まんぷく亭
「あ、あそこにしませんか? いい匂いがします。」
アリアは通りの右側にあるまんぷく亭と書かれた看板が掛けられている店を指差す。
確かにそこからは肉が焼けたいい匂いが漂ってきていてその匂いを嗅いでるだけでギュルギュルとお腹が早く肉を! と訴えかけてくる。俺の腹は彼処の店に決めたらしい。
「本当にそうだね。 アイリスあそこでいい? 」
お腹を押さえてアリアに答え、アイリスにどうかと確認する。正直もう彼処に早く入りたい。
ペッコペコだ。
「ルディがいいならいいよ。 」
アイリスはそんな俺を見て苦笑いしながら頷く。 お腹の音が聞こえていたようだ。
「じゃあいこっか。」
そう言って俺はまんぷく亭へと歩いていきドアを開く。後ろからクスクスと笑い声が聞こえてくるが気にしない。だって生理現象だもん、仕方ないもん。防ぎようないし〜 オナラまでならドヤ顔を保っていられる自信がある。
「いらっしゃいませ〜 ! 3名様ですか? 」
俺がそんな事を考えていると店の奥からパタパタと15歳くらいの女の子が出てきてそう言った。看板娘という奴だろうか?
「3名で 」
「かしこまりました〜彼方の席にお座りください。」
指を3本立ててそう言うと比較的奥の席に案内された。 店は丸テーブルが4つ、カウンター席が5席の家族経営の飲食店といった感じだ。趣があって良い。
店内を見回しているとさっきの女の子がトレイにコップに入れた水を3つ載せ、脇にメニューらしき物を挟んでやって来た。
「失礼しま〜す。 こちらがメニューになります。 オススメはシェフの気まぐれぶつ切りステーキになります! 」
水を配ってから、メニューをテーブルに置き開いてシェフの気まぐれぶつ切りステーキと書かれたところを指差してそう言った。
ほ〜、美味しそうだな。ステーキか、がっつり食べたいしそれにするか。なにを頼むか決めた俺はメニューを見ていた2人に目を向けて話しかける。
「へ〜美味しそうだな。 僕はこれにするけどアリアとアイリスはどうする? 」
「では私もそれで。」
「私も〜 」
アリアとアイリスも俺と同じシェフの気まぐれぶつ切りステーキにするようだ。それを聞いた俺は女の子に向き直り注文する。
「じゃあ店主の気まぐれぶつ切りステーキ3つお願いします。」
「はい! 畏まりました! 少々お待ちください! 」
伝票みたいなのにささっと書き込んでからお辞儀をして厨房に歩いて行った。
どのくらい時間かかるんだろ? 店は夕飯時から外れているのと龍王剣舞祭がまだやっているのもあってかなり空いている。これならすぐ来るかな? 正直、空腹時にこの匂いに晒され続けるのは辛い。
「ねえねえルディ、第1試合のピカピカ光ってた奴って何かのスキルなの? 学校の時にも発動していたよね? 」
俺がお腹をさすりながら苦笑いを浮かべているとアイリスが聖気の事について聞いてきた。
言ってなかったけ?
「ああ、あれは僕の固有スキル聖気というもので魔力がある限り傷が治り続けるというものなんだ。心配かけちゃったかな? 」
「そうなんだ〜よかった〜 さすがルディだね。 本当によかったぁ あいつを消さなくてすんで 」
最後にボソボソと聞こえるか聞こえないかくらいで何かを呟いていたが聞き取れなかった。
「なんて言ったの? アイリス? 」
「ううん、なんでもないよ。」
何て言ったか聞いてみたがアイリスはニコリと笑って何でもないと手を横に振る。しかし、細められた目の奥に狂気を感じるのは気のせいだよね? うん気のせいだ。きっと気のせいなんだ。
なぜか手に汗が浮かんできた事を不思議に思いながらそう結論づけているとアリアがあ!っとなって話しかけてきた。
「そういえば坊っちゃま。 明日も全額坊っちゃまに掛けるのでいいですか? 」
「そうだね。 これでボロ儲けだ。フフフ 」
今日だけで約2倍の儲け額。 2倍とだけ聞いたらえ? 少なくない? と思うかもしれないが掛け金の桁が違う。よって儲け額もそれ相応だ。明日どれだけ儲けられるか楽しみだな フフフ
頭の中でチャリンチャリンとお金の音がなり、口元が思わず緩む。
はたから見たらとんでもない悪い顔をしているだろう。
「はぅぅ坊っちゃま〜素敵ですぅぅ〜 」
「身体を念入りに洗っとかなくちゃ。」
俺の笑顔を見た2人が頬に手を当てて悶えている。 しかしアイリスはどんな思考回路を辿ったのだろうか。そしてなぜ体を洗うことに繋がるのか。 まだ7歳児の僕ちゃんにはワカラナイナ〜
「お待たせしました。シェフの気まぐれぶつ切りステーキです。」
俺たちがそんなやり取りをしていると野太い声で中年の男性がそう告げた。ステーキが来たらしい。
「わ〜たくさんありますね〜食べきれるかしら? 」
「お腹いっぱいになりそう。」
アリア、アイリスとステーキを置いていく男性。その皿の上には物凄い量のレアで焼かれた肉が載せられていた。
うわっ、すごい量だな。 これは食べ応えがありそうだぞ!
俺がよだれが垂れそうになるのを我慢しながら皿が置かれるのを待っているとカチャンと皿が置かれた。
それを見て俺は絶句する。 何故なら四角く切り揃えられたステーキが一口分しか置かれてないのだ。
え!なにこれ!? 試食コーナー並みの少なさなんですけど! 一口で終わるんですけど!
もしかして、気まぐれってそう言う意味!? 気まぐれでステーキの量決めちゃうよ☆って感じですかぁ!?
「‥‥‥。」




