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召転のルディア  作者: NTIO
壊れゆく日常
135/220

肉が憎い

大きい皿の真ん中に王者の如く鎮座している綺麗に四角くカットされたステーキを暫く凝視してから近くを通りかかった女の子に話しかけた。


「あ、あの〜すいません。僕のステーキ少なくないですか? 」


そう言って俺は自分のステーキに目を向ける。切り口からキラキラと肉汁が垂れているのが憎たらしい。食ってやろうか!?


肉汁が馬鹿にして来ているように見えた俺は心の中で牙を剥き威嚇してみるが肉は全くの無反応。 当たり前だ、だって肉だもの。なにやってんだ俺、お腹空きすぎて頭可笑しくなったのかも知れない。


「アハハ、はぁ お父さんたらまたやったのね。」


俺に話しかけられた女の子は俺の皿を見て乾いた笑みを浮かべ、顔に手を当ててため息を吐きそう言った。


またって言いましたか!? や、やはりシェフの気まぐれでステーキの量が決まるのだろうか‥‥。


その事実に戦慄を隠せないでいると女の子はしゃがみ込んで俺に謝ってきた。


「僕、ごめんね。 すぐに何とかするから。お父さん! ちゃんとやってよ! 毎回新しい男のお客さんが来るたびに嫌がらせするの止めて! しかも今回は小さな男の子だよ!? 」


怒り心頭とばかりに立ち上がった女の子は奥の厨房に向かって怒声を上げる。するとさっきの男性が出てきた。あの人がシェフ兼女の子のお父さんらしい。


「うるさいぞ、カエラ。娘に変な虫がつかないようにするのは父親としての役目だ。文句を言われる謂れはないぞ。それと俺のことはパパと呼べと言っただろう! パパ悲しくで死んじゃうぞ! 」


あるから。 物凄いあるから。 百歩いや一万歩譲ってカエラさんに文句を言われる謂れがなくとも俺にはあるからな! しかし、周りのお客さんがまた始まったと笑いながら観戦しているのはどう言う事だろうか? この店の名物なのだろうか?


「もう死んでよ! お父さんのせいで彼氏もまともに出来ないんだから! 」


カエラさんは人差し指でお父さんの胸を指差しそう怒る。


なるほど、あの人ならばありとあらゆる手を尽くして男共を排除してそうだ。それは彼氏など夢のまた夢。お父さんという障害がいる限り出来ないだろう。


「ふん! 彼氏なんぞ作ってきた日には身近にいる男から順に殺してくれるわ。」


俺がカエラさんに同情の眼差しを送っているとお父さんは腕を組みソッポを向いて頬を膨らまし物騒な事を言う。 なに言ってるんだこの人。親バカここに極まりという奴だな。


カエラさんがソッポを向いたお父さんに至近距離でメンチを切っているという極めて危険な状態に突入したが俺はこのまま親子ゲンカを見ている訳にもいかないのでお父さんの方に話しかける。もう空腹の臨界点が達しそうだ。 カエラさんの方に話しかけなかったのは言わなくとも分かるだろう。


「あ、あの〜お父さん。 娘さんへの愛は十分伝わりましたので普通のサイズでいいですからステーキお願いします。」


皿をさし出してにこやかに頼むとソッポを向いた状態だったお父さんが首をグルンと回してこっちに振り向いた。怖!?


