師匠の背中
スタッと舞台に着地した俺にケリーは手を差し出してくる。その手を差し出してきているケリーの表情は試合前の表情とは打って変わってさわかな何かを吹っ切った表情をしていた。それを見て俺は笑顔を浮かべケリーの手を握り返す。
「ルディア・ゾディック。改めて礼を言う。それで‥‥今までの酷い、とても醜い態度を取っていた俺が言うことではないのだがお前を、いや貴方を師として目標としていいだろうか? 」
ケリーは俺の目を真っ直ぐに見つめて来て言ってくる。それに対して俺は小さく笑いを漏らしてから目をからかう様に歪めた。
「フフフ、おいおい俺は7歳児だぞ? 17歳が10歳も年下の子供をそんな対象にして恥ずかしくないのか? 」
「あんまりいじめないでくれ。 もうそんなチンケな考えは捨てた。というより貴方に切り裂かれたよ。それとな、そんな事を言う7歳児がどこにいる? 」
俺のからかいを受けたケリーは顔を赤くしてポリポリと人差し指で頬を掻きながら聞いてきた。それを見て満足した俺は顔を元に戻してその問いに答える。
「そうだったな。切りごたえがなかったぞ。次までにもっと切りごたえのある攻撃にしておけ。 俺が大人びているのはそうだな‥‥色んな人生経験を積んだからとしか言えないな。」
「そうか、ありがとう。 オッホン、師匠優勝してくださいね。私、応援してますから。」
俺の答えを聞いたケリーは顎に手を当てて暫く考え込んだ後、何かを納得したのか1つ頷いてお礼を言ってきた。 しかし何だその敬語は。さっきまでの口調を見てきた俺からしたら似合わないという感想しか抱けない。それと何だよ師匠って。
「プッ 何だそれ似合わないぞ? 」
思わず吹き出してしまった俺を見てケリーは少し怒ったという表情を作る。
「そんなこと言わないでください。 何でも形から入る派なんですよ私は。」
「別にさっきのままの口調の方が似合っているんだがな。」
「師匠に言われたくありません。 思いっきり普段と口調変えてるじゃないですか。」
俺の返しにケリーは俺には言われたくないと言う。 それに対して俺は腰に手を当て胸を張りドヤ顔で答えた。
「俺は俺。お前はお前だ。」
「あっズルいですよ師匠。」
それを見たケリーは俺を指差しズルいズルいと連呼してくる。俺はそんなケリーを見てフッあざ笑う様に鼻を鳴らす。
「師匠だからな。」
「「プッ アハハハハハ!! 」」
俺とケリーは同時に吹き出し、大きな笑い声を上げた。その笑いあっている2人に観客達はルディアには尊敬と憧れの眼差しを、ケリーにはまるで親が息子を見る様な眼差しをといった具合に暖かい目を向ける。なぜなら、試合中に起きたルディアとケリーのやり取りを一部始終見ていたからだ。そうでなければこんなやりとりをする暇もなく舞台から締め出されていただろう。そんな視線に晒されているのに気づいているのかいないのか笑い終わったルディアが目に浮かんだ涙を指で払ってケリーに背を向ける。
「フゥフゥ、そろそろ行くか。 あ、それと俺に賭けとけよ。儲かるぜ? 」
後手に手を振ってから親指と人差し指をくっつけて輪っかを作り、そう言った。
「はい! 」
それを見たケリーは目に浮かんだ涙を拭ってから大きく返事をし、ルディアが舞台を去っていく後ろ姿を眺めながらケリーはポツリと呟く。
「すごいな師匠。 あんなに小さいのに背中が大きく見える。まるでどんな物でもどんな大きな物でも幾らでも背負えるみたいだ。私もあんな風になれるかな。 いやなるんだ! なるためなら泥水だって何だって喜んで啜ってやる。 師匠、貴方を追い越してみせますよそして今度は私が師匠を引っ張るんです。遠い道のりになりそうだけど‥‥。さて私もそろそろ観客席に行くとしますか。」
そう言ったケリーの瞳には何者にも折られないだろう不屈の精神が宿っていた。
1日寝て全快しました。 飛ばして行こうと思います。




