絶剣の鬼②
マイクさんが試合開始の合図をつげたが俺とクリプトは両者共に動かない。俺は腕を組んでいたままクリプトを見て心の中で首を傾げる。いつもなら相手方が先手必勝とばかりに先制攻撃を仕掛けてくるのに何故動かないのかと。俺にスキルを発動させたら勝負が一気に決まる事くらい分かっているだろうに。それとも何かを狙っているのか?
先ほどケリーの作戦に引っかかった俺は注意深くクリプトを見つめるが何もない。ただふた振りの直剣を構えて俺を見据えて居るだけだ。
ん〜? と更に疑問を強くして此方から仕掛けようかなという所でクリプトが口を開いた。
「お前にお礼を言わないとな。」
お礼と言われてもなんの事についてのお礼なのかさっぱり分からないので、クリプトに質問をする。
「何をですか? 」
サッパリわからないと言った表情をして聞いた俺にクリプトははぁ〜とばかりにため息を吐いてから説明を始めた。
「準々決勝でのあの言葉だよ。正直言って衝撃だったぜ。俺もお前に対して嫉妬心を抱いていたんだ。なんでお前にそれ程の才能が集中しているんだってな。だが、今は違う。どんなに高い壁だろうと諦めずに越えてみせる所存だ。」
ああ、成る程。 準々決勝の俺の試合を見ていたのね。だから準々決勝の後に態度が軟化していたのか。
「だから俺の全力にお前も全力で来て欲しい。」
俺が成る程と納得しているとクリプトは言葉を区切りって俺の目を見つめてそう言ってくる。その目は思わず飲み込まれそうなほど澄み渡っていた。
全力で、か‥‥。怪我をしますよ? と言いたいがそんな無粋な事は言えないな。そんな事は予選で戦ったクリプトも百も承知している筈。それでも尚、言ってくるという事は覚悟しているという事だ。 それを俺がとやかく言う事じゃない。
「分かりました。全力でいきます。」
「ありがとう。」
クリプトのその言葉に俺は組んでいた腕を解き目を見つめて頷く。それを見たクリプトは小さくありがとうと呟いたがその呟きは俺が聞いてはならない類のものなので無視してスキルを発動する。
「では行きます。 行くぞレヴィ。【顕現せよ我が力、世界を恐怖のどん底に叩き落とせ、魔剣レーヴァテイン】 」
(やり過ぎない様にね。)
俺が魔剣召喚をする言葉を唱えると、胸に銀色の魔方陣が浮かび上がりそこから魔剣の柄が出てくる。
それを俺は掴み取り引き抜く。
「【観測眼】 【身体強化】 【聖具召喚lv.5】 」
目が金色に変わり、体がキラキラと輝いて最後に全て白金に輝く鉱物で造られた聖具を纏う。
「いつ見てもザ・聖魔といった感じだな。 これは倒し甲斐がありそうだ! 【身体強化】ハァ!! 」
俺がスキル発動を終えたと同時にクリプトは身体強化を発動して2本の直剣を振りかざし突っ込んでくる。
2本纏めて右から左への横薙ぎから、上下左右の連撃か。
クリプトの動きの未来を観測眼で視た俺はそれらの攻撃を魔剣でキキキキキンと弾いていく。全ての剣撃を防いだ俺は反撃とばかりに腰を低くして魔剣を突きの体勢で構える。
「【グラビティソード】 」
魔剣に重力を纏わせた俺は舞台をズドンと踏み砕いて懐に入り込み突きを繰り出した。
「グ!! 」
クリプトは直剣をバッテンに構えて俺の一撃を防ぐが口から血を流し膝をつく。なぜかというと、グラビティソードは魔剣を振った方向に超重力をかける技。つまり体全体を鈍器で殴られているも同じで、魔剣を防ぐだけではダメなのだ。超重力に耐えられる頑強な体を身につけていないとグラビティソードを纏ったただの一撃でこうなる。クリプトの体はもう何本もの骨が折れている事だろう。まあ、吹っ飛ばされないで踏ん張っただけでも凄いんだけどね。
俺が膝をついたクリプトを見てそう思っていると足を震わせながらも立ち上がり口から滴っている血を腕で拭ってから吠えた。
「全然効かねえなぁ!【二刀流剣術:ミティアストリーム】! 」
両手の直剣を青白く光らせて剣が幾本にも見えるスピードで突きを放ってくる。それに対して俺は重力バリアを展開して防ぐ。輝く剣は重力バリアに阻まれ俺に届いていない。だがそれでもクリプトは諦めず剣速を上げていく。徐々に剣は重力バリアに抗い深くまで食い込んでくるが俺はそれをただ見つめるだけだ。何もふざけている訳ではない。これは俺の重力バリアとクリプトのミティアストリームの対決だ。ここで攻撃したりなどはしないし、勿論重力バリアを破られた時は甘んじて攻撃を受ける。まあ俺の重力バリアは破れないけどな。しかし青白く輝く2本の直剣で放たれる突きの連撃はその技名通りの流星群を思わせるもので攻撃に晒されているという事を忘れ見入ってしまうほどの美しさだ。
「うぉぉぉ!! 貫けぇぇぇ!!! 」
俺が立ったままミティアストリームを見てそう感想を抱いていると剣を深く引いたクリプトは飛び上がり今までで最高の突きを放ってきた。最後のクリプトの気迫のこもった一撃は俺の眼前でギリギリと止まりやがて弾き飛ばされる。
「はぁはぁはぁ ふぅ 俺の最高の一撃だったんだがな。届かなかったか。」
ズサササっと地面に擦ってから止まったクリプトは寝たまま空を仰いで太陽に手を翳してそう言った。確かに最高の一撃だったな。 俺の重力バリアにあそこまで食い込んでくる人はなかなかいないぞ?
「皆んなすまんねぇ やっぱ強いわ全然届きそうにないぜ。それこそ相当のリスクを負わない限り勝つ可能性すら生まれそうにないくらいにな。でもそのリスクを負っても俺は勝ちたい! 」
「クリプト! やめろぉぉ!そのスキルを使ったら!! 」
クリプトが独白のように言った言葉に対して観客席から切羽詰まった声が上がった。なんだ? と振り向いてみるとそこには観客席から身を乗り出し焦った表情をしたクリプトと予選の時に共闘していた人たちがいた。スキル? 一体何を?
俺が何を言っているんだと思っているとクリプトのいる方向から獣のような雄叫びが上がり闘技場全体に響き渡る。
「【狂戦士化】グァァァァァッァ!!! 」




