場外戦
表彰式を無事に終えた俺は頭上にプカプカと優勝トロフィーを浮かべながら手に賞金を持ちアリウシア様と一緒に闘技場の通路を歩いている。
なぜアリウシア様と一緒にいるかというと表彰式の後、本来なら王様達と一緒に別れる予定だったのだがアリウシア様が顔を赤くしながら「ルディア様、試合前の事覚えていますか? もし良ければこの後少し時間を‥‥」と言ってきたからだ。
しかし、俺はとことん相手側から責められるのが弱いらしい。混乱して「なな、な、なんのとこでせうか! 」と思わず口に出してしまった。その時はなんとか王様達を誤魔化せたがこれは由々しき事態だ。いつか直さねば‥‥
「あのルディア様 」
そういえば王様達も一国の王女を1人で送り出しても大丈夫なのだろうか? すんなりと送り出していたけども。 密かに護衛でもつけているのか? ニンジャ的な奴。どうなのレヴィ?
(いるわよ。3人くらいね。)
やっぱいるのか 全然気配しないぞ。 やるな
俺がキリっとした声で言うとレヴィは物凄い長い溜息を吐いた。
(はぁぁ〜 何がやるな、よ。ドヤ顔で言わないでくれる? ルディのくせに)
あ、なんだよルディのくせにって全国のルディさんに謝れ。しかし、矛盾する様だけど護衛が必要と分かっていても信用されてないみたいで少し悲しいな。
(はっ! なに言ってるのよ。羊の皮を被った魔物の癖に)
はは、なに言ってるんだい? 僕は紳士だよ。
キラーンと効果音がつく様な声色でそう言ったがレヴィは、はいはいとばかりに適当に返してきた。
(はいはい、紳士、紳士)
おいルビに本音出てるぞ、隠せ。
「ルディア様! も〜聞いているんですか? 」
俺がレヴィと話していると、前にアリウシア様が回り込んで顔を覗き込んできた。
「ああ、すいません考え事していて‥‥」
頬を膨らませて怒っていますと体現しているアリウシア様を見て俺は頭を掻きながら謝る。如何やら考え事をしたり、レヴィと話をしていてアリウシア様の話を聞いていなかった様だ。
「もういいです。ふん 」
アリウシア様は覗き込んでいた体勢を元に戻し腕を組んでソッポを向いてしまった。それを見て俺は如何したものかと悩む。
話を聞いていなかった俺が悪いしな〜 なんとか機嫌を取らねば。あ、そうだそういえば試合が始まる前にアリウシア様に仕返しをするって決めてたな。 あれならアリウシア様の機嫌も取れるし、仕返しも出来るし、上手くいけば疑問も解決できるかもしれない。一石三鳥だ。そうと決まれば‥‥
「すいません。アリウシア様と改めて2人でいると恥ずかしくてなにを喋っていいのか分からず考え事をしてしまいました。この様な不甲斐ない僕を許して頂けますか? 」
(よくもいけしゃあしゃあと、この女の敵め! 滅びろ! )
顔を赤くし胸に手を当てながら、少し目を逸らしてそう言う。顔が赤くなってるのは素だ。こんな事言うのクソ恥ずかしいからな。あとレヴィうるさい。
「ルル、ルディア様!? 」
そんな俺を見てアリウシア様が戸惑う。ソッポを向いていた顔はこちらへと戻り、顔が赤くなっている事からかなり動揺しているのだろう。
それを見た俺はオロオロとしているアリウシア様に詰め寄る。アリウシア様は俺に追い詰められるように壁に後ずさりして行き壁に背中がぶつかった。ここだ!
