が放った拳は白銀の鎧を砕き、ゲインコングを吹っ飛ばした。ゲインコングはくの字で残りの2人の仮面ライ◯ーの所に飛んでいき地面に激突する。ズササーと5メートル程地面に線を残して止まった。
「ちょっとゲインコング!? もう、見にくい。てっルディア様! まま、まさか私なんて事‥‥」
バタリと倒れたゲインコングに子供仮面ライダーが駆け寄るが、見にくいと言って兜を外す。その外した兜から出てきたのは見た事のある女の子だった。
何でこんなとこいるんだよ‥‥
「聖槍ロンギヌス‥‥」
その女の子を見て唖然としていると、女の子は手に槍を召喚し自分の腹目掛けて振り下ろした。
俺は惚けている場合じゃないと、残像を残すスピードで詰め寄り、間一髪で槍を止める。
「何をしようとしてるのかな〜アリエル。」
そう、次立ち寄る都市エイバで会った女の子、アリエル・ウェイトスターだ。まさかアリエルも使徒になっていたとは‥‥。
「離してください! 私は人として犯す最大の罪を犯してしまいました。ルディア様に刃を向けるという最大の罪を! ですから死んで償います! 」
アリエルはいやいやと首を横に振り、槍を握る手に力を込める。俺もそれに対抗するように力を強めた。
「ダメだって! そこの誰か知らないおじいさんもダメってば! 」
いつの間にか兜を外し、懐に仕舞っていた短剣で切腹みたいな事をしようとしているおじいさんを手を翳し重力操作で止める。
「嫌じゃぁぁ! 離してくだされ! わしは死ぬんじゃぁぁ! 」
だがこのおじいさんも駄々をこねるように喚き散らす。
「ダメ、ダメだって、言ってんだろうがァァ!! 」
段々とイライラし始めた俺の怒声が響き渡るのだった。




