JK第4号 名刺交換-JK課の仲間たち-
『12件の未読メールがあります』
昼休みを終えてJK課に戻ってきた私を出迎えたのは、無慈悲なポップアップウインドウだった。県職員は一般的に12時から13時までが昼休みの時間だ。つまり、私がすべてのメールを処理してから、まだ1時間しか経っていない。
「昼休みでも、真夜中でも。土曜日でも日曜日でも。メールは休まず送られてくる」
私が固まっていると、隣の席の二年生、横芝先輩が声をかけてきた。
「私はそれを、電子の雨……エレクトリックレインと名付けた。止まない雨はないが、電子の雨は止まない。降り続ける」
「……は、はあ」
私は返答に困って、適当な相槌を打った。
「……日付」
「え?」
「本文に日付の入っているメール……例えば何日までに回答してください、例えば何日の会議に出席してください。この手のメールは最優先で処理した方がいい。逆に言うと、日付のないメールはそこまで急ぎの用件ではないことが多い。何日か溜めてから、処理してもいい」
「あ……は、はい。ありがとうございます」
私は少し遅れて自分にアドバイスしてくれたのだと気付き、礼を言った。
「……ん」
横芝先輩は満足気な顔をすると、私から視線を外し仕事に戻る。
「光ちゃんも、後輩にはやさしくするんだねえ」
船橋班長が今までの班長としての声質とは明らかに違う、からかうような口調で横芝先輩に声をかけた。
「うるさい。黙れ」
横芝先輩は船橋班長とは視線を合わさず、そう呟く。
「さて、佐倉さんには続いて名刺を配ってきてもらいます」
船橋班長はそう告げると、私の机に小型の段ボール箱を置いた。そしてその中からピンク色の紙の束を取り出し、私に手渡す。
「これは、私の……名刺ですか?」
そのピンク色の紙の中央には『C県商工労働部JK課 主事 佐倉木野子』と印字されていた。名前の下にはJK課の住所や電話番号、メールアドレスも記載されている。
台紙の色や、周囲にハートや星が刻まれたデザインは独特だが、それは紛れもなく名刺と呼ばれるものだった。
「ラメ入りだから素人には作れなくて、業者さんに印刷を任せてるの。JK課全員の名刺がここにあるから、それをみんなに渡してきてくれる? そして……そのついでに、名刺交換をしてみなさい」
「え……誰と、交換するんですか?」
「課内のみんなと。名刺交換をしつつ、その人の顔と名前と仕事内容を覚えなさい。それは調整担当が必ず知っておくべきことよ」
船橋班長はそう告げると、段ボール箱から自分の名刺の束を取り出した。そして名刺の束から一枚の名刺を取り出す。
「最初に私とやってみようか」
「は、はい」
私も慌てて自分の名刺を一枚手に取る。
「総務班長の舩橋三咲です。よろしく」
「あ……佐倉木野子です。そ、総務班です」
私はしどろもどろな挨拶を返しつつ、ぎこちない動きで相手の名刺を受け取り、自分の名刺を手渡した。
「ほら、会話会話。話題に困ったら、仕事のことでも聞いてみなさい」
私が受け取った名刺を無言で眺めていると、船橋班長は会話をするように促す。顔と、名前と、仕事内容を覚えるのだった。
「え……と、その。議会担当が出る県議会は、その、毎日開催されるんですか?」
私は船橋班長の仕事内容を思い出し、それについての質問をした。
「大体3ヶ月に1回。それで、議会の開催期間は1ヶ月くらい。つまり一年の内、4ヶ月は議会が開催されていることになる」
「議会が開催していない時は、何をするんですか?」
私は話題を続けつつ、改めて船橋班長の顔や姿を観察する。彼女はまだ高校三年生のはずだが、セーラー服を着ていても全くそうは見えなかった。
高校生離れした長身のシルエットがそう見せるのかも知らないが、一番の要因は化粧の上手さだろう。控えめでいて隙のないメイクは、明らかに年期の入った社会人のそれだった。
「議会が開催されるまでの準備の方が大変。大体2ヶ月前から準備するから、結局のところ一年中議会からは離れられないの」
