預けた帽子
『しかしクリプト選手のあの変貌は何だったのでしょうか? 何かのスキルかと思われますが。どうなのでしょうウォルフガンフさん?』
『‥‥そうだな。儂にも分からん。恐らく新しく生み出した剣術だろう。しかしクリプトのミティアストリームも素晴らしい技だった。両者共にさすが準決勝出場者と言った所だろう。』
お祖父さんはこちらをちらりと見てそう言った。 あの顔を見るに狂戦士化のスキルを知っていたのだろう。少し露骨だが狂戦士化の話題から逸らしてくれて感謝だ。 狂戦士化の取得条件は知ったら観客達のクリプトを見る目がどうなるかわかったものじゃない。予選で俺がやった事を分かるのは一定以上の猛者か実際に予選で徒党を組み最後まで俺と戦った人達だけだ。それ以外の人はクリプトが予選で負けた事を逆恨みしてそうなったと思ってしまう。それはダメだ。お祖父さんに借りができてしまったな。今度何か1つなんでも言う事を聞こう。
俺がそう決めてぺこりとお祖父さん頭を下げると指を3つ立ててきた。
え、嘘? 3回ですか? いやいやそれはボリすぎですって! せめて2回で!
俺が人差し指をチッチッチと横に振ってからは指を2本立てるとお祖父さんはグッジョブサインを送ってきた。交渉成立の様だ。
『そうですね! 素晴らしい試合を送ってくれた両選手に拍手を! 』
俺とお祖父さんがそんなやり取りをしているとマイクさんが大声で観客に拍手を促した。それを受けた観客達は割れんばかりの拍手を俺と倒れているクリプトに送って来ている。
「「「ルディア! ルディア! ルディア! 」」」
「よくやったぞ! クリプト〜! 」
「かっこよかったわよー! 」
大多数は俺への声援だが、中にはしっかりとクリプトに声援を送っている者もいる。それを聞いた俺は安心して倒れているクリプトを係りの人に任せ舞台を後にしたのだった。
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「ルディ! お疲れさま〜! 」
「ありがとうアイリス。 」
観客席へと入り騎士学校の1-1の所にやって来た俺にアイリスが抱きついてきた。それに背中をポンポンと叩いてからお礼を言ってアイリスの後ろでモジモジとしているアリアへと顔を向ける。確か準決勝が終わったら帽子を受け取るって言ってたんだったな。なるほどだからモジモジしている訳か。
それを見た俺は悪戯心が湧いてきた。さて色々と受け取りに行くとしますか。
アイリスを離した俺はアリスに歩み寄ってニコリと笑う。
「アリア帽子をかぶせてくれないかな? 」
「は、はい! 」
俺の言葉を聞いてアリアは顔を真っ赤にしながらしゃがみ、頭にかぶっていた不釣り合いな小さい帽子を手に取って俺にかぶせてきた。そのお礼に俺は耳元でありがとうと囁き頬にキスをした。
「ななな、坊っちゃま!? 」
それを受けたアリアは頬に手を当てたまま固まってしまった。
フフフいい反応だ。試合ですり減った俺の心がじわじわと癒されていく。満足だ。
「「「キャアアアア!! 」」」
「「ヒューヒュー 」」
それを見た1-1の女子は黄色い悲鳴を上げ、男子はヒューヒューと囃し立てる。まるで小学生のノリだ。まあ小学生だからな。
「あ、あのルディア様。 お楽しみのところ大変申し訳ない無いのですがこの後時間はありますでしょうか? 」
俺が頭にちょこんと乗った帽子をしっかりとかぶりながら辺りを見回してそう思っているとアリウシア様が話しかけてきた。
「時間ですか? 」
俺が首を傾げて聞き返すと言い辛そうに目を逸らして、やがて決心したのか口を開く。
「はいお父様が会いたいと申しております。その‥‥出来れば一緒に来て欲しいと思いまして‥‥。」
え、 お父様って王様だよね? うわ〜めんどくせ〜でも行かないとダメだよな〜アリウシア様がさっきから期待する様にチラチラと見てきているし断れない。はぁ、まあいいやどうせ叙勲式の時にも会うんだ。遅いか早いかの問題なら早めに済ませて気を楽にしておこう。
「分かりました。ご一緒させて頂きます。」
「ありがとうございます! 」
俺の返事を聞いたアリウシア様は花が咲く様な笑顔を浮かべる。それを見た俺は可愛いと言う感想を抱いたのだった。




