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十周年のこの場所で、僕達が祝う五周年【学園イノベーション番外編】

 「ほら、あらたくん。早く早く!」


 麻優まゆはくりっとした大きい目を一際輝かせながら、僕の左手を握って電車を降り、チケット売り場へと急ぐ。


 デニムのジャンパースカートのなかに長袖の白いブラウスを身に着け、靴はカラフルなスニーカー。

 自慢のポニーテールにはこの前新調した可愛らしいリボンを早速着けるあたり、青い長袖のシャツに、黒のズボン、白いスニーカーといういつもと変わらない服装の僕とは違って気合が入っていた。


 そんなに急がなくても今は午前中。

 時間はたっぷりあるだろうに。


 まるで今日初めてこの場所へ来たかのようなはしゃぎっぷりを見せる麻優。その微笑みは僕にとって世界一美しいのだから、急かされても文句の一つ言うことはない。


 僕達が付き合い始めたのがちょうど五年前。

 その間に何度このテーマパークへ来ただろうか分からないというのに、麻優だけでなく僕の心も踊っていた。


 「よし、行こうか」

 「うん!」


 僕はテーマパークの入り口でチケットを購入。手荷物検査を終えると、二人で入場ゲートをくぐった。

 目の前に広がるのは、ヨーロッパの街並みを思わせるような外観。一歩踏み出すと、住人である個性的なキャラクター達が僕達を出迎える。

 このときの胸の高鳴りは、何回味わっても心地良い。飽きることがないのだから不思議だ。


 「んー! いつ来ても最高ー!」


 それは麻優も同じようで。

 それまで握っていた手は離されている代わりに、僕の左腕を掴んだままで叫ぶ。


 卒業旅行の学生もおらず、ゴールデンウィークを満喫しにきた親子連れもいない、なんてことない四月半ばの週末。

 だというのに、今日も相変わらずの混み具合。

 少しだけげんなりしてしまうが、それでも何度もここへ足を運んでしまうあたりは、僕達もこの場所が相当好きなんだろうな。


 「最初はどこに行く?」

 「その前に、あれ買って! あれ!」


 あれってどれのこと? と僕が聞き返す前に、麻優は目の前の売店にあるステッキを指出した。

 きらびやかな装飾が飾り付けられたステッキの上部には、10と言う数字が刻まれている。値段は三千円。全然10とは関係がない。


 10の理由は、このテーマパークにあるのだ。

 見上げれば、そこら中に刻まれている同じ数字。


 入口付近にある大きなオブジェの上。

 そのまたオブジェの真下にある特別に設置されたイベントスポット。

 メインストリートに入る前の看板。

 そして、園内を盛り上げるキャラクター達の服装に、入場者のアイテム。

 このテーマパークの十歳の誕生日を、全員で祝っているようだった。


 「やれやれ、しょうがないな」


 せっかくのイベントだし、たまにはいいか。

 と勝手に納得し、財布に手を突っ込んでお金を店員に渡すと、お釣りだけ受け取ってステッキを麻優へプレゼントした。


 「ありがとぉ!」


 ステッキを手にした麻優は満面の笑み。

 ここに来たら毎回見せてくれるこの笑顔に、つい僕も破顔してしまう。


 「そういえば、五周年のグッズはどこにしまったの? 捨てたりしてないよね?」

 「もー、ちゃんと家に置いてあるよ! 失礼な!」


 確か、五周年のときはペンダントだったな。

 付き合い始めだった麻優が、あのときも同じように五周年特設のイベントスポットを探しては、ペンダントで遊んでいたのを思い出す。


 いくら人気を集めるテーマパークとはいえ、毎回同じイベントをするようでは味気ないことはスタッフ達も分かっている。

 手を替え品を替え、テーマパークの記念の年を祝い、またそれにつられるように僕達は毎度この場所へ訪れ、同じように今日しか使わないようなグッズを買っては楽しむ。


 それは今日も同じで。


 お気に入りのワゴンで買い食いをしながら、人混みを抜けてアトラクションの行列、最後尾に並ぶ。途中で会話が弾むこともあれば、お互い無言で行列に身を委ねる。

 そのどちらも、僕にとっては苦痛ではなかった。

 流れるのは緩やかな時間。賑やかでありながらも、落ち着いた街並みを思わせる外観に、隣にいる麻優がそうさせてくれるのだろう。




 この五年で、テーマパークのアトラクションは増築され、新しいオリジナルキャラクターも誕生。外には映画館やショッピングエリアも立ち並ぶ。

 オープン当初はどうなるかと思ったが、今は日本で一、二を争うテーマパークへと変貌を遂げた。


 「ここも随分立派になったなぁ」

 「そう? 毎年来てるから、分かんないや」


 そう言って、麻優は左手に持つステッキをぶんぶんと振り回す。


 変わったのは、この場所だけではない。


 何故ならステッキを持つ麻優の手、その薬指には、僕がプレゼントした指輪が輝いているからだ。

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