船橋班長はそう告げるとため息をついた。その様子から、議会担当が楽な仕事ではないことを私も察する。
「まあそんな感じで、課内の全員と話してきなさい」
会話が止まると、船橋班長はそう告げた。
「は、はい」
私はひとまず、船橋班長から貰った名刺を自分の机の引き出しに入れる。それが失礼な行為なのかどうかは分からないが、名刺入れを持っていない私にはそれを丁寧に保管する方法がなかった。
私は続いて別の名刺の束を手に取り、一呼吸置いてから隣の席の横芝先輩に声をかける。
「あ、あの、横芝先輩。名刺です」
「……ん」
横芝先輩は仕事の手を止めると、名刺の束を受け取る。そして名刺を一枚手に取ると、私に差し出した。
「総務班二年、予算担当、横芝光。……よろしく」
「あ……総務班一年、調整担当、佐倉木野子です!」
横芝先輩に先手を打たれ、私はあわてて挨拶だけを返す。そして少し遅れて、自分の名刺を渡した。
「予算担当は今、仕事が忙しい時期なんですか?」
私はそう質問しつつ、横芝先輩の姿を観察した。手入れをしていないボサボサの髪、化粧もしておらず肌荒れが目立つ顔、そして背の低い私よりもさらに低いであろう身長。先程の船橋班長とはまさしく対照的な姿だった。
「今はJK課が一年間に使ったお金の集計をしている。JK課は財源が複雑だから、面倒」
「財源?」
聞き慣れない単語が登場したので、私は聞き返した。
「稼いだお金をどこに使ったか紐付けるのが財源。JK課アンテナショップの売上は新製品の開発・広報費の財源としている、と言った風に使う言葉」
「アンテナショップがあるんですか?」
私は財源の説明そのものより、説明中に出てきたアンテナショップに興味を惹かれた。
「C県内に二店舗、それと都内に一店舗。詳しく知りたいなら、企画広報班の誰かに聞いてみるといい」
「は、はい」
私が返事をすると、横芝先輩は軽く手を上げて、仕事に戻った。
企画広報班はJK課の中央に位置している。総務班と同じく机が三個横に並んでいるが、その向かい側にもうひとつ巨大な作業机が置かれているのが特徴だった。作業机の上には文房具や書類、小物類やおもちゃにしか見えない物体が雑多に置かれている。
私は三人分の名刺を作業机の端に置くと、その内の一束を改めて持ち、一番手前の席でパソコンに向かっている柏さんに声をかけた。
「あの、柏さん」
「ん?どしたの、きのちゃん」
他人行儀な私の挨拶とは裏腹に、柏さんはまるで十年来の友人であるかのように略称で私の名を呼ぶ。
同じ一年生の柏さん、茂原さんと私は、今日が初対面だった。もしかすれば試験会場で顔を会わせたことはあるかもしれないが、会話をするのは間違いなく今日が初めてだった。
「これ、JK課の名刺だそうです。私たちの分も作ってくれたみたいで」
「ふむ」
柏さんは私から紙の束を受け取ると、まじまじとそれを眺めた。私はそんな柏さんの様子を注視する。
彼女はJK課の中では一番幼く見えた。体型も、声質も高校生と言うよりは小中学生に近い。軽く色の抜けた髪を後ろで軽く結んでいるその髪型が、子供っぽさにさらに拍車をかけていた。
「あの……名刺交換してくれませんか?」
私は本来の目的を思い出し、柏さんにお願いする。柏さんは私と自分の手元の名刺を交互に見て、合点したように頷いた。
「じゃあ……わたしのはじめて、もらってくれる?」
「あ……はい。その、私はもう三人目です。ごめんなさい」
私が自分の名刺を渡しつつそう謝ると、柏さんは口元を手で押さえて、声を出して笑った。
「きのちゃんはいちいち面白いよねえ」
「そ、そうでしょうか……?」
私は柏さんに笑われた理由が分からず、頬をかいた。そして照れ隠しに、柏さんから視線を外し次の名刺の束を手に取る。
「私の隣が睦沢先輩、その隣が野田班長」
