人外の者共②
「行くぞレヴィ。【顕現せよ我が力、世界を恐怖のどん底に叩き落とせ、魔剣レーヴァテイン】 」
(油断したらダメよ。今回はそれが一瞬の命取りになるからね)
ああ、分かっているさ。最初から全力でいく。最終日だから会場の事とか気にしなくて良いしね。存分に力をふるってやる。
俺が魔剣召喚をする言葉を唱えると、胸に銀色の魔方陣が浮かび上がりそこから魔剣の柄が出てくる。
それを俺は掴み取り引き抜く。
「【観測眼】 【身体強化】 【聖具召喚lv.5】 」
目が金色に変わり、体がキラキラと輝いて最後に全て白金に輝く鉱物で造られた聖具を纏った俺は右手に怪しく輝く魔剣を手に持ちながら、黙って此方を腕を組んで見ていたメフィストに目を向ける。俺のスキルの発動を妨害しないのは観客への配慮か、若しくはスキルを発動した俺にも勝てるという自信の表れか。まあ、どちらでも良い。ただ叩き潰すだけだ。
「いやぁ本当に君のスキルは派手で見栄えが良いね。観客達もこんなに喜んでいるよ。しかも見栄えだけじゃない事も恐ろしい所だ。」
俺がスキルを発動し終わり自分を見ている事に気付いたのかメフィストは組んでいた腕を解き、口を開いた。観客席を見回しながら言ったその言葉には賞賛の色が見て取れる。
しかし、俺はメフィストの賞賛の言葉を受けても喜ぶことはなく目を細めた。
なぜこんなにも余裕なんだ? 今の俺に攻撃されたら避ける事も、防ぐ事も、視覚する事も許されずに倒されるんだぞ? 今までのメフィストの言葉からあいつはこれまでの俺の試合を見て俺の力を知っていると推測することが出来る。ならば、すでに何かのスキルを発動している? いやそれともブラフか? くそ! わからん。情報が足りなすぎる。まずは一当てだ。その攻撃に対する対応で凡その検討はつく筈だ。
「さて、そろそろ私もスキルを発動するとしようか。」
俺が魔剣を構え、メフィストに踏み込もうとした所でメフィストが俺に手を翳してそう言った。それを聞いた俺はピタリと止まり、眉を釣り上げる。
「僕が黙ってさせるとでも? 」
メフィストは舐めているのか? という怒りを目に込めて睨みつけている俺を意に返さず口元に笑みを浮かべて答えた。
「させるさ。 いや、君はさせなければならないといったほうが良いかな? もし、私の妨害をして試合に勝ったとしても君は実質的に試合に負ける事になる。つまり、ルディア・ゾディックとしての偶像は破壊される事になるだろう。」
それを聞いて俺は目を見開く。そんな俺を見てメフィストはさらに笑みを深くする。
「聞いているよ? 学園の広告塔や、ルディア教なるものもやっているらしいじゃないか。これを聞いたときは正直驚いたよ。たった7歳の子供がここまでの事を既に成し遂げているなんてね。でも、これまで君を見てきて納得した。そんな優秀な君なら分かるんじゃないか? 私を攻撃する事で得られるものと失うものの比率が。」
初めは何を言っているんだ? と思っていたがメフィストの言っている事を理解した俺は心の中で舌打ちをした。やられたと。つまり俺はこれまで築いてきたルディアとしての仮面を盾に取られたのだ。この仮面は俺の計画に絶対必要なもの、せめて復讐がひと段落着くまで壊すわけにはいかない。
俺は構えていた魔剣を下ろしてメフィストに話しかける。
「‥‥良いでしょう。早く発動してはいかがですか? 」
そんな俺を見てメフィストは嗤う。術中にはまった俺が可笑しくて仕方ないのだろう。ここで悔しそうな顔を晒したら相手をもっと喜ばせるだけなので涼しい顔を作る。まあ、心の中は荒れ狂っているが。
くそ! やられた! 俺のスキルの発動を黙っていて見ていたのはそういう事か! これで俺はメフィストのスキルの発動を待たなくてはいけなくなってしまったぞ。敢えてこういう事をやって来るということは発動に一定の時間がかかり尚且つ強力なスキルという事だ。やるじゃないかクソ野郎! でも俺が勝つもんねーバーカバーカ!
俺の心の中の荒れ具合を知ってかしらずかメフィストはスキル発動し始める。
「ああ、そうさせて貰う。【身体強化】【魔闘術】 」
そこで言葉をきったメフィストは腰を低くして顔つきを変えた。来る!
「【我は人外に足を踏み入れし者、よって人の理に支配されずただ己の道を進むのみ、我が通った道は後に続く者達の青く輝く灯火となるだろう、熾天導士】! 」
メフィストはブワっと体から青い炎の様なものを吹き出し、体には複雑な青い刺青が浮かんでいる。その刺青は淡い光を放っていて不気味な印象だ。
そのメフィストの変貌から目を逸らして顔に目線を合わせて口を開こうとして俺は絶句した。両目共に瞳が3つになっていてそれぞれ光を放っていたのだ。1つは元の青色、2つ目は燃える様な赤色、3つ目は魔眼発動時の俺と同じ金色。
おいおい、人外に足を踏み入れし者ってそういう奴なのかよ。こりゃ簡単に勝てそうにないな。
俺は少し背中に冷や汗を浮かべながらメフィストに向けて魔剣を構える。
瞳が3つあるってなんか夢があるよね。