「お父さんと呼ぶなぁぁぁ!! 小僧貴様の命運もここでおしまいだ! 」


そう言って俺に手を伸ばすお父さん。はぁ 弾き飛ばしてやろうかと重力バリアを発動しようとした所でお父さんの頭に拳骨が降り注いだ。


「いってぇ!? 」


「あんたまたやっているのかい。今夜はお仕置きだね。ほら新しいの作り直してこい。」


そう言って頭を抱えて蹲り悶えているお父さんのお尻に30代程の女性はローキックを叩き込む。


「嫌だって‥‥」


「アァン? 」


「はい分かりました。」


前にズササっと蹴っ飛ばされたお父さんは立ち上がり子供のように口を尖らせて口籠るが至近距離で睨まれるとシュパッと綺麗に敬礼をして厨房に向かって行った。


俺はお父さんを睨みつけた女性を見て確信する。あの眼光、間違いない。あの人はカエラさんのお母さんだと。 あのオーラと言うか凄みがそっくりだ。


俺がそんな事を考えているとお母さんは隣に空いていたテーブルから椅子を引っ張り出して近くに座った。


「すまないね。 あの人残念ながらうちの主人なんだけど娘の事になると見境がなくなるんだよ。 悪気はないから許しておくれ。」


「いいえ、別にいいですけど。」


お皿を持って行かなかったのでそこに鎮座していた肉をパクリと食べて答える。


悪気はあると思うぞ。


あれで悪気がないとは言えないと思う。


「私の名前はカシアだよ。 坊や達の名前は? 」


俺達に視線を巡らせてそう聞いて来たので自己紹介をする。


「ルディア・ゾディックです。」


「アリアです。」


「アイリス・レーティシア。 」


「へ〜 格好からまさかとは思っていたけどあんたあの聖魔かい。 龍王剣舞祭に出ているらしいね。 今日の本戦は如何だったんだい? 」


俺の名前を聞いたカシアさんは目を見開き頷く。 俺の特徴を知っていたようだ。


「無事勝たせて頂きました。」


「おお! それは凄いねぇ。 うちは店が忙しいから見に行けてないけど明日からは見にいく予定なのさ。 頑張っておくれよ。 カエラ! オレンジジュース人数分もって来なさい! 」


笑顔で勝ったと言うとカシアさんは肩を凄いじゃないか! とバシバシと叩いてから他の客の注文を取っていたカエラさんに大声でオレンジジュースを持って来るように、と言った。


「えっとどう言う‥‥。」


それに俺が混乱しているとカシアさんは頬杖をつきながらニヤリと笑う。


「なに、いい試合を見せてもらう前金みたいなものだよ。 その代わり凄いもの見せてもらうからねぇ。」


なるほどな。 ならば明日はド派手なのを見せてしんぜよう。


「ええ、お期待に添えるようにします。」


俺は口元に笑みを浮かべ不敵に答えた。


「アッハハハ! 言うじゃないか! 気に入ったよ坊や。 将来色男になるんだろうねぇ。そこの嬢ちゃん達も落とされた口かい? 」


カシアさんは膝をパンパンと叩いて笑い、大盛りのステーキをバクバクと食べていたアリアとアイリスに話しかける。


「落とされたなんてそんな‥‥。」


「私はルディの所有物です。」


それに対してアリアはフォークとナイフをカチャンとお皿に置いてからイヤンイヤンとくねり始め、アイリスはパクパクと食べながら答えた。

アイリスさん、貴方は本当にぶれませんね。


「冗談で言ったんだけどねぇ。 まさか本当に落としているとは‥‥。」


まさか本当に‥‥と頬杖をついていた手を離して絶句する。


「はい、オレンジジュースで〜す。」


そんな、俄かに混沌とし始めた所にカエラさんがオレンジジュースを持ってやって来た。

よしナイス、カエラさん。


「カエラ、この坊やあのルディア・ゾディックだってさ。」


俺が心の中でグッジョブと親指を立てているとカシアさんはオレンジジュースを置いて立ち去ろうとしたカエラさんにそう言った。


「え!? 本当ですか!? 」


それを聞いたカエラさんはスタタタと後ろ歩きで戻ってきて俺に詰め寄る。


「そうですけど。」


「え、え?、 え!、えーーー!! 」


その問いかけに頷いて答えると壊れたおもちゃのようになってしまった。俺はカエラさんを指差してカシアさんに話しかける。


「あの、娘さん壊れちゃいましたけど。」


「アハハハ! ひぃひぃ、おかしい。 ああ、この子ねぇ、あんたのファンなのさ。 何でも学校で、話題になっているので知ったらしくてね。それから毎日あんたの話をしているよ。何でも100年に一度の天才、最高! なんだってさ。」


「ちょっとお母さん! 何言っているの!? 」


「いいじゃないか。 いつも鬱陶しいくらいに言ってくるんだからさぁ。」


壊れた状態から戻ったカエラさんがカシアさんに詰め寄るがカシアさんはのらりくらりと躱していく。年の功という奴だろうか?


「そういう事じゃないの! ごめんねルディア君。 お母さんが言ったことは忘れてね。あと握手お願いします。」


カシアさんに何を言って無駄と分かったのか諦め、俺にそう言いて来た。

しかし、しっかりと握手を求めて来るとはちゃっかりしてらっしゃる。


「はい。 」


「おい坊主うちの娘に何手を出してんだ、アァン? 」


俺がカエラさんがさし出して来た手を握り返していると、ステーキを作り直したお父さんがジュウジュウと肉が焼ける音を鳴らしている皿を載せたトレイを手に持ちそう言ってきた。

こめかみに血管が浮かんでいる。相当お怒りのようだ。


「それは握手を頼まれたので。」


「そういう事言ってんじゃねぇんだよ! 俺が言ってんのは ひっ! 」


俺の答えを聞いたお父さんが皿をテーブルに置いてから怒鳴り声を上げたがそれは途中で悲鳴に変わる。なぜなら‥‥。


「坊っちゃまに臭い息をかけないで下さい。 なます切りにしますよぉ〜ひっく 」


「ルディに近寄るな切るぞ虫けらが。」


アリアはお父さんの首、アイリスは股間にとナイフを突きつけたからだ。

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