柏さんは気を利かせて、小声で企画広報班の班員の名前を教えた。私は事前に全員の名前を調べていたが、それは言わずに頭を下げて感謝の気持ちを伝える。
「あの……睦沢先輩。今年の名刺です」
私は恐る恐る、柏さんの隣の席でパソコンに向かって作業をしている女子に声をかけた。
「ありがとうございます」
睦沢先輩は礼を述べると、両手で名刺の束を受け取り深々と頭を下げた。
睦沢先輩はウェーブのかかった長い黒髪が印象的な女子だった。ふわりとした髪が腰の辺りまで伸びている。先程の物腰や穏やかな表情からは、物静かな性格が窺えた。
しかし、そんな可愛らしい印象を、彼女の肩に乗っている物体が全て吹き飛ばしてしまっていた。その物体は手のひら大の歪んだ球体で、光沢のある緑色と焦げた茶色が混ざった色をしている。
「あの……名刺を交換してもらっても、よろしいですか?」
私は肩の上の物体に気を取られつつも、名刺交換のお願いをする。
「ええ。企画広報班二年、睦沢小滝です。よろしくお願いいたします」
「総務班一年の佐倉木野子です。よろしくお願いします」
私は定例的な挨拶で名刺交換を終える。そしてやはり、私の視線は肩の上の物体に戻った。その物体は三か所に穴が開いていて、それが目と口に見えなくもない。そしてさらに、その物体からは細長い紐が何本も飛び出ていた。
「その……お隣の方は、どなたでしょうか」
私は考えに考えて、その物体についてそう質問することにした。長々と観察した結果、何らかの生物を模したぬいぐるみではないかと予想したからだ。
「ご紹介が遅れました。こちらはQさんです」
「Qさん……ですか」
私が呟くと睦沢先輩は笑顔で頷いた。そしてQさんと呼ばれたその物体を優しく手で撫でる。
ひとまずその物体の名称は分かったが、しかし未だに謎は残ったままだ。私が次の質問をどうするか悩んでいると、二人の様子を隣の席から見守っていた野田班長が声をかける。
「QさんはJK課のマスコットキャラ。去年、睦沢さんが考案したぬるキャラなんだ」
「ぬるキャラ……」
「触ってみ?」
野田班長の言葉に誘われ、私は睦沢先輩の肩に手を伸ばした。そして肩に乗ったQさんに手を触れる。
「うわあ……ぬ、ぬるっとします」
ゴムボールとこんにゃくをブレンドしたような感触が、私の指先に伝わった。気持ち悪いのか心地よいのか、どちらとも言えない。ただそれは、ひたすらぬるりとしていた。
「ごく一部にコアな人気がある。そのフィギュアは7000円もするのに、昨年だけで50体も売れた」
「なな……」
私はその説明に絶句する。7000円と言う値段そのものも、それを購入する人が50人もいたことも、どちらも驚かずにはいられなかった。
「まあこんな風に変な小物を作ったり、イベントを開いたりするのが企画広報班のお仕事。そして私は企画広報班長の野田みずき。これからよろしく!」
野田班長はそう説明すると、私の前に名刺を差し出す。私が横目で作業机を見ると、そこに置いてあったはずの野田班長の名刺の束は、いつの間にか無くなっていた。
「あ、総務班一年生の佐倉木野子です。よろしくお願いします」
私はうろたえつつも名刺を受け取る。野田班長はベリーショートの髪型が印象的だった。近くで見ると、耳にはピアスが光っている。
校則違反、という単語が頭をよぎったが、ここは学校ではない。ピアス程度は当然許容範囲だろう。
「真面目なものは他の課でも作れる。JK課は不真面目なものを作れ。それが初代企画広報班長の偉大なるお言葉であり、我が班のモットー」
「は、はあ」
野田班長はそう宣言すると、隣の作業机に視線を動かした。そこに置いてある小物類やおもちゃも、同じようにJK課の誰かが開発したものかもしれない。
しかし、不真面目なものを作って何の役に立つのだろうか。私はそんな疑問を抱きつつも、それには触れずに企画広報班を後にした。
企画広報班の隣、入口のすぐ脇に学生支援班は位置している。他の班とは違い、全員の机の上に電話が用意されているのが印象的だった。それだけ電話の多い部署なのだろうと私は想像する。
