ワンパン
俺たち2-Aは今、王国所有の森の前でラインハルトさんに実践訓練の説明を受けている。ちなみに、俺は此処に来る前にショートソードと、バックラーを借りた。どこまで使えるのかわからないが、あって困ることはないと思う。
「実践訓練は、日が暮れるまで行います。森には低級の魔物のゴブリン、スライムが生息しており、今回の実践訓練ではこれを狩っていただきます。大丈夫、兵士より少し弱い程度ですから。」
おいまて、ちょっと待て。今さらっと聞き捨てならないことが聞こえたぞ。兵士より少し弱い程度だと?それって農民より強いってことだよな?強敵揃いじゃないか。それは油断ならないな。
「食料は此方で支給します。1班につき3日分です。これは非常事態に備えてですので気にしないでください。実践訓練の終了の合図は上空に魔法を3度打ち上げますのでこれを見たら直ちに戻ってください。」
終わりの合図は魔法でか、異世界使用だな。
「これで説明は終わりです。何か質問はありますか?ないようですね。それでは、実践訓練開始!」
かくして実践訓練が開始された。
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俺は木が鬱蒼と生い茂っている森を歩きながらさっきからずっと気になっていた事を青山に聞いてみる。
「なあ、青山。この世界のゴブリンとスライムどんな見た目してると思う?」
そう、俺はその事が気になって仕方ない。可愛くデフォルメされてるのか、モザイク必須の見た目をしてるのか。
「何よ急に? そんなことどうでもいいわ。」
「何だよ、青山は気にならないのか?」
「気にする必要ある?どうせ殺すんだから。」
「さ、さいですか。」
いい笑顔で、言わないでくださいほんと。何で俺の周りは物騒な女性ばかりなんだよ。先生はどうせ皆殺しだとかいってそうだしさ。
「さ、余計なこと考えてないで魔物を探すわよ。経験値稼ぎにいいらしいしね。」
経験値?何だそれは?
「経験値ってなんだよ青山?」
そう聞いた途端、呆れたと言わんばかりの顔になる青山。
「座学でなに聞いてたのよ?経験値は、レベル上げる為に必要なものってならったでしょ?」
うそ!?そんな重要なこと言ってたのかよ、俺居眠りしてたな。
「も、もちろん聞いてたぞ。確認だよ、確認。」
はー、と青山がため息を吐く。
「そういうことにしてあげるわ。ついでに、経験値は訓練で稼ぐこともできるけど魔物を狩る方が効率が良いらしいわよ。分かってるかもしれないけどね。」
「そ、そうだったよな。ウンウン。」
危ない危ない、危うくバレるとこだった。俺が彼氏としての尊厳を保てて安堵してると、前方から鳴き声が聞こえてきた。
「グギャ、ギャギャ、ギシ」
「グギャゴ、グミ」
「ギャミシ」
その鳴き声を聞いた俺たちは茂みに隠れた。
「魔物のお出ましだぞ青山。どうする?」
魔物にばれないように、小さな声で話す。
「そうね、まずどんな魔物か確認しましょ。」
「オーケー。」
俺たちは茂みから少し顔を出して、どんな魔物か確かめる。そして、魔物を確認することができた。その魔物たちは、120㎝ほどの身長に、額に小さなツノを生やし緑色の肌色をした小鬼だった。それを見た俺と青山の意見は同じだった。
「ゴブリンだな。」
「ゴブリンね。」
俺の知識によるとゴブリンは雑魚中の雑魚、キングオブ雑魚と雑魚の名を思うがままにし、醜い見た目となっているんだが‥‥。
「見た目普通だな。」
「普通ね。」
そう普通なのだ。確かに特徴は一緒なのだが顔が普通。ある意味異様だ。
「青山、ゴブリンを一体残して殺してくれないか?」
「全部じゃなくて良いの?」
「いや、一体は俺がやる。最低でも青山に守られないくらい強くなりたいんだよ。」
「そこは嘘でも守れるくらいって言って欲しかったわ。」
ジト目でそんなことを言ってくる。
「何言ってるんだよ、俺の弱さは折り紙付きだぞ?」
それを聞いた青山はフフと笑いを漏らした。
「そうね、貴方は毛が生えた農民だったわね。まあ、気を長くして貴方が守ってくれる日を待ってるわ。」
「ああ、待っててくれ。じゃあよろしく頼むぞ?」
いつか本当に青山を守れるくらいには強くなろうとそう心に決めた。
「はいはい、じゃあ行くわよ。 清らかな水よ、我が手に集いて、敵を穿つ槍となせ【ウォーターランス】」
青山の手に魔法陣が浮かび上がりその魔法陣から出現した水の槍は二体のゴブリンの頭に直撃し、貫いた。
「一撃で屠るとは‥‥。圧倒的じゃないか、我が軍は!」
「まだ貴方のが残っているでしょ、バカなことやってないでさっさと行く!」
そう言って、背中をグッとおしてくる。
「ノリが悪いな青山、まあ良いけどさ。行ってくるぜ!」
そう言って青山にサムズアップする。
「いいから早く行きなさい。」
絶対零度もかくやというほどの眼差しで睨みつけられる。戦闘中のおふざけはご法度のようだ。
「‥‥はい。」
俺は残り一体になったゴブリンに向かって飛び出した。
「行くぞゴブリン。お前に恨みわないが俺の経験値になって貰う。」
俺は仲間が一瞬でやられるという衝撃から抜け出したゴブリンにそう宣言する。
「グギャゴ、ググッギ、ギギガ」
宣言を受けたゴブリンは俺に向かって指をさし何やら騒いでる。おそらく、お前がやったのかとか、ぶっ殺してやる!とか言ってるのだろう。
「何言ってんのかわかんないが、行くぞ。」
そう言ってから俺はゴブリンに向かって歩き出す。なんで走って向かわないかというと、歩くだと常に身体制御に補正がかかるからだ。大した補正じゃないが戦闘では何があるのかわからないから一応である。
「ギャハッハー」
俺が歩き出したのを見たゴブリンが、俺に向かって拳を振りかぶり走り出してきた。ステテテと音が聞こえそうなくらい可愛い走り方でこちらに向かってくるゴブリン。それを見た俺は、こいつ本当に強いのか?と思ってしまった。
「ギギギ、グ!」
なめくさってる俺に向かってゴブリンは拳を突き出してくる。それを俺はラインハルトさん嘘ついてたのかな?と余計なことを考えながらバックラーで防ごうとする。しかしゴブリンはそのバックラーをかいくぐり俺の腹に拳を打ち込んできた。
「グハッ!」
くそ!走り方に騙された!あんな可愛い走り方でなんて凶悪なパンチをしてくるんだ。それにこの威力、プロボクサー並みの拳だぞ!いや殴られたことないけども。俺はあまりの衝撃に膝をつく。
「彩月!今助けるから!」
やられた俺を見て青山が茂みから飛び出して、詠唱を始めた。
「やめろ!青山今のは油断しただけだ。次からは油断しないから、任せてくれ。」
俺の懇願を聞いた青山は渋々詠唱をやめてくれた。それを見た俺は、足に力を入れ立ち上がる。
「おい、クソゴブリン。今のはちょっと油断しただけだ!此処からが本当の勝負だと思え!」
ゴブリンは、俺の女々しい言い訳を舐めきった顔で聞いていた。それを見た俺は、こいつ絶対殺す!と思いながら体に闘志を漲らせていった。
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