ドンっと壁に手をつき顔を覗き込む。
「キャッ! 」
そう、壁ドゥンだ。ちょっとカッコよく言ってみたのはさて置き、俺の完璧フェイスに壁ドンは鬼に金棒、虎に翼、竜に翼を得たる如しetc‥‥
とにかくすごいことになる訳だが、俺は手を緩めない。
「こう言ってはなんですけどアリウシア様も悪いんですからね? 」
「へ!? それはどういう‥‥」
俺の口元に悪い笑みを浮かべて言った言葉に驚きあたふたとさせている手を取り俺の胸に当てる。
「僕のここをあんなにも苦しめたのは貴方が初めてでした。とっても苦しかったんですよアリウシア様? 」
そう、今世ではな。
「あ、あれは! お母様達が‥‥」
ほう、お母様達が、ね。これは詳しく聞かないとな。
そうと決めた俺は畳み掛ける様にもはやゆでだこの様になったアリウシア様に話しかける。
「聞こえますか? ほら今もこんなにも鼓動が早くなっている。苦しいんです。胸が締め付けられているこの感じ、なんでか分かりますか? 」
「ひゃひゃい! 」
言葉がおかしくなったアリウシア様の顎にそっと手を当てクイッと持ち上げる。
「言ってごらん? 」
「そ、それは多分‥‥はっ! ダメ! 」
目がグルグルまわり、頭から湯気を出しているアリウシア様は途中まで言った言葉を突然切りハッとなった。チッ あと少しで思考回路を麻痺させて聞き出す作戦が成功する所だったのに何故だ?
「エフィ母様、私やります! 」
俺が何故だと疑問に思っているとアリウシア様がそう叫んで飛びついてきた。俺に抱きついたアリウシア様はドンドンと俺の顔に接近してくる。
おいおい、これってまさか!?
「え! アリウシ ん!? 」
目を瞑ったアリウシア様は俺に唇を重ねてきた。なぜに!? いきなりなんで!?
俺は壁についていた手を離し後ずさりする。アリウシア様は後ずさる俺の頬に手を当てながらもついてくる。やがて息が苦しくなったのかぷはっと離れた。
「はぁはぁ、お母様がルディア様のペースに乗せられたら取り敢えずキスしてリセットって言っていましたけどは、恥ずかしい〜! 」
どっちのお母様だ! そんなけしからんこと教えたのは!? いや、待てよ? つまりあれをやれば何度もアリウシア様の唇を‥‥いやいや、いや! なにを言っているんだ俺は! あほか! あほなのか!
くそう確かに優勢な状況を一気にリセットいや逆転されてしまった。恐るべしアリウシア様! だが負けんぞ。今回は勝たせてもらう。
「アリウシア様らしくありませんね。どうしてあの様な事をしたのか教えて頂けませんか? さもないともっと虐めちゃいますよ? 」
目をキリっとさせた俺は近くにあるアリウシア様の顔をひと撫でして口元に黒い笑みを浮かべる。
「あうあう、う〜酷いですルディア様。 意地悪ルディア様です。私が言えないのをご存知で言ってますね? 」
それを受けたアリウシア様は俯き唸って、か細い声で言ってきた。
「さあ如何でしょう。まあ、アリウシア様の可愛らしい姿を見るためならもしかしたら無礼な行いをしてしまうかもしれませんね。」
俺は俯いたアリウシア様の両頬を両手で包み持ち上げ、すべてを飲み込む様な目でアリウシア様の目を見ながら言った。
すると、アリウシア様の瞳が揺れトロンとなり顔がまた真っ赤になる。しかし、またハッとなって唇を近づけてきた。
「‥‥リセット、リセットしないと 」
そうはさせないぞ、アリウシア様。さっきのは不意を突かれたからああもだらしない姿を晒したが来ると分かっていれば対処など簡単なことだ。
俺は近づいて来た唇に人差し指を当て微笑む。
「リセットなんてさせませんよ? ずっとこのまま‥‥」
「い、いやぁぁぁ!! もうもう無理〜〜! 」
ポンっと頭から湯気を吹き出したアリウシア様は身体中を真っ赤にして走り去ってしまった。それを見て俺は両手を広げ上を仰ぎ呟く。
「勝った、勝ったぞ。 俺の勝ちだ。」
(‥‥なんの戦いよ。あほくさ。)