「あの……茂原さん。私たちの名刺ができたそうです」
私は一番手前の席に座っていた、同じ一年生の茂原さんに声をかけた。
「企画広報班で話しているのを見ていたから、事情は知っています。どうぞ」
茂原さんは名刺の束を受け取ると、その内の一枚を抜き出し私に渡した。私は頭を下げてそれを受け取ると、自分の名刺を同じく茂原さんに渡す。
「私は今、JKSCの管理方法を教えてもらっています」
「え?」
聞きなれない単語が出てきて、佐倉は聞き返す。
「JK Social network from C県。C県在住の女子高生だけが参加できるSNSサイトの名前なんですが……知りませんか?」
「は、初耳です。私、昨日までは中学生だったので」
私がそう弁明すると茂原さんは目を丸くした。
「私もそうでしたけど」
「あ……そ、そうですよね。ごめんなさい」
私が重ねて謝ると、茂原さんの表情にがゆるむ。
「佐倉さんは面白いですね」
「そ、そうですか?」
先程と同じことを言われて、私は両手で顔を押さえる。私自身は自分の何が面白いのか、全く分からなかった。
「このSNSサイトは誰でも投稿できますが、その投稿を読んで返信できる人はJK課が許可したボランティアの方だけです。だからアクセス数は少ない」
茂原さんはパソコンを操作して管理画面を表示させる。本日のアクセス数と表示された欄には、254と言う数字が踊っていた。今日はまだ午前中とは言え、しっかりとした運営母体のあるサイトとしてその数字は、明らかに少ない。
「でもだからこそ、真剣な回答が返ってくると評判になっています。同年代の人に真面目な相談に乗ってもらう機会って、あまり無いでしょう?」
「……そうですね」
私もまた同年代の人間として、茂原さんの言葉には頷けるものがあった。
「学生支援班は班名のとおり、色々な形で女子高生の生活を支援するのが仕事なんです。もちろん女子高生に限らず、未成年者全般を対象とした支援活動も行っています」
茂原さんは今日初めて学生支援班に来たとは思えないくらい、すらすらと班の業務の説明をする。私はその姿に軽い憧れと焦りを覚えた。
「……それじゃ、他のお二人にも名刺を配ってきます」
「私の隣の席が東庄先輩、その奥が白井班長ですよ」
茂原さんは先程の柏さんと同じように、学生支援班の班員の名前を伝えた。私は軽く頭を下げると、茂原さんの隣の席に座っている東庄先輩の様子を窺った。
東庄先輩はJK課の中で一番派手な格好をしていた。特に金色に脱色された髪は遠くからでもよく目立つ。それが自然の色でないことは、髪の根本部分を見れば明らかだ。
顔を見てみるとどうやらカラーコンタクトも入れている。腰の部分にカーディガンを巻いていて、そのカーディガンで完全に隠れてしまうくらいスカートの丈も短い。
佐倉の頭の中に再び校則違反と言う単語がよぎった。ここは学校ではない、職場だ。と思い直そうとしたが、いや、でも、職場なら許される格好なのか?と新しい疑問が頭に浮かぶ。
「学生支援班二年、東庄夏目。よろしくお願いします」
「……あ。よ、よろしくお願いします! あの、名刺です。ごめんなさい」
私が声をかけないでいると、東庄先輩は自分から声をかけてきた。私は慌てて手に持っていた名刺の束を渡す。そして挨拶から少し遅れて、二人はお互いに名刺を交換した。
「私は実地調査の担当だからこんな格好をしている。気にしないで」
東庄先輩は自分の格好を不思議がっている私の視線に気付いたのか、そう弁明した。
「実地調査……?」
「学生として学校内に入り込み、学校内の運営状況を調査する、まさしくJK課にしかできない業務。この調査で非行やいじめの火種を事前に発見できたことも多い」
「そ、そんなこともしているんですか」
東庄先輩の説明を聞いて私は驚きの声をあげる。しかしその仕事は確かに、JK課にしかできない仕事だった。
「手前味噌になりますが、私たちの実地調査はその学校に勤務している先生方よりも正確な報告を上げると教育委員会からもお墨付きを頂いています。調査依頼も山積みの状態」
東庄先輩は自分の机を見つめて、溜息を吐く。彼女の机には書類が山のように積んであった。一番下の書類を取り出すだけで、数十分は時間がかかりそうな気がする。
「だから見た目のことは気にしないでください。私だって、仕事でなければこんな格好はしたくない」
「は、はい」
私はあわてて頷く。そんな理由があるなら、まじまじと見てしまったのは失礼だった。謝罪の意味も込めて私は頭を深く下げると、最後の一人に名刺を渡しに行く。
「白井班長。今年度の名刺ができました」
「そう。ありがとう」
白井班長は名刺を受け取ると、少し面倒臭そうな声で礼を述べた。抑揚のない声は、どことなく冷たい印象も受ける。
「あの……名刺を交換していただけますか」
私は遠慮がちに声をかけると、白井班長は無言で名刺を差し出す。
「あ、ありがとうございます」
私はその名刺を受け取ると、少し間をおいてから自分の名刺を白井班長の机の上に置いた。こちらから名刺を渡せるような空気ではなかったからだ。
「……白井班長は不器用だからうまく挨拶ができないだけ。内心は新一年生のことを歓迎しているから、大丈夫ですよ」
私が困っていると、東庄先輩が小声で耳打ちしてきた。
「東庄? 無駄話は止めなさい?」
白井班長は顔を動かさずそう呟いた。東庄先輩はお手上げと言った仕草を見せると、私に向けて手を振った。話は終わりだと言う意味だろう。私はそう理解して、その場を離れた。
「お疲れさま。お茶でもどうぞ」
私が総務班に戻ってくると、自分の席の上にはガラスのコップに入ったお茶が置かれていた。
「あ、ありがとうございます。いただきます」
私はそのよく冷えたお茶をありがたくいただくことにした。私もこういった挨拶が得意な方ではない。火照った体に、冷たいお茶はよく染み込んだ。
「向こうの冷蔵庫や食器棚、給茶機は自由に使っていい。おやつもご自由にどうぞ。ちなみに、毎月の給料からお茶代おやつ代は強制的に徴収されます」
「ゆ、有料なんですか」
「数十年前ならともかく、今はもう税金でお茶やお菓子を買える時代じゃないの」
船橋班長はため息を吐くと、手に持ったチョコレート菓子を横芝先輩の机に置いた。
「光。糖分を取った方が頭がよく回転するよ」
「……ん」
相変わらずパソコンを睨みつけていた横芝先輩は、船橋班長が置いたチョコレート菓子の包みを開き、口に入れる。
「どう? 課内の全員と話してみた感想は」
船橋班長は私の机の上にもチョコレート菓子を置くと、そんな質問を投げかけた。
「色々な人が、色々な仕事をしているんだな……と思いました」
私は率直に感想を述べる。JK課の同僚の顔と名前、性格と仕事に触れたことで、少しはJK課のことを理解できたような気がした。
「人の仕事を知ることは、その人が必要な情報が何なのかを理解する手がかりになる。立派な連絡係になるためには、とにかく人に興味を持ち、人の仕事を知りなさい」
「はい」
船橋班長の言葉に、私は深く頷いた。JK課の仕事を知った今なら、先程はわけも分からず転送したメールの内容も、少しは理解できるようになったかもしれない。
私はお茶を飲んで少し休憩してから、離席中にスリープ状態になっていたパソコンを起動させる。
『21件の未読メールがあります』
パソコンが起動した瞬間、また嫌がらせのような文字が表示された。
「私は単純に一年中雪かきと呼んでいたわ。それのこと」
船橋班長は遠い目をしてそんなことを呟く。
「まあともかく、あと2時間で終業時間だから、それまで頑張りなさい」
「は、はい」
私は連絡係の辛さを段々と実感しつつ、それでも先程の名刺交換で何かしらの成長があったことを信じて、新しく来たメールを読み始